そうだ、エルフの村に行こう・続
「ダークさんよ、あんたちょっと重くなった?」
私は背中のダークに声をかける。もちろん、返ってくるはずもないんだけど。
立ち止まって深呼吸した。
つい昨日洞窟まで背負った時に比べて、明らかに重たいぞ。やっぱり異世界だから、そういう体重変化とかは早いのか?それともコイツがエルフだから?
まあ、健康になるのは良いことだけども。
「つか、言い忘れてたけど、鞄の中に米しか残ってないってどんなけ成長期なんだよ」
一応干し肉とか入れてたはずだけど、そのまま食せるやつは一晩……いや二晩かな?まあそのくらいで全部無くなってたんだよねー。
良いんだよ?寧ろ倒れててごめんって感じなんだけどさ、米だけで、いつまでもつかなぁ。
エルフの村までどのくらいの距離があるのかいまいち分からないんだよなー。結構な数時間は歩いてんのに、道も何も無いみたいな。
ゴブリンですら醸し出していた生活感を微塵も感じないわけだよ。そして何故か魔物の気配はない。まあそれが唯一のエルフの集落近くなのかなっていう判断基準なんだけど。
つい先刻、湖の畔でダーク相手に地面に絵を描いてコミュニケーションをとったのを思い出す。
耳の長いエルフを描いて、家を描いた。絵心は無いけど簡潔できっと伝わっているだろう。一応エルフの絵を指して、エルフエルフ言いまくったし。ダークも眉間にシワを寄せつつもこくこくと頷いてくれていた。伝わってるかは置いといて、なんだかんだ、ちゃんと理解しようとしてくれてる分、この子は偉いと思う。
でも、「この人達の村というか街?ってどこにある?」ときくと、ダークは片手の人差し指を立てて、クルクル回してきた。これ、そこらじゅうって意味でいいよね?
「いやいや、流石にそりゃないっしょ。もっと北なんじゃない?だって、ここまだ大森林にすら入ってないでしょ」
「…………」
私の予想だと、ここはまだ南の南、森林にしの字が見えてきた程度の場所なはずだ。私は北の方と自分の絵を指さして、「あっちにエルフの村ある?」と聞いた。コクリと頷く。「じゃ、あっちは?」と試しに南を指してみる。コクリと同じ様に頷いた。
コイツ、分かってねぇだろ。
東南アジアとかでもあった。ていうか、そもそも言葉が通じない以上、信用度は4割にもいかないんだよね。まあ、この駆け引きが楽しいんだけどさー。最近は英語わかる人も居るからあんまりないけど、田舎に行けば私の拙い現地語とおっさんおばさんどものよく分かんない話をし合ったもんだ。あれはあれで面白いんだよね。
海外旅行中は、現地の人の言葉は話半分以下に位置づけておくと、気楽だ。
でも、ダークは結構真摯な対応するし無意味に嘘はつかなそう。生意気な面はあるけど、TPOをわきまえる程度には賢いと踏んでいる。村まではいかなくても森の管理者だし、エルフの家くらい何処にでもあるのかもしれないな。
「じゃ、一番大きい所は?」
手をいっぱい拡げてジェスチャーしながら聞いてみる。
ダークが目をパチッと瞬いてちょっと考える顔をした。
伝わってる……よね?
で、あっちと北西を指差したからこの様に進んでいるわけですが。なかなか着かないねぇ。
「あと、どのくらいあんのかなー?」
私が再度歩きだそうとしたところで、ダークが降りたがってきた。
「ん、どした?遠慮してんの?自分で歩いても結局身体動かなくなるでしょ」
まあ、降りたがってんのを止めるのも野暮だし一応おろしてあげる。
地面に立つとダークは、近くの木の実を採った。
「え、何、食べるの?さっき飯食ったばっかじゃん。私も大概だけど、ダークも食い意地張ってんねぇ。」
若干呆れつつも、子供だししょうがないとも思う。
丁度いいし休憩でもしてようかな。適当に地面に座った。
因みに目覚めた後のステータスはスタミナもMPも満タンだった。HPだけは薬かHPを回復する物を食べなきゃ変わらないみたいだけど。ペナルティの文字が無いところを見ると、気を失うってのがAP0の代償みたいだ。
うん。戦闘中なら危険だったね。
死亡フラグどころじゃなく普通に死んでたな。
てか、洞窟着いて何も無かったから良かったけど、流石に愚かなことしたよなー。冷静に行動しないと、結局無駄死にすることになりかねねぇじゃん。今更だけど次からは気をつけよう……。
私がボンヤリしてると、ダークが隣に胡座を書いた。
「……いきなり距離近くないか?」
昼飯の比じゃなく近い。なんならローブ越しにこの子の膝小僧が私の太股に触れるくらいあるぞ。
「ん?何それ」
ダークの手には先ほどの赤い実と、何処から取ってきたのか、小枝の先に細かい毛みたいな葉っぱがついたものがあった。こんな木あんのか、筆みたいだね。
と、気を取られているうちにダークは私の右手を自分の膝の上に乗せた。
「???」
続いて自分の右手の包帯を解いて、そこにある奴隷のアザを露わにさせた。
「……あ」
何となく分かったかも知れない。
ダークは、私と視線を合わせながら、右手のアザと私の手を指さして筆(みたいな枝)を取った。
「なるほどねぇ。あんた、やっぱ賢いな」
これから行くのは、エルフの街。確か、奴隷は亜人か獣人って言っていた。
この世界のエルフの価値観や性格はよく分からんが、ダーク見てるとプライド高そうだってのは感じるからね。そんな場所に堕天者とはいえエルフの奴隷を連れていくのは流石に喧嘩しか売ってないよな。ヒトを奴隷にした堕天エルフの方がまだマシっぽい。
というか、本人が提案してるんだし、余程の恨みがないと不利な提案はしてこないだろう。そんでもって私はそれなりにはダークに好かれている気がする。
私がうんうんと頷いて返すと、ダークは赤い実を齧ってその中に枝の先を入れた。
数分後。
「はぁー、上手だねぇ。ダークてば左利きなん?」
自分の右手と見比べながらとはいえ、殆ど変わらない大きさの鎖模様が私の右手に出来ていた。
色は若干私の方が鮮やかな赤色だけど、見比べる人とかいないだろ。バレるとしても、きっと奴隷商あたりじゃないと気づけないんじゃない?
「凄い凄い。これでエルフの村に行っても大丈夫かも知れないね」
私が笑いかけると、ダークは、得意げにドヤ顔しながら右手に包帯を巻き付けた。
うん、ちゃんと褒めるってのは大事だ。実際、エルフ村にスムーズに行けて凄く助かるだろうしね。
同い年ってのもあって壮太にはだいぶキツく当たってきたからな。あんな気弱にさせてしまった原因に私は大きく関係している気がする。
まあなんと行っても今の私はダークの親みたいなもんだ。預かる以上ちゃんと面倒みる気持ちでいる。だから褒める時はしっかり褒めるつもり。最後まで面倒見る気がない分、無責任なのは否めないけどさ。
「よし、行こっか!」
ダークがこくんと首を倒す瞬間、危機感知が作動した。
ドシュッ
さっきまでダークの肩があった所を通り過ぎて地面に矢が突き刺さった。
「あっぶな!」
間一髪で抱き寄せて回避させることが出来た。
「誰だ!」
矢のきた方に向かってダークを庇うようにして立ち上がった。
「〇☆△□!」
「◢♯☆¥<>」
意味のわからない、それでいてちゃんとした言葉だろう発音が聞こえてくる。
何となくピンとくる。
「私はヒト!エルフ語は分からない。敵ではない。攻撃は辞めてほしい」
なるべく簡潔で、わかりやすいような言葉で言った。
もしも教養の一つとして私の使う言語を知ってるなら分かってくれるはず。
前方の木陰から2人分の人影が出てきた。
「……何でヒトがここに?」
「隣の者は?何をしに来た!」
お。分かる言葉だ。しかもかなり流暢だな。
でも、こちらを警戒しながら歩いてくるし、2人ともどうやら弓を構えているらしい。私の言葉通りに友好的な関わりを求めるつもりはなさそうだ。
ここは穏便に過ごしておきたい。なんたって、相手は風魔法とかが得意らしいエルフだ。
「大丈夫です、攻撃の意思はないです」
両手を上げてみせる。
エルフが2人、陽の当たるところに出てきた。
1人は長い金髪をポニテ、碧眼美人のスラッとしたお姉さん。1人は焦げ茶色の短髪に筋肉で盛り上がった肩をもつ厳つい顔したお兄さん。
どちらもダーク同様、長い耳が特徴的だ。
やっぱりエルフさんかぁ。
意外とご対面早かったな。
と、呑気に考えているとゴツイお兄さんが薄い灰色の目でダークを睨みつけた。この人、強そう。
「何故、ダークエルフがここにいる?長老の話では……」
「今は捨て置け。問題はヒトだ」
お姉さんが冷たい声でお兄さんを抑止する。冷えた青い瞳に見据えられたせいで背筋に汗をかく。この人、もっと強そう。雰囲気がスフィアさんに近いよ。
てゆーか、意外だ。問題は私なのかっ。
完全に逆だと思ってた。
カフカじゃ問題視が明らかに堕天者>見知らぬヒトだったけど、ここでは見知らぬヒト>堕天者……いや、ダークエルフってこと?……これは、ダークの提案通りの奴隷役を買ってでるのが安牌そうだね。
私は手を挙げた状態で青い目を見つめ返した。
はぁ。間者ごっこの次は奴隷ごっこですか。こみ上げるため息を何とか心の中だけに留めて、唇を舐めた。
「私は、この子の奴隷です。脅迫するのは不本意ですが、あなた達に告げます。このダークエルフに感染の呪いをかけられたくなければ、その弓を降ろしてください」
やっとこさ、そろそろ話が動き始めますね。エルフ編はジバル編くらいの話数かなと見込んでます。
次回は別視点(壮太)です。また?!みたいな気持ちは分かりますがどうかご容赦下さい。
ノズさんは……うん。




