意図せずガールズトークだよ
食事を終えるとすることもないので各自寝る支度に入った。
このパーティの野宿は私とダークのそれとは大きく違って文化的だ。
なんでかっていうと、簡易テントがある!
表面がツルツルのパッと見ナイロンぽい布を木の枝とかに掛けて出来る超簡単なものだったけど、私は革命的な衝撃を受けた。
そうだよなー。確かに、テント要るよなー。
初日から星空の下で夜を明かしてしまったせいもあって、その発想はなかった。寧ろ昨日とか、木の下で寝ると露があんまないのか!今度から大きな木で野宿しよう!とかお馬鹿な発想をしてましたとも。外で寝れば露は降りるもんだと思考してましたよ、はい。
私はいいとしても、子供にそんな環境でいさせるなんて……何処の鬼畜や。
ダークよ許せ。帰ったら速攻でテント買うからっ。
そう決意しつつ、ジュリとの相部屋ならぬ相テントに潜り込んだ。
ジュリは、ちょっとケバめの人だけど見た目に反して意外と物静かだ。ユウキには結構好意的に話しかけてるけど、私やスタールに対しては必要最低限のことしか喋らない。
黙ってても、溢れ出る色気はなかなかの威力があるけどな。こういうムンムンな女になってみたい人生だった。
この世界に来る前に読んだ本では、王様の説得で何とか連れていくようになった相手がスタールだったはず。ということは、ジュリはその後、どこかしらで出会ってパーティに加わったことになる。
「ねぇ、ジュリさんは何でユウキの仲間になったの?」
今後の仲間集めでの参考のためにも問いかけてみた。
本音を言うと、まだ眠くない。
や、寝ようと思えば多分寝れるんだけどさ?忘れがちだけど午前中あたりにゴブリンとの戦闘に明け暮れてたから身体は疲れてるし?
それでも何か、色々気になって寝つけない感じっていうか……。
「何でって……怪我せずに稼げるから……」
素っ気ない態度でそう言葉が返された。
お、おう。随分素直な答えだね。
「でも、パーティに加わるの難しかったんじゃない?選定とかされそう……あのユウキに見込まれるって結構凄いよね」
あいつは腐っても勇者様だしな。一応その肩書き振りかざせば引く手数多だったろう。
そしてアイツの偉そうな態度を見てたら、選定だの何だのやってたって可笑しくない。
私も呪い無効の勇者でーすって言い回ったら1人くらい仲間出来るんじゃね?
「ユウキ様の方から誘ってきたわよ。私はそれに乗せられてるだけなんだけど……やっぱり傍から見てもちゃんと見込んでくれてるように見えるのよね?」
「……うん、まあ」
あのムッツリスケベめ。8割がたボンキュッボンだからかな、とは思ったけどそこは伏せておく。ユウキじゃあるまいし、わざわざ人間関係を悪化させる必要もない。
「……あなたも一応勇者なのよね?」
「あぁそうだね。一応そうだね」
何で『一応』を付けるかな?呪い無効でも勇者は勇者なんだからね?
ま、称号的にはもう勇者じゃないけどな。
「それなら私からもちょっと質問があるんだけど……」
私、だいぶ投げやりに返したんだけど、ジュリは特に気にしてないみたいだ。
……ちょっとは気にして?
「あなた達の世界の男女観とこっちでは違ってたりするの?」
「男女観って……」
おい。
いきなり深くねぇか?それ深夜テンションで話すやつやろ?まだ体感は夜の7時くらいだぞ。
そんでもって、こっちに来てまだ5日の私にそれ訊くぅ?その半分以上の時間を日陰者どもと関わってた私には、男女も何も、人間観すらまともに答えられねぇよ。
「話の前後が見えないからなんとも言えないけど、こっちの世界って男尊女卑があったりするの?」
質問に質問で返してしまうのは良くないだろうけど、つい聞いてしまう。もし男尊女卑が激しかったり、逆に全くないというなら、勇者と男女観が違うと思うこともあるかもしれない。良くも悪くも元の世界は、そういう点では習慣として染み付いてるわけだし。
「いいえ。まあ、多少はそういうこともあるけれど……女は大人しい方がいいとか、男は戦わなくちゃとか程度かしら?あんまりどちらかを下に見ることは無いというか」
「へー」
まあ、スキルとかステータスとかが明確化されてるもんな。そっちの方で差別化されてそうだ。重要視する点が違うのかもね。あと種族とかあるもんな。この世界はそっちの差別で忙しそうだ。
だとすれば、何でそういうこと聞きたがるんだ?
私が図りあぐねていると、ジュリは困ったような言いづらそうな顔になる。
「私、こう見えてこっちの世界では身体にも顔にも自信がある方なの」
「うん、だろうね。魅惑のボディだよね」
何だよ、いきなりの自慢話?
でもちょっと謙虚な感じで言ってるから極めて嫌な感じはしない。だから私も素直に思ったままを言って褒めた。
魅惑のボディて(笑)ちょっと死語で変態チックだな。言わなきゃ良かった。まあいいや。
「あなた達の世界でも一応そういう評価なのね?」
「ん?うん……あ、そういうこと?」
なんとなく納得しつつ、
ーージュリはユウキが好きなの?
と、ちょっと離れてるとは言え、向こうのテントにいるユウキに聞こえないよう配慮して小声で尋ねてみた。
一瞬戸惑った素振りを見せて、ジュリがコクリと頷く。
おお。女の子な反応だ。可愛い。
でも……何であんな鬼畜好きになるかなぁ?言わないけどさ?アイツ色々酷くね?
私の視線を汲み取ってか、端から誰かに自分の話を聞かせたかったのか、ジュリは勝手に話し始めた。
「最初は、私を身体目当てで仲間にいれたんだと思ってたの。今までのパーティでもそういうのよくあったから。でも、勇者に仲間として選ばれるって名誉だし、何より身入りも成長率も段違いだから単純に嬉しくて仲間になったのよ。でも、彼は私に仲間としての好意は示してくれても、魅力的な異性としては見てくれてないみたいで……最初はそれが嬉しかったの」
「でも、パーティに加わって3日目くらいに、魔物に追い詰められて崖から落ちそうになったところを助けられたの。その時に「俺はお前が必要だから、勝手に死ぬな」って言われちゃって……」
ははーん。それで、コロッと落ちたのね?
何で俺様系て一定数ファンが居るんだろうな。おかげで私がとんだ被害に遭ってんだけどもね。
「それから結構アタックしたつもりだったのだけど、全く相手にされないというか……かれこれ仲間に加わって30日近く経つけど、きっぱり割り切られた関係から進展はないし……好みのタイプが世界が違うと変わるのかもしれないって思ったんだけど、よく分からなくて」
そうか、ジュリが見た目に反してやけに大人しいのには合点がいった。さっき彼女自身が言ってた『女は大人しい子の方がいい』というこちらの世界での理想に沿うように努力していたらしい。
恋に健気なジュリを可愛いと感じるとともに、ユウキを思うと残念な気持ちが込み上げてくる。
でも、あのムッツリスケベが据え膳を食わないというのも少し不自然に感じる。まあムッツリスケベは、私のあくまで予想なんだけどさ。
洞窟の奥の小部屋での会話ではあっち方面ぽかったしなぁ?もしかしてホントに好みがどうのこうのの話なのか?
…………。
いや、それって……?いや、考えないぞ。
「でも、あなたにはそれらしい態度を見せてたじゃない?だから……その、そっちの世界だとあなたみたいなのがモテるのかと思って」
「モテたら苦労しないね。まあ、モテたいわけじゃないから実際のところは苦労してないけど」
ジュリにもやっぱりそう見えたのか。その気がありそうと指摘されたことに余計鳥肌が立つ。
せっかくさっき考えないようにしてたのにぃ!
あいつの趣味嗜好なんて知りたかねぇんだよぉ。
「それで、その……」
「あぁ。私は全くアイツは好みの対象外だから気にしないで、アイツから来ても全力で回避するから。ただ、協力なんてめんどくさいことはやんないよ」
これは最初が肝心。きっちりと釘を刺しておく。
「……絶対?ユウキ様をとらないでよ?」
「うん。約束するよ、何にでも誓えるわ」
「……そう」
ここでやっとジュリは安心したような顔をした。
やれやれ、どうしてカミングアウトしてきたかよく分かったぜ。牽制とは知らずに踏み入った私が悪いわけだけど。どう転んでもユウキを好きになる要素なんか無いわけで。そこはしっかり主張して、余計なラブストーリーの登場人物からきちんと外れておかねばならない。
つか、ジュリも現状見りゃわかるだろ。あー、恋は盲目ってやつね?ちょっとは見えてほしいもんだよ。ロープ解けよなぁ?
私は何とも居心地悪くなったのでトイレを装ってテントの外に出た。
外は予想してたよりも冷えている。というか、テントの中が温かすぎだな。家かよ。絶対テント買おう……。
ただ、新鮮な外の空気というのも良いもんだね。何度かゆっくり深呼吸した。
で。この隙に手首の拘束だけだから自力で解いてみようと思考して色々試したのはつい30分前のことだ。結局のところ何度枝にこすりつけても、めちゃくちゃ固くて無理だった。
「くそ、早く帰りてぇ……」
何となく出てきた言葉だけど、帰る行き先は特にない。強いて言うなら実家だけど……微妙に気持ちがそこには当てはまらないな。間違ってもあの洞窟ではないのは確かなんだけど……。
とりあえず置いてきてしまったダークが気になって仕方が無い。このままダークのいる洞窟まで逃げてもいいけど……夕方の魔物の多さを見ると手を拘束された状態で、しかも夜にうろつきたくはない。
死亡ルートとかいう不確定要素なんか信じるつもりは無いけど、死亡フラグは自分で立てるもんじゃないからね。
「……ん?」
遠くで風を斬る音が耳に入った。
切りが悪くてすみません。残りは明日。




