魔物ってのは食えるらしい
「ほんと、助かったぜ」
「いえ、まあ、その……怪我大丈夫っすか?」
「ああ、幸い過擦り傷だ。回復薬飲めばすぐに治るぜ」
呼びかけられてるのに蔑ろにするわけにもいかず、寧ろ蔑ろにしたら後が怖いので返事する。
スキンヘッドのおっさんは右足と右腕から出血していたけど、駆けつけた仲間から薬を貰うと一気に飲んだ。
あーあ、回復しちゃった……。
いや、別に悪くないよ?無事で良かったよね、ほんと。うんうん。でもさ、どうせなら私が遠くに行くまで我慢してて欲しかったかな。
スキンヘッドのオッサンが立ち上がる。
私の2回りほどデカイ図体だ。で、同程度の巨神兵共が更に3人。
ほら、4人に囲まれちゃったじゃん?四方塞がりじゃん?逃げ場無いじゃん?私、逃げたいよ?
と、ここでポーンと効果音。
《経験値が一定数を上回りました。LV10がLV12に上がりました。ステータスが上書きされました》
絶妙なタイミングだなぁ。
こんな状況じゃ落ち着いてステータス確認出来なくない?
ただ、まあ、身体がちょっとだけ軽くなったから、スタミナが回復したらしいってのは分かる。
スタミナ大事だよね。
いざと言う時、こいつら相手にダッシュで逃げなきゃいかんからな。特に指は見せちゃダメだ。握っとこう。いや、まだこいつらがヤーさんと決まったわけじゃないし、速攻指切られるわけないとは思ってるけども。
「それにしても、女の身であのブラウンウルフを素手で殺るたぁ根性あるなぁ」
スキンヘッドのオッサン、確かフィントって呼ばれてた人は、私を見下ろしながら感心している。因みに、ら行は漏れなく無駄に巻き舌だ。
「なに?素手でやったのか?!すげぇな」
と、この4人の中で一際でかめのオッサンが褒めてくる。何か雰囲気リーダーぽいな。
「いやぁ、それほどでも」
私はどんな状況でも褒められると弱い。ちょっといい気分になった。
「にしても、おめぇさん、何処に行く予定だったんだ?王都方向の道から来たってことは、ジバルか、ススズかだろ?」
「??」
え、街って2個あんの?
そう言えばここって三叉路だ。てことは、2択?!
困った。それは想定してなかった。や、確かにそういうこともあり得たな。勝手に一本道だと思い込んでたよ。
確かに一言に北と言っても三叉路の残りの道は北西と北東にそれぞれ伸びてるから見分けはつかない。
私の反応を見て男どもが少し、いやかなり怪しむ表情になる。
やばい、何か不況を買えば私の命が危うい。
「えーと、大森林に行きたいんですよねー」
「なに?大森林?何しに行くんだ?」
「実は私、薬草マニアでして」
「???」
私は息をするように嘘をついた。
男どもは一様に頭にクエスチョンマークを浮かべている。
私は道端の薬草を摘んで男共に見せびらかした。
「これ、薬草なんですけどね?大森林ではもっと高級且つ有用な薬草が生えていると聞きまして、是非食してみたいと思ったのです」
そう言って手に持った薬草を口に入れた。
「「おい、何食って……!」」
「おぇぇ!」
「マジか!」
訝しんで様子を見ていた男達が皆信じられないものを見るように顔をしかめている。
やっぱ、この薬草不味いよね。
でも、私は平気な顔を装う。まあ、味覚耐性あるし慣れてきてるから普通に無表情で食べれるんだけど。無表情ではなく、あえて美味しそうに食べる表情を作った。
そう、私は『こいつガチでやべえ、近づかないでおこう』作戦を実施中なのだ。
これによって大森林が、この世界の人達にとってどんな位置づけだろうと、イカれたこの女なら目指しててもおかしくないと無理やり認めさせることが出来るのだ。
我ながら悪くない嘘だと思う。
「何だお前さん、変わってんなぁ。なかなかおもしれぇじゃねぇか」
リーダー格が興味津々な顔で納得してくれた。良かった!第一段階、不信感払拭完了。
「て、訳で助けたお礼として大森林への道ってどっちか教えてくれますか?」
ここで私の最終奥義発動。
『お礼として』という部分を付けることで要らぬ礼を使わせず、スムーズにお別れできるという算段である。
「まあ、大森林てのはエルフが守ってっからややこしいから気をつけるこった。いくらお前さんが素手でブラウンウルフを倒せるとしてもアイツらは魔物とは違って賢いからなぁ」
「……いやぁ、ははは、気をつけます。で、割と旅路を急いでまして……」
エルフ、確か前鑑定した時も大森林の守護者って書いてたね。
まあ、今はそんなの良いから早く道教えろし。お前らと別れたいんだよ!その威圧感マジで神経すり減るから!
「そんな事なら話は早い、大森林に行くにゃ、ジバルを通るんだ。俺達も丁度そこまでこの馬車を運ばなきゃなんねぇんだ。乗せてってやるぜ」
「あ、そうなんですね、それでは……て、えぇ?!」
立ち去る気満々で返事したのに!
マジかよ!
や、ありがたいよ?
確かに歩くのだりィなと思ってたよ?
でもさ、このオッサンらと一緒って、ちょっとじゃなくかなり遠慮したい……かな?でももう断れない……かな?
「まあ、何を急ぐのかは知らんが、ここから馬の足だと数時間で着くからよ、とりあえず腹ごしらえでもしようや。そういやまだ名乗って無かったな。俺ぁノズだ」
私が口から魂出しかけてる間にリーダー格が話を進めていく。私の目の前に握手を求めて手が差し出された。
うーん、まあ、仮にも恩人だし?取って食われたりしないよね?友好的な態度で来てくれてるし、私もそう振る舞うしかないよね。
「カナメって言います。ありがとうございます、お言葉に甘えて、ジバルの街まで乗せてってもらいます。宜しくお願いします」
そう言って私の手の倍あるような大きな手と握手する。
「俺はフィントだ」
「タダン」
「ポフォだよ、よろしくな」
あ、全員と握手すんのね。
はい、お願いします。
私は作り笑いしながら巨神兵どもとの握手を遂行した。
「にしても、腹ごしらえって言っても何を食べるんです?」
「はあ?お前さんほんとに薬草しか食ってねぇのか?!」
ノズが呆れたように聞き返してきた。
「いや、そんな事ないんですけど、自分何気に故郷を出てまだ間もないのであんまり旅事情を分かってないんすよね」
「ああ、まあ、そうだろうなぁ。冒険者にしては防具も武器も持ってねぇもんな」
とノズは無遠慮に私を上から下までジロジロ見てくる。
「いいか?ブラウンウルフは食えるんだ」
「ええええ!!!!?」
私は心の底から声を絞り出した。
びっくり過ぎだ!!だって、そんなの知ってたら昨日のブラウンウルフも食べてたよ!!
うっそ、凄いもったいないことした!
「ただし、不味い」
「あ、そうなんだ」
不味い肉なのか。
現金なもので、ちょっとだけ惜しいことしたという感情が薄れた。
「まあそれは、普通に焼けば、だぜ?」
「?どういうことでしょう?」
「実はタダンは称号『旅する料理人』の持ち主なんだぜ」
「おお?!」
私は希望の星タダンに目をやると、タダンが満更でもなさそうなドヤ顔をしている。
「タダンの手にかかれば癖の強いブラウンウルフもあっという間にジューシーステーキに早変わりだ」
「なんと!!」
なんて羨ましい称号だ!!是非とも取得したい!
私が期待を込めた目線を向けるとタダンが口角を上げながら、「まあ、待ってろ、すぐ作ってやる」と渋く言い放つ。そのままブラウンウルフ1体の方でゴソゴソと調理を開始した。
待つこと15分。
香ばしい匂いとともに香草に包まれて太っ腹にも分厚く切り分けられた大量のサイコロステーキが目の前に置かれた。
「おおおおおお!!すご!」
ぐぅー
私の腹は正直限界だった。
だって丸1日草しか食べてなかったもん。しかも超絶不味かったし。
私は周囲の男どもに期待に満ちた目線で食べていい?と訴える。
穏やかな表情を浮かべたノズ達は、もちろん、と言うかのように深く頷いた。
もう、あんたら神か!
我ながら本当に現金な奴だと思う。さっきまであれ程恐怖対象だった男どもが、あっという間に高級レストランのウェイターに見えてしまう。
「いただきます!!」
勢いよく目の前の肉にかぶりついた。
ブラウンウルフは、牛と豚の中間の味がした。確かに後味に癖がある。でも一緒に焼かれた香草が見事に後味をスッキリ且つ美味に仕上げてくれていた。
もう、何ていうか、最高!!
腹が膨れるまで食べ続けた。
スタミナが一気に回復する。
なるほどなー、スタミナは食事で回復するのか。
名前:ウエノ カナメ
種族:ヒト
LV:12
称号:勇者見習い
加護:なし
ユニークスキル:鑑定LV3、呪い無効LV1
スキル:殴打LV3、不屈LV2、連打LV1、解体LV1、味覚耐性LV2
HP:2008/3058
スタミナ:3708/4188
MP:16/16
物理攻撃力:3112
物理防御力:2895
魔法攻撃力:16
魔法防御力:16
回避力:382
テクニカルポイント:1200
※修正 空欄作りました