呪いの棍棒のターン
結論から言おう。
現場は私にとって何故か余裕だった。
なんのこっちゃ、って感じだろうが、実際私自身も分からないことの方が多い。
私たちが駆けつけた時、レーンボルトファミリーのアジトは不自然にもスライムで溢れていたスライムっつうのは王都の壁際で目覚めた時のあの赤い気持ち悪いあのスライムだった。
あの時は100体くらいだったけど、ここにいるのはその倍くらいだ。
昨日うろちょろしてたし、この街が割と広く、規模で言うと人口が5,6万人くらいってのは理解してたんだが、ここはそのど真ん中の地域だ。街の外へはこっからもう3kmはあるだろうし、当然ながら魔物が入って来ないように壁で囲われているはず。それなのにこのスライムの量は異常としか言えなかった。
「うぇ、何であのスライムがここに?」
「ヘルスライムだと?!」
私の声とタダンの声か重なった。
ん?ヘルスライム??
「カナメ、気をつけろ!このスライムに触るととんでもねぇことになる!」
むむむ?昨日も聞いた気がするぞ?
「とんでもねぇって、具体的にはどのような?」
「逃げることも倒すことも出来ずに囲われて、生きたまま溶けていくんだ」
お婆ちゃんと同じようなこと言ってる。
でも、これがヘルスライム?
昨日の朝コイツらに囲まれてたんだけど。確かにHPは削られてたけどさ、そんな警戒するほどの事態にはならなかった。
ということは、だ。考えられる事案は3つ。
1つはコイツらと昨日のヤツらはやはり別種説。もう1つは、噂が独り歩きして実は弱いってことが知られていないだけ。最後の1つは、何らかの理由で私に効果が薄かった(若しくは特定の条件下で効果が薄くなっていた)ってところだろうか。
何にしてもとりあえず言われた通りに警戒した方がいいのかも知れない。
「タダン!その怪我、どうしたんだ!?」
先に到着していたらしいノズがこちらに気づいて駆け寄ってくる。
「ちっとばかしドジ踏んじまってよ。カナメに危機一髪ってところで助けられたんだ」
「そうか!いきなり裏路地の方に走っていったからよ、どうしたんだと思ってたんだが……おめぇすげぇな。どうやって分かったんだ。俺からも礼を言わせてもらう。仲間を助けてくれてありがとな」
あ、裏路地に逃げてったのバレてたんだー。
え?!見てたの?!あぶね、後から問い詰められて殺られるってオチもあったかも?コイツら気は良いけど裏切りとかには容赦なく殺してきそうだからな。一歩間違えたらジャスに殺されてたけど、裏路地入った時点で死亡フラグがたちかけていたってことかい。
やべー、今更ながら冷や汗。け、結果オーライってことで!
ドーンッ
また爆風が上がる。
「ノズ、こりゃいったいどういうことだ。何でここにヘルスライムが?」
「ああ、俺もフィントも、お頭の火魔法が発動してからこっちに駆けつけたからな。俺もよく分からねぇ。だが、お頭についてたポフォが言うには、いきなり拠点の真上にに魔法陣が浮かんだらしいんだ。そんでヘルスライムが次々と落ちてきたんだとよ」
「なんだと?!」
「ヘルスライムが相手じゃ俺らは手が出せねぇ。だからお頭が自ら火魔法で駆逐してるって訳だが……とんでもねぇって最悪なタイミングだぜ」
ドーンッ
またお頭さんの火魔法がヘルスライムの群集に向けて放たれる。
ヘルスライム……減ってるか?スライムに表情とかないからダメージ食らってんのかよく分からんけど、目に見えて減ってる兆しは無いように伺える。上がってる火の手は結構威力ありそうなんだけどねぇ。
「タダンさん、ちょっと私向こう行きますんでここにいて下さい」
「お、おう。ありがとうな……っておい!」
「カナメ、やめろ!ヘルスライムに近づくんじゃねぇ!」
ノズたちの制止の声を無視してヘルスライムの方に歩いていってみる。
5歩くらいの距離に立ってみて、よく観察開始。
んー。
やっぱりコイツらって、昨日のヤツらと一緒だよなぁ?
と、じっくり見てたら観察中のスライムがぴょんと飛びかかってきた。
「きも!来んなし!」
私はベシっと棍棒でハエたたきの要領でぶっ叩いた。
「んん?」
よく見れば叩いた後のスライムの色が暗くなってる。他が真っ赤なのに対して、今叩いたやつは目に見えて黒ずんでいる。
こんな変化、昨日の朝の時はなかった。
ってことは、これ、棍棒の呪い効果かな?
見かければ適宜ぶっ倒してたし、2体同時出現もなかったから比べる対象も無かった。だからそんな変化があってるとか知らなかったな。いいことに気づいた。
て、訳で。
どういうわけか知らんが、ヘルスライムは恐れるべき対象とは違う気がしたのでガンガン棍棒で殴りまくった。
1匹倒してみて、やっぱりいつもの、というか昨日散々殺戮の限りを尽くしたスライムだという結論に至った。
5発も殴れば倒せるし、スキル発動すら要らない。まあ、せっかくだしモグラ叩きみたいなイメージでちゃっちゃと済ませたい。一応タダン達やお婆ちゃんの忠告も参考に、なるべく触らないで棍棒だけで倒すことにしよう。
方針は固まった。
私はちょっとスライムどもから距離をとると、お頭さんの方を見る。だいたい30mくらい遠くからこのあたりに向けて魔法を放ってるようだ。
まあ、声は届くかな。
私は大きく息を吸う。
「スフィアさーん!火魔法打つのやめてくださーい!私がスライムの相手しまーす」
私にとって危険なのは、どっちかというとスライムよりお頭さんの火魔法だ。なんたって魔法防御力16だし(笑)
「……」
向こうは無言だけど、構えを解いたのを見ると、攻撃は止めておいてくれるらしい。
「さて、ちゃちゃっといきますか。」
私は早速『殴打LV4』だけを起動させてスライム達に向き直った。
昨日は酔っ払いでした。更新出来ず申し訳ありません。
来週から日曜日は休載しようかと思ってます。クリスチャンなので、ミサに行きます(嘘です)