私の選択肢ってのは結局のところ二択ですらない
「だあーもう、だから早くロープ解けってば!」
私は目前の3人組に主張した。
3人組は一応私を庇うように、ブラウンウルフのミニ版みたいな二足歩行の狼5体と対峙している。
「黙ってろ。ちゃんと守ってやるから、そこで大人しく、じっとしてろ」
「これで攻撃受けたり、致命傷になったりしたらたまったもんじゃないっつうか……逃げないって言ってんだろ!」
「嘘だな、君は逃げる」
「…………」
よくお分かりで。
だってだって、ついていくメリットないしぃ。ダーク置いてきてるしぃ、ジバル行ったら嘘バレるしぃ……。
ユウキからの高圧的な返事にやきもきしながら周囲を警戒する。
他に魔物が出ないとも限らないからね。
ほんと、ロープくらい解けよな。これで攻撃されたらいくらなんでも痛いじゃ済まない気がするんですけど、マジで。戦闘時も拘束されてる状態って、想像以上に神経すり減る……。
何でこんな目に遭わなきゃなんねんだよぉぉ!
洞窟から出た時、雨はすっかり止んでいた。ユウキ曰く、3,4時間程度ゲリラ豪雨みたいに降ったらしい。
で、今は洞窟からおよそ2kmくらい離れた所かな。
ああ、一応ダークとの距離制限は解除済みだ。たった1人で洞窟に待機させておいて、息苦しい罰則与えるとかどんな虐待だよ。いや、今でも充分ネグレクト的な虐待にあたるか……くそぅ、子供が待ってんだよ、早く自由にしやがれ。
そして現在、実は洞窟から出て、かれこれ2時間以上経つ。それでも2km程しか進めてないのは、魔物の出現率が半端ないから。この戦闘で8回目くらいだ。
もしかして、今って魔物が活性化する時間帯なのかな?昨日は特に何も戦闘なかったけど、街道沿いだったしなぁ。
「行くぞ!ちゃんと君にも物理攻撃無効は指定しているから安心しろ。ジュリは左端、スタールは右端だ。俺が真ん中2体をやる」
「了解っ」
「分かりました」
「…………」
ユウキの指示に2人が応えた。もちろん、無言が私。
ユウキ達の戦い方は、極めて私の戦い方に近い。要は、肉を切らせて骨を断つような、〇ラクエでいうところのガンガン行こうぜ状態。
私と違うところは、コイツらどんな物理攻撃受けても肉が切れないってこと。
最初は嘘だろぉ?と半信半疑だったけど、何度も戦闘見てたら物理攻撃が一切効いてないのは嫌でも分かった。勇者だけでなく、おそらくパーティ全体にその効果を拡げてあるみたい。
いいなぁ、せめて私もパーティまで呪い無効を効かせられたらダークに何かしら出来るだろうけどさぁ。
いや、同系統の無効スキルがパーティまで拡大出来るって把握出来ただけでも希望はあるよね。
つか、それより何より攻撃受けても全く痛くないとか、うらやま……私の今までの痛みって一体……。
「あ!ジュリさん危ない!!」
私は後ろから体当たりしてジュリ(ボンキュッボンのお姉さん)めがけて飛んできていた魔法攻撃を回避させる。
やべー、この狼ども魔法使うのかよ。
何か一番最初に戦ったブラウンウルフとブラックゴブリンを足して2で割った印象を受ける。今までのネーミングセンスからして、毛の色が黒いからブラックウルフだったりして……(笑)
「あ、ありがとう……」
私がそんなしょうもない事考えてると、ジュリは何とも気まずい表情で礼を言ってきた。
そらな。
ガチガチに縛られたやつに助けられても、何かな。気まずいよね。ってか解けよ!
まあジュリにいくら頼んでも、ユウキが決定権もってるから無理そうだけど。
2時間で気付いたんだけど、このパーティーには上下関係がある。
ユウキ>(超えられない壁)>ジュリ>スタール
って構図だ。
何でパーティに上下関係……?とか、奴隷を持ってる私が突っ込むことではないな。
だからこの点については訊くのは自粛してたりする。
「光魔法発動!『大空に瞬く数多の精霊達、汝の恵みをもって我らを魔の手から護る盾となれ』シールド!!」
「…………」
いい歳したユウキの低い声がハッキリクッキリと私の耳に届いた。
は?もしもし、いま、何て?
よく分からんがそのセリフと共にキラキラ光る粒子が私を含めて4人に降り掛かった。
「これで少しは魔法攻撃に耐性が出るはずだ。日が暮れる、さっさとケリをつけるぞ!」
何だかんだ言ってこのパーティーは強いらしい。その後は危なげなく戦闘を終了した。
今日は野宿するみたいだ。戦闘後は意外とテキパキ準備が整えられていく。
例に漏れず私は縛られた状態なので、特に手伝うなんてことも出来ずに眺めていたわけだけど。
ユウキは発言自体は偉そうにしてるし、実際主に指示出し係をしてるんだが、結構働き者らしい。戦闘でも野宿の設営でも意外と色々忙しそうにやっている。指示出しもしつつ、自分もしっかり動く質らしい。
ちょっと見直したけど、性格悪いし縛られてるから私の中の評価は底辺レベルなんだよね。
日もとっぷり暮れた頃、ようやく落ち着いたのか、ユウキは私の目の前に座った。ちょっと疲れた表情は夕方同じ電車に乗り合わせた時のサラリーマンのそれと酷似している。
「お疲れのところ悪いんだけど、ちょっと聞いていいかな」
「……何」
ムスッとした顔で返事してきた。無愛想だよなぁ。別に他人だし口出しすることでは無いだろうけど、良いことないよー?
「魔法ってあんな長い言葉タラタラ言わなきゃいけないの?」
そんでもってあんな中二病チックな文面を発言しなきゃいけないもんなの?
これは言外に含める感じで。直で聞くとキレられそうだ。
まずは一番気になってたことで、ユウキがサラッと答えられる質問をした。
「まあな。ゲームだと詠唱時間っつって、ラグがあったからそういう仕様なんだろうな。君はまだ魔法使えないのか……」
案の定、ユウキは何のことでもないように返してくれた。
「そういえば、称号は何を選んだんだ?」
うぐ。
そこ、聞く?聞いちゃう?
「……勇者見習い」
小声で答えた。
すぐにユウキが「は?」と訝しがった。
「君ってバカなのか?何でわざわざそれにしたんだよ」
「最後の1人で召喚されたから残り物で、それしかなかったんだよ、しょうがなくない?」
だから決して私が馬鹿だからじゃないんだよ。
ははっ
ユウキはこれでもかというくらい意地悪な笑みを浮かべて吹いた。もっと言うなら蔑む感じの、嘲笑うような悪役顔だ。
うん。こいつ、魔王のが向いてるわ。
「っくく、ほんとに、それでよく生き残れてるよな。他の勇者達も譲ってあげればいいだろうにな」
「やっぱり、勇者見習いてそんな外れ称号だった?」
「外れというか……ああ、他の勇者の称号知らねぇのか」
ユウキはそう言うと黙った。
何とも言えない間が生まれる。
んー何かステータス見てるのかなー。
「俺は聖勇者を選んだんだ。効果は、所持者の魔法防御力のステータス特大up、魔法攻撃力及び物理攻撃力のステータス中up、それから、レベルアップ後のステータス成長率補正だな。どうせ分からないだろうから言うけど、特大upは元のステータスの3倍だ」
「3倍?!」
なるほど、だから狂戦士の物理攻撃力特大upも3倍された値ってことだな?1万代にいきなりなってたから焦ったんだよね……そんなアップするもんなんだな。小up(1.2倍)の比じゃないわけだよな。
「この特大upの含まれる称号は、俺の把握してる限り、6つしかない。勇者系では、聖勇者と護勇者の防御系統だけ。戦勇者と賢勇者は攻撃系統のステータス大upだから含まれない。まあ、防御力を無効にさせる勇者だったら効果が数倍に跳ね上がるから充分なんだがな」
「へー」
「へー、じゃねぇよ。お前、自分の取得した称号把握してるか?」
「…………」
oh……なんも言えねぇ。
やべぇ、何この差別された称号。
完全外れクジじゃん。オール1.2倍だけどさ……うん。言わずもがな。
「まあ、君の犠牲のおかげで他の無効系がそれぞれちゃんとした称号を得てるだろうなってことが分かった。良かった」
「…………」
全然良くねーよ。
言葉をぐっと堪えた。
そう、この意地悪君に正面から食ってかかってもいい事はない。
ここは冷静にいこう。
この人曰く、ゲームとして成り立ってたんだし、呪い無効の勇者にだって活躍の場はきっとあるはずだ。
「呪い無効ってさ、終盤では要らないって言ってたけど主にどんな場面で活躍するのさ?」
「終盤でも使えないことはねぇよ。代替が効くって点では要らねぇけど。最初で最後の唯一使える場面が、呪いの大地ってイベントだな」
「どんなイベント?」
「あー……」
と、ここでユウキが思い出すように斜め上を見る。そんな記憶に薄い様な内容なのか?
「数kmほど足を踏み入れただけで呪いがかかるエリアでのイベントだな。虚無の腕輪や数奇な布地っつうレアアイテムが手に入る。あと、稀に呪いの伝達笛が落ちてるな……」
「え、呪いの伝達笛っ!?」
なんと!あの笛が出てくるとは。
「呪いの伝達笛に興味あんのか?何か意味不明なアイテムだぞ?ゲーマーの中でも解釈が割れてる」
「そっか、確かに使い途が微妙だよね」
「……妙なところは知ってるんだな。配信開始時はバカ正直にそのイベントやってたから、確かにその時点で呪い無効の勇者が死亡してると苦労した。ただ、最近じゃ別ルートで話が進められるってのが分かったから、呪いの大地っていうイベント自体スルーされがちだな」
「マジかよ、ひでぇ」
最初で最後、唯一使える場面が、スルーとか酷くない?
「最終戦まで君が生き残れてたらスルーしないようにしてやるよ。虚無の腕輪は性能もいいからな」
へぇへぇ、そいつぁありがてぇこってす。
と、ここでジュリとスタールが晩飯の支度が出来たと知らせてきた。
意外にも私の分もちゃんとあるらしい。ユウキの事だから、何食わぬ顔しておあずけさせてくると思ってたけど、流石にそこまではされなかった。
まあ、既にまともな状況ではないけどな。
拘束も、胴体から手首へと軽量化された。
わーい、これである程度は自由だー。ご飯も自分で食べられるよー♪
じゃ、ねーよ!
「だから何で拘束すんのさ?!」
「別に。ジバルまではパーティに加えて守ってやるし、命に別状はないからいいだろ。あのまま無駄死により数倍ましだし、大人しく従ってろよ」
「良くねーだろ、常識人として」
ここでユウキは、ふんっと鼻で笑った。
「常識人として……?」
奴は嫌悪するようにその言葉を吐き出すと、ついと視線を焚き火に移した。
「この世界で恐らく一二を争うレベルで使えないスキルと、勇者とは名ばかりの底辺称号しか取得していない、無意味に召喚された可愛そうな女が目の前にいたとする」
「…………」
「そして、どんな風にイベントを進めても死亡ルートしかないと有名な正規ルートを、まるっきりの初心者である本人は、無自覚に猛進しようとしていたら?例えデメリットしかなくても流石に安全圏まで連れ戻すだろ?本人は逃げる気満々だからとりあえず拘束してでもって思うのはそんなにダメなことか?」
「…………」
何コイツ、意外といい奴なのか……?
「とでも言えばついてくんのか?こんな異世界来てまで、お人好しのバカのフリするつもりは全くもってねぇんだけど?俺は単純にお前に情報としてそれなりに価値を見出してやったから逃がさずに利用してやるだけだ」
「うわぁ……」
わー、ホントに性格悪い。5秒前の私の気持ちを返して?
でも、まあ、半分くらい今のが本音だと思っちゃおうかな。コイツはシャイな奴なんだ。きっとそうだ。そうに違いない。
そうじゃないと私はコイツの事嫌いになりそうだ。今でさえ気持ち的には無理だけど。毛嫌いしても良いことないよな。
流石に勇者同士で助けあえないとか良くない気がするから、ここは一つ、いや、二つくらい私が大人になってやろうではないか。うんうん。
こうして、寛大な私は何事も感じてないように縛られた手首で器用にパンを齧った。
ダーク、ちゃんとご飯食べてるかな。
月曜日にまた更新します。




