世界は期待するほど優しく出来てる訳じゃない
「なんてこった!」
「口割りの箱を砕いただとっ?!」
ざわざわと周囲が憤るでもなく、呆れるでもなく、対応を決めかねているようにただ呆気に取られている。
さて。私はというと。
どどどどど、どうしよかな……。なんてこった!は私のセリフだよぉぉ。
え、これで「死刑だ!」みたいな事になったらやばいよね。エルフはエルフに対して殺しはしないだけで、ヒトは殺せるんだよな。やだよー、殺されたくないよー。
それくらい酷いことしちゃった感はある。あるにはあるが、殺されたくはない。そんでもってこの量のエルフを相手に強行突破出来る気もしない。最悪それしかないだろうけど!それは最悪の最悪であって、必ずそうしたい訳では無い。
しくじったなー、後悔は無いけど。
「長老さん、弁明の機会を下さい」
何においても先手必勝だ。特に今みたいに混乱している時なら、まず自分から切り込むべき。
ということで、声をあげた。
しーーん。
周囲が鎮まった。
「ヌシには矛盾がある。それを言うならば許可しよう」
「矛盾……」
嘘ってことかな?確かに割と嘘ついてるから、何処かで矛盾があるはずだ。
ここは正直に言うべきかな。
「まず、私はこのエルフの奴隷じゃないです。私がこのエルフを奴隷にしています」
ザワッ
「ヒトの分際で我が種族を奴隷にだと?!」
「何という不埒な!」
案の定、エルフを奴隷にするのはダメだったっぽい。顔を赤くして怒気を顕にする者がいた。
ただ、当の問いかけてきた本人である爺さんは至って平然としている。いや、顔の半分がシワで表情とかよく分からんけどな。目とか埋まってるし。
「口割りの箱は、知略の神より賜わりし宝物じゃ。神の遺物を傷つけるどころか、破壊しうるその力は何じゃ」
「何と言われても……」
何だろう……殴りまくってたらステータスアップしましたー、とかじゃ納得してくれなさそうだな。
「私は称号が狂戦士で、物理攻撃特化って言うのがあるし……あ。泉恵の体?ていう加護貰ってます!」
「「なっ」」
周囲のエルフ達が更にザワッとした。
「嘘を吐くな!そんなもの、信じられるわけがない!」
「馬鹿な!あれはエルフのみでは?!」
「しかし、先ほどの強化スキルの発動効果は……」
外野が騒がしい。
「なるほど。ヌシにある矛盾は理解した。して。弁明とは何じゃ」
「理解頂きありがとうございます。弁明についてですが、この子はダークエルフです。この子には呪いがあるのですが……死後の呪いというのがかけられています。もしこの場で死んでしまったなら、半径200mが呪いの大地になってしまいますので、この子が死ねばあなた達ももれなく呪い持ちになってしまうのではないかと思いました」
しーーーーん。
え、そこ、無反応なの?
大事なとこだよ?二回言おうか?
もしかして、その危険性に気づかなかったとか?
「その方の言い分は分かった。確かにその様な呪いが有るならばこの場でその者を救うことで最悪の事態を招かずに済んだこととなる。しかし、神の宝物を破壊した責はどうしてくれようか」
「やー。ほんと、それな」
そこまで考えてなかったわ。
まあ、知らないことに対して回避したから感謝しろとまでは言えないし、実際問題、この人達の宝物を破壊しちゃった事実はあるわけですよな。
ハッキリ言うならばどうしようもない。金でどうこう出来そうにないし、金で解決するにはきっと額が足りないよね。
労働?とかしてる暇ないし……でもそれで替えられるならそうするしかないのかなぁ。でも、労働って何すりゃいいの?
うーん、代替案が思い浮かばないんだよな。
困ったなー。
「うっ」
呑気に考えてる間に腕の中でうめき声が聞こえた。見下ろすとダークが目を閉じた状態でうなされていた。
「どした?ダーク、大丈夫?」
額や全身に汗が伝って、顔には苦痛な表情が浮かぶ。
「その者は、先の術が不完全な状態でかかっておるようじゃ。術をとこうにも媒体となる口割りの箱はもう存在せぬ。故に精神からの語りかけを我らが聞くことも叶わないじゃろう。そやつは目を覚ますことはあるまい」
…………え。
「えええええええ!?てことは、植物人間てこと?!」
「面白い言い回しをする。植物人間とは言い得て妙じゃ」
「面白くねーよ!……じゃなくて。全く面白くないので、どうにかして治りませんか?」
頭に血が上りかけるのをなんとか抑えて、長老に投げかけた。
「ヌシはまず、神からの宝物の代償を払ってもらわねばならぬが」
「そんなの後で魔王でもなんでも倒しに行くし!先にこの子どうにかしないと!」
「……状況を解しておらぬか。このままではヌシの死罪は揺るがぬぞ」
????
どういうこと?誰か解釈させて?
まず、整理しましょう。
宝物壊しました→弁償しろ→死にそうな子が居るから後回しにさせて→死罪でーす。
ちょっと、理屈が通らなすぎませんか?彼らの理屈が分からないよ。
どっちにしても、ダークを助けることに揺るぎはない。それで殺されるなら仕方が無い。
もちろん、死にたくはないから、いざという時は逃げるつもりだけどね。
「そんなの知るか!あんたらと同じ種族のエルフを助けようってのに、あんたらが足を引っ張るってのか。その理屈は何……」
「貴様!その口のきき方、聞き捨てならんぞ!」
「黙って聞いておれば好き勝手言いおって!」
沸点の低い連中が割って入ってきた。
ふぅ。
私は一つ息を吸いこんだ。
「黙れ外野ァ!」
私の沸点だってお前らと一緒なんだ。沸騰石入れときゃ突沸はなくても火が強けりゃ沸騰くらいするんだよ!
「私にとってエルフもヒトも関係ないんだっつの。目の前で苦しんでるなら助けたっていいじゃないか!壊れた物が何だってんだよ、それは苦しむ生命より大事か?ヒトが、エルフが、生きてこその物じゃないのかよ。神だ何だなんて知らないっつの!優先順位が違うだろ!」
「物の価値も弁えぬか、この痴れ者め!」
「我らが宝物を破壊した挙句に愚弄するか!」
「貴様の命よりは遥かに重いものだ!」
「……許さん!」
ここで静観を貫いていた輩が漏れなく一気に臨戦態勢に入った。
あぁ。
いつかどなたかが仰っているのを聞いたことがある。人間同士の争いは価値観の相違で生まれるのだそうです。
つまり、私の啖呵は火に油だった模様。
そうか。この人達は、生命よりも大切なものがある集団なんだな。
「長老さん、ヒトとエルフの違いは何ですか。私はあなた達のことを知らない。あなた達の価値基準を知らない私は、理解に苦しみます。私にとって、この子の生命はとても重たいのに、ここでは軽い。身勝手ですけどいつか、箱を破壊した罪を償いに来ます。それまでご容赦下さい」
バキッ
言い残して、思いっきり床を撃ち抜いた。
ここは逃げるが勝ちだ。
この場に私達の味方は、誰1人居ないのだから。
大きな木から真っ逆さまに落ちながら、寂寞の想いが溢れる。
ここは異世界だから、私に居場所が無いのは仕方が無い。でも、何で堕天者に居場所が無いんだよ。
胸に抱いたダークの身体は華奢だけど、一つの生命として私には重く感じられる。
この子は多分、ずっと悪夢と戦っているんだ。この子を救わないで、世界を救えるなんて到底思えない。
ドンッ
迫る地面と足に伝わった衝撃で、行き場のない想いが掻き消えた。ここからに御託も感傷も要らない
さて。どう逃げようか。




