聖剣の制裁
チェスナットを踏んだ瞬間、まるで犬の糞を踏んだように、ぬるっとした感触が足に伝わった。そしてぬかるみにハマった時同様に靴の形に足が埋まる。
……うん。うん。腐ってるからね。しょうがないよね。うん。だけどさぁ……嫌な感触だなぁ。
誰しも小学校の時帰り道で一回は踏むよね、犬の糞。できれば思い出したくはない、あれと同じ感触。
腐ってるから足に臭いがつくかもとか、なるべく考えないように周囲の状況確認をしてみる。
ダークはいつのまにか私の背中から降りて、私の右腕をもぎ取る勢いでくっつき、ショウの方を睨みつけている。
一方ショウは吹き飛ばされた場所で胡座をかいて片膝に頬杖をつき、こちらを見ている。得体の知れない突き飛ばされ方をしたし、一応警戒して様子見って雰囲気だ。
これは、ダークに少しの間はショウの警戒を任せても大丈夫かな。殺しちゃダメって言ってるからぶち切れしつつも堪えてくれてるし、ショウも馬鹿じゃないからこんな殺気満々のダークに向かって無闇に突っ込んでこないだろう。
と、眺めている間に徐々に踏んでるところが硬くなって、足型に埋まってた部分が隆起していく。
ああ、うん。あんま味わったことないけど、ちゃんと人間を踏んでる感触になったわ。
「……おい、カナメ、まさかオレ様を踏んでんじゃねぇだろうな」
「踏んではない、足を置いてるだけ」
「踏んでるじゃねぇか!」
うつ伏せに倒れているチェスナットがツッコミを入れてきた。少し声にハリがない。
当たり前か、背中から剣を串刺しにされてたもんな。でも逆に言うとツッコミするくらいの元気はあるってことだ。
「いやぁ、これには止むに止まれぬ事情があってだね?」
「止むに止まれぬ事情とやらで、負傷した人間を、足蹴にして、いいのかよ……くっ」
腕立て伏せの要領で腕に力を入れて起きあがろうとするチェスナット。怪我のせいかプルプルと筋肉を震わせながらの緩慢な動作だ。
で、私はそんな彼の肩を踏みつけてるわけだ。ガキ大将やってた時でさえ人間はそんなに踏んでないからなぁ。多分。しかも負傷者に対しては確実にやったことがない。
力をいれてないとはいえ罪悪感しかない……念押しで心の中でも言うけど、好きでしてるんじゃないからね?!
立った状態だと足の力を抜く調整がしにくいしチェスナットの容態もよく見れないのでしゃがんで片膝をついてみる。でも呪いが発動しないようにチェスナットを踏んだ体勢は維持しておく。
これは呪いを解除するためだからね!私は悪くないからね!(ここ重要)
「私もしたくてしてるわけじゃないからね?接触して呪いを解くためだからさ!そこんとこの理解よろしくね?」
「う、痛ってぇ!」
私の弁明は聞いてる余裕がないみたいだ。
チェスナットはあまりにプルプル震えてるから何か力の入らない原因があるらしいてのは見て取れる。結局起き上がるのは諦めたようで、身体の向きを変えて寝返りを打つように仰向けになった。
痛覚耐性がないからにしては、少し異常に痛がってるように見えるけど……思ったより痛みに弱いタイプなのかな。いや、腹に穴が空いても平気で立ち上がりそうなタイプだと思ってたからね、ちょっと違和感があるというか。
「……くそ!力が入らねぇし、HPがどんどん減るぜ。早く回復、薬……を……」
包帯が苦しいみたいで顔のあたりの布を引きちぎり、そのまま私を見上げた。そして言いかけのまま言葉を止めて目を丸くする。
「カナメ、血が……怪我してんのか……?」
あんまり似つかわしくない遠慮がちな動きで手を伸ばし、私の首に触れるか触れないかのところで止まる。
翠の瞳が様子を伺うようにじっと私の傷口を見つめて、何か言いたそうだ。けど、結局言葉が出てこないみたいで口元が一文字になる。
軽く眉を寄せて真剣な表情だ。まるで心配してくれてるみたい。
チェスナットって、ちゃんと人の心配するんだなー。もっと自己中かと思ったのに。ま、確かに本質がこういうやつだからずっと1人で戦ってきたのか。
自分のが重症なのに……平常時は偉そうなくせして、ちょっと調子狂う。
ぶっちゃけこの傷は軽症なだけあって、血が結構な量出てても見た目ほど酷くない。
だってダークが共有スキルでHP急速回復スキルを発動してくれてるから。実質HPは回復し続けてるんだよね。
血を流してんのにHPが増えるって、現実的に意味分かんない状態だけど。ステータス画面はそんなはちゃめちゃな現象を平気で表示してんだよね。しかも痛覚耐性であんまり痛くないし。
「まあ血は出てるけど軽症だからね……HPも減ってないから平気だよ」
「……そうか」
血で赤く染まった私の首元から目を離さずに短く応えてくる。
チェスナットの表情は少しホッとしたように一瞬緩んだけど、すぐに思い出したように表情を硬くする。そして体を軽く起こして周囲を警戒するように視線を走らせた。
「あいつは?」
「あいつ?」
「オレ様を攻撃してきたやつだよ、どこに行った?」
チェスナットが向けた視線の方向じゃないので、顎で促してやる。
「あそこに居るよ、今ダークが警戒してくれてるから大丈夫」
ふとした瞬間にダークがショウを殺そうとしないかだけが心配事項だけど。
チェスナットと私の視線がショウに向かうと、ショウはニコッと笑って手を振る。運動会に見学に来た親みたいな反応だな。こんな呑気な反応てことは、幸いまだ暫く動くつもりはないみたいだ。
「てか、あんたのがどう見ても救急状態だからね!重症じゃん!人とか周りの心配してる場合じゃないよ」
言いながら状態確認のためにチェスナットを鑑定する。
本人の了承を得る時間がもったいないから、無断である。バレないようにこっそり鑑定結果のステータスを確認した。
名前:チェスナット・・・・
種族:魔族(混血ヴァンパイア)
LV:67
称号:強欲なる掃討者
加護:精霊の加護
ユニークスキル:魔力操作LV3、感知LV3、精力吸収LV5、吸血LV2、HP回復LV4、拒絶LV1、強欲LV8
スキル:闇魔法LV5、斬撃LVmax、連撃LVmax、駿足LVmax、不屈LV2、飛翔LV3、身体強化LV8
HP:88/6252
スタミナ:52/2150(+300)
MP:54/958
物理攻撃力:11500
物理防御力:502(+2500)
魔法攻撃力:3012(+1500)
魔法防御力:890(+2500)
回避力:31580
テクニカルポイント:0
※状態異常:重症
※聖剣の制裁対象
「……!!」
わーお。
思わず声が出るとこだった。チェスナットのステータス弱体化じゃないバージョン初めて見たからビックリした。攻撃力と回避力に一極集中……究極のアタッカーじゃん。
そして私のヘンテコステータスより防御力系統もそこそこ高いから全体バランスが良い。何このステータス、羨ましいんだが。
じゃなかった!こんなこと考えてる場合じゃない。
急いで重症のところを詳しく鑑定してみる。
《重症:重度裂傷を受けた状態。毎秒500ずつHPが減少する。上位回復魔法または上位回復薬を裂傷部にかけると治る。ただし、その際HPは回復しない》
うわ。
つまり上位の回復薬を傷口にかけないと治らなくて、しかもかけただけだからHPは回復しないと。
ケチな仕組みだなー。でも回復薬をかけるだけで重症な傷が治るなら便利ではあるか。
毎秒500ずつ減るのにチェスナットのステータスのHPが毎秒5で抑えられてるのは多分HP回復スキルのおかげだろうね。じっくり見る余裕はないし、あくまで私の予想だけど。
ひとまず重症の治し方が分かったので回復薬を取り出してかけてあげたいところ……ただ、ここで一つ問題がある。
両手がね、塞がってんだわ。
「チェスナット、怪我人に頼んで悪いけど私のカバンから回復薬を自分で出してくんないかな?」
「あ?……いや、オレ様はそれよりも精気が要る。手を貸せ」
あんたも手が要るか。
あぁでも、確かにこいつHPに余裕がない。先に精気吸収した方がいいか。今チェスナットのステータスが弱体化したら終わる。それに精気を吸うとHPとかが回復するんだっけ?
動かせるのは……左手だな。
ダークは警戒心マックスの状態で、とてもじゃないが右手に自由はない。さっきのショウの反応が気に入らなかったのか、眉間の皺だけじゃなくて、こめかみに青筋が立ってるし。
何か言っても怒りでカッカしてるから聞いてくれなさそうだ。もう少し冷静になってくれるまで時間を置いた方がいい。
なので、重みで潰しちゃわないようにそろっと聖杯を持った左手をチェスナットの口に近づける。すぐにチェスナットが私の手を持って自分の口にあてがった。
……よくよく考えると今みたいに聖杯を持ったまま触れば良かったのか。いや、聖杯クソ重いし下手したら腐ったチェスナット潰してたから踏むのがベストだった……はず。うんうん。私の判断は正しかった……はず。
何故か今はチェスナットも聖杯に触ってるからか軽くなったけど。この重くなったり軽くなったりは一体何なのか。サンの時もサンの手から離れたら重くなったんだよねぇ。
何にせよ、これでわざわざ足蹴にする意味もなくなったので、片膝を立てて座ってチェスナットの頭をもう片方の膝に乗せて支えてやる。
疲れが出てるのか痛みに朦朧としてるのか、チェスナットは少し眠そうな顔をする。
ぱっと見、だらけきったクソガキがソファで寝転んでジュース飲んでる姿と一緒だよ。思わずデコピンしてちょっかいかけたくなる。しないけど。
私がデコピン欲に耐えてる間に、チェスナットは順調に精気を吸収していって、私のスタミナが200くらいまで減っていく。でもそこでステータスの減少が止まった。
ん?200でいいのか?HPがカツカツだったはずだからもっと減ると予想してたんだけど。
不思議に思いながらチェスナットを見ると表情が険しい。すぐに焦ったように私の手をがじがじと甘噛みしてくる。
何か様子が変だ。
「チェス、どうした?」
「精気が吸えねえ。まだ半分も回復してねぇのに……」
反射的にチェスナットの身体をもう一度よく見る。すると、あの紫色の魔王リングが未だにまとわりついていた。もしかしたら色が薄くなってるから気づかなかっただけで、実は消えてなかったのか。
聖杯で触れてるのに何で消えないんだ?!
サンの時は……あれ、よく思い出すと聖杯をサンの頭上のやつと置きかえただけで、私は触れてなかった。
じゃあ何で今は弾かれずにチェスナットに触れるんだ?謎が多すぎる。
それに、回復が途中で止まるって……そう言えばステータス状態異常欄の下に気になる部分があった。すぐに詳細鑑定をする。
《聖剣の制裁:禁忌なるスキルを使用した呪い保有者が聖剣の制裁を受ける。制裁対象はHPが0になると消滅する。なお、制裁対象は戦闘行動不可。回復魔法及び回復薬による回復は無効。自力回復はHP総数の1/3までに制限される》
「戦闘行動不可、回復無効?!何これ!」
だからチェスナットは身体の自由が無さそうな動きしてたのか。
聖剣の制裁強すぎじゃない?ガチで呪い所持者を駆逐するための武器じゃん。
で、自力回復が1/3までってことは、精気吸収もそこまでしか出来ないってことだね。だから精気が途中で吸えなくなったわけだ。
ひとまず回復薬の回復無効の範囲が重症状態の傷口にも適用されるのか確認する必要がある。
「チェス、これちょっと待ってて」
「ん。これ何だ?」
「多分聖杯」
「は?これが?」
まあ見た目今ヘンテコだからね、チェスナットの反応もしょうがない。
私は聖杯から手を離すと鞄から回復薬を取り出し、歯で噛んで蓋を取る。そしてすぐさまチェスナットの腹部の血で染まった患部に回復薬をかけてみた。
良かった。液体とかは弾かないみたいだ。そのまま紫色の模様を素通りしてバシャっと傷口に回復薬が到達した。
「……どう?」
一応回復薬は私のHPステータスが無駄に高いこともあって全部上位回復薬だから、本来なら効くはずだけど。
「……気持ちスッキリした」
「治った?」
「いや、治ってねぇ」
「治ってないんかい!」
このやり取り最初に出会った時にもしたな。そういや、あの時も回復薬無駄にしたわ。これ、結構高いんだぞ?
早くも腐りだしてるので聖杯を持ってチェスナットの胸元あたりに手をおく。これなら呪いも解除しつつ、精気が要る時に自分で口をつけて吸えるだろう。
「チェスナット、調べるために黙って鑑定しちゃったけど、今あんた聖剣の制裁てやつの対象になってるらしいんだよね」
「あ?何だそれ」
「っ!!」
チェスナットは訝しむように声を上げた一方で、ダークは何か知ってるみたいだ。ショウを全力で睨んでいたけど、ピクッと反応する。
「戦闘行動不可、回復薬とかの回復不可、自力回復はHP1/3までらしいよ」
「はあ?!何だそのでたらめな効果は!?」
「だよねー、勇者の聖剣恐るべしだわ」
そらダークも素手じゃ絶対ダメって言うわな。
てかこれ、ダークも聖剣に掠ってたらヤバかったんじゃね?マジで凶器じゃん。危なすぎる。
「勇者の聖剣……あいつ勇者だったのか。……ん?勇者ってカナメの仲間じゃねぇのか?」
確かに別の勇者であるノゾミさんも仲間的な立ち位置になってくれたから、チェスナットは混乱するよね。
「仲間か仲間じゃないかで言うと、仲間じゃないね。むしろ今、あんたを巡って敵対してるっていうか……」
「……その傷もあいつがやったのか?」
「そうです!あの男、絶対許せません。ご主人の許可さえ出たらすぐにでも殺してやる」
私の代わりにダークがぶち切れ表情のまま喰い気味に答えて、私の腕を掴む手にギュッと力が入った。
「うん。ダーク君や、頭では分かってると思うけどさ、私は地球がひっくり返ってもそんな許可出さないからね?それから、腕ちょっと痛いかな」
「……すみません」
素直に謝りつつダークが力を緩めてくれた。
顔は……多少落ち着いてきたけどまだ怒ってるなぁ。
まあでも、こっちの話に入ってくる程度にはぶち切れ状態から脱却してくれたみたいだ。
そしてチェスナットに対して思うところがあるらしく、ダークがショウを相変わらず睨みながらも呟くように話しかける。
「……聖剣の制裁対象になったなら、二度と解除されません。そしてその状態でHPが0になると消滅します。『聖騎士の結界』が発動して死ねば……恐らくまだ魔王として闘えますけど」
どうしますか。
そんな問いかけが続きそうだ。
思わず私はハテナマークを頭に浮かべる。
んん?
『聖騎士の結界』が発動して死ぬと消滅しないで済むってこと?あ、死因が違うからか。禁忌の呪いを受けてるから別の要因で死ぬと魔王になれるってこと?魔王って死んだらなるもんなのか?
確かにサンの時もめっちゃ苦しんでたからあれで死にそうだったもんな。
でも、どっちにしろ辿る道は死って、救いようなくない?魔王になったら本格的に勇者と戦闘することになるだろうし……てかそもそも私には消滅と死の違いがわからん。
あまり把握できてないけど、チェスナットに尋ねられてるのは酷く冷たい選択肢だろう。ここで死んで良いのか、それとも悪足掻きをしたいのかって感じか。
「……聖騎士はあと何人残ってんだ?」
チェスナットはダークの問いに直接応えずに、聖杯の端を指でトントン叩く。
緑色の目線が胸元の聖杯に注がれて、何を考えているのか読めない。
「あと4人います」
「ちっ、多いな」
チェスナットが苦々しい顔で舌打ちした。
あと4人ってことは、ダークの土魔法の塔が3つ解除出来てるってことかな。
それならさっき魔法を使おうとしたのは、聖騎士の鎧が剥がされて無事解除できたから?
今は横槍入れて詳しく聞く雰囲気じゃないけど気になる。
「カナメ、残り時間は?」
「え?あ、あーっと……だいたいあと40分くらいだね」
ノゾミさん曰く、魔王誕生のカウントダウンが『聖騎士の結界』完成までの時間らしい。
私の場合、いったんシステムメール画面に行き、魔王関係っていう勝手に作られたフォルダにアクセスし、さらに一番最新のメールの中にあるアドレスを開かないとカウントダウン画面が見れない。ノゾミさん達の他の無効系勇者はステータス画面の端に常設で時間表記されるらしいのに!何でも呪い無効勇者にだけ出るバグらしいけど……ノゾミさんから聞くまで全然システムメールに気づかなかったわ。マジでクソシステム。
「残り3人になりました。そのうちの2名は順調にいけば20分以内には終わりそうです……あと1人は手強いのが残ってます」
私が心の中でシステムに悪態ついてる間にダークが実況してくれた。
「じゃあ、お前らが直接その1人のとこに行けば間に合うな」
ここでオレンジの瞳が初めてチェスナットに向く。
「……良いんですか」
「良いも何も、愚問だろ。オレ様は魔族の戦士だ」
「聖剣による重症以外の死因で死を拒絶すれば、まだ永らえるかも知れません。貴方や貴方の大切なものを傷つけた人たちに、少しでも爪痕を残せるかもしれない」
チェスナットが鼻で笑ってみせる。
「景色を守って死ぬのに、拒絶する理由なんてねーだろ。俺の大切なもの?大切なものなんか、景色以外にねぇし、まだ何一つ傷つけられてねぇよ」
翠の眼が遠くを眺めて細まる。
ん?なに?話についていけてないんだけど、チェスナットは死ぬつもりなの?
「こうやって逝くのも悪くねー」
「いや、悪いに決まってんじゃん。まだあんた子供だよ?長生きしないと!」
私をスッと見上げて捉えた。魔族の村で見せた時と同じ、覚悟の決まったあの眼だ。
「カナメ。残りの聖騎士どもの鎧剥がし、手伝ってくれねぇか?」
「いや、手伝うのは良いけどさ。あんたも一緒だよ」
「俺は行けそうにねぇ。この様じゃ、足手まといだ。置いてってくれ」
「置いてったら、死んじゃうでしょうが!」
「んなことは分かってるぜ。馬鹿じゃねぇんだからよ」
ニヤッと憎たらしい笑顔を浮かべて見せる。
何か、チェスナットが生きるのを諦めさせない言葉はないか?
「あれは?魂の欠片集めるために生きたいって言ってたのは?」
「……悪いがそれはカナメがやってくれ」
「いやいやいや、あんたがお兄さんに会いたいんじゃなかった?会って話したそうだったじゃん!」
マルローンと私が話したって聞いて、あんな顔するくらいなのに。生きたいって言ってたくせに。
「私は別に……って言ったら悪いけど、そんな義理ないしさ」
「じゃあオレ様の頼みってことで。義理立てしといてくれねぇか」
「強引か!」
「死ぬ前の頼み事くらい、お前なら聞いてくれんだろ?」
「っ!」
何でこんなあっさり諦めるんだよ。初めて会った時といい、チェスナットは何でそんなに死にたがりなんだ。
マルローンの魂を……ん?あれ、あの欠片……そう言えばサンの呪いを解くヒントとか喋りだしたからそっちの方が印象的だったけど、あの欠片がサンの魔王リング解除してくれてなかったっけ?
なんかあの時もテンパってたから忘れてたな。
あのキラキラ……もといマルローンの魂の欠片が今回も何かチェスナットを助けるヒントとか、手伝ってくれるんじゃないかな。
でも生憎私の中に入ってたマルローンの欠片は今ない。本人の身体に戻したから……マルローンのいる魔族の村まではチェスナットの足だと速かったけど、この状態だとかなり距離があるから時間がかかるよな……。
あ!そう言えばもう一個あるって言ってたっけ。
「塩の湖!!ここから近いんだよね?ダーク、チェス、塩の湖に行こう!」