ヘルスライムて、呪い攻撃すんのかよ!
ノズに連れられ、やって来たのはアジトの中の応接室だ。
ああ、因みに昨日お頭さんと会った場所は別の所にある執務室みたいなとこだった。昨日とは打って変わった豪勢な内装に若干萎縮しながら足を踏み入れる。
だって、今踏んだ絨毯フカフカだし、棚にある調度品は何か無駄にキラキラしいというか。とりあえずビリビリ服の上から、今日1日で埃まみれのボロボロになりつつあるゴミ袋ひっくり返したような服と毛布みたいなマントを着た私が場違いってのは分かるよ。
「昨日ぶりじゃなカナメ殿、まずは礼を言わせて貰おうか。お主のおかげで長年のいがみ合いに終止符を打つことが出来たのじゃ。また、フィントに続いてタダンまでもが、そなたの助けで命を救われたという。本当に感謝する」
お頭さん……もとい、スフィアさんは興奮冷めやらぬ周りの輩とは打って変わって、相変わらずのクールさのまま、出会い頭に礼を言ってきた。ただ、昨日よりもちょっとだけ声に親しみやすさというか、警戒感を薄れさせてくれている気がする。
そしてなんと、深々と私に頭をたれたのだ。
私の後ろから入ってきたノズ達や、もともと部屋にいたその他名前の知らない男どもが、ざわつく。
「いえ、……まあ、はい。こちらこそ……?」
あれ?お礼された時って何て返せばいいんだっけ?
テンパってユーアーウェルカムで良いかなとか一瞬思ってしまった自分の国語力の無さを呪いたくなった。
しかも返した言葉超拙いし!幼稚園児でもどういたしましてくらい言えるでしょうにねぇ、はい。
ごめんなさい日本の皆様。私は大人のなりそこないです。
私異国人ってことで!言葉知らないってことにしといて!!
「更に言わせてもらえば、数多の豪傑すら二度足を踏むヘルスライムを恐れぬあの勇姿。その並ではない豪胆と、無傷に駆逐を遂行した技量を称えさせて頂きたい。お主のおかげで此度の不測の事態に対応することが出来た。本当にありがとう」
「え、いやぁ……それほどでもないです」
えへへ、へへ、なんつーか、照れる。
だから、私は褒め言葉に弱いんだよ!おだてたって何も出ねーぞ!気を引き締めねば!
「そうじゃ。先に名乗り合わねば、またカナメ殿は出ていってしまうかもしれんのじゃったか」
「え、え、いや!その節は……すみません!失礼しました。そんなつもりでは……本当にごめんなさい!」
えーー!!
そう言えばあの態度そんなふうに取れるか。
やっば、こっわ。レーンボルトファミリーが短気じゃなくて命拾いしたわ。
反省します、今度からあんま怖そうな人相手にした時は説教たれたりしません!!
だからこれ以上下手に出ないで!周りが!周りが怖いから!
ノズとかタダンとかあなたに心酔してんのに、そんな人に頭下げさせたり下手に出させるとかマジで後で何されるか分かったもんじゃないから!
「謝罪など良い。先に礼を欠いたのは私じゃ。遅くなったが、私の名はスフィア・レーンボルト。レーンボルトファミリーの大頭の長女にして、今はジバルでの興業の管理と指揮に従事しておる。……何の興業かは、言わずとも良いか?」
「あ……はい。だいたい知ってますから」
奴隷商以外にもやってそうだけどそこは雰囲気で把握してる。だいたいアウトローだろ。知ると口封じとか怖いし聞きたくない。
でも困ったぞ。
こんな感じで正式に名乗られたら私もそれに答えなきゃいけないじゃあないか。
まあ、立場上勇者ってのは隠す方向だけど……間者って立場まだ有効かなぁ?
「私の名前はカナメです。正式に名乗って頂いたのに、先日のご明察の通り、身分を立場上明らかには出来ません。申し訳ありません。が、今後の私の活動はスフィアさん方ファミリーを害することはないだろうと考えていますし、今後も仲良くしていただけたらと思います」
「ふっ、想像したよりも良い返答を貰えたな。いつか告発するとまではいかずとも、今後敵に回る可能性はあるじゃろうに」
???
敵になるだろうか?んー、よっぽど酷いことしてたらなるかもしれないけどねぇ。
まあ、知らね。
無言で微笑んどこう。口は災いの元である。ならば開かねば良いのです。
「とにかく立ち話もなんじゃ。座って話さぬか?」
「えっと、はい」
出来れば早く帰りたいなー、なんて。
周囲をクルッと厳つい男に囲まれたこの状況で言えるわけないよねー。
「聞けば明日にはここを旅立つというではないか。また礼の一つもさせてくれぬつもりか」
「礼も何も……別に要らないですけど。無事に旅さえできれば……」
今の私の望みはこの街から五体満足で脱出することである。つーか、最終的には壮太を連れてこの世界から脱出できさえすれば本当にこの世界が滅ぼうが安寧が訪れようがミジンコレベルでどうでもいいわけだ。
五体満足。
もはやそれ以上は望んでなどいない。
お金は出来ればあげたくないけど……あのヘルスライム倒せば稼げるしね。自分の安全のためならば特に未練はないよ。本当に。いやマジで。
「そう言うだろうと思ってな、私もお主が欲しがるものを考えてみたのじゃ。まずはフィントとタダンの件の礼としてじゃが……」
「いえ、だからそんな礼とか良いんで……」
「葉巻を100本程譲ろうかと思うておる。このあたりでは葉巻は売られておらんからな。入手には意外と値がかかるし、ルートも無いに等しいぞ」
「頂きます!」
即答だ。
脊髄反射はしょうがない。生理現象だよ?
スフィアさんは愉快そうにあっはっはと乾いた笑い声をあげた。
「ほんに葉巻が好きなんじゃな。私も好きじゃが、お主ほどではないぞ」
「あ……あはは、すみません。つい、タバコ……葉巻が絡むと反射で答えてしまうみたいでして」
「ふふふ、フィント達の意見も偶には役立つという事かの」
あーなるほどね。
フィント達め、でもグッジョブだわ!これで葉巻がタバコの代替になるかもしれん。
「して、ヘルスライムの件じゃが……一つ確認しておきたい事がある。カナメ殿は何らかのスキルでヘルスライムの呪いが効かぬのか?それとも、恐れておらぬだけなのか?」
…………へ?もしもし?
今、なんて?
ヘルスライムの、呪い?
あのスライム、呪い攻撃持ちなのか?
そりゃ脅威にならない訳だよ、だって私呪いオール無効の勇者だし。ここに来て呪い無効が知らず知らずのうちに役立ってたことが判明した。
でもこれでタダンやお婆ちゃんとかが警戒していたことの合点がいったな。
普通の人はなかなか呪い無効なんて持たないわけだし、きっとあの言い方的には身動き取れなくなるような呪いがかかるんだろうね。そんで、あの粘膜に溶かされて死んじゃうんだな。
て、グロっ!呪い無効無かったらマジやばかったじゃん!!
ひゃー、良かったー。
とか1人で安堵してる場合じゃないな。スフィアさんの質問に答えなきゃいけない……でも、何て答えよう。勇者のチートとして呪い無効があるのなら、なかなか他の称号では得られないものじゃないんかな?
でも、スフィアさんが選択肢の一つに挙げるってことは、そこまで伝説的ってわけでもない可能性だってある。
分からないなー。何にせよ予備知識が皆無だもんねぇ。
えぇーい、ままよ!!
「私は、私に向けられた呪い発動を抑えるスキルを持っているんです」
「なんと!やはりそうであったか!ならば話は早い。お主にやってもらいたいことがあるのじゃ……」
おお、ちょっと無効化ってのはぼかしたんだけど、スフィアさんはあたりをつけていた回答だったからなのか、目に見えて興奮の色を見せる。
まるでいきなり欲しかった物を手に入れた児童の様。
この場合、欲しかった物ってのは、私のこのスキルか?一体何に?
ヘルスライム狩りさせての金儲けか?いや、そんな些細なことではこのクールボスは熱くならない。
流石に想像つかないな。
若干、いやかなり嫌な予感に囚われながらも、私には話を聞き続けることしか出来なかった。
ここで、私が少しでもその嫌な予感に対して何らかのアクションを取っていたとしたら、この先のターニングポイントはスルーされ、きっと私も、この世界も、きっと別の結末を迎えていたんだろう。
なんとなくの適当で16時更新にしてますけど、希望があればできる範囲で変更します。




