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塩の湖へ行こう!

「え?塩の湖に?」

「はぁ?!何でだよ!先に鎧剥がしに行けよ!そんな所行くほど時間ねぇだろ!」

「確かに時間はあまりないんだけどね。さっきチェスの家でマルローンがさ、魂の欠片が塩の湖にあるって言ってた気がするんだよ。サンの時魔王化を解除してくれたから、何か今回も手伝ってくれるかも」

「マルローン……て、男だよね。誰」


 ダークが相変わらずショウの警戒をしながら眉間の皺を一層深くした。


 う、こわっ。声音だけでヒヤッとさせるなんて、相変わらず恐ろしい子だよ。てか、ぶち切れモードのまま私に矛先を向けないでほしい。本気で怖いから。


「オレ様の兄貴だ!」

「……ご主人て、ほんと僕の知らないうちにすぐ他の男と関係作るよね」


 何か、よく分からない恨み言を言われた。

 しかも人聞きの悪い……まるで私を浮気者みたいに言わないでくれるかな?


「関係って言うより、相手はガキだからね?!ていうか、それ以前に魂が砕けてて生きてるって言っていいか怪しいレベルの子だし」

「そんなの関係ありません。せめて事後報告でもちゃんと僕に、誰に会ったか教えてください。危険な人物だったらどうするんですか!」


 ぶつぶつ言いながらダークが私の方に振り返り、私の首を見てギョッとするように眼を見開いた。即座に自分のポケットからユシララを出る時に渡していた回復薬を取り出して、私の首にパシャリとかける。


 ステータスから軽症の文字が消えた。


「何でこの傷を放置してるんですか!」


 指差ししながら、詰めてくる。


「あー……いや、それは忘れてて……」

「忘れることじゃないでしょう!ご主人は危機意識が低過ぎるよ!」


 ダークが自分の額を指で押さえて難しい顔をした。

 

「とっくに自分で治してると思ったのに!いつまで経っても共有してたスキルが自動解除されないから変だと思った」


 怒りというより呆れの方が勝ったみたいでダークの目が据わってくる。


 小学生にこんな表情向けられてみ?大人としてはけっこう心にくるものがあるよ。まあ私はしょっちゅうダークからこの表情を向けられてるから流石に慣れてきたけどね!


「それを言われると痛い……でもさ、ダークがしっかりしてるから助かってるよ。スキルと治療で助けてくれてありがとうね」

「っ!」


 ここでダークが、うっと言葉を詰まらせる。


 そう。

 実は私、ダークの弱い言葉を知っている。こう言う風に心配性ゆえの文句を言ってくる時は無理矢理でも「ありがとう」を使うのだ。そうするとダークはちょっとだけ機嫌が治る。


 何回も使うと効果がなくなりそうだから、ここぞと言う時に取っておくんだけど、今がその使いどきだ!


 眉間に皺は残ってるけど眉尻が下がってるから、さっきまでのぶち切れモードも完全に落ち着いたみたいだ。良かった。


「……どうでも良いが、塩の湖ならあっちだぜ。兄貴(神の子)の言葉があるなら、そっちが先でも良いけど、急げよ」


 さっきまで精気を吸いながら待機してたのか、口元から私の手を外すとチェスナットは私とダークの問答ガン無視で対岸の方を指差した。


 死ぬつもりではあるけど、ちゃっかり私がいる限りは精気吸うんだね。良いよ、良いんだけどさ?なんか、良い意味でマイペースだよね、チェスナットて。


 そう言えば、ショウは?


「ねぇ、これってさぁ、いつ解除してくれるのかな?動けなくて気持ち悪いんだけど。それにこれ初めて見たんだけどさ、何のスキル?」


 私と目が合うと、ショウは自分の状況を楽観視してるのか他人事のようにニコッと笑ってきた。さっき見た時よりも更に視線が下で絡む……知らないうちにショウは地面にめり込んでた。顔だけツルツル面から出てる奇妙な状態だ。


 あれは……ダークの土魔法?

 魔法で地面に身体をめり込ませたみたいだな。前にユシララで敵をめり込ませてるって言ってたのはこんな感じだったのか。

 確かに殺してないしダメージも与えないから、セーフではある。隣のダークにギリギリ聞こえるくらいの声量で「ダーク、ナイス!」って言っておく。


「まあ、暫くそうしてて欲しいかな。勇者()に怪我させたハンデだと思ってさ」

「えー」

「それじゃ、私たちはやることがあるから。元気で!」


 言いつつ私は手際良くダークを背負って、次にチェスナットを抱き上げた。傷に負荷がかかりそうだけど、そうも言ってられないので普通に子供を片手で抱えるような抱っこスタイルだ。


 呻き声とかあげるかと思ったけど、チェスナットは特に何も真剣な表情を変化させない。


「……湖に行って、気が済んだらすぐ聖騎士のとこに走って行けよ?」


 相変わらず頼み方がちょっと偉そうなんだよなぁ、チェスナットって。魔族のおっさん達の話から察するに人にあんま頼んだことがないのか?まあいいや。私も気が長くなってきたし、許せる範囲だ。


「はいはい」

「絶対だぞ。約束は守れよな?」

「はいはい」


 言われた通り聖騎士のとこには行くつもりだけど、チェスナットは連れてく気満々だ。でもここで訂正入れたり食い下がったりして時間ロスするのは愚かしいので適当に流しておく。


 ……でも、流石に重いなぁ。ガキ2人って。


「ご主人、風魔法で向かいますか?」

「いや、それだと時間かかるからいいや。試したいことがあるし。ちょっとやってみる」


 言いながら聖杯を地面に深めに突き刺した。


「……ご主人って、落ちるの好きだよね」

「勇者もお前もグサグサと刺してやがるが、ここ魔鋼床だぞ?魔法ならまだしも何でそんな簡単に……ぐあっ」


 あ、ごめん。

 チェスナットがツッコミ入れてる最中だったか、集中してて気づかなかった。舌噛まなかったかな?ダークはいつもこう言うことする時ぶつぶつ言うから無視(スルー)癖がついてたわ。


 で、私たちは今、ぐぃんと伸びていく聖杯の先に捕まって一気に真上に500メートルほど上昇していた。3秒くらいでここまで上がったから浮遊感を抱くのも一瞬だね。


 500メートル伸び切った所で片腕でチェスナットを抱いて、背中にダーク、そしてもう片方の手で棒を持ってプランとぶら下がる。3人分の体重が片手にかかってるにしては軽い気がする。普通に考えたら握力えげつないことになるはずだけどさ、余裕だわこれ。


 で、ここまでは予想通り、如意棒みたいに先端を持って空中まで上がれたので、あとは重心を変えて……。


「ちょ、おいカナメ!これ、こっからだとお前かなりダメージ受けるんじゃねぇか」


 チェスナットも私のしようとしてることの見当がついたみたいだ。私にしがみつきながら焦った声を出す。


「多分、大丈夫」

「はぁ!?多分?」

「……はぁ。着地したら8秒間はじっとしてくださいね」


 ここ数日間でダークは目測で私がどのくらいのダメージになるか計算できるようになったらしい。流石としか言えないな。呆れ切ったようなため息は聞かなかったことにする。


 実はユシララを脱出して以降、風魔法の浮遊が遅いから落下する時はそのまま落下しようという提案をした。その方が急いでる時の時間短縮になるし、私なら頑丈だからある程度落下しても低ダメージで済む上にダークのHP急速回復でダメージを挽回できるからね。もちろん痛覚耐性であんま痛くない。


 もちろん落下の直前でダークに風魔法を使ってもらう手もあるんだけど、重量計算して魔法を調節するのが実はかなり大変そうだ。最初から使って飛ぶならまだしも、落下途中で使うのはその魔法だけ使用するのであれば良いけど、他の魔法と並行するとかなり難易度が上がるみたいだ。自由落下の物理計算を暗算でしろって言ってるのと同じだろうなって納得した。空気抵抗とか考えるのだるかったなぁ。


 まあ実際何があるか分かんないし、出来ればダークの魔法は他のことに集中して使うために残しておきたい。風魔法でせっかくのキャパを取られるのは勿体無いからね。


 この提案、ダークは凄く嫌そうだったけどさ。物見も兼ねて空中まで風魔法で上がって落下っていうのを道中繰り返し試してたんだよね。


 最終的にダークの妥協点としてダークが言った秒数は私が戦闘含めて行動をしないって約束をさせられた。HP回復スキルで受けたダメージを完全に回復出来る時間をダークが要求してくるって感じ。私もそのくらいなら譲れる範囲だ。HP回復の待機時間を含めても、風魔法の着地より数倍速いからね。


 その訓練の甲斐もあってほら、こういう時に役に立つじゃん?


「8秒ね、了解」


 聖杯の棒を斜めにしならせて、対岸の崖上にドンッとそこそこ大きな音を立てて降り立った。


 ああ、やっぱ着地の衝撃でHP1300くらい持ってかれたな。次はもうちょい改良の余地ありか。


「……今の、死ぬかと思ったけどよ。すげぇ面白かったな!」


 チェスナットが興奮気味に感想を漏らす。年相応のキラキラした目と表情だ。

 チェスナットは絶叫好きだな、この反応。私も割と好きな方だよ。よく壮太を無理やり乗せて泣かせてたな。


「それにしてもこの聖杯、重いけど便利だね」

「絶対、使い方違うと思うよ」


 私の背中から降りたダークが呆れたように声をかけてくる。


 一理ある。あくまでもこれ如意棒じゃなくて聖杯だもんね。

 でもさ、使い方が違うって言われても本来の使い方知らないんだよ、しょうがなくない?

 聖杯の使い方……何かを汲むとか?


「で、塩の湖は……」


 聞こうとして、聞かなくてもわかってしまう。それくらい……


「でか!」


 思わず感想が漏れてしまった。

 海と見間違うレベルだわ。対岸遠くて見えない……琵琶湖みたいじゃん!


 月と星の光を受けて美しく煌めく夜の湖が、私たち3人の目の前に広がっていた。

ショウが埋まったのはダークが視線を外してカナメを見た時からです。


書いてたら中途半端に長くなったので半分に切りました。残りは明日……。

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