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子供は子供ってだけで可愛い

 私が席に着くと、オッサンどもは徐々に熱も引いてきたのか、もしくはひと騒ぎして腹が減ったのか平常に戻りつつあった。先ほどの賭けの余韻も大いにあるだろうが、元々は戦勝の宴だ。飲みに来た連中ばかりなので酒だのつまみだのを注文しだした。


 タクティスも癖からか、注文を受けるとそのまま厨房に入って行った。

 そして暫くして慌てた様子で私の元にやって来た。手にはあの紙で包んだお金がある。


「こいつぁ一体……」


 よしよし、ちゃんと気づいたんだね。間違って捨てられたらどうしようって若干不安だったんだ。


「ここで話すのもなんだし、裏に行きましょうか」


 で。裏に回った。


 ダークは雰囲気を読んでか、店の勝手口の方からコソッと覗くだけでさっきみたいに近くに立つことは無い。


 まあこのへん午前中のゲロだらけだから来ないに限るよ。まだ臭いし。


「おめぇ、これはおめぇが置いたんだな?」

「そうですよ、塩の代金です」

「あれは絶対払わねぇって……しかもお前、賭けにも勝っただろうが。店ももうお前の……」

「塩の代金、勿論私は一銭も払っちゃいませんよ。そもそも私に請求してくるのが間違いでしょ。私は世話しただけで、塩を実際に飲んだのは酔っぱらいどもです。酔っぱらいどもから代金を貰うのが普通です」

「…………」


 ま、今日来た人と酔いつぶれてた人は違うかも知んないけど。そこはあんまり考えない方向で。


「で、これはさっきの賭けの参加料として参加者から徴収した物です」

「なるほど」

「それから、店の経営ですけど、全部タクティスさんに返還します。私が得たものを誰に渡そうと私の自由なはずです。何日間経営者になる、なんてことあの賭けで決めてませんでしたし、誰にも文句はないでしょ」


「なっ、なんだと!?」

「だって、売り言葉に買い言葉で店もらうとかいったけど、こんな大繁盛の店経営なんてしてたら私の本来しなきゃ行けないことできなくなるかも知れないですし。ま、カジノ、良いアイディアだと思うんでよかったらやってみてください」

「その、何ていうか…………すまねぇ」


 おお、タクティスが謝ってきたっ!

 暗くて表情分からないけど。


「ま、そういうことです。あ、それと、私今めちゃくちゃ腹減ってるんで、借金分くらいのご飯作ってきてください!ダークもいるし、お腹に優しそうな美味しくてスタミナになるヤツでお願いします!」

「…………スタミナになるって、飯食ったら大概スタミナになるだろうが。ちょいと座って待ってな」


 そう言いつつもタクティスは気合い充分なのか、ゴツゴツの腕を叩いて厨房に駆け出していった。


 うん。

 一件落着。

 問題は借金分も飯作ってもらって食べられるかどうかだな。

 いざとなれば周囲のおっさんに配ろう。


 そう思いながらダークを連れて席に戻る。


 1時間後。


「くっはー!お酒美味い!!料理美味い!!全部美味い!!最っ高ー!」


 私は有頂天になっていた。


 だって、出された料理全部美味しい。久しぶりにまともに美味い飯にありつけて上機嫌な上に、賭けに勝った美酒の味は格別なのだよ。


「おめぇよく食うなぁ。何皿目だ?」

「いや、よく飲むってぇのがすげぇだろ。何杯飲んでんだよ」


 何か聞こえるけど知らなーい。

 慎ましく食べてますことよ?


 ダークも隣の席でモグモグよく噛んで食べている。私の言いつけちゃんと守ってるのちょっと嬉しい。


 ーー~~♪


 てなわけで、すっかり気分の良くなった私は昨日聞こえていた歌を歌った。歌詞は俺達最強怖いものなんてないぜ!的なもの。


「お、いい歌を歌うじゃあねぇか!」


 と、隣のテーブルのオッサンが嬉々として話しかけてきた。


「昨日、私の宿まで聞こえてきたんだ。歌いやすいし歌詞も好きだよ。でもこのフレーズしか覚えてないんだ」

「じゃ、俺が続きを歌ってやらァ。覚えて帰れよ」


 で、ダフォファミリーに勝った側の場にはピッタリな内容だからか、すぐにオッサンどもも野太い声を張って合唱してきた。


 ひと通り歌い終わってダークを見てみるとコクリコクリと船を漕いでいる。


 ああ、そっか。そろそろ子供のオネムの時間だね。明日は早いし私も早めに寝なくちゃいけない。

 おかげで夢から覚める様に高調していた気分が落ち着いていく。


 そうして、タクティスに軽く挨拶すると、ダークを起こして宿屋に向かうのだった。結局、ノズだけじゃなく、タダン達でさえ酒場には現れなかった。さんざん誘ってきてたくせに。まあ美味いご飯食べれたからどうでもいいけどね。


 酒場を出て暫く歩くまで、相変わらず同じ歌が響いてくる。中にいる時気づかなかったけどさ、どんだけ大声で歌ってんだよ。近所迷惑だよ!でも次第に遠ざかっていき、宿屋付近では流石に聞こえなくなった。


 で、宿屋。


 お湯桶を2つ貰って部屋に帰った。


 ダークは完全に覚醒しちゃったのか、さっそく身体を拭いている。

 私はとりあえず腕と顔だけ洗うと窓辺に行って葉巻タイムだ。


 いやー、今日は特に長かったなー。

 でも明日の方がもっと疲れるんだろうなー。ダーク守んなきゃだし。


 と、感傷に浸ってるうちにダークの立てる物音がなくなった。チラッと見ると、またもや桶のそばで亀になっている。今回は唯一の肌の露出部分である頭にだけシーツをかぶってる状態。両手はあの麻布で包まれている。タオル代わりにする予定だったけど、戦闘時以外は確かにああしてる方がダーク自身が気を遣わなくて済むだろうし、何も言うまい。


 やれやれ。


 だから、私は床で寝かせるなんて虐待まがいなことはしないんだってば。葉巻を適当に陶器の皿の上に置くと、ダークに近づいて昨日の要領でベッドに放り投げた。


 うん、ちょっとは重くなったかな?まだまだ軽いけどね。


 私はベッドの上でモゾモゾするダークを尻目に元の窓辺に戻って葉巻をくわえる。


 やー、癖になるね、葉巻。

 大森林行って帰ってきたらスフィアさんに買い付けに行こうかな。


 ゴソゴソッ


 ん?

 ダークの方から物音がする。


 振り返ると、先ほどと同じ光景。同じ光景ってのは、私が葉巻に興じてる時に振り返った光景のことだ。


 そう。つまりどういう事かというと、奴はベッドからわざわざ降りて床の上で丸くなってるのだ。


 え、何で?


 とりあえず疑問に思いながらも踵を返すと、もっかい同じことをした。


 あ、布団かけなかったからかな?


 今度はベッドに投げあげると布団をかけて、窓辺に戻る。


 ゴソゴソ……


 私は嫌な予感にとらわれながら振り返る。


 床の上に亀がいた。


 だぁぁああ!何?!なんなの?


 若干イライラしたので、亀の脇腹をこちょこちょする。


「んぅ!!?ーー!!」


 ダークがビックリした様に一瞬声を上げた。小学生高学年にありそうなちょっと枯れ気味の声だ。


 でも、すぐに飛び起きて私の手から逃れて距離をとると、恐る恐る顔につけたシーツの隙間から私をのぞいた。オレンジの目がキツく睨みつけてくる。めっちゃ警戒しとるやん。ごめんて。


 でも私だって言いたいことあるんだよ。


「ダーク、こっちで、寝るの!」


 ジェスチャーを交えつつダークに伝えた。


 一瞬ホッとした顔を見せたダークは嫌そうにコクコク頷く。


 ベッド、嫌なのかな。て、アレか?年頃の男の子だから私と一緒に寝るの嫌だとか、そういう感じ?


 えー、じゃあ私、床で寝るかなぁ……あわよくば隣で寝ようと思ってたんだけど、しょうがないなぁ。


 ダークがガッチリと頭にシーツを巻いてガードした状態でおずおずとベッドに上がる。ベッドの上でも安定の亀ポーズだ。


 亀ポーズ寝にくそうだが……まあいいだろ。よし、これで葉巻……と窓辺に向かおうとした時、服が引っ張られた。


「どした?」


 ちょっと、いや、かなりビックリした。だって、昨日今日と超避けてくる奴がいきなり服引っ張ってくるんだもん。いや、まあ、賭けの時も引っ張ってきたけどさ。状況違うじゃん?


 シーツで包んだ顔からは何も受け取れない。


 あ、布団かけろってことかな?しょうがないなぁ。

 はい、かけたよ。

 じゃ。


 また引っ張ってくる。


「なに?なんなのさ?!」

「…………」


 でも無反応。暫く私の服を引っ張ったままじっとしている。


 全く、よしよし。早く寝なさいねー。


 しょうがないので、そんな意味を込めて背中あたりを撫でてやる。するとダークは引っ張ってた手を離して大人しく丸まって寝る姿勢をとった。


「…………」


 もしかして。

 これして欲しかったとか?

 表向き生意気少年だけど、実は構ってちゃんだったとか?


 いやいや、この年齢でそれは無いかなーとも思う。だけど、私はこの子の実年齢知らないし、どんな風に生きてきたのかも知らない。見た目より実は幼いのかもしれないと、賭けの時とは真逆のことを思った。


 そんなことより何より気になるのは……


「何で堕天者になったのさ?」


 伝わるはずもない上に相手は寝かけてるんだけど、思わず聞いてしまった。


 だって気になるじゃん。こんな子供が、どうやって禁忌を犯したんだよ?誰かが何かしら促さないと、普通やらなくないかな?禁忌を犯す時に何があったのか、一番の被害者にしか見えないこの子に聞かなければ、何も見えてこない気がする。

 いつか話してみたい。私は本当にこの子のことを何ひとつ知らないから。


 大森林でエルフにあったら通訳してもらおう。もしくは私が言葉を覚えるかな?挨拶程度なら東南アジア地域の言語はマスター出来たんだし、そのへんまでならエルフ語もいける気がする。何にせよ、聞きたい事は山ほどある。


 今はそれよりも言いたいことがある。


「今日は本当にありがとう。ダークがいてくれて良かったよ。ありがとう」


 この気持ち、伝わるといいなぁ。あ、それから……


「明日はだいぶ危険な所に連れてっちゃうけど、恨まないでね。全力で守るから許してね」


 絶対に伝わらないと分かってても、つい口をついて出てきてしまった。


 私はこれから恩人を危険に晒すんだ。


 ただ、言葉に出してみて気づいた。これはただの私の気を軽くするためだけの身勝手な宣言だ。寧ろダークには聞かせられないよね、ここは言葉が伝わらなくて良かったかもしれない。


 この弱々しい宣言に、無性にいてもたっても居られなく感じて、窓辺にある葉巻の火を消して、ベッドの脇に座った。


「はあ、かっこ悪い大人でごめん。……頑張るよ」


 何やったって、どんな汚いことしたって、守ってみせよう。


 壮太だって魔王との戦いで守らなきゃいけないんだ。魔物からこの子でさえ守れないようじゃこの世界、やってけないだろう。


 頑張るよ、ダーク。だから許して欲しい。


 ずっと撫でたかったダークの頭のあたりをよしよししてみる。くすぐったそうに尖った長い耳をフルフルと動かす仕草から、どことなく猫を連想してしまった。


 可愛いなぁ。


 思わず私はウ〇フルズの「かわい〇人」をゆっくりベースで子守唄風に歌う。


 こんな可愛い子供なのに、何で堕天者ってだけで嫌われたり殺されたりしなきゃいけないんだよ。この子、呪いうつさないように全く喋らないんだよ?触れないように、こんな丸まって寝てるんだよ?禁忌を犯してようが何してようが、いい子なんだよ、きっと。だから、何が何でも守るよ。


 手元から徐々に規則正しい寝息が聞こえ出す。


 私はそっと離れて、床の上で毛布にくるまった。


活動報告に詳しく書きましたが、更新が暫く3~4日おきになります。

8月7日から1日1話更新かな?多分。

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