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ザポンの実は美味しい

「…………」


 はっきり言おう。

 気まずい。


 だってさ、ダークは不機嫌で、黙々とミカンらしきヤツを剥いてるわけさ。で、私はダークがまだご飯足りてないとか気づかずにお代わりを作らなかったわけさ。そんでもって、あろう事か、大人である私が子供の取ってきたミカンらしきものをてっきり自分用だと勘違いして取ろうとしたんだよ。


「はーーぁ。ごめんね、ダーク」


 ため息のあとに謝ってみる。


 ダークは自分の名前が呼ばれたからか、チラッとこちらを見るけど、すぐに作業に戻った。


 でもさ?ちょっと言ってもいい?


 流石にダーク心狭くない?

 いや、私は悪いよ?

 確かに子供連れてる大人としてはちゃんと世話しなきゃだよ?お金にも材料にも余裕があるはずなのに、ご飯も満足に食べさせられないとか恥ずかしい限りだよ?


 それでもさ、これでも結構ダークに譲ってるんだよ。


「せめて不機嫌だけでも直してくんないかなー……なんて」

「…………」


 私の問いかけは華麗にスルーされた。


 イラッ


 ダメだわ、反省したし恥ずかしい感情も抱いたけどさ、徐々にイライラしてきてる。


 うーむ、ニコチンが足りない証拠だな。元の世界で1日1ケース吸ってたのに、いきなり1日1本だからね。本当に足りてない。


「…………うん、無理」


 吸っちゃお。


 今ダークHP11の満タンだし。減ったとしても2くらいでしょう。すぐに回復薬飲ませればいい、はず。


 ということで、先ほど消した葉巻に火をつけてみる。一応その場から離れて沢の方に寄って吸うようにしておく。


 ぷはー。


 うーん、やっぱ1回消したから微妙な立ち上がりだなー。でも、ちょっとだけイライラが緩和された。チョロチョロと流れる沢をぼんやりと眺め続ける。


「けほけほっ」


 咳が聞こえた。

 思ったよりすぐ近くで。


「えっ」


 振り返るとすぐ後ろに葉巻の煙でむせるダークがいた。


「けほっ」


 ダークはむせながらも腕に抱えた塊を渡そうとしてくる。


 とりあえず葉巻の火を沢に突っ込んで消して、得体の知れない塊を受け取った。

 酸っぱい香りがする。


「何これ」


 大きな葉っぱに何かが包まれてるのかな。


 私が渡された塊をただ見つめてるだけなのに痺れを切らしたのか、ダークはすぐ隣にしゃがんで私の持ってる塊に手を出した。


 開かれた葉っぱの中身は、ミカンっぽいやつの身だった。薄皮も取られてて、ほんとに身だけになってる。それが大量に葉っぱに包まれていた。


 でも私の視線はこの手の中に現れたミカンじゃなくて、その葉っぱを開く手に釘付けになった。


 パッとその包帯に包まれた手を取る。


「っ!」

「…………この手、どうした?」


 森の中の微かな月明かりでも見間違えない。

 包帯が赤く染まっている。


 バチッ


 私の手が小さな手に弾かれる。


 隷属者のステータス画面にはスキル使用中のピカピカが見える。

 あ、拒絶スキルってそういう感じでも使えるのかよ。便利だな。


 内心で皮肉を言いながらダークのステータスを確認する。HPが5も減っていた。


「やれやれ。何か、読めてきたぞ」


 確証を持つために、持ってるミカンぽいやつを鑑定してみる。


 《鑑定に成功しました》


 《ザポンの実:森に生息するザポンの木になる実。皮は硬く、溶解液を出す。身は甘酸っぱく、可食である。1個分の身でスタミナを100回復する》


「やっぱりかよ」


 私は呆れ半分で呟いてから、隣の危なっかしいクソガキを見た。


 口をキュッと一文字にして、両手を見せないように後ろに回したまま、オレンジの大きめな瞳が私を見つめる。


 とりあえず私の持ってた回復薬をダークに飲ませる。

 これで一応HPは回復した。でも包帯についた血は消えない。


「はぁ。何て言うか、もう、言葉が出てこないよ」

「…………」

「とりあえず、これ、私が食べていいんだよね?」

「っ!!」


 私がジェスチャーで問いかけると、下がりがちだった長い耳をピンと立てて、こくこくと勢いよく頷く。


 あれ、尻尾が見えた気がする。100%幻覚だけどさ。もしあったらピンと立ってそうな、そんな感じ。

 何にせよ、ほんとコイツ、細かい所可愛いよな。


 手元のザポンの身を1つ口に入れてみる。


「うっっま!!」


 私の知ってるミカンより酸っぱくて、食感もマンゴーに近い。変わった味と食感の組み合わせだけど、美味しい。トロピカルフルーツぽい。


「美味しいよ!ダーク」


 ふふっ


 ダークも私の笑顔に吊られたのか、くすぐったそうに表情を緩める。


 でもすぐに真剣な顔になると徐に立ち上がって私の頭を包むように抱きしめてきた。ギュッとしてくる細い腕は、少し遠慮がちで、それでいて暖かい。


 5秒くらいで離れたけど、立った状態から私を見下ろす視線が真っ直ぐで、私の服の端を握るその手と合わせて考えたら、何となく伝えたいことが何なのか分かる。気がする。当たり前だ、言葉が無いんだ。確証はない。


 でも、もしも私がコイツの立場で、こうするとしたら、きっとこういう気持ちだろうという予想は出来る。


「ダーク、さっきはごめん」


 確かに逆の立場なら、私だって相手に怒ったわ。自分のせいで相手がご飯食べれないなんて気持ちいいわけないよね。


 私だって、ダークが手を犠牲に剥いてくれた果実を食べても、確かに美味しいし、嬉しいってのもあるけど、苦しいって気持ちが勝ってしまった。


 ダークはこのことを伝えたかったのかもしれない。だとすれば、余計に伝えるためなら自分の手さえ厭わない強情さに感服するよ。そして、その危なっかしさに少しだけ怖いと感じてしまう。


「あ。もしかして今朝怒ってたのも、私が床で寝てたから?」


 問いかけてもダークは、軽く首を傾げるだけ。でも、さっきコイツが怒った原理通りなら、そういうことと受け取るのが自然かもしれない。


 これから一緒にいるなら尚更、そんな関係が続いて欲しくないはず。


「私、まだまだ小さいなぁ」


 あーぁ、今日は空回りばかりだった。


 私は冷え始めた沢の湿った空気を吸い込んで目を閉じる。甘酸っぱい身を噛みしめながら。

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