物理攻撃無効の勇者
小部屋の奥には隠し通路があったらしい。
更に奥に進むとダンジョンボスがいる訳でもなく、台座が一つ設えられていた。
ユウキが無造作にその台座に置かれている首飾りを取ると、私に見えるように持ち上げた。
「気づかなかったお前が悪いんだからな。もっと言うと、ダリアのイベントルートに入らなかったお前が悪い」
「……どうでもいいけどさ、何これ」
私はロープでガチガチに固められた自分の胴体を見下ろした。腕ごと巻かれているので自由なのは脚だけだ。いや、一応口も自由だけどさ。問題そこじゃないし。
「だって君が横取りしないとも限らないし」
「横取りって、そっちの方じゃない?」
「ほらな、主張が食い違うだろ」
「…………」
あ、これめんどくさいやつや。
そう思って大人しく従ってる訳だけどね。最悪この拘束あっても蹴りで何とかなりそうだけどさ、相手も勇者だし、不用意な真似はしないでおこう。
てかさ、何かこの対応、想像してたのと違うって言うか……。
「あのさ、勇者同士って仲間じゃないの?」
素朴な疑問をユウキに投げかけた。
ユウキは意地悪そうに目を細めながら肩をすくめた。
「仲間じゃないね。確かに呪い無効の勇者である君が他の勇者を仲間として求める気持ちは分からなくもないけどな」
そうか、仲間じゃないのか。あの大臣の言ったこともあながちガセでは無いってことかな。
「それにしても、カナメって言ったか。どうやってあのブラックゴブリンを倒したんだ?それとも、君が来た時点で既に全滅してたのか?」
ユウキは首飾りを自分の首に装備しながら尋ねてくる。
それ、今装備しなきゃダメなのか?
明らか私に見せつけてるよな。性格悪いなーコイツ。別に欲しくないから何も感じてなかったのに、無駄に腹立つじゃん。
「仲間じゃないのに教える義務はないね」
「ははは、呪い無効の勇者がよくそんな口叩けるな」
正確には勇者じゃないんだけどね、めんどくさいから訂正しないでおく。どうせ前の称号も勇者見習いだし。
「呪い無効の勇者ってやっぱ、弱い感じ?」
「お前、ビギナーかよ」
ユウキが眉を寄せて残念なものを見る目に変わる。
やめろっ!そんな目で見るなっ!
……あれ?ビギナーって?初心者ってことだよね?
「この世界みんな初心者なんじゃないの?!」
「……君、ゲーム知識無いくせにここに来たのか」
「え、うん。そうだよ」
「はぁー、そうか。てか、もしかして他の勇者もそうかも知れないってことか?……だいぶキツイな」
ユウキがゲンナリとした表情を見せた。
キツイのか。確かに大まかにゲームなりなんなりでこの世界のこと知ってるのと、全く知らないのとでは変わってくるだろうね。
と言うより、やっぱこの世界、ゲームなの?正確にはこの人がやってたゲームと似てる世界なんだろうけどさ……。
「そんなんで君はよくここまで生き残れたな」
「それは、自分でもそう思う」
そこは素直に頷いておく。実際死にかけたのは1度や2度じゃない。
と、ここでユウキが品定めするかのように無遠慮にジロジロ見てくる。
うわぁー。この視線嫌だなー。さっきの蔑みに近い方がまだマシだ。
「言っとくが呪い無効の勇者は、死亡フラグのオンパレードってことで俺らの界隈じゃ共通認識としてある」
「え」
「因みに初期からラストまで正規ルートを生存コンプした例は、俺の知る限りゼロだ」
「……え」
「呪い無効の他の無効系勇者4人は、最終戦で1人でも欠けていたらラスボスの攻略をできないのに対して、呪い無効の勇者が生きていなくても、この世界はラストまでいくことができる」
「は?」
えっと、……それはつまり?
「つまり、お前が生きてようが死んでようが、俺たち勇者にとっても、この世界にとってもどうでもいいってことだよ」
「マジかよ」
そんな理不尽があっていいのか?!
あー、でもコイツ、嘘ついてなさそー。
嘘つきな私は、嘘をつかれてるかどうかについては、それなりに敏感である。そしてその感が告げている、コイツは白だ。
「俺はそんなメリットの無い奴をパーティに加えてやるつもりも無ければ、有用な装備をくれてやるつもりもない」
確かにコイツ、メリット無いことについては無関心そうだねー。そういうの、人としてどうかと思うよ?
「まあ、どうしてもと言うなら相応の対価を払うんだな」
「対価って?」
「言わないと分からない歳じゃないだろ」
ユウキはそう言いながら顔を近づけて息がかかる距離でとまった。数cmの距離でユウキの目が私を見下ろす。
あーあ、この目。
明らかにあっち関係だよなー。ここで顎クイまでさせられてたら股蹴りあげてたけど、一応触ってきたりしてないから何とか踏みとどまる。
セクハラとか、世界がひっくり返ってもごめん被りたい。つか、隣にボンキュッボンなお姉さんが居るだろ。勇者様はそっちで満たされてんだろ?どうせ。
「……別にパーティに加えて欲しくはないから、どうでも良いんだけど。ちょっと聞きたいことあるんだよね。同郷の先輩っていうよしみで教えてくんないかな?」
ユウキから遠ざかりながら、何とか笑顔を作る。
「何だ?」
「その、君がしてたゲームで、物理防御無効の勇者って最初に何処行くの?」
「……その勇者の金魚のフンにでもなるつもりか?」
ユウキが不満そうに口角を下げた。
コイツ、いちいち発言がムカつくなぁ。金魚のフンって酷くない?
「まあ、知り合いだし」
「あ、そ」
無関心だなー。もっと食いついてきてもいいんだよ?ほらほら。
「物理防御無効の勇者は終盤戦では特にキーマンになる。君がついて回ったせいで力をつけられなかったら、後がないからな。教えるわけにはいかねぇな」
「ケチだなー」
「は?お前、今の立場分かってる?」
わ、目が怖い。声からも怒気が含まれているのが分かるくらいだ。
ケチって地雷だった?でもケチじゃん。言われたってしょうがないよね?とりあえず気を逸らさせよう。
「まあまあ、隣人を愛せよ、キリストの教えだよ?」
「俺は無宗教だ」
「……同じく」
…………。
はい、会話終了。全然気ぃ逸れてねぇ(笑)
無理だよ、コイツ何か普通じゃないもん。会話続かないし。
何でそもそも初対面の人縛るんだよ。危ない奴だよ絶対。
何か、何か無いかな……。
「じゃ、じゃあ、エルフの堕天者について何か知ってる?」
「堕天エルフってことはオズマンサスのことか?」
「えっ!知ってんの?!」
「知ってるも何も、主要人物だろ。ビギナーでも一応は一回ゲームやってたのか?」
まさかのダークが主要人物説。
「良かったー。で?何処で出会うの?」
「何処でって……そりゃ、大森林だろ。イベント発生時期によって多少変動するだろうが……」
「ほうほう」
やっぱダークは大森林のどっかの村に返すべきなんだね。
「……お前、オズマンサスが好きなのか?よくいたんだよな、女プレイヤーに」
「へー、好きではないけど。……いや、小さくて可愛いから……うん、それなりには好きなのかも……生意気なクソガキだけど、まだ子供だし嫌いにはなれないっつうか」
「子供?オズマンサスは見た目は俺たちと同じくらいの青年だぞ」
ん?ダークが成長するってことか?
もしかして、そんな時間経つまでこの世界いなきゃ攻略出来ないの?
いやいや、そんなはずないよな。
「何か話が噛み合わねぇな。俺が言ってるオズマンサスってのは、終盤に8割くらいの確率で登場する魔王のことだぞ」
「あ。じゃあ違うわ」
ここは即答だ。ダークが魔王になるわけが無い。
「オズマンサスの他に堕天エルフがいるのか?」
「や、うーん。まあ、チラッと聞いたというか何というか……」
何となくだが私の勘が告げている、ここはボカした方がいい!
「よく分からない返答だな……どっちにしろ、この先のイベントで何度か遭遇するだろうから言っておくけどな。種族に関係なく、堕天者は出会ったら速攻で殺せよ」
「……え」
「どう転んでもろくな結果にならねぇし、無駄な時間と労力がかかる。そして見返りはマイナスだ。大部分のイベントも取り逃すし、デメリットしかない」
えー。勇者でもそんなこと言うのかよ。
かなりショックだ。
「それは、ゲームの経験談?」
「まあな。それと、その堕天エルフの話もう少し詳しく言ってもらおうか。子供ってことはオズマンサスとは違うかもしれないが、同じ系統として何かしらのイベントルートが掴めるかもしれない。オズマンサスを堕天状態で殺せたら最終戦がぐっと楽になる」
「いやぁ、私もそんな、オズマンサスとか知らないっつうか」
「だから、その堕天エルフについて言えよ」
「えっと……」
これは、言っちゃダメだ。
オズマンサスの情報は全く知らないけど、一つハッキリした。ダークが処刑対象ならユウキだけじゃなくて、他の勇者にも会わせないようにしなきゃだってこと。
でも、コイツを誤魔化すのは骨が折れそうだな。
「……ジバルって街は知ってるよね?」
「ああ。何故かまだ存在してたな」
何故かまだ存在してた?そんな忌み嫌われるレベルの街なのか、あそこ。
「その街の地下に居るって噂があって……」
ユウキの目が鋭く光った。
「やっぱりな。で?隠してるのはダフォファミリーか?」
「えっと……そこまでは……何とかファミリーとかって全然分かんなくって」
「ちっ、普通そのくらい覚えるだろ」
私は何も知りませんよー。
ほんとに、これっぽっちも。ダフォファミリー?何それー、ブタさんの家族?
無知な真似をここまで徹底したことって今まであったろうか。
私は冷や汗をかきながらも何とかユウキに堕天者がジバルに居るらしいことのみを信じさせることが出来た。
「よし、ジバルまで戻るぞ」
「「了解」」
ふぅ、やっと解放されるぜ。
ったく、めんどくさい。勇者とか、今度から壮太以外のやつ全部スルーしてやる。情報だって呪い無効の勇者の絶望感しか教えてくんなかったし!
「何ぼうっとしてんだよ。君も一緒に来るんだよ」
「は?」
「どうせ、力がなくてここからジバルにも帰れないから困ってたんだろ?」
「違いますけど」
何だよ、この勘違い野郎は。
「強情だな。呪い無効の勇者だから仲間もいないくせに。意地は張らない方が身のためだぞ。どっち道ジバルの情報元に問い質す時に、君が要るから活用してやるって言ってるんだよ」
「いや、私も旅路急いでるんだけど」
「ラスボスの戦闘の時ですら役に立たないくせに、情報提供にも役に立たないつもりか?どうせ、君がこの先進んだって死亡ルートしかないぞ」
だーもう、ムカつく。
そろそろ怒りボルテージも限界に到達しつつあるぞ?
「別にいいって。役に立たないなりにやりたい事もあるから。なるべく早く大森林に行って帰ってきたいの。てか早くロープ解けよ。そんなゴテゴテの首飾りも全然要らないし」
「ふんっ。どうせ死ぬなら、このままこの洞窟で身動き出来ずに居た方がまだマシだろ?生き残れるしな」
「は?ちょっとそれ、どういう……」
ユウキは徐ろに私を縛るロープの端を持つと台座に括りつけ始める。
それを見て血の気が引く心地がした。
何コイツ、頭おかしい。こんな勇者、居ていいのか?そのイカレ頭で世界救おうっての?
「そのままの意味。俺に従ってついてくるか、このままここで過ごすか」
「あんた、頭おかしいんじゃねぇの?何でそんな脅迫じみたことされなきゃなんないんだよ。法律違反だよ?認識できてる?」
「お前こそちゃんと認識してるか?ここはゲームの世界だぞ。脅迫罪もない。法律なんて、勇者が全てだ」
あー、ダメだこれ。
コイツの頭、異世界フィーバーしとる。
でもダークを1人置いてジバルに行くわけにもいかない……。てか、ジバル行ったら一発でバレるわ。
何とか誤魔化して、途中で離脱するしかないな。
「分かった。ついてくからロープ外して」
「最初からそう言えよ。ロープは外さないけどな」
くそ、この野郎。
確かに私でもこの問答の後にロープ外さないけどさ。人道的にどうなの、これ。
まるで戦争の捕虜よろしくロープの端を引っ張られながら、何か屈辱的だなーと客観視した。
洞窟の奥から引き返してきてゴブリンの死体の陰からチラッとオレンジの目を見かけたけど、結局何も伝えることも出来ない。
引き摺られる様にして私は洞窟から出た。
ダーク、ちょっと大人しくそこで待っててくんないかな。……一晩くらいで帰るから。多分。
大まかに考えてたのをきちんと書いて思うことですが、想像以上にカナメと相性悪いやつでしたね、ユウキ君。




