酔っ払いに制裁を
今日は1話だけです
うーん、何か、視界がチカチカする……。
目を瞑ってるんだけど、光が照ってるってのは分かる。きっと朝なんだ。
でも、何故かその光が点滅してる……。
うっすら目を開けてみる。うー瞼が重たいー。昨日何だかんだ動き回って1日終わったし、疲れててんだよー。
心の中で文句言いながらも、視界に映ったオレンジの瞳に焦点を合わせる。
昨日の薄汚れた顔から考えられないくらいに綺麗になった白い肌に眩しいと感じる。まだ痩せこけてるけど、肌触りが良さそうだ。
どうやらこのガキが私の安眠を邪魔したらしい。私の顔の上あたりで手を振ってあのチカチカを生み出していたようだ。ベッドの脇に立って私をのぞき込んでいる。
「……なに、起きろって?」
まだ寝起きでろれつが覚束無い中、尋ねてみた。
コクリ
話通じてないはずだよな……と思ってたら、私の視界に入るように桶を持ち上げてくる。湯気が立ってるところをみるに、お湯を入れてきたのだろうか。
で、少年はお湯と布を指して私を指さした。これ昨日私がコイツにしたジェスチャーだわ。
「……ありがと」
形だけお礼を言いつつも、はいはい、どうせ薄汚れてますよ、と内心ひねくれる。
でもせっかくだし、大人しく起き出して桶のお湯を使って顔を拭いた。
…………ん?
つーか、この子、凄くない?わざわざ言葉も通じない上に忌み嫌ってきてる宿屋の奴にお湯を注文してるんだもんな。一体どうやったんだよ。
一頻り身体を拭き終わると昨日のダークみたいに桶のお湯が濁った。
きったな!私めっちゃ汚いじゃん!?
つーか、昨日いつ寝た?全然記憶にない。
ダークをベッドに放り投げてトントンしてるうちにいつの間にか寝てたらしい。
で、ダークを振り返ると私の湯浴みを見ないように気をつかってんのか、照る照る坊主みたいにシーツを被って壁側を向いている。
ガキのくせに気がきくなぁ。
頭を撫でて「ありがとう」て言うつもりだったけど、手を伸ばしたと同時にスッと逃げられた。
…………うん、き、傷ついてなんか、ないんだからね!
で。
私はもう一泊する旨を宿屋に告げてノズに会うべく、祝勝会が開かれていたらしい酒場に向かった。
そう、ダークの装備を揃えなきゃいけない。私は服とナイフさえ買えれば良いんだけど、ダークの場合ちゃんとした装備の方が良い。草原に出て一瞬で死にましたーとか、笑えないからな。
ノズ達はある意味その道のプロなわけだし、きっと良い店を知ってるはずだからね。昨日は祝勝会の誘いがウザ過ぎて速攻帰ったけど、きっと彼なら教えてくれるだろう。
と、考えてたのが20分前なんだが。
「なんじゃこりゃ」
酒場を覗いて一言目がコレだった。
死屍累々。
テーブルや椅子はひっくり返ってんのもあれば、空の酒瓶や半分残った酒瓶全部一緒くたに床に転がっている。そしてその間を縫うように寝転がる巨神兵。
つーか酒場の入口から1歩中に入っただけで既にアルコール臭がすごかった。
「ダークは、ここにいて」
照る照る坊主にはジェスチャーで入口に待機させとく。序に酔っ払いやダフォファミリーが襲ってきた時のためにダークに手近な皿と箸を渡して何かあったら鳴らすように指示しておいた。
さて。
巨神兵共の間を塗ってノズを見つけ出した。巨大ないびきをかくモンスターと化したそいつを揺さぶる。
「ノズさん、ノズさん起きて」
「ん、あ?」
「あの、旅立ちに当たって装備揃えておこうと思ったんです。オススメの武器屋か防具屋教えてくれませんか?」
「おお、カナメか!俺が連れてってやるよ」
ノズは酒臭い息を吐きつつ少し覚醒したらしい。ヨロヨロと身体を起こしかて、転けた。
どんだけ飲んでんだよ、オッサン。
しょうがないから手を貸して起き上がらせる。
「ありがとうございます。でも、酒残ってますよね、大丈夫ですか?」
「す、すまん、カナ、メぉろろろろろろ」
……吐いた。私の足に。
めろろろろろろ、じゃ、ねーよ!
何人に向けて吐いてんの?
靴がお前の吐瀉物でぐっしょりなんですけど!!
ざけんなよこの酔っ払いが!!
と、でかかる言葉をゴクリと飲み込む。
「す、すま……うっぷ」
謝ろうとするノズは更に吐き気を催しているらしい。私はとりあえず手近な大きめの空の皿を引っ掴んでノズの顔の前にセットした。
「とりあえずこれ抱えて持っておいて下さい」
「お、おう、すま…ぉろろろろろろ」
黙って吐いてろ酔っ払い。
「ん?お、カナメじゃねぇか、どうしたんでい……て兄貴?」
フィントが近くに寝ていたらしい、起き出してくる。
「ち、ちょっと飲みすぎたみてぇ……でふぉぉおお」
まだ吐くもん残ってんのかよ、すげぇわ。
「ちょ、兄貴、そんなん見たら俺まで気持ち悪……くっふぉろろろろ」
おいぃぃぃいいいい!
オメェまで吐くのかよ!
「ちょ、カナメ、気持ち悪い、何とかしてくんねぇか……」
「え……」
「たすけ……うぇっ、おろろろろろ」
ここでゲロの臭いが伝染していってるからか、あちこちで、おろろろろ大会が始まった。
で、各地のゲロ発射の礫が幾つか跳ね返り私の服に当たった。
プッツン
これは私の頭の血管だ。たった今切れた。
ゲロに塗れた床をゲロまみれの靴で酒場のパントリーへ向かって歩を進める。
「このクソ親父どもが!酒は飲んでも飲まれんじゃねぇぇえええ!どんっだけ飲んでんだよ!ほら、お前らこのバケツで固まって吐け。お前らはこっちな。吐かねぇと楽にならねぇぞ!喉に手突っ込んででも吐け!」
そう怒鳴りつけ、蹴飛ばす勢いで(実際に何人か蹴飛ばして)オッサンどもの顔をバケツに突っ込ませる。
そして調理場にあった水と砂糖と塩で経口補水液を大量に作る。……塩欲しかったんだよね!もらっとこう。
あ、元の世界もこんな感じで酔っ払いどもの看病させられてたから割合とかは把握済だ。
で、テーブルと椅子を部屋の隅に固めて、裏手にあった掃除用具を駆使し、何とかオッサンどもの屍を均等に横たえさせて経口補水液を飲ませていく。吐瀉物の臭いってのは悪化させるから、靴はとっくに脱いで裏手の水場に置いているせいで裸足で動き回っている。そしてガンガンバケツに溜まったゲロを店の裏手に捨てていった。
そんな風にブチ切れながらオッサンどもの介抱をしていたら2時間くらい経った。
「はー、はー、やっとひと段落か」
オッサンどもは気分が楽になったからか、もう一眠りを決め込んでやがる。腹立たしいが、吐き続けられるよりはマシだ。
私は精神安定剤に火をつけた。今回は葉巻じゃなく、タバコだ。だって葉巻はある程度心の余裕がなきゃ味わえないし、イライラしながら吸うには勿体ない。
プハー
ふー、落ち着く。
席について適当に拾い上げた陶器の皿に灰を置いた。
チンチン……
「ったく、飲み過ぎだろが。バカども」
私は精神安定剤のおかげで多少怒りも収まってきたけど、言わずにはおれなかった。
チンチン……
「だいたい何で私がこんな目に遭わなきゃなんねんだよ、他の勇者どもとかとっくに剣手に入れてんだろうなー。オッサンどもの相手してる場合じゃねぇっつの」
「お主、勇者と知り合いなのか?」
ん??
聞き覚えのある声で話しかけられた私は固まった。
「その話、詳しく聞きたいのじゃが」
声のする方を振り返ると、皿とフォークを構えてチンチン鳴らす照る照る坊主と、昨日よりもゴージャスな服を着たスフィアさんがいた。
とりあえず、後で言いつけを守ったダークに何かお菓子を買ってやろう。私が生きていられたらの話だけど。
明日は休みます。




