助ける相手は選んだ方がいいのかもしれない
さて。
朝からとんでもない運動をさせられたわけだが、城門が開く気配は無い。きっとゲーム的な要素で言うところのイベントクリアしなければ開かれないとかそう言うやつなんじゃないかな。
うん、それだ。
で、道があるってのは何処かの街に続いているはずなんだよね。そもそも勇者1人で放り出すってのは、その街に剣があるからとか、そういうことだろう。大森林ってのは案外近くにあるとみた!
決して呪い無効の勇者無価値だからとかそういう感じで放り出されたわけじゃない、はず!
確かに未だに呪い無効の恩恵無いけど、しょうがない!だってまだ序盤だし!!
途中、ブラウンウルフの死体(結構食い荒らされてた)を横目に、死体の横に転がっている棍棒だけ頂戴して道を更に進んでいった。
あ、ちな薬草は私の食糧す。
いちいち鑑定しなくても見分けられるようになったので、拾い食いしまくった。味覚耐性LV2はなかなかに味を薄めてくれる。おかげで正露丸を噛む程度の味だ。
いや、これでも不味いんだけどね?
空腹にはかえがたいのだよ。そんでもってHP回復出来るし、安上がりじゃん?
で、時々エンカウントするスライムは朝のトラウマもあり、生理的に受け付けないので見つけたそばから棍棒で殴っていった。
棍棒使うとやっぱり攻撃力上がるみたいだ、殴打スキル無しですぐに倒すことが出来る。そのせいで結局連打スキルを試し打ち出来ずにいる。だってスライムごときにスタミナ使って、またブラウンウルフ級が出てきたらヤバイじゃん。奥の手はとりあえず温存しとかねば。
おや?
「ーー!!」
「!!」
前方からかなり切羽詰ったような怒鳴り声が複数聞こえてきた。もちろん、人の声。
私は気になったのでダッシュでそこまで向かった。
見ると道の三叉路で、ブラウンウルフ4体が人間を襲っていた。馬車で移動中だったらしい、人間は馬車を守るように戦闘している。
戦闘中の人間は4人。
1対1ならまだ良さそうだったけど、1人が負傷しているみたい。仲間がそれを庇いつつ戦闘してるので押され気味だ。
「うーむ、ブラウンウルフ4体て下手すれば全滅だよね」
ま、お人好しな私には見過ごすとかいう選択肢を取れないわけだけど。
私は棍棒を握りしめると殴打LV1~3を一気に発動させて、今にもブラウンウルフから棍棒を振り下ろされそうな負傷した戦闘員の前に立った。
バキャッ
棍棒と棍棒が激しくぶつかる。
「ギャウ?!」
衝撃は来たけど、HPが変動するほどではない。
ブラウンウルフは、突然現れた私というよりも私の持っている棍棒に気がそれているらしい。
その隙に持ってる棍棒ごと上に弾きあげて懐に入って1発殴った。
ブラウンウルフの危険性は、ここに来て2日目の私でも魔物の中で一番把握している。
実際死にかけたし!
反撃させる隙を作ったら手痛いダメージを食らうことになる。
まだよく分かってないけど、『連打LV1』を発動させて、ひたすら殴った。
「ららららららぁ!」
狙うべき所は鳩尾のみ!!一点集中で殴り続ける。
すると、10分くらいでブラウンウルフが力尽きた。
ほほう、反撃受けなかった!これって、連撃のおかげ?
うん、なかなか良い感じじゃあないか。
っていうか、昨日のブラウンウルフよりも弱いな。昨日のやつは回復魔法なり回避力なりが高かったからな。
まあ、私のスキルも育ってなかったて言うのもあるけどさ。
はっはー、ブラウンウルフ、恐るるに足らず!!
いや調子には乗ってませんよ?大丈夫です、平静です。表情もポーカーなはず。まあ、かなり嬉しいんだけどね!!
それにしても、ほぼ無傷で勝ったのはいいんだが……あー、疲れた。
やっぱり殴打LV1~3同時掛けはスタミナ大量に吸われる。残り48しかない。
スタミナは時間経過式で回復するみたいってのは、この2日で分かった。寝てる間の回復率はもうちょっと高かったけど、何かしら動き回っている時の回復の早さはなかなかに遅いみたいだ。今は6分にスタミナ1つくらいの回復量だね。
さて、残り3体は大丈夫かな?と周りを見ると、無事討伐完了していた。良かった。まだ殴打LV3の有効時間内だけど、流石にキツイからね。
ホッと一息。
「あ、ありがとうごぜぇやす」
ん?何か変な喋り方だな。まだ震えてるから口が上手く動いてない的な?それにしては野太い声だけども。
と、若干疑問に感じながら、たった今庇った男の人を振り返った。
「…………」
思わず私は口を一文字にして、見なかったことにしようとブラウンウルフの死体の方に向き直った。
よくよく考えると助ける相手の顔とか姿とか全然見てなかった。
人助けにそういうの関係ないとか思うけどさ?うん、私は間違って無かったと思うんだよ?目の前で人が死ぬのとか見たくなかったし?
でも、ちょっと、……ねえ?
言っちゃえば、助けた相手はスキンヘッドに複数の傷跡がある、いかにもアレな人だった。分かってくれるだろう、指が何個かなくなってそうな、アレだ。明らかに表側で暮らしてる連中とは違う雰囲気。
ただ、私に向けられていた目は澄んでいるように見えなくもない。いや、気のせいかもしれない。振り返って目が合ったの一瞬だったしね。
一応、ちょっとした期待を込めて別の連中を見やる。
「フィント!無事か?!」
「おい、おめぇ何どじふんでくれてんだ」
「いやー、一人も死なずに何とかなって良かった!商品も無事だ」
「おめぇさんのおかげだぜ!ありがとよぅ!」
ブラウンウルフを倒して駆け寄ってくる連中も一様に、只者でない、むしろ典型的とも言えるほど見た目が荒くれ者どもだった。
「…………」
あぁ、私、一体どこから間違えた?
※修正 空欄作りました