言えないことはもどかしい
「あー幸せー!おいしーい!」
木造の床に引かれた絨毯の上に座った私の声が部屋中に響いた。絨毯には大きめの木のボウルがいくつか置かれていて、それぞれにスープやらサラダやら煮物やら、とにかく一通りのご飯が配膳されている。
「いやー、マジでありがとうございます、シーダーさん。最近飯が質素なお粥かパンだったもんだからさー。すっごいここの料理美味しい!いや、お粥抜きでも美味い!身体に染み渡るー!」
「…………つかぬことを聞くが……」
「ん?」
私は正面で食事しているシーダーさん……もとい最初に出会ったエルフのうちの茶髪&灰色の目の人物を見つめた。
厳ついというより、精悍?な顔に戸惑いが浮かんでいる。
「お前は、……本当にそのダークエルフの奴隷なんだよな?」
おっと。疑っておられる?
「え、そうだよ?言ったじゃん。ほら、これもあるし」
相手の目を見ながら右手を翳した。
こういう嘘をつく時大事なのは、相手の目をしっかり見ること、自信たっぷりに見せること、である。
逆に嘘つきな人間は、目を見つめて尤もらしいことを言ってきた際こそ警戒するんだよな。哀しいかなそういうのって、常に相手を疑ってかかってる常態なんだけどさ。割と当たっちゃうんだよねー。ま、それはおいといて。
この人は生真面目そうだから、疑われる点は大丈夫だと踏んでいる。
「まあ、そうだが……奴隷らしくないと言うか……。そもそも、堕天者を毛嫌いするヒトが、何故その奴隷になったんだ?」
「あ、それ聞きます?情けない話なんだけど。ギャンブルでさぁ、負けちゃったんだよねー。それで奴隷に落とされたんだけど、その子がどういうつてか買い付けに来たんだよ」
急ごしらえではあるけど、予め考えておいた理由を言った。ここに来るまでの間、考える時間自体は予想外にあったからね。私が呪いますよ宣言して以降全然追求されないというか……。
奴隷になった経緯の理由としてダークが買ったことにしたら、金はどうやって?とか業者はどこを?とか、そのへんの質問に私が答えられないのも理解してくれそうだし、多分大丈夫だろう。
で、私の返しに向こうは、納得してないけど事実が目の前にあるからと難しい顔をしているって感じだ。ダークにはエルフ語で問いかけたりしてるけど、ダークはダークでだんまりを決め込んでるからねぇ。
最終的にシーダーの目線は私のこんもりと盛られた取り皿に移った。
あ、もしかして食べ過ぎた?奴隷ってあんま食べない感じなの?いや、でもダークはタクティスの店でもお粥でもがんがん食べてたし、そんなルール知らないからなー。
「えっと、遠慮せずに食えって言うから食べたんだけど……あんま良くなかったですか?ここの文化とかよく分からなくって」
つい、招かれた側の癖として遠慮しなかったんだけど。東南アジアだと逆に食べない方が失礼に当たるし、そっちのノリで食べちゃった。
「いや、遠慮の必要はないが。よく食うなと思っていた。足りないなら作りたしてこようか?お前達は要監視対象とはいえ、無碍には出来んからな」
「はー……そうですか。そろそろ満腹なので大丈夫です。お気遣いありがとう……ございます?」
「何故問いかけてくるんだ?」
「いやぁ、私たちの状況、いまいちよくわからないから……」
そう。
この人達、森ではエルフ語で会話しながら、指示だけはヒト?の言語で私たちについてくるように言ってきた。から、状況としてはちんぷんかんぷんなのである。
「堕天しているとはいえ、同族へ不敬な対応をするのは我々の理念に反する。ただし、大罪人には違いない故、こうして長老に取り合っている所だ。ヒトであるお前も同族の所有物ならば同様の対応を心がけるつもりでいる」
「さようで……」
この人、硬い口調だよなー。
ついかしこまっちゃったじゃないか。もうちょい砕けて喋ってくれてもいいんだよ?
それにしても、エルフってのはやっぱりプライド高いって認識で間違って無さそうだね。確かに、彼らはダークに矢をいかけた時はダークがエルフだと気づいて無かったみたいだし、エルフと分かってからの対応は割と紳士的だった。
言葉に嘘はないんだろうね。
「そもそも、お前達は何故あの泉の所に居たんだ。あの領域にヒトが立ち入った時点で、死罪も同然だったんだぞ」
「げ。そうなんですか」
「知らずに入ったのか?まあ、主導権はダークエルフにあったんだろうが……普通は森深い道すがらで気づくだろう。お前は奴隷の身とはいえもう少し頭を使った方が良いぞ、流石に」
気絶しているうちに連れてこられた場所だったし、拒否権なかったんだよ?とは言わないけども。
「あの泉ってそんなに聖域?みたいな所だったんですか?」
「大森林7聖泉の一つだ」
「しちせいせん?」
「…………」
あ。顔が引きつってる。
これは、この世界の常識だったかな……?
「お前、学も教養もなく賭け事に興じるとは、生きてて恥ずかしくはないのか」
彼の中ではもはや一線を超えてしまったらしい、蔑みよりも憐れみの目で見つめられてしまった。
余計なお世話だよ!
確かにそう思われてしょうがない設定になっちゃってるんだけども!不本意だ。誠に遺憾だぞ!でも何も言えない!
私は悶々とうったえたい言葉を抑えた。




