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ターニングポイントー出会いー

「一つ、厄介なモノが出てきたんじゃ……」


 スフィアさんが、ここで言い淀む。


 あー、これ、ノズが言いかけてた件だな?

 ちゃっちゃとしゃべってよ。何か嫌な予感しかしないし、早く用件聞いて考えたいし!


「……厄介なモノとは?」

「堕天者じゃ」

「だて……んしゃ?」


 だてんって、堕天使とかの堕天?


 それ以外はぱっと思い浮かばないけど……天ぷらの名前じゃないよね?


 音的には自転車に近い……あ、自転車のこと?


「お主の国では別の呼び方があるかも知れんな。要は禁忌を犯して複数の呪いを受けた化け物のことじゃ」

「へーそんなのがいるんですか」


 ヘルスライムの上級版か。


 ん?でも言い方的には呪いを受けた人間ぽいけど……私にその化け物の呪いを解けと?


「それでお主にはその者を駆除してもらいたいのじゃ」

「へっ?!」


 駆除って……殺すってこと?!


 化け物退治しろってことか。元は人間だけどブラウンウルフみたいなモンスター化したのかなぁ?うーん、流石に元人間を殺すのはちょっと罪悪感が……


「もちろん、殺処分に失敗したとしても先のヘルスライムの件も兼ねて報酬は少なくとも1億pr支払わせて貰う予定じゃ」

「い、1億pr?!」


「足りないとあらば言ってくれ、善処しよう。それに成功した暁には、さらにその倍は出すつもりじゃ。そして、お主が望むのならば我々との半永久的な同盟関係を結ぶこととしたい。もちろん、お主の立場上決められぬこともあるじゃろうが、お主個人とであってもレーンボルトファミリーは友好関係を崩さぬことを約束しようではないか。どうじゃ、やってくれぬか?」

「えっと……」


 待て待て待て。

 いっぺんに言うな。言葉に詰まるだろ。


 えぇっと?


 とりあえず呪い受けまくった化け物を殺したら成功報酬として2億prもらえる。

 失敗しても1億prあげる。

 成功した時は裏組織が私を全面バックアップしてくれるってことか。


 メリットしかない話は怖いと思わなきゃダメだ。どんなけヤバイ依頼なんだ?そんな呪い怖いか?


 ちょっと怪しいよね。


「と、とりあえずその駆除して欲しい化け物を見せてもらえないことには何とも言えないですけど」

「……それもそうじゃな。しかし、このことは他言無用にしてくれ、化け物を一時でも所持した組織として知られるのは商売する上では致命的じゃ」

「あ、はい。それはお約束します」


 まあ、私は呪い無効だし、呪い関係の化け物なら大丈夫だとは思うけど。


 で、アジトの地下に連れていかれた。

 歩く間に簡単な質問をいくつかしてみた。


「その化け物って、今日の戦いでダフォファミリーが匿ってたってことですか?」

「ああ、そうじゃ。とりあえずここに運んでおいたのじゃ。奴らも何らかのルートで入手したはいいものの、扱いきれずに餓死による殺処分を考えていたようじゃが……なかなかしぶといようでな。生きておる」

「へー」


 この時点で私はスフィアさんが嘘をついていると確信した。


 だって戦い終わったのはついさっきだし、そもそも危険な化け物を敵のアジトから連れ出して、自分のアジトにわざわざ置くわけないんだよね。それに、餓死させようとしてたとか分かるもんだろうか?


 しぶといとかいう形容詞使ってるけど、どんだけご飯抜いたか普通敵の所有物ならわかるわけないしね。


 嘘をつく理由が見当たらないけど、とりあえず話をややこしくするつもりは無いのでスルーした。


 てか、今歩いてる地下道は両脇が2段の牢屋になってて、ガサガサと人か動物か分からんが何らかの生き物の気配がする。あと臭い。


「あの、この牢屋って……」

「奴隷を入れておる。出荷待ちが殆どじゃがな。お主が望むのならば、何人が か用意しても良いが?」

「遠慮しておきます!」


 ひぇー、やっぱり奴隷かよ?!


 み、見てないことにしよう。うんうん。

 私は何も見てない知らない!やってない!


「こいつじゃ」


 私が必死に葛藤を繰り広げているうちに、どうやら堕天者のところに着いたらしい。前を歩いていたスフィアさんが顎をしゃくりながら私に見る様促す。


「え……?」


 私は一瞬言葉を失った。


「スフィアさん、この子が、化け物ですか?」


 私が目にした牢屋の中の生き物は、確かにドス黒い雰囲気を纏っている。ヘルスライムが私の棍棒攻撃を受けて暗くなってたやつをもっと濃縮したバージョンだから、確かに呪いを受けてるっぽいのは一目で分かった。


 けど、どうしても私にはこの子を化け物には見れない。


 頭からシーツの様な薄い布を被ったその子は、シーツごしでも分かるほどガリガリに痩せた身体を体育座りの要領で抱え込んでいる。シーツからはみ出ているのは小さな痩せた腕と長い耳。

 そして警戒心を顕にしたオレンジ色の瞳が私を捉える。


 これ、この子、化け物じゃなくて、エルフじゃん!そしてだいたい10歳くらいの子供!


 目を見れば分かるけど、化け物と言うにはあまりに知性的だ。


「化け物は化け物じゃ。ざっと調べただけで呪いが6つもついておる。呪いは同時に7つまでしか受けられぬが……ここまで呪いを重ねて保持しておるのは堕天者の中でも少ない。そしてそのうちの一つ、呪い感染の呪いが最大の脅威とも言えよう、一度触れれば同じ呪いをその身に受けることとなる」

「…………」


 何それ。

 それって、単に呪い伝染させるってだけで、化け物とか殺処分とか言われてるってこと?いつの時代の感染症患者みたいな扱い受けてんのさ?


 ここが、異世界だからしょうがないのか?


「あの子、エルフですか?」

「堕天したエルフじゃ。エルフの間ではダークエルフとも言われておるらしいがな」


 まあ、見た目暗いもんね、言い得てる。


「……率直に言わせて貰いますが、私には無理です」


 エルフは人間みたいなもんだ。いくら異世界でも人殺しとかごめん被りたい。


「……何故じゃ。呪いの発動を抑えるスキルなのだろう?可能なはずじゃ」

「可能ですが、あの子を殺したくありません」


 ここは素直に本心を言うしかない。


「……ならば、このまま餓死させるしかないということか。まだ発動せねば分からぬが死後の呪いというものもある、出来れば呪いの発動を抑えることの出来るお主がいる内にと思ったのだが」


 …………。


 え。

 そっか、私が殺さなくてもこの子飯抜きにされて殺されちゃうのか?


 それは……何というかお気の毒……で済ませられるかよ!!


 だいたいあんなガリガリな子供を見て何も感じないわけが無い。


「スフィアさん、良ければあの子、私に譲ってください」

「……は?今何と言った?」


 それまで何だかんだ冷静だったスフィアさんの声が裏返った。


「あの子が、欲しいです。どうせ殺しちゃうくらいなら私にください。そう言いました」


 より詳細にスフィアさんに意志を伝える。


「……何を考えておる?これは堕天者じゃぞ。いくら呪いに耐性があったとしても、何の役にも立たぬし不幸しか招かんぞ」

「別に、大したこと考えてる訳じゃないですよ。何の役にも立たないかどうかは、この際どうでもいいですし」


 役に立つから生かすってのは、身勝手だ。


 一昔前なら日本でもあったかもしれないけど、それが忌むべき事だとは思われていたはずだ。少なくとも、現代に生きるゆとりの賜物かは知らんけど、人が人として生きることと役に立つかどうかは全く別次元の事だと認識している。


 スフィアさんは、暫く私の真意を探るかのように見つめてくる。でも、真意も何も、私にとって口にしたことが真意だ。真剣な顔でスフィアさんを見つめ返してみる。

 思いが通じたのか、スフィアさんが口を開いた。


「……堕天者を何の拘束もなしにうろつかせるわけにはいかんぞ」

「じゃあ、どうすれば?」


「お主の奴隷としてならば譲ろう。更にいくつか細かい誓約をしてもらいたい。これは、私の、堕天者の所有者としての、最低限の義務じゃ」

「奴隷って……」


 マジで?

 やだよ、いきなり人間としての何かを失うのとか。


 でもまあ、ここでこの子見過ごす方が人間としての大事なところ失っちゃいそうだよね。


「奴隷とか、持ったこともないし、制度もよく分かってないんですけど……それって拘束として換算出来るもんなんですか?」

「奴隷は隷属化の儀式をしてその関係を成立させるのじゃ……まあ、一種加護の儀式に似ておる。実際、加護の分類じゃ。隷属化には3段階あって、その段階によって精神的、身体的な拘束を奴隷所有者が決められる項目が増えていくのじゃ」

「へー」


 気持ち的にあんまり知りたくないことを知らされてるけど、ちゃんと聞いておく。


 てか、精神的に決められる項目があるってどういう事だよ。この世界の奴隷の闇の深さをちょっと垣間見たきがする、怖過ぎ。


「堕天者を譲るとなると、最上級の隷属化をする事になるが……」


 えー、マジか。まあ、項目チェックさえ入れなきゃ私の面子は保たれるか?


「儀式には1億prかかるぞ」

「はあ?!」


 私は口をあんぐり開けた。

 えー!1億prとかどうやって用意すんだよ?!


 今の手持ちは冒険者ギルドに貯めてる500,000prと、今日採った闇鉱石が100個だからだいたい1,000,000prでしょ?これでも余裕で1億には全然届かないぞ。


「私らからの報酬をそのまま流用することも出来るが……本当にこんな割に合わんことをするつもりか」

「あ、そっか。じゃ、それでお願いします」


 そう言えばお金くれるんだっけ。

 でも、あれ?


「あの、その報酬って、殺処分に失敗した際の報酬じゃなかったですか?殺そうともしてないのに」

「ここから、この化け物が消えるというのなら安い手切れ金じゃ。寧ろ恩人に押し付けると言うのが心苦しいところ……本当にいいのじゃな?」

「あ、はい。宜しくお願いします」


 私別にそんな大金貰っても困るだけだし……金はある分に越したことは無いけどさ、それも限度がある。幸い今はお金に困ってないし、一般人な私には頑張って1千万くらいの金しか運用出来ない。てか、そんなにこの子をどっかにやりたいのかよ。


 まあ、この化け物とか呼ばれる子供が殺されないで済むってんなら喜んで対処に充てるもんだろう。


 その後、一旦応接室に戻って堕天者の隷属化に当たっての誓約事項を確認させられ、サインした。


 要約すると、堕天者を拘束無しで放置したり、無意味に人間を呪わせたりしないこと、殺す、若しくは殺した際は出来ればレーンボルトファミリーに一報を入れることだった。あと、当面は半径20m以上離れさせない項目にチェックを入れることもあったね。


 当然の事ながらレーンボルトファミリーの人間を1人でも堕天者使って呪いかけたら地の果てまでも追いかけて殺す的な文面もあった。


 つーか、レーンボルトファミリーに手を出したら呪いじゃなくてもどうせ殺しにくるでしょうが。もちろんそんな危ない橋を渡るつもりは無い。


 で、誓約が済めば儀式開始らしい。

 誓約の確認をしている間にノズ達が準備を進めていたようだ。


 またあの臭い牢屋に戻ってエルフ君の前に立った。


 儀式と言っても、私の血を何かの薬湯に混ぜ込んで隷属化したい予定の者に飲ませるだけみたい。流石奴隷商だけあって、隷属化の儀式は手馴れている。血を薬湯に入れて、更に色々混ぜて、それをエルフ君の前に出す。

 無表情のままのエルフ君は、差し出されたその薬湯を一気に飲み干した。


 ピキーンといつもと違う金属音が鳴る。


 《隷属化した者がいます。各項目にチェックを入れてください》


 私はスフィアさんにチェック項目が出たことを伝え、促されるままに項目をクリックしていった。


 項目は精神的分野と身体的分野に別れていて、ザッと見たところ数百はあるかもしれない。


 とりあえず、主人である私を殺さないってのと、半径20m以上主人から離れないってのと、命令に従うってところにチェックを入れて……。


 この項目を犯した場合の罰則?殺そうとする以外はデコピンで良くね?あ、無い?一番低い罰則は、息苦しくなる程度か。じゃそれにしておこう。殺そうとする時は、まあ、気絶にしとくか。


 つーか、その他の項目がこえぇよ、精神的拘束のところが特に。感情の操作関係が事細かにチェック入れられるようになってる。


 ……うん、見なかったことにすべし!

 2度と覗かないことを心に決めて、項目チェック作業は終了した。


 はぁ。

 ため息が出た私は悪くないはずだ。何が悲しくてこんな事態になってんだよ。これで私も人間としての道を踏み外した奴らの仲間入りってか?勘弁してくれよ。


 牢屋から出された少年は、ヨロヨロと立ち上がると無言で私にペコリと頭を下げた。


 結構礼儀正しいんだな。

 私の最初の印象はそれだけだった。

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