ヒラメキだけでどうにかなる時もある
フィントとタダンは上手く連係を取りながらエルフ達からの猛攻を跳ね除けていた。今もエルフの半数が空中から矢を射掛けていて、残りが地上で戦闘している。
上手く連携していると言っても逃げ切るまではいかないみたいで、三方向を囲われている形だ。一方向は死守しているだけ望みがあるかもしれない……のかな。
で、私はというと50mくらい離れた位置のちょっと高い段差の上から、木に隠れて眺めている。フィントやタダンがまだ持ちこたえているなら闇雲に突っ込むのは悪影響になるからね、迂闊に出ていけない。ノズにはカッコつけたけどさ、死にに行くつもりは毛頭無いんだよ。
ってことで、状況把握をしているけども……。
「うーん、やっぱアレ、わざとらしいな」
エルフ達が囲えずにいる残り一方向が、こうして眺めていると不自然にしか見えない。何度かかカモフラージュ的に方向が変化するけど、ゆっくりと最終的にその方向へ進行していっている。
実際フィントらの連携の賜物という面ももちろんあるんだろうけどさ、正直言ってエルフは空中移動が出来る。空を飛べるなら回り込むのなんて余裕だろう。
それができるのに、敢えて囲わない意図は何なんだ?
「MP節約……それだけの問題か?」
何となく嫌な感じがするので先回りしてみる。
「おわっと!って、うわー最っ悪!」
足がズブっと太股あたりまで地面に沈んでしまった。生暖かい泥の感触と土の匂いが強くなる。
「なるほどね。こういう事か」
この沼の大きさは分からないけど、戦闘中にこんな場所にハマりこんだら、たまったもんじゃないな。これを狙っているとすれば生け捕りの算段なのか。
確かにフィント達を人質にして……とか、拷問して目的を……とかエルフ側も知りたい情報が有るだろうね。ま、その拷問器具の一つ壊しちゃったわけだけどな。
あの戦闘常態からいくと、ここに来るのはだいたい20~30分後くらいか?ちょっと希望的観測過ぎたかもしれないから15分のつもりでいよう。
泥で汚れた下半身を硬い大地へ引き上げながら考える。
遠くに聞こえる喧騒が段々と近づいてくるのを聞くと焦る。けど、焦ってもしょうがないんだよね。
起き上がるとエルフにバレるかも知れないし、伏せたまま仰向けに転がった。
何か、いい手は無いかなぁ。
周囲にある薬草以外の草を鑑定しつつ、思案する。
あー、タバコ欲しい……考え事する時タバコ吸ってたからな。何か手持ち無沙汰というか。でも今吸ったらバレるし。
鑑定結果は以下の通り。
《『ショウの葉』:香料の原料。炙ったものを空気に触れさせると独特の香りを放ち、パチパチと音を立てて周囲に拡散する》
《『ゲドの葉』:解毒剤の原料の1つ。蒸留したエキスを使用する》
《『キオの茎』:特殊武器の原料となる。加熱により形状記憶し、衝撃を受けるとその形へ変化する》
《『コンラの実』:乾燥させたものを服用すると常態異常『混乱』に陥る》
蒸留させたり乾燥させたりする時間は無いし、使用方法も不明確だからなぁ。
唯一使えそうなのはこのキオの茎か?そこらじゅうにあるけど……形状記憶させて何するよっていう……。
…………。
…………。
「うーん、なんっにも思い浮かばねぇ。天気の良さとこの森林浴だけだったら、ただの平和な場所なのにさぁ……」
こんな状況下でもピヨピヨと何処かで鳥が囀っている。
危機感のない鳥め。君が羨ましいよ。
現実逃避しかけた時。
「ぐげぇ!ぐげぇうけ!」
「またお前か!」
でた!変な鳴き声の鳥みたいなやつ!姿みてないから鳥とは断言出来ないけどさぁ。同種の鳥か?それとも魔物?
声のした方を見ても特にそれらしい影は見当たらなかった。鳴き声自体近くはなかったし、見つからないよな。
まあ魔物にしても鳥にしても、確かに大森林の方が良い餌場多いだろうからね。薬草だって大幅回復だったし、他のもそんな感じなら集まってくる気持ちは分かるけどさー……。
「餌場……多い……集まる……」
私は慎重に身を起こした。
思い浮かんだことが成功するなんていう確証は無い。ていうか、諸々の効果が持続されるのか不確定過ぎる。でも時間は無いし、何もしなければ文字通り泥沼化する訳で。
「やるしか、無いよね?」
私は覇者の棍棒を握りしめると、一つ一つ確認しながら作業に取りかかった。
全ての作業を終えた時、フィントらは目と鼻の先まで迫っていた。
あっぶねぇ……あと数分遅れてたら気づかれてたな。
焦りながらも、とりあえずやることはやったからシナリオ通りに仕掛けが動いてくれることを祈るしかない。
つーか、正直いってピタゴラス〇ッチとかやった事ないし、そこまで複雑なやつでもないと言っても、不安しかない。
まあくよくよ考えても意味無いんだけどね。もうやるって決めたし。
私は最後にちょっとだけ仕掛けを振り返って上手く隠れていることを確認しながら、『呪いの伝達笛』を口に当てる。
木陰からフィントとタダンをイメージして吹いた。
2人は何処からの笛か確認しようとしてキョロキョロし始める。よし、2人同時に笛の音を聞かせられたらしいね。
もう1回強く吹くと、フィントが私の方へ視線を向けてきた。目が合う。
私は例の沼地を指差して、そこへ来るように合図を送った。上手いこと手早く伝えられたおかげでエルフは気づいていないみたいだ。
フィントとタダンは不自然じゃない程度に軌道修正をかけてこちらに向かってくる。もともと沼地に嵌めさせたいエルフ側も抵抗の素振りは見せない。
「はー、ドキドキする」
小声で独り言を呟いてしまった。
だってさ、これ、1発勝負な上にタイミング勝負だからな。失敗したら最悪だろうね。
ドクドクとした心臓の脈打ちが剣戟と共に激しくなって、パーンと弾けてしまいそうだ。いっそ弾けた方が楽だな。
「パーン」
試しに口に出したらバカバカしくて逆に落ち着いてきたぞ。
呼吸を整えて、待った。すぐ数m先をフィント達が通り過ぎていく。
「おうわっと!!」
「何だこりゃ!」
フィントとタダンが揃って泥沼にハマった。瞬間、エルフの攻撃の矢が止む。
「ハマったぞ!引っ捕らえろ!」
「仲間の居場所、吐いて貰うぞ!」
エルフは嬉々としてフィントとタダンに襲いかかろうとした。エルフの大半が想定域の範囲に入る。
今だ!中学ソフトボール部エース(の友達として毎日の様にキャッチボールの相手してあげてた私)の意地、見せつけてやる!!ん?何かツッコミある?ないよね。
そんな雑念のこもった投球ならぬ投刀で、狙いをつけた所にダガーを投げつけた。
ボンッパチパチパチッ
「よっし!当たった!」
そんでもって予想以上に仕掛けが機能した。エルフ達が群がっているあたり一体を木屑が舞う。
「な、何だ?!」
「ぶわっ、木屑?この匂いはショウの葉か?」
「……おい!この場から離れろ!」
「お。気づいたんだ?さすがエルフさん、そう簡単には混乱に陥ってくれないか。まあどっち道遅いんだけどね」
察しのいい連中は気づいたらしい。
自分の身体が暗くなっていることに。
私は木陰から躍り出た。
仕掛けの解説(簡単なやつ)は次回にしました。
それから更新遅くなっててすみません。次回も一週間開きそうです。年末年始には恐らく毎日更新に戻れるんじゃないかなぁという希望的観測をしていますが(遠い目)
今しばらくご容赦下さいませ。




