壮太①
この世界に迷い込んで2週間が経った。
もはやこの階層の魔物で脅威になるようなやつはいない。
まあ、そう思い始めた昨日、魔物に隙を突かれて怪我をしたからね、慢心は禁物だと思う。
「ソウタ様、昨日のお怪我のお加減どうですか?痛むようなら……」
「あ、うん。大丈夫。すっかり良くなったよ、ありがとね、チェリン」
「チェリンも大袈裟だよー、あんくらいどうってことないでしょ。それよりまだこの階に居続けんの?もう飽きたんですケドー」
オドオドと心配してくる黒髪美少女チェリンに、俺は戸惑いながらも返した。だって美人だし。
チェリンは、だいたい俺と同じ年齢だけど、称号『癒しの魔法使い』として昨日俺の傷を一瞬で癒してくれた。まあ、回復薬飲んでも良かったんだけど、チェリンの魔法の方がタダだし。あと美人だし、癒してもらえると嬉しいよな。
で、その会話に呆れたように割って入ったのは、タンクトップ姿の身軽そうな少年キーマだ。彼は若干15歳にして、称号『槍使いの申し子』を持つ程の槍の達人だ。スキルも槍に関して充実しているし、この階層ではかなり物足りないに違いない。
彼らとはここ2週間ずっと一緒に過ごしてるし、言い様によってはこの子達のことはもっと前から知っていたんだけど。まあ、どうにも慣れない。
どうやら画面の中の子って認識と実際に会話する状態とでは大いに俺の頭を混乱させてくれるらしい。
そう、ここは俺がスマホゲームで最近ハマっていたブレイク・トリチェリーというゲームの世界だ。
このゲームでは、異世界に召喚される5人うちの勇者どれかを選択してストーリーが始まる。オンライン上で同時期に活動を始めた他の無効系勇者達とランダムに知り合い、時に協力者として、時に同じアイテムを取り合うライバルとして、切磋琢磨する。様々なスキルや称号を取得していき、イベントクリアを目指すRPGゲームだ。
このゲームの売りは、時間や条件、各勇者達の行動によって刻一刻と変化を遂げていく多彩なイベントと言える。同じ役職の勇者を選んでも、比較的早くエンドロールを迎える物から長期に渡る超難関イベントに突入してしまうものまであるし、また、初期ステータスもランダムに決定されるからリセマラもかなりさせられる。細かなイベントも充実してて、パラレルワールド的に何度もゲームをプレイ出来るせいで、やり込み出せば切りがなかった。
ただ、文句無しに面白いエピソードやイベントを繰り広げるゲームにも特徴というか、汚点がある。その多彩なイベントをもってしても全てに共通する、『呪い無効の勇者』が不遇になってしまうことだった。
酷いオチは『呪い無効の勇者』が他のプレイヤーを裏切って称号『魔王』を手に入れて敵役に変わった事だろうか。アレは中身コンピューターだったけどさ。
まあ、『呪い無効の勇者』のイベントとしては初期にして良くて中盤レベル、大概は終盤レベルの魔物としかエンカウントしない地方に追いやられる。そして何故か至るところに死亡フラグが立ち並んでいる。その幾重にも張り巡らされたフラグを叩きおることは難しいらしく、ゲームオーバーで『呪い無効の勇者』不在のままストーリーが無理やり進められるなんてのもしょっちゅうあった。
俺も2回程『呪い無効の勇者』としてプレイした事があるが、ネットで取り上げられていた『呪い無効の勇者』が生き残るための定石しかやらなかった。有力説は初期に王都から出ず、他の勇者と合流することだった。はっきり言って面白くなかった。だって、他の無効系勇者達のストーリーが多彩なのに対して地味過ぎるのだ。
そして、どうしようもないことに、『呪い無効』が本当に使い道のない死にスキルなんだよなー。
最終戦の一個前に起こる、『呪われし大地』のイベント時にしか、その恩恵にありつけないと言ってもいい。そして悲しいことにそのイベントをわざわざ通らなくても別のルートがあるからスルー出来るんだよな。
最終戦への道中には、確かに呪いかけてくる魔物とか結構いるんだけどさ、スキル『呪い解除』持ちのキャラクターが別でいるんだよねー。中盤ということもあり、ある程度レベルの育った他の無効系勇者の場合、呪い受ける前にだいたい倒せるし。
そんな訳でいよいよその価値を無くした『呪い無効の勇者』ユーザーがいるはずもなく、大概がオートでコンピューターが作り出してるキャラクターだった。
専ら俺は物理防御無効の勇者のプレイをしていた。理由としては、お供としてついてくるチェリンが気に入っていたからだ。
黒髪ロングは男の夢!そして控えめなのもプラスポイント!3次元の女の人はちょっとトラウマがあって無理だけど、2次元は安心出来るんだよな。
で、このゲームを何百周もしたおかげで就活に身が入らなかったとか、死んでも親には言えない。
そんなゲームに没頭してたある時、1冊の本がいつの間にか部屋に置かれていたのだ。
攻略本かと思って飛びついたけど、最初のページから既に中二病満載な文面で苦笑した。きっと丁度中学生の弟、翔太が書いて、俺の部屋に置いたに違いない。
あいつ、皮肉のつもりか。
そう思いつつも、いつもの様に親に隠れてゲームをするため未だに通っている秘密基地で本を開いた。せっかくだし弟の文章力でも見てやろう。
1人目の物理攻撃無効の勇者の話を読んでみた。
途中までだったけど意外にも面白いと思ってしまった。というか、序盤の掛け合いは、王様からある程度の金と強い仲間を取るための定石だった。まあ、わがままな掛け合いだし、俺は好きじゃないから、やらないんだけどね。
それにしても、翔太、このゲームやってんのか?
結構細部まで再現できている。
で、次の物理防御無効の白紙のページを見て、……ほんの出来心だった。きっとこれをしたことは墓場まで持ってくことになるだろうと心に決めつつも、つい、やってしまった。
そう、手をかざして目を瞑ってしまったのだ。
すぐに照れくさくなって目を開けようとして、自分を疑った。
目の前には、いや、表現がおかしい。頭の中に、という方が正確だろうか。そこに、もはや見慣れた初期ステータスの画面が表示されたのだ。
名前:カガミ ソウタ
種族:ヒト
LV:1
称号:異界からの漂流者No5221
加護:なし
ユニークスキル:鑑定LV1
スキル:なし
HP:98/98
スタミナ:111/111
MP:102/102
物理攻撃力:642
物理防御:325
魔法攻撃:113
魔法防御:113
回避能力:152
テクニカルポイント:100
No5000代はバランスが良いステータスとして有名だ。初期値でオール100超えとステータス内に600代があるのは当たりと言える。HPは若干低いけど、誤差の範囲だろう。高望みするならばNo9000代の800超えのある初期ステータスの方が良いんだけどね。まあ、称号や加護の組み合わせでその辺は、最終戦までには何とかなるだろう……て、これ、ゲームじゃないよな?!
とりあえず、画面に促されるままに、『戦勇者』と『物理防御無効LV1』の定石コンビを選択してみた。
「ようこそおいでくださいました。勇者様……」
そこには、何百回と画面越しに見てきた絢爛豪華な応接間と、王様や宰相が立っていた。
……まさか本当にゲームの世界に入り込むとは思わなかった。異世界転移物の本やゲームはたくさん持っているからテンプレートな最初の感想は読み飽きていたけど、どんな人間もまさか自分が、と思う気持ちは間違ってなかったらしい。俺も、今その1人に仲間入りした。
名前:カガミ ソウタ
種族:ヒト
LV:1
称号:戦勇者
加護:なし
ユニークスキル:鑑定LV1、物理防御無効LV1
スキル:剣撃LV5、槍撃LV5、打撃LV5、弓撃LV5、肉体強化LV1
HP:108/108
スタミナ:122/122
MP:112/112
物理攻撃力:963
物理防御:487
魔法攻撃:124
魔法防御:124
回避能力:167
テクニカルポイント:100
うーん、壮太のステータスはまた手を加えるかも知れません。




