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塩は貴重らしい

 夕日も沈み、そろそろ暗くなり始めた頃、午前中に不本意ながらも大暴れした酒場、スララに着いた。

 扉を開ける前、私が常時かけていた危機感知スキルが反応した。


 因みに、危機感知はLV2に上がっている。


 《危機感知LV2:スタミナ50を消費して5時間、危機の前触れを感知することが多々ある》


 これはLV1との併用が可能みたいで、2つのスキルを合わせておよそ毎時スタミナ20消費で危機を大部分感知できる状態だろう。実際のところどのくらいの確率で感知出来るのかは曖昧だけどね。数値で書いてくれたら分かりやすいのになー。


 で、どうして反応してるかわかるかって言うと、今私のステータスの端に危機と書かれた文字がピコピコしているんだよね。


 周囲を見渡すけど特に変わった様子もないし、この酒場は1階建て平屋だから鉄骨も落ちてきそうにない。そして、あのアジトの1件みたいな魔物襲来の様子もなさそうだ。


 てなわけでとりあえず危険はないかな。


 で。…………どうしろと?


 危機感知って何が危機なのか分かんないのな。まあ、用心できるから良いんだけどさ。


 私はダークにちょっと離れてる様に指示を出して、酒場の扉を開けて覗いて見た。


 中は午前中とは打って変わって綺麗にテーブルや椅子が並べられている。そして死体のように転がる輩は居らず、賑やかで、恐らくレーンボルトファミリーの連中かな。そいつらは楽しげに飲み食いしていた。


 うーん、店の中も危機って感じじゃないんだけど。


 扉近くの客と目が合った。例によってごついオッサンだ。


「あ!!お前がカナメか?!」

「え。あ、はい」


 知らないオッサンに名前知られてるってどうなんだ。とは思いつつも、レーンボルトファミリーなら知られてても英雄的な扱いだろうと油断していた。


「オヤジ!カナメがきたぞ!」

「ちっ!やっと来やがったか!」


 ん?ちょい待ち。

 ちょっと声に棘がある気がするぞ?心無しかこちらを見る店員らしき人からの目線も険があるというか。


 店内をザッと見回すけど、知ってる顔は無いに等しい。チラッとスフィアさんと一緒にいるのを見かけたオッサンなら数人いるけど、会話してないしな。知らない人分類でいいだろう。


 タダン達はまだ来てないのかな?


 と、ズンズンと厨房から出てきた大男がこちらに歩いてくる。


 デカイ。

 ノズ達くらいか、それ以上かも知れない。50代後半くらいの若干爺さんとも呼べるオッサンだ。午前中ノズらと一緒になってひっくり返ってた奴の1人だ。


 白髪で、日焼けした肌に皺の刻まれた顔には険しい雰囲気が漂っている。


 そんな巨神兵その5……じゃなくて、話の流れと雰囲気からスララの店主だとわかるオッサンは、私の前で仁王立ちをすると手に持った割と大きめな瓶をドンと置いた。だいたい直径15~20cmくらいの円柱のその瓶には見覚えがある。


「この瓶の中身は知ってるか?」


 店長がドスのきかせた低い声で私を睨みつける。


 なに、何で会って早々こんな険悪ムードなんだ?あれか?午前中蹴飛ばしたの根に持ってるとか?


 とりあえず聞かれた内容には答えておこう。


「塩ですよね」

「そうだ。しかし俺が目覚めた時にゃあこの有様だ。昨日の時点じゃ満タンに入ってたはずなんだがな」

「そりゃ、午前中に大量の酔い潰れた人を介抱するのに使いましたもん。半分くらい余裕で減っちゃいますよ」

「馬鹿野郎っ!!」


 ここで店長の地雷を踏んでしまったらしい。真っ赤に顔を染めると大声で怒鳴ってきた。店内だけでなく外にも聞こえるくらいの大音響だ。


 何なんだよ、もう。何で怒鳴ってくんのさ。


 唐突に怒鳴るやつは嫌いだ。自分の身体がビクッと竦んじゃうのは条件反射だけど、なんか怖がってるみたいでもっと嫌だ。


 つーか、こんな歓待受けるんなら来るんじゃなかった。


 帰りたいなーと思いながら後ろを振り返るとダークがオレンジの目をパチパチさせながらジッと見つめてきていた。


 私は1つため息をついた。わざとらしく、というかわざとそうした。


「何で怒ってらっしゃるか分かりません。まず、冷静になりませんか?」

「これが冷静でいられるかってんだ!!うちの大事なひと月分以上の塩が一瞬でなくなったんだぞ!!」


 バンッ


 オッサンは近くにあったテーブルを思っきり叩く。怒鳴ってきた以上のインパクトはなかったので、身体がすくむ事は無かった。無表情で、なるべく平静を装う。こういう時大切なのはポーカーフェイスだ。


 ふむ。


 私はとりあえず状況整理をしようと試みる。


 オッサンの言い分を噛み砕くと、私が大量に塩を使ったせいで商売上がったりだ、みたいな所だろうか。

 この街で買い物してる時、確かに塩が売られてないのは気になっていた。そして昨日食べた飯屋は塩気の無さと保存状況の悪さが相まってクソまずだった。


 以上を踏まえると、この街は慢性的な塩不足なのかもしれない。だとすれば、勝手に厨房入って調味料を使った私に非があるだろう。


 そう思い至った私はすぐに頭を下げた。


「すみません、午前中にここに来た時、余りに苦しそうな人達が多かったので、看病のために勝手に使ってしまいました」

「すみませんで済む問題じゃねぇんだよ!」


 ふぅむ、済まないならどうやって済ますんだ。

 やっぱり、弁償か?てか、スフィアさんが渡した迷惑料で何とかなんないの?そんな軽い気持ちで聞いてみる。


「塩っていくらするんですか?」

「この瓶1つで510,000prだ」

「嘘ぉ?!」


 思いもよらぬ高額だった。


「嘘なもんか!!ったく、確かにあの水は助かったがな、こんなことになってるとは知らなかったぜ!このままじゃ予定通りの食数も稼げやしねぇ。全額払ってもらおうかい!」

「は?」


 確かに私も悪いけどさ、デロデロに酔いつぶれる店員どもに非もあるし、その塩を使った物を飲み干したあの酔いどれどもにこそ弁償義務があるはずだ。何より私の労働を鑑みれば私が酔っ払いどもに請求してもいいレベルなんだけど。


 いくら何でも私が酔い潰れた訳じゃないのに、こんな大金払う目にあういわれはないはずだ。


「どう言われようと全額なんて払いませんよ」

「あぁ?んだとこの(あま)ぁ」


 うん。いい加減イライラしてきたぞ。

 ずっと喧嘩腰だもんな、このオッサン。


 私はどっちかと言うと短気だ。極めて平和主義だけど、平和のためには修羅場は早めに踏んでおくに限ると考える。逆に回りくどくするのは性に合わないし、さっさと喧嘩なら済ました方が時間が無駄にならずに済む。


「払うなんて一言も言わないっつってんだよ。耳が遠くなったのか?このジジイ」

「お前っ……」


 店長は言葉が出ないほど頭が沸騰した様だ。顔がさらに赤く染まる。茹でタコ状態だな。


 さらに周囲もこの険悪な私の返しにざわつく。

 ただ、大半は静観や野次馬程度なので、このタコ親父についてヤイヤイ言ってくる事はなさそうだ。


 回復薬も揃ってるし、タコ親父は手ぶらだ。

 1対1なら最悪どうにでもなるかな。


 んん?私いつからこんな好戦的な人間になったんだ?もう、本来お淑やかなはずなのにぃ。


「この店じゃあ喧嘩はご法度だ」


 店長は相変わらず真っ赤な顔のまま、憎々しげに私を睨みながらそう告げる。


 なるほど、表に出ろと?


 私はこういう場面でお決まりの「表に出やがれ」の言葉を若干ワクワクしながら待った。だって、人生で一度は聞いてみたいフレーズじゃん。まさか自分が言われる側になるとは思わなかったけどね。


 でも、タコ親父の口から出た言葉は私の待ってた言葉ではなかった。


「この店の争い事は全部賭けで決めさせてもらう」


 お、おう。

 賭け……ね

※誤字修正

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