裏道でこんにちは
さてと、上手く逃げられたのは良かった。でも早いとこ変装しなきゃな。
奴らにバッタリなんて事になったらきっとタダじゃ済まないはずだ。
と言っても私にはブラウンウルフの採れたてほやほや革か、元の世界から持ってきた服しかない。
元の世界の服は逆に目立つしなー。
そう思いつつも何とか裏道から抜けようとひたすら道を進んでみる。
お、服屋っぽいとこ発見。
店と言っても、ショップというよりマーケットだ。もっと正確に言うならマーケットというよりあばら家に布を積んでるだけの場所だった。
覗くと布に埋もれたお婆ちゃんが見えた。
「あのー」
「なんじゃい」
しゃがれた声のお婆ちゃんは、目が鋭い。
きっと何も言わずに布に手をだそうもんなら噛み付いて来そうだ。や、そういうイメージってだけで噛み付くはずないだろうけどさ。
「服を探してるんですけど……」
「ここは布屋じゃ」
「ですよねー」
「しかしまあ、無いこともない」
ほんとかよ。
だいたいこういうこという輩は怪しい。
きっとせっかくの客だから稼いどこうとかいう逞しい商魂を見せてきてるんだろうな。
「どんなのですか」
「ほれ、これじゃ」
布に埋もれたお婆ちゃんは、ゴソゴソとその場を動かずに手だけ動かして引っ張り出した。
まー、うん。服だね。
布に穴開けて折っただけみたいな超簡易服だ。ゴミ袋に穴開けて作ったような服。
別にそれでもいいけどさぁ?
「いくら?」
「500prじゃ」
たけぇわ!
この雰囲気、きっと値切っても100prだろう。ま、金はないから無理だ。
この汚い裏道の汚い店なら10prでもいけるかと思ったが……流石に無理か。
「あー、10prしかないから買えないっすわ。ごめんなさい」
「なんじゃと?そんな所持金なはずないじゃろ、ふざけおって……」
ビーーー!
と、お婆ちゃんが突然笛吹き出した。
嫌な予感。
私はダッシュでその場を離れようとした。けど、どうやら無理だったらしい。
ゴツゴツのオッサンが2人、すぐ近くの角から現れる。
うーん、逃げれなかった。
この雰囲気……これは、アレだな。
予め待ち構えてたんだろう。
この分だと私が店の前通っただけでも呼ばれてたかもなー。
世界一の犯罪都市、恐るべし。
唯一良かった点は、今私を追いかけてるダフォファミリーとかいう連中ではない感じかな。アイツら服に豚みたいな同じマークがついてたもんね、きっとあれ、ユニフォームみたいなのだろう。
「お婆ちゃん、これどういうこと?」
「ヒッヒッヒッ、500prで買うなら奴らも引くじゃろうて。服が買える、身体も無事、安い買い物じゃろ」
「なるほどー、最初からそのボロ服その値段で買わせる気だったのね。それにしては500prて良心的だよね。もっとふっかけてもいんじゃない?」
「持ってる以上の金は要求しないさね。あんたは見るからに金無さそうじゃからの」
ふーん。
私の有り金全部取りたい所だけど500prがせいぜいだろうと見られたってことか。
残念、私は正真正銘10prしかもってないド貧乏人です。
でもどうせ力づくなら普通に強盗すれば良くない?
意外とそのへん律儀だね……。
「そっか。お婆ちゃんらが結構優しいのは分かったけどさ、ホントに10prしかないんだよね」
「嘘をつくな」
「今日の宿代くらい持ってんだろが」
すぐそばに来たオッサンらが脅してくる。
さっきの一件でもそうだけどさぁ、持ってないもんをどうやって見せろってんだ?
くっそ、弁解するのも逃げるのも面倒くさい。
私は無造作にお婆ちゃんに鞄を投げた。
こういうの現代でやると虐待とかになるのかも、と一瞬ヒヤッとしたけど、お婆ちゃんは目を真ん丸にさせながらしっかりキャッチした。
「疑うなら確認すればいいじゃん。10prしかないのに店覗いて悪かったよ」
お婆ちゃんは、戸惑いつつも鞄の中を覗いて、顔をしかめた。
「なんじゃこの臭いもんは」
「ブラウンウルフの革」
お婆ちゃんが汚物を探る感じで嫌そうに中を漁る。
「あ、革あげるよ。それで手を打たない?」
「こんな臭い布、売り物にもならんわい。要らん」
「そっか……」
「これはなんじゃ?」
「ブラウンウルフの爪、要る?」
「要らん!」
「そっか」
「これは……ブラウンウルフの牙かの?」
「おお、当たり!要る?」
「要らん!!」
「そんな怒んなくてもいいじゃん」
お婆ちゃんがすごく不機嫌そうに、ゴソゴソと鞄を漁っている。
私の両脇に立つオッサンらは、ちょっと所帯なさげだ。
だって、盗るもんないもんね。脅しても出るものなければオッサン達もやりようがない。
「これはなんじゃ」
あ、スライムから出てきたビー玉だ。
「ビー玉……かな?要る?」
お婆ちゃんは胡散臭そうにビー玉をイジイジしたけど、すぐに興味なさそうに鞄に放り込んだ。
「何でこんなたくさん入れとるんじゃ」
「いやー、売れるかなーと思ってさ」
「こんなもん、見たことないわ」
「え、じゃあ売れるじゃん!それで手を打とう?」
「たわけ!誰も売るやつも買うやつもおらんから見たことないんじゃろが!」
そうとも言う。
そっか、売れないのかー。売れそうな気がしたんだけどなー。
そう言えばこれも鑑定したことなかったな。1個お婆ちゃんの手元にある鞄からビー玉取り出して鑑定してみる。
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
あれ、これもなかなか鑑定出来ないな。
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
「はー、あんた10prでここに来て、どうするつもりだったんじゃ」
お婆ちゃんが呆れたようにため息ついた。
やーホント、マジでそれな。
「最悪街の外で野宿かなーと」
「たわけが、ヘルスライムの餌食じゃぞ」
「ヘルスライム?」
ヘル……地獄?!何その怖そうな名前!
今朝のスライムの上位種か?
「ブラウンウルフはたおせるようじゃがな、ヘルスライムはブラウンウルフよりよっぽど質が悪いんじゃぞ」
「え、そうなの?」
「ヘルスライムは生きたまま抵抗も出来ずに溶かされていくんじゃ」
「げーー!?やっば!何それ嫌だ!!」
間違いない。
あの気持ち悪いスライムの上位種だ!
そんなこと聞いたら野宿出来ないじゃん!
でもなー、街に居ても危険なんだろうなー。オッサンらいっぱいいるし。
そう考えるとこのお婆ちゃんてすごいよな。逞しく生きてるし、オッサン2人も従えてるし。
「お婆ちゃんてさ、どうやってこのオッサンたちと一緒にいんの?息子?」
こしょこしょ話で聞いてみる。
「奴隷じゃ」
「え……」
マジかー!
ここで奴隷来ましたっ!
なるほどねぇ、奴隷ってボディガード兼恐喝目的で買うのかー。
って、ん??
「この人達人族じゃないの?」
ノズ達曰く人は奴隷として売買禁止されてた筈だもんね?
「亜人じゃよ」
私は、じっくりとオッサン達を見た。
どっからどう見ても人だ。
「どこから見ても人族だよね」
「そら変幻しとるからの。亜人に会うのは初めてかの?亜人は差別対象じゃ、大都市には本当の姿を表さんから無理もないかのぅ。じゃが強さは亜人のが上じゃからの。こういうのには役立つんじゃ」
「へー、獣人は?」
「獣人は変幻出来ぬからのう、別の使い方じゃ」
「お婆ちゃんその言い方だと結構奴隷買ってんだね、どこで買ってんの?」
やっぱりノズ達のところかな?
あそこ以外にあるのか興味が若干ある。
「そら奴隷を買うと言ったら、レーンボルトファミリーかダフォファミリーじゃろ」
ダフォファミリーは追われてるところだー!
で、レーンボルトファミリー?
「レーンボルトファミリーってノズとかがいるところ?」
「なんじゃと!?」
お婆ちゃんが凄く驚いた顔をする。
「何故ノズを知っとる」
「そりゃさっきまで一緒にいたから……見た目怖いけど気のいい奴らでさ、ご飯一緒に食べたんだ」
「ほう。ノズの名前を出すとなると、嘘では無さそうじゃの」
ん?ノズってそんな信頼度高いのかな。
まあいいや。
「…………」
「…………」
で、会話終了。
お婆ちゃんも無一文な私から何も取れないと知って、興味薄なんだな。
「じゃ、鞄返して?何もないの分かったでしょ」
「ふむ」
お婆ちゃんが何とも言えない顔して返してくれた。
「じゃ、商売の邪魔してごめんね。お婆ちゃん優しい人で良かったよ」
「まてぃ」
ちっ、帰してよ。
今穏便に帰れる流れだったじゃん?
「ブラウンウルフの革全部とこの服交換でどうじゃ」
「え!?良いの?要らんって言ってたじゃん」
「臭いがちゃんと舐めせば売れんこともないからの」
ふーん。
これは……だいぶ金になると見た。
興味と価値が無いふりしての物々交換は常套テクだからね。私にはわかる。
分かるけど、ここは有り難く服と交換しましょう。
「わーありがとう!じゃさ、牙全部あげるからこの布も頂戴」
マントみたいな厚めの布だ。寝るときに掛けたら布団になる。
「ふぅむ、牙はわしの商売とは違うから要らんがのぅ」
「ビー玉2個つけるし」
ビー玉は正直腐るほどある。腐らんけどさ。
「ビー玉はそもそも何なんじゃ。要らん」
「いいじゃん、感謝の意を表してあげるよ。何かの助けになるかもだよ?」
「ふむ。まあ、いいじゃろ。して、ノズ達とはまたいつか会うのかの?」
私はお婆ちゃんの気が変わらないうちにと、話しながらブラウンウルフの革と牙を全部押し付けて服とマントを受け取ってさっさと着てる服の上から羽織った。
「いや?予定とかないけど。お頭さんと交渉すんの疲れて。さようならしてきたからさ。もう会わないかも」
「お頭?!スフィア様に会ってきたのかい?!」
へー、スフィア様って言うのかな。あの熟女さん。
「スフィア様って女の人だよね?ブロンド髪の」
「ブロンド髪かどうかはわしゃ知らんがの。何故そんな方と会うことになったのじゃ」
「この街来る前にノズ達の馬車がブラウンウルフに襲われてて助けたんだけどさ。それで奴らがお頭に会えって言ってくるから行ったんだけど、面倒くさくなってパッと会ってそのまま出てきたんだ」
「なるほどの。で、スフィア様に何を貰ったんじゃ」
「へ?何も貰ってないよ」
お婆ちゃんがそこで驚愕の顔をする。
え……不味いことしたのかな。
「危ないところじゃった……」
お婆ちゃんがホッとした声で小さくつぶやく。
「何が?」
「それを先に言わんかい!」
「え?何で」
「わしが殺される所じゃったわ」
???
意味わかんないよー。どういうこと?
「レーンボルトファミリーにってこと?そんなことないと思うけどな。まあいいや。お婆ちゃん、表通りてこっからどう行けばいい?あと冒険者ギルド探してるんだけど、知ってる?」
「表通りはここまっすぐ行って、3つめの角を左、2つめの角を右、その後6つの道の交差点がくるから屋根の色が緑の家の右側を抜けるとたどり着けるじゃろ」
入り組んでるなー。こりゃ自力脱出は不可能だったな。
「冒険者ギルドはその表通りを北に行けば見つかるじゃろ」
「あるんだ!さっき別のオッサンに聞いた時無いって言われたんだよね」
「まあ、地域が違えば知らんじゃろう、訪ねるやつも少ないしのぅ」
確かに結構歩いたし、ここ別の地域ぽいね。
「そうかぁ、なるほど。ありがとう!助かった、またね!」
ビー玉を1つずつお婆ちゃんと両脇のオッサンにあげながら、手を振って別れた。
私はマントのフードをしっかり被って、裏道を歩きながら鑑定していく。
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に失敗しました》
《鑑定に成功しました》
おお!遂にビー玉の鑑定成功した!!
《闇鉱石:闇の魔力の塊。闇属性の魔法攻撃力を20倍にする。もしくは闇属性の魔法攻撃を20分の1に削減する。使用可能回数は1回》
んー。
これ、ひょっとして割とレアというか、高価なんじゃない?
惜しいことしたかなと思ったけど、実際ビー玉いっぱいあるし3個くらい痛くも痒くもない。寧ろ軽くなって良かったかもしれん。
あ、さっき取得したスキルの鑑定してみよう。
《危機感知LV1:スタミナ20を消費して2時間、危機の前触れを感知できることがある》
なるほどね。これはオンにしとこう。
何だかんだ今スタミナ有り余ってるからな。このスキルの熟練度上げて早くレベルアップを図った方がいいと思う。
《熟練度が一定数を上回りました。『鑑定LV3』が『鑑定LV4』になりました》
まあ、あれだけ連打すりゃ鑑定レベル上がるよねー。
《鑑定レベル4:所持者に直接的に接触した際に高確率で対象のステータスを鑑定可能。ただし鑑定不能の場合を除く》
おおお!高確率きたー!
よし、棍棒。
お前の番だ!
ポーンと軽快な音が鳴った。
《鑑定に成功しました》
よっしゃー!!
スッキリ!!
何とも言えない解放感だな。
私はこのために鑑定を得たのかもしれない……んな分けないけど。
早速チェックだ。
《覇者の棍棒:戦闘時、使用する際に物理攻撃力+1500の効果。また、中確率で対象の物理防御力を下げる呪いが発動する》
なに?!呪い!!?
こんな初期でもそんな武器手に入るのかよ!!
これは、レアドロップってことかな?
道理でスライムすぐ倒れたわけだわー。
攻撃力も割と上がるし、暫くこれ装備しとこう。私なら呪っても解除出来るし。
いい脅迫……違う、いい交渉材料になるよね。
うん。
私、か弱い女子なんだから、脅迫とかしないよ?
一応現状載せときます。
名前:ウエノ カナメ
種族:ヒト
LV:12
称号:勇者見習い
加護:なし
ユニークスキル:鑑定LV4、呪い無効LV1
スキル:殴打LV3、不屈LV2、連打LV1、解体LV1、味覚耐性LV2、危機感知LV1
HP:2008/3058
スタミナ:2922/4188
MP:16/16
物理攻撃力:3112+1500
物理防御力:2895+10
魔法攻撃力:16
魔法防御力:16+10
回避力:382
テクニカルポイント:1200