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壮太②

お待たせしました

「……おかしい」


 思わず声に出して呟いてしまった。


 とりあえず、たった今片付けたホワイトラッタの尻尾を切り落とす。


 最初のうちは気持ち悪いとか思ったけど、この世界に来てもうすぐ3週間になるし、だいぶ慣れた。もはや流れ作業的にさっさと切り落として5匹分の尻尾を獣用アイテム袋に押し込む。


 この尻尾を冒険者ギルドに持っていけば依頼達成報酬が貰える。ゲームの仕様と変わらなければ1匹あたり400prだったはず。


 今日までで大体100匹分だから、40,000pr。他にもこのダンジョンは金自体ののドロ率が高いイエローラッタもいるから、だいたいこれで所持金が1,000,000prになる。


 装備代や宿代を考えるともうちょっと稼いでもいいかもしれないとは思うけど、正直初期ではいい装備が売られてる場所自体出会わないからこれでも充分だ。最初に王様から貰ったお金もまだあるしね。


「何が、『おかしい』だよ。いつまでここでグダグダしてるつもりなんだ!もうすぐ3週間だよ?俺の勘違いじゃないよね?!3週間!!毎日毎日ここに通いつめて。いい加減このダンジョン嫌なんですケドー!魔物は弱いし、アイテムもダンジョンボスを倒したからロクなのが出ない。こんなの俺の求めた冒険じゃないんですケドー!」


 発狂寸前のキーマの声がダンジョンに響き渡る。


 まあね。俺だってそろそろ飽き飽きしてきてる。レベリングって現実だとすっごい面倒臭いのな。でもさ、気持ちはわからなくもないけど、もう少し音量下げようよ。


 ほら、イエローラッタいたのに逃げちゃっただろ。もうお金にも余裕あるから倒す気はなかったけどさ。


「なぁソウタぁ、早く別のところ行こうよー!」

「もう、ダメよ、キーマ。ソウタ様には何かお考えがあるのですから、ワガママ言わないの」

「だってさぁー」


 喚くキーマを窘めるチェリンも、表面上はそう言っているが、顔色が悪い。多分、内心では早く次の所へ行きたいと思っているんだろう。


 ゲーム時も、次のイベントに進まない時の反応は大体こんな感じだった。

 いや、もうちょっとソフトだったかな?


 まあ、現実とゲームじゃ誤差はあるんだろうけど。


 溜息をつきながら俺はステータス画面に意識を集中した。


 名前:カガミ ソウタ

 種族:ヒト

 LV:21

 称号:戦勇者

 加護:なし

 ユニークスキル:鑑定LV3、物理防御無効LV3

 スキル:剣撃LV6、槍撃LV5、打撃LV5、弓撃LV5、肉体強化LV4、連撃LV2

 HP:380/436

 スタミナ:612/788

 MP:123/357

 物理攻撃力:4815+400

 物理防御:1072+150

 魔法攻撃:497+400

 魔法防御:423+150

 回避能力:714+200

 テクニカルポイント:2100

 装備

『聖剣LV1』:戦闘時、使用する際に物理攻撃力+400、魔法攻撃力+400の効果

九重(ここのえ)ローブ』:着用時、物理防御力+150、魔法防御力+150の効果

『イエローバットの靴』:着用時、回避力+200の効果


 うん。

 レベルも充分上がったし、ステータス上昇度もまずまずだ。このあたりの魔物は弱いから成長率が多少低いのは仕方が無いだろう。ゲーム知識通りだとすると、このステータスとパーティなら、はっきり言って2つ先のイベントまで余裕でクリア出来るだろう。


 俺のプレイスタイルは石橋を叩いて渡る派なんだけど、流石に俺だって何百回とプレイしたゲームでオーバーキルなんてしない。


 確かにある程度余裕は持っていきたいけどね。

 痛いの嫌だし。チェリンに治して貰えるのは嬉しいけどさ。


 それに、あまりモタモタしているとイベント逃しが頻発してしまうからな。俺だって気持ち的には次の街に急ぎたいくらいだ。


 ここに居座っているのは他でもない、別のイベント待ちだったからだ。

 けど、残念ながら全く起こる気配がない。


「おかしいなぁ」


 俺は再度そう言いつつ、腕を組んで首を傾げた。


 こんな初期のイベントを逃すことはなかなか無いはずなんだよな。


 この世界が俺の知ってる通りならば、イベントには『共通イベント』と『専属イベント』、『EXイベント』の3種類が存在する。


 他の勇者が揃うまでのタイムラグは今回みたいにゲームの時もあった。


 面白いんだけど、悲しいことにブレイクトリチェリーのプレイヤー数は決して多い訳じゃないから、5人揃うにはオンラインゲームでも時間がかかった。その間、先にログインしている勇者達は1〜2個分の『専属イベント』までは進めることが出来るので、それを進めたり、レベル上げをして準備していたりする。『専属イベント』は初期に多く、その勇者に合ったレアアイテムをゲットする事もあるので確実に消費していきたい。


 で、このイベントなんだけど、開始時間の差でイベントに不利が起きないよう、ある程度補正が働く。これは、ゲーマー達の間で『歴史の修正力』とか勝手に名前づけしていたりする。要はイベント補正だ。

 確か『専属イベント』の時間猶予がだいたい1~2日で、『共通イベント』の時間猶予は2~3日だったはず。


 だからそれに則って、ゲームでは、どんなに遅くとも勇者が揃ってから(ゲーム内時間で)4日以内にはイベントが発生してたんだけどな。


 でも、『専属イベント』以上に『共通イベント』は自分や他の勇者の動きによって多彩に変化してしまうから、時間猶予すら関係なく『起こらない』事態もよくある。


 今回俺が待っているのは一応『共通イベント』に属するものだ。それでも、ここは他の勇者達の活動域からは少しばかり遠いので、半『専属イベント』のはずなんだけど……それが、起きない。


 因みに勇者が出揃ったことは確認済みだ。これは、ステータス画面の『勇者』を限定的に鑑定すると確認することが出来る。


 もちろん、会ってないと自分以外の勇者の名前は表示されないんだけど、各勇者自体の説明書きに加えてログイン状況の確認が出来る。


 この世界にログアウトは無いから、ログインの印しか無いけど……いや、勇者の死もログアウトとして表示されるのかな。俺以外の勇者も召喚された同郷の人間なら、あんまりそんなこと考えたくないけどなぁ。


 て訳で、最後の勇者である『呪い無効の勇者』もログインした。今もログイン印が付いているということは、一応死亡フラグは掻い潜れてるってことかな。きっと定石通り別の勇者と行動しているんだろう。


 それが、5日前。


 てことは、『共通イベント』に属する俺が待っているイベントは、とっくに起こっているはずだ。それなのに起きないということは、別の勇者がこのイベントが起きない動きをしたことが考えられる。


 一応『共通イベント』だからありえなくないんだけどさ。


 あとは、『EXイベント』は、ゲーム開始からランダムだったり運だったりで発動する不確定イベントだから、通常時はあまり考慮されてない。発生事態も少ないんだけど。


 もしかしたらこれが発動したのかな?


 うーん、『共通イベント』にしても『EXイベント』にしても初期で起こりにくいと把握してたんだけどな。どうにも腑に落ちない。


 俺のゲーム経験上、こんな事態になったのは、呪い無効の勇者が初っ端で死んだ時くらいだったんだよなぁ……他にもあったかもしれないけどあんまり記憶にない。


 つまり、そのくらい稀だったということ。


「流石にちょっと情報収集しないといけないかな?ススズに戻ろうか」

「おぉ!やぁっと別の所に行くんだね?」

「了解しました」


 キーマはあからさまに喜ぶけど、チェリンもホッとした表情になる。


 よく考えてみれば、チェリンみたいな女の人がこんな薄汚れたダンジョンにずっと籠るとか嫌に決まってるよな。次からはもうちょっと気を遣ってあげよう。


 ゲーム知識で進めれているし、この人たちもキャラとしてそのゲームにいた存在だけど、今はゲーム(ここ)が現実なんだし。人であることに変わりはない。


 ザーーーッ


「…………」


 2日ぶりのダンジョンの外は、土砂降りの雨だった。


「うへぇ、出たくなーい」

「キーマ、お前さっき出たいって言ってたのに」

「それはそれ、これはこれ」


 俺はキーマの憎めない返しに苦笑する。


 ゲームでは雨はイベント時以外なかったんだけど、現実はそういうわけにもいかないよな。


「ススズまではすぐだし、ダッシュで行こう。チェリン、俺のローブ羽織って」

「ええ!そんな、恐れ多いです……」


 遠慮するチェリンの頭にローブをかけて、ローブ越しに顔を両手で包んで上を向かせる。


「いいから。風邪引かれたら俺が困るよ」

「あっ、……その、ありがとうございます……」


 掌の中で、真っ白な肌が頬のあたりだけ赤く染まるのを見つめる。両手で包んでも余りそうなくらい小さな顔と恥ずかしそうに伏せるフサフサの睫毛も愛らしい。


 あー、やっぱりチェリン間近で見ても可愛いなー。


 それにしても。

 俺は内心ほくそ笑む。


 いつかやってみたかったんだよなー、コレ。昔やられたことがあったから、特に。


 俺も出来るくらい成長したってことかな?


 分かってる、現実世界(元の世界)じゃなくて、異世界(ここ)だからこんなキザっぽいことをやれたにすぎないってことくらい。

 分かってるけど、嬉しい。しかもチェリンみたいな可愛い人相手に出来たのも嬉しい。


 さて。

 俺達はダッシュでススズへの帰路に着いた。


 当然ながら、ここは表街道のすぐそばってこともあって魔物は滅多に出ない。出たとしても驚異にすらならないチュートリアル級の弱いやつらばかりだ。


 それに、ススズはゲーム知識でいくと、この国一番の要塞都市だ。この要塞が北からくる強い魔物の防波堤としての役割を果たしているらしい。特に俺達のよく使う王都の西門からススズ、更に王都から西のアルカナ共和国に至る表街道は人通りも多いので、まず魔物が出没することはないだろう。

 つまり、この都市以南にいる限り、安泰ということになる。


 ススズより北に行くとなると、危険地帯ばかりだし、物語の終盤だろうから今は特に興味はない。


 ん?終盤……?


 ちょっと思い当たる節がある。というか、そろそろ起こってなきゃいけない大きな事件があるはずだ。


 そして、俺の予想だと、俺の待ちイベントは確かその事件が鍵なはず。まあ、割と謎に包まれたキャラだったんだけど、そうじゃないと『共通イベント』が発動しなかった理由にならないからな。


「あの、最近ここより北で何か事件とかありませんでした?」


 半ば予測しつつ、たった今入った宿屋の主人に尋ねてみる。

 この店の主人はここらじゃ珍しい獣人だ。トナカイか鹿みたいな角が頭に生えている上に、顔も手も毛むくじゃらだ。


「え?事件……ねぇ。うーむ」


 判然としない返しに、確信した。


 やっぱり。

 そろそろ起こってなきゃいけないことが起きていない。


「本当に、何か聞いてませんか?」

「いや……特に聞いてないなぁ。あ、そういやぁ、ジバルで最近抗争があったらしいよ。俺の母親が住んでるんだけどな、陰謀がどうのこうのって言ってたぜ?」


 ジバル?聞いたことがない街の名前だな。


 まあいいや。

 とりあえず分かったことは2つ。


 1つ、何かしらの要因で今の時点で起きるはずの終盤イベントが1つ回避されてしまったこと。

 2つ、それに連動して、今回俺が待っていたイベントは起きなかったということ。


 これに伴って、今後も特に『共通イベント』が変動するだろう。


 全く、皮肉なもんだ。散々やってきたゲームの世界で、初っ端からプレイ経験の無い別ルートの可能性が浮上するなんて。


「あーあ、ちょっと楽しみにしてたのにな」

「ん?何が?」


 おっと。聞こえてた。

 キーマが俺の呟きに疑問の意を示してくる。


「いや、ちょっとね。狙ってたことがあったんだけど。うまく行かなかったんだ」

「ふーん。で?そのために明日もまたダンジョンに籠るの?」

「ううん。もう望み薄だし、次の街に行こうかと思ってるよ」

「おお!遂に!!」

「ソウタ様、それならば旅の支度を今日のうちに済ませておきましょう」

「え、あ、……うん」


 わー、チェリンの目が輝いてるよ。

 ホントは明日ちょっとダンジョン覗いてからにしようかと思ってたけど、もう後戻りできなさそうだ。


 いよいよ諦めざるをえないらしい。取り損ねるにはなかなかに惜しいフラグだった。


 俺の待ってた『失意の戦士』イベントはなかなかにキーポイントになる。今後の悪役組織ダフォファミリーイベントでも深く関係していける要素があった。悪逆の限りを尽くすダフォファミリーの陰謀阻止は、この世界の人達に平和を取り戻させる勇者としては一種義務だってこともあるんだけど、実利的なことを言うと、このイベントはレアアイテム入手が多い。


 まあ、ダフォファミリー関係のイベントはこの先もいくつかあるから、取り戻しは効く。


 今回次のイベントを押してまでも待った理由は他でもない。パーティメンバーの入手が含まれていたからだ。


 ブレイクトリチェリーの影の人気キャラ、ノズ・レイド。謎の多い男キャラとして有名で、そのさっぱりした性格や厳つい体躯も人気の要因だけど、何より『狂戦士』というレア称号を持つ強キャラのうちの1人だったのに。


 残念だな。

ステータス計算機作りました。(今更)

ざっと書くと、

{(称号補正)×(成長率)×(使用率)}×(加護補正)+(前ステータス)


成長率と使用率がミソです。


更新は明日お休み、来週から1日1話目安です。宜しくお願いします。


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