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ノズ③

 カナメと堕天者が去っていくのを眺めながら、俺は複雑な感情を整理出来ずにいた。


「あー、カナメと飲み、楽しみだな。ブラウンウルフの食いっぷりからいくと、だいぶ酒もいける口だと思うぜ!兄貴もそう思うだろ?」

「いや、残念ながらフィント、俺達ゃアイツと飲めねぇぜ」

「え?」


 お頭が来ていた時、フィントはまだ目が覚めてなかったからな。しょうがねぇ。

 例の指令も聞いちゃいねぇんだが、コイツなら指令の内容を話すよりも何も知らねぇ方が乗ってくると思った。実際、ノリノリでカナメをあの酒場に誘ってくれていたからな。


「お頭からの指示なんだがな、酒場でどうやらアイツに何かするつもりらしい」

「……カナメにかい?そいつぁ一体、どういうこった」

「お頭はな、今回の騒動を引き起こした一番の原因をトトナ地区の飯屋の一件と見てんだよ」


「ああ。あの、ウチとダフォファミリーの間に割って入って物申してきた謎の女の話か?元々仲も悪いし最近は特にダフォファミリー側が喧嘩売ってくることが多かったけどよ、確かにその謎の女がけしかけたのがキッカケだよな……」

「バカ、女の特徴聞いてなかったのか?塩の流通もないようなクソ不味い飯屋で、とんでもねぇ量を食いきったんだぞ。そんな味音痴な大食漢、カナメしかいねぇだろうが」

「そう言われてみりゃ……」


 もっと言うなら、この街の2大裏組織、レーンボルトファミリーとダフォファミリーの間に何のためらいもなく突っかかっていくような愚かな行為をする女なんて、他に考えられねえんだよ。


 もちろん、お頭だってそのくらい分かっている。


「兄貴、お頭はカナメに何をするつもりなんだ?」

「そいつぁ……。まあいい、とりあえずファントの店に戻るぞ」

「え?」

「森の鎧を4つ作ってもらわなきゃなんねぇ」

「森の……4つってこたぁ、俺達に任務かい?」

「ああ」

「兄貴、何だか顔色が良くねぇぜ?大丈夫か?」

「…………」


 俺はフィントの問いかけには答えずにさっさとファントの店に踵を返した。


「森の鎧だぁ?いつまでだ」

「明後日には欲しいが、間に合うか?」

「…………まあ、型はあるから間に合わねぇ事もねぇが、流石に4つだと材料が足りねぇ。森の布は仕入れが難しいからな」

「ちっ」

「あ、兄貴?」

「足りてるところだけ先に作っておいてくれ、布に関しちゃ心当たりがある。フィント、モミばばあの所に行くぞ」

「えー、あのばばあ嫌なんだがな」


 俺は相変わらずフィントの抗議の声は無視して店をあとにした。


 道すがら、ほんの20年くらい前の会話を思いおこす。


「ノズ、おぬしは欲しいものがあればどうする?」


 これは俺がファミリーに入ってまだ日の浅い時に投げかけられたお頭の言葉だった。

 当時はまだお頭が今の役について間もない時期だ。この街では比較的新参者だったレーンボルトファミリーは、影響力が小さかったし、ジバルは人口こそ今と変わらねぇが、衛兵もいれば、領主もいるそれなりに統治された街だった。おかげで賭博や風俗だけじゃねぇ、主な興業の奴隷商売でさえ、思う様に経営出来ずにいた。


 そして同じ様に活動規模が小さくならざるを得ない多くの裏ファミリーが、ドングリの背比べよろしく乱立していた。このせいでしょっちゅう起こる小競り合いに、俺もいい加減辟易していた時のことだ。


「そんなの、ぶん()るに決まってるじゃねぇですか」


 半ば投げやりにそう答えたが、お頭は「しれ者め」と(わら)って返してきた。


「それもまた方法じゃが、もっと強いヤツに盗られるだけで終わってしまうわ。私なら絶対に手元から離れないようにするぞ」

「どうするんですかい?」


「欲しい対象が、もしくはその所持者が、そうせざるを得ん状況があればいいだけじゃ。あとは浮ついたその足を軽くすくうだけでいい」

「……弱気な発言ですね。状況なんて運じゃないですか。運にかけるんですか」


 特に忠誠心もまだ芽生えちゃいねえ当時の俺は、嘲笑われたことに多少苛ついた。そしてレーンボルトファミリーの大頭の長女とは言え、付く者を間違えたかとさえ思いながらそう返したもんだ。


 俺は今もそうだが、運だの神だのに現を抜かす輩が大嫌いだったからな。


「運ではない。運に見せかけて、もしくは偶然である様に装って追い込んで、恩を売る」

「話が見えませんぜ、具体的には?」

「私はこの街を、世界一の犯罪都市にするつもりじゃ」

「は?」


 頭がついていかなかった。


「最初は王都や他の街で噂を流す。次第に噂を聞いたならず者や正義ヅラした冒険者が駆けつけるじゃろう。人が増えれば自然と治安が今以上に悪化していく。街の治安が乱れた時、住人に奴隷を売りつける。用心棒としてな」

「…………」

「飴を売りたければ苦油を飲むよう働きかけ、薬を売りたいならば病気を流行らせる。それが、()の商売じゃ」


 これから、お頭の餌食になるこの街の奴らを思って同情したもんだ。そんな商人がうじゃうじゃいたら、俺を含めた一般人がたまったもんじゃねぇ。だから、お頭(1人)で充分だ。そう思って今日までやってきた。


 思えば、今回の件はお頭にしちゃ珍しく後手を取らされてんな。


「と言うより、寧ろカナメがお頭の言葉を実践してんじゃねぇか」

「ん?兄貴何か言ったか?」


 ああ、声に出してたか。


「いや……アイツは、カナメは何を考えてんだろうなってな」

「はー、俺ぁこういう職業でやってきたからこそ分かるがよ、カナメは悪い奴にゃあ見えねぇな」

「あぁ……同感だな」


 ただ、俺の経験上、一見悪い奴に見えない者ほどタチが悪いんだがな。

切りが悪いですが続きは明日です。

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