そうだ、エルフの村に行こう
短い
米が炊き上がった時、ダークがずいっとお椀を2つ差し出してきた。
「え、こんなのどっから持ってきたん」
受け取りながらお椀を観察する。何かの木の実の皮みたいだ。
すげぇ、流石は森の知識ってことか?それともエルフだから最初から知ってた?どちらにしろタダで手に入るのはありがたい。
早速お粥をよそった。
すとん
「ん?」
ダークが私のすぐ左に座ってきた。
まあいいや、とりあえず、お椀を1つ渡す。それに応えてダークは包帯を巻き付けた手で受け取った。けど……チラッと意味ありげに私を一瞥して、そのままお粥を食べ始める。
えー、何?どした?
あんた私を結構避けてたのに、いきなりデレですか?そうなのか?
「…………」
何か、不覚にもドキドキするじゃないか。
あー、可愛い。頭抱き寄せてくしゃくしゃしたい。でもそれしたら拒絶スキル発動されるんだよね。
なんという生殺しっ。
もしや、私を悶絶させることが狙いか?!
そう思って再度ダークを見るけど、単にお粥を食べてるだけだった。からかう様な素振りは皆無。
はい。ちょっと調子に乗りました。
落ち着いて食べます。
お粥はさっぱりすぎて、予想通り。ノーコメントだわ。美味い飯を食べたい……。てか、食べさせたい。ごめんよ、ダーク。早く次の村行こうな?ちゃんとした食材と……テント買うよ、テント。
またダークを見る。
黙々と食べてる姿を見るのって、それだけで凄く安心するのな。
出来れば、ずっと食べてて欲しい。願わくば日に3食、少なくとも1食、この子がこうして食べて、生きていけたらいい。
でも、私はいつかこの世界から居なくなるんだよなー。
…………。
「ダーク、死なないで」
おっと。我ながらおセンチなことを口走ってしまったぞ。
まあ、幸い相手は意味分からんだろうから良かった。恥ずかしく……ん?
ダークが食べるのを止めてこっちを見てる。そんでもって、何言ってんだコイツ、みたいな訝しげな顔だ。
これは……もしかして……。
「ふふっ」
ダークが照れたような困ったような絶妙な顔で笑った。
「あんた、言葉分かんの!?」
「…………」
でも、私の問いかけについては大きな目をパチッとして首を傾げてくる。
本当に分からないという説はちょっとタイミング的に無理がある。
考えられるのは、私たちが、我愛称を知ってるのと同じレベルで一部分が理解可能ってことか、若しくは全部分かってる上で分からないフリをしているか。
うーん、これは……どっちだ?
前者か後者かでこいつへの警戒度は多少変わってしまいそうだけど……。
「どっちでもいっか」
ま、ホントのホントに偶然ってこともある。こんな子供を警戒するのもアホな話だな。
気にせずおかゆを食べようとしてると、徐ろに私の袖が引っ張られる。
「なに?」
さっきのを聞いてたなら少し恥ずかしいなー。ちょっと気まずいから、ぶっきらぼうな聞き方になってしまった。でも相手は気にした風もなく笑いを噛み殺しながら、口パクしてきた。
????
わかんねぇ……。
短いから単語なんだろうけど、多分エルフ語だよなぁ。
「エルフ語分かんないよ」
でも、ダークは3回くらい同じ口の形をしてくる。口を動かす度に段々真剣な顔になっていった。
「分かんないって」
その顔で、何を伝えたいんだよ。その単語はどんな意味なんだよ。
私の様子を見て、ダークは視線を少し下げて袖から手を離した。
最後はまた口パクだけど、少し長かった。
「ごめんよ」
エルフ語さえ知ってれば、わかってあげられたのかな?
そうしたら、この小さなガキに、そんな顔をさせることはなかったのかな?
私はきっと、この先後悔するんだろう。何となくそう思った。
何故ならこれが、自分からこの子が私に向けて発した最初の言葉だったから。
私はパッと立ち上がった。
しんみりは性に合わないんだ。エルフ語が分からないなら、行けばいいじゃない(マリーアントワネット風)。
ダークはポカンと私を見ていた。
なるべく明るく笑ってみせた。べそっかきの壮太を何度もこうやって慰めてやったんだ。私の十八番の笑顔。
「そうだ、エルフの村に行こう」
私は立ったままお粥を口にかきこんだ。
結局、ゆっくり休むなんてのも、性に合わないんだ。




