勇者見習いかよ?!
と、いうわけで幼馴染を追って異世界に来ちゃったんだ。
とりあえず称号:『勇者見習い』を選択しなければ目が開けられないことに気づいたので選択した。嫌味なことに確認画面が出てくる。
それ以外取得出来ないんだから確認要らんだろ!私だって聖勇者とか戦勇者がいいよ!
《称号『勇者見習い』を獲得しました。以下のユニークスキルを選択できます。物理攻撃無効、物理防御無効、魔法攻撃無効、魔法防御無効、呪い無効》
因みに呪い無効以外はやはり暗めになっていて選択出来ない。もはや流れ的にわかっていたけど、これも1択だな。私は諦めつつ呪い無効を取得した。
ここでポーンと機械音が頭に響く。
《称号『勇者見習い』の補正によりステータスが変更されました》
《なお、この称号獲得に伴うスキル追加はありません》
そう文字が浮かぶとステータス画面が脳裏に映った。
名前:ウエノ カナメ
種族:ヒト
LV:1
称号:勇者見習い
加護:なし
ユニークスキル:鑑定LV1、呪い無効LV1
スキル:なし
HP:1200/1200
スタミナ:1200/1200
MP:12/12
物理攻撃力:1200
物理防御力:1200
魔法攻撃力:12
魔法防御力:12
回避能力:180
テクニカルポイント:100
ふむ。
称号『勇者見習い』の恩恵はどうやら各ステータス20%増加ってところかな。
つーか突っ込まずにきたけど私、MPとか魔法系弱くね?それとも物理攻撃とか物理防御の値が大きいのか?
仮にも勇者なら魔法系にも長けてるでしょ、普通。ま、見習いなんですけどね()。
でも、勇者の称号得る前からこんな感じだったよね。ということは基礎ステータスの決定は前もってされていたってことだ。どうやって決められたんだろ……まあいっか。
あと、呪い無効のスキルにもレベルがあるんだね。クリックして詳細を確認する。
《呪い無効LV1:スキル所持者に向けられた呪い及び接触した呪いを全て無効化する》
ふーん。
で、このスキルレベルを上げたら触れなくても呪い無効にできる感じかな?
「あの……」
とりあえず、一通り鑑定出来るみたいだし、片っ端から鑑定してみるかな。
《称号『勇者見習い』:所持者の各ステータス小up、獲得経験値小up(パーティメンバーも含む)、レベルアップ後の全ステータス成長率小up、アイテム入手率小up、獲得金額小up、ユニークスキル及びスキル熟練度小up》
なんか、小up連打だな。
ステータスが20%増しだし、ほかの内容も20%増しと見た方がいいだろうな。20%……微妙だ。
例えば30%offセールで辛うじて買うこともあるけど20%offセールで買うことはあまりないだろう。20%とはつまりその程度の感覚だ。
でも、塵も積もれば何とやら……悪く無い称号なのかな?いっぱい小upするしね。なんたって、世界救う代名詞の勇者ってついてるしね。見習いだろうと何だろうと、勇者に代わりはない、はず。うんうん、ハズレくじ掴まされたなんて思ってないよ?ほんとだよ?
ここで他の称号に出てた勇者の項目が気になるところだけどさ、表示されないんだ。鑑定し忘れたよ。元に戻れないかなぁ、無理ですか。そうですか。
《鑑定LV1:所持者のステータス内における鑑定可能》
《LV:戦闘による経験値が一定数を上回ると上がり、各ステータスが上昇する。ユニークスキル及びスキルも熟練度が少量プラスされる》
《HP:生命活動の指数。0になると死ぬ》
《スタミナ:特定の活動における指数。0になると身体的自由度が低下する》
《MP:魔法使用時、体力増進時などで使える指数。0になると生命活動に支障を来す》
《テクニカルポイント:レベルが上がる際にポイントが加算される。各ステータスに割り振ることが可能。一度割り振ったポイントは再度振り直すことが出来なくなる》
「あの、勇者殿?」
まあ、物理攻撃とかその辺はなんとなくわかるし、改めて鑑定しなくてもいっかな。
あとは……あ、称号自体にも鑑定かけれるっぽい。クリックして詳細を覗く。
《称号:ある一定の条件を満たすと取得することが出来るようになる。称号は重複して取得出来ないため、取得可能な称号はストックされる。しかし一度手放した称号は再取得が不可能となる》
《加護:とある事物から獲得可能。各ステータスやスキルに影響を及ぼすことがある》
《ユニークスキル:特定の称号を取得した際に獲得する。ユニークスキルは称号が変更されても残存する。熟練度が貯まり、レベルが上がると使用可能な範囲が増加する。ユニークスキルは直接操作しない限り、常に発動状態となる》
《スキル:ある一定の熟練度に達すると取得される。熟練度が貯まるとスキルレベルが上がり、威力や使用可能な範囲が増加されたものが追加される》
へー。
この書き方だと称号は『勇者系』以外にも取得出来るのかな。
因みにLV、ユニークスキルの詳細画面にはレベルの累積経験値と、私が持ってる各スキルの熟練度ゲージが書かれていた。スキルはまだ持ってないけど取得したらスキルの詳細画面に出てくるんだろうね。これでどのくらいでレベルアップするのか分かる。
「勇者殿……大丈夫ですか?」
と、さっきからめちゃくちゃ呼ばれてる。
ごめん、ちょっと待ってくれ。
私はゲームは先に説明書きを読んでから派なんだよ!
「少々お待ちください」
だいたい、誰が呼びかけてるのかはわかっている。多分王の隣あたりにいる大臣さんだ。先にきた勇者達がまず最初に大臣から呼びかけられ、説明を受けていたからね。
そして目を開けるときっと豪華な椅子に座る王様がいるはずだ。
とりあえず目を閉じたままそう言うと、大臣さんは「はあ……?」と間の抜けた了承をしてくれた。
だいたい鑑定し終わったから、もう目を開けようかなーとか思ってたんだけど、種族をクリックしてないことに気がついたのだ。
《種族:対象者の種族を表す。ヒト、エルフ、ドワーフ、魔物など》
ほほー、エルフやドワーフが居るのか。
《エルフ:長耳族。風魔法、水魔法に長けた種族。スルベニ大陸北部に広がる大森林の守護者》
《ドワーフ:身長は低いが土魔法に長けた種族。スルベニ大陸北西部にあるポポア大山脈の守護者》
ふむふむ?
早く壮太連れて元の世界に帰りたいけど、せっかくだしこういう人種にも会いたいねぇ。
そして見逃せないのが魔法のキーワード。私だっていつかは使えるはずだからね、どんな感じなのか鑑定しておこう。
《風魔法:風の魔法》
《水魔法:水の魔法》
まんまじゃん!もっと書き方ないのかよ!
ここでポーンと音が響いた。
《熟練度が一定値を上回りました。鑑定LV1が鑑定LV2になりました》
おお?早くね。まだそんなに調べてないよ?
《鑑定LV2:所持者に直接的に接触した際に低確率で対象のステータスを鑑定可能》
あー、そうなんだー。
ありがたいっちゃありがたい……かな。でも、低確率かー。ビミョー。
見ただけで鑑定出来るようになったら攻略本ぶら下げながら対戦するようなもんだから、早いとこその域まで行って欲しいもんだな。戦いが断然楽になる。このぶんだとそこまで行くのかは甚だ疑問だけどさ。
「あのー」
また大臣が話しかけてきた。
辛抱のきかない奴だな。
まあいいさ、そろそろ鑑定するもんも少なくなってきたし、後は旅の最中でもなんとかなる。
私は目を開けた。
案の定、王様が煌びやかな椅子に座っていて、傍に控えている大臣が話しかけてきていた。
「お待たせしました。初めまして、カナメと申します」
私は、王様達を見据えて発言すると頭を下げた。
大臣はホッとした顔だけど、王様の表情が固い。
ん?やっぱり待っててもらうの失礼だったかな。怒った?
私が呑気にそう思っていると、大臣が発言しだした。
「さて、お初にお目にかかる。早速だが、勇者殿にはこの世界に封印されている多くの事物を解放して世界を崩壊から救って頂きたく思います。この世界は今、崩壊の危機に瀕しているのです。何とぞ宜しくお願いします」
……。
「それに備えましてまずは、北部にある大森林の中核にて封印されし剣を探してきて頂きたく存じます。かの剣は、勇者様の助けとなる伝説の剣でございます。今後の戦いの備えとなるでしょう」
……。
「さて、それでは旅支度を」
大臣がパンッと手を叩くとメイドが2人入ってきて私にこの世界の洋服と布の鞄を差し出してくる。
つい、黙ったままじっとその品々を見つめてしまう。
因みにここまで王様、一言も喋っていない。
私の方は何故黙っているかというと、そんな記述が4人の勇者の話を読んだ時にはなかったからだ。全部初耳だ。
この世界、崩壊しかけてんの?確か前の勇者達には魔物の王が居ると語ってんじゃなかったけか?
私が読んだ内容は純王道ファンタジーにある、魔王を倒すという分かりやすい目標が掲げられていたはずだ。そのために先ずは剣を調達に行けというのは確かにあったけど。剣の調達は前の勇者たちは一瞬で済んでいたはずだ。
何せ城の中に台座ごと運ばれていたんだから。でも最後の1本はここにはないんだな。残り物の不幸を既に被ってる気がするけど、こんな軽い調子で言ってるわけだし、すぐ近くにあるんだろう。てか近いからわざわざ運んできてないのかもしれない。
それにしてもこの大臣、本で読んだ時の話し方よりだいぶ上から目線というか、ちょっとカンに触る口調だ。これなら確かにあのお嬢様風の子が偉そうに対抗する気持ちも分からなくもない。
物語の流れの予備知識が無かったら私は切れたかもしれん。
いや、ここに来たのは壮太を連れ戻すためだから問題起こしたくないし怒ったりしないけどさ。
「それでは早速、勇者殿に旅に出て頂きましょう」
まるで追い出すかのごとく彼はそう言い放つ。
私はメイドさんから袋を受け取った。
チャラッというのと、カサカサとした紙の音がする。多分お金が入っている。
ここで前の勇者(壮太除く)みたくもっと頂戴と強請ってもいいけど、あんまり子供じみたことはしたくないな。ここは貰った物をそのまま頂いておこう。
メイドさんはそのまま私を部屋の外へと連れ出そうとしている。
あれ?
慌てて止まりながら大臣を見た。
「ち、ちょっと待って。あの、大臣さん」
「はい、なんでしょう」
何だろう、何処となく黒い微笑みだな。詐欺師ってこんな表情してそうだ。
「その、旅の仲間っていないんですか?」
前の4人の勇者達は多かれ少なかれ当面一緒に行動出来る仲間を連れていかされていた。
特に物理攻撃無効の勇者は仲間なんて要らないとかいうアホなことを言っていたのをなだめ透かして無理やり連れていかせていた。
私のこのステータス、強いのかどうなのか全く分からんし、この世界にきて間もないから1人くらいは仲間という名の案内人が欲しい。
てか、普通つけてくれるもんなんじゃないの?
私の訊ねた内容に対して、彼はこれでもかと眉尻を下げてみせる。
「誠に申し訳ありませぬが、勇者殿はお強くいらっしゃいます。見合うだけの強さを兼ねた者を選定しかねております。足手まといを連れ歩くよりは、今暫くお一人で行動された方がよろしいかと存じます」
「強くなくても良いんだけど。何か騎士とかでも……」
「誠に勝手ながら、ただいま他国との情勢が芳しくございません。無事、かの伝説の剣をお持ちになられた際にはご用意させて頂く予定ではありますが、今暫くご容赦下さいませ」
「……」
何だろう、この有無を言わさぬ対応は。
そもそも未だに王様一言も喋ってこない。他の4人の勇者の時はかなり饒舌だった筈なんだけど。
眉間に皺を寄せて、何故か私を警戒している感じだ。
あー、もしかして、前の4人の勇者達が根こそぎ旅の仲間にする予定の人を連れてったせいで人出不足なのか?ならそう言えば良いのに。体裁が悪いのかなぁ。意地っ張りめ。
それにしても、他の4人の勇者のこと一言も話してくれてないな。
「あの、私以外に、同じ様な使命を負った人っていませんか?」
居る前提で声をかけた。
てか居ないと別世界に来たことになって、壮太を連れ帰せないじゃないか。そんな最悪な事態だけは想定したくない、……あれ?なんかあり得そうな気がしてきたぞ。
「勇者様はあなた様の他に4名おられます。それぞれ随分と昔に旅立たれましてございます。勇者様のお名前は、ユウキ様、ソウタ様、ノゾミ様、ショウ様です」
あ、良かった。壮太居るんだね。
でも、随分前……ねぇ。
壮太が行方不明になったのは3日くらい前なんだけど……物語の中では3日以上は経っていたもんな。もしかしたら元の世界と流れる時間の早さは違うのかもしれない。それにしたって本の内容だと魔法攻撃無効の勇者、確かノゾミさんはまだ旅立ってなかったはずなんだけど。
「その勇者の誰かと一緒に行動て出来ませんか?何か1人じゃ不安で」
これはマジで本心。壮太だって怪我してたしな。仲間がいたからどうにかなっていたのに、1人でうろちょろしたくない。壮太と早く合流するに限る。
「勇者様同士でパーティは組めないことになっております。また、かの勇者様方は既に遠くの地へ行かれております」
そうなんだ、パーティ組めないとかあるのか。
……あれ?遠くの地?
壮太はすぐ近くのダンジョンに籠ってたはずなんだが。誤った情報が流れてる?
んーどうもこの大臣胡散臭いな。
ここはひとまず、話に乗って伝説の剣なる物を取りに行くふり(というかちゃんと取りに行くけど)するのが得策かもな。
何にしても私LV1だし。
壮太と会うのもレベルをそこそこ上げてからの方が足でまといにならないよね。どうせアイツは暫く安全圏でぬくぬくレベリングしてるだろうし。そんでもって壮太の足でまといなんて、私のプライドが許さん。
そんな訳で大人しくメイドさんに連れられて、こっちの世界の服に着替えて城を後にした。
城の外に出て振り返ると城は白亜の宮殿だった。
ファンタジーだなぁ。
本当に別の世界に来てしまった。そんな不安感もあるし、先ほどの私への対応の違いに戸惑いがないわけじゃない。でも、恥ずかしながらワクワクしてきてしまった。
ぐぅー。
とりあえず小腹が空いたので、手頃な酒場に入ると先ずはトイレに直行した。所持金を確認するためだ。
大学時代、私は1人でアジア5か国くらいは巡った。1つの国に最短で3週間、最長で2ヶ月はいた。人前で財布を開くなって言うのはバックパッカーの超基本事項だからね。ましてや異世界で、治安が良い悪いの判断すらつけないんだからそこは当然遵守するさ。
で、所持金は1000ポラン(pr)だった。
私は冷や汗が出た。
「はあ?」
私は私の前に来た4人の勇者様に渡された金額を知っている。ソウタは50000pr、駄々をこねてたユウキとノゾミが100000pr、詐欺師紛いに口車に乗せて分取っていったショウは240000pr。奴らはこの資金で装備を揃えたり当面の生活費に充てていた。ショウなんか確か国の秘蔵アイテム系まで貰ってたはず。
ちなみにこの街の物価は日本円の半分くらいだ。
つまり、私が今持っている1000prは日本で言うところの2000円程度の価値という事になる。
1泊どころか3食行けるかどうか怪しい。
何だこの待遇の差は。
おかしくね?これでも私、女の子だよ?うら若いかどうかは置いといて、一応20代なんだよ?
あれか。呪い無効の勇者だからか。
やはり私の初期に抱いた感想は、こっちの世界でも一緒なのか。で、あの対応は、使い道ない奴は大人しく出て行けと、そういう意味か。
なんてこった、呪い無効の勇者は呪われた様に厄介者扱いされるのかよ。
とりあえずムカついたので、トイレを飛び出てしっかり店の人に謝って店の外に出ると道端の石を蹴飛ばした。もちろん、城に向かって。
こういう時、人の1.5倍くらい食べても満腹にならず、すぐに腹が減る私みたいな人種は辛い思いをする。何でみんなあの少量で足りるんだよ。エコか。エコなのか。私はどうせ一昔前の大型車ですよ!
1000pr……無理だ。無理な気しかしない。
でもあの大臣の態度は、追加でお金くれないだろうなー。
待てよ?確か勇者見習いの項目に獲得金額小upてあったよな。もしかして魔物倒したらお金出るのか?!
よし、それだ。
※修正 空欄作りました。