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勇者との戦闘?

「……ご主人、勇者じゃないって言ったのに」


 ダークがポツリと声を漏らす。

 背負った状態だから表情は確認できないけど、暗い調子だ。


 そういえばチョウちゃんが去った後に私が勇者かって聞かれたな。称号が違うから勇者じゃないって言ったんだっけ。


 あれ?もしや今、嘘つきって思われてる?嘘をついたわけじゃないのにそう思われるとか、心外だわ。


「勇者かと言われると違うんだよね。気持ちは勇者なんだけど、実質は勇者じゃない、みたいな?私の称号、狂戦士だしさ」

「狂戦士で気持ちは勇者って……ご主人は勇者に憧れてるんですか?」

「いや、憧れてはないけどさ。まあでも、見習いだったから似たようなもんか」

「え……見習い?どういうこと?」


 余計に混乱したようだ、ダークは短く戸惑いの声をあげている。


「ねぇねぇ、もしかして君が背負ってる子どもエルフって、憤怒の魔王のなりそこない?」

「…………っ!」


 堕天者だからか、ダークは背中でびくりと体を強張らせた。

 ユウキ曰く、勇者は堕天者を殺そうとするらしいからだろうね。


 私は無言で声の主(ショウ)を睨みつけた。


 確かにダークは憤怒スキル持ちだけど、魔王になる予兆も予定もないわけで。それでも、わざわざ危険に晒すようなことをこのサイコパス野郎に言う必要はない。この勇者に下手なことは言わない方がいいだろう。


「えー、なんで睨むのさ?エルフの子供なんて通常ルートだと出会わないでしょ?その子、あの魔王の面影もあるし……僕だって毎回メインイベントを犠牲にして探してたんだけどなー。なかなかあの魔王にだけは辿り着けなかったんだ。イベント前に見つけ出せたのすごいよね。いったいどこに隠れてたの?」


 ショウが身体ごとこちらに向き直って興味深そうに顎に指を当てて尋ねてくる。数学の解き方を質問してくるクラスメイトのような表情だ。

 でも、彼の発する雰囲気にどこか違和感があって背筋に寒気が走る。


 そうか。

 何か違和感あると思ったら、あいつの目が異常に感じるんだ。新しい料理に舌鼓をうってるような、捕食者のそれに見える。


 ざわつく心をなんとか宥めて、深呼吸。

 チェスナットの容態が気になるけど、こんな時こそ落ち着いて対応すべきだ。


 今の最優先事項はチェスナットを助けて回復させること。ダークの安全を確保しつつ、なるべく早くこのタスクをこなしたい。


 でも、すぐに飛び掛かるべきじゃないと本能が警告してくる。


 この勇者(ショウ)は得体の知れない詐欺師に似ている。自然に自分の正体を隠しているような。でも隠し切れてなくて違和感があるような変な感じだ。


 今もだらんと剣を方手に下げて、隙だらけで一見弱そうな立ち姿だけど、私の経験上、こんな佇まいをした輩は恐ろしく腕が立つんだよなぁ。厄介なやつだ。


 特に厄介なのは、サイコパスってところ。こいつはなんの躊躇いもなく人を殺しそうなタイプだ。そんなやつの懐に不用意に飛び掛かると、ダークやチェスナットにも危険が及びかねない。


 乾いた唇を少し舐める。


「それ、答えたら何かいいことでもある?例えば、あんたの足元にいる子をこっちに渡してくれるとかさ」

「弟魔王のこと?もう手遅れじゃないかな?魔王リング出てきちゃってるからね」

「魔王リング?」


 初耳ワードが出てきた。


「コレだよ。このリングが出ると魔王化するまで攻撃できなくなるんだ」


 示すように、くいくいと聖剣の剣先を振る。

 促されるままにショウの足元にいるチェスナットへ視線を移すと、紫色の幾何学模様が浮かんでいた。


 あの模様、魔王リングって言うのか。ノゾミさんの言ってた半分魔王化ってこの状態のことかもしれない。


 でも、サンの時に浮かんでいた黒い方の輪がない……周囲の視界を霞ませる黒いモヤの発生源もチェスナットじゃないように見えるし。


 まあサンはあの状態から復帰できたから、まだ希望はあるはず。もちろん悠長には出来ないけど。


「知ってると思うけどさ、この魔王はすばしっこいんだよ。せっかくリングも出てない状態だったから、あとちょっとで攻略が楽になってたのにね。君と話してたから遅くなっちゃった。これじゃあ攻略が長引いちゃうよ?」


 やれやれとわざとらしく肩をすくめているけど、余裕のありそうな表情だ。試験勉強バッチリ終わった状態で勉強してないよって言うクラスメイトを思い出させる顔だわ。

 魔王攻略への気負いなんて皆無な態度だ。


「じゃあ、そこをどいてくれない?あとは私が好きにさせてもらうからさ」

「あはは、何それ。この状態で何かしようっていうの?やっぱり色欲の魔王イベントを直前で中止させたのも君だったんだ?」


 ショウがまた表情だけで笑って見せる。


 こいつ、良い勘もってるな。

 一応ポーカーフェイスしてるけど、決めつけてきてるから意味ないな。


「僕としては色欲の魔王がどうなろうと興味ないんだ。でも、強欲の魔王(こっち)はこの後の僕のメインイベントにかなり絡んでくるからね。攻略しておきたいかな」

「さっきは新しい展開を喜んでなかった?それなのに正規の魔王攻略は大事なんだ?」


 新しいルートを求めるくせに、決められた未来(イベント)を望んでいるなんて、矛盾している。


「あれ、聴こえてたの?盗み聞きするなんて失礼な人だね。まぁこの世界はどんな展開でも自由だからさ、お互い過程(プロセス)は楽しまないと損でしょう?でも、結末(ハッピーエンド)は一緒だ」


 肩をすくめて困ったふうな顔を作って見せる。表情だけ動かして、何も感情の込められてない黒い眼に私が映る。


 まるで退屈だと言わんばかりにショウは続けた。


「勇者が魔王を殺さないと、今の世界(・・・・)は終わらないし、始まらない」

「要するにチェスナットを渡してくれる気はないってことかな?だったらこっちも実力行使するしかないんだけど。私、結構強いよ?」

「ふーん。そうなんだね」


 うう、はったりかましてみたけど反応薄いや。多分迫力がね、ないんだよね、私。


 怒気スキルも発動条件満たせてないしな。チェスナットは負傷してるけど、サイコパス相手だと怒ると言うよりドン引きの方が勝つから、いまいち怒りのボルテージが上がらないんだよな。

 交渉で何とかなればと淡い期待を寄せてたけど、厳しそうだ。ショウはあくまでも冷静で、私の怒りのポイントから微妙にズレているんだよな。


 それでも実力行使でいくなら、やることは何が何でもチェスナットの傍に行くことだ。多少あの輪っかに弾かれようが無理やり接触して呪いを解除して、精力を回復させればまだ間に合うはずだ。


 怠惰スキルと忍足スキルを使って一瞬であそこへ近づくことはできる。

 問題はその後だ。

 チェスナットを連れて逃げ切るよりも、ショウを吹き飛ばした方が速いだろうけど……どうやってするかな。


 まあ正直言って選択肢なんて、ノリで突っ込んでノリで殴るなりタックルするなりして吹き飛ばす肉弾戦しかないよね?


 一つ懸念材料は、怠惰スキルは使い方次第で有用だけど、使用後のタイムラグが馬鹿にならないってこと。


 ビックリ作戦なら相手の急所を押さえてるから、相手がびっくりしてる間に時間が過ぎる。それでも強敵相手だと2回目以降は通用するか怪しい。

 正直実戦だと数秒が命取りになるから、今のレベルだと不向きなんだけど。選り好みしてる場面でもないよな。


 そして更に懸念するなら、隙をついてショウの急所を抑えたとしても、勇者に通用するかどうかの保証がないってところだ。

 勇者って魔法とかスキルとか充実してそうだからな。特に私は他の勇者だちが経験済みのゲームをやってない。一般キャラと勇者がどう違うのか、そもそも知らないって痛いよ。

 ユウキの言葉を思い返すに、私の勇者見習いとは違って他の称号は強いってのは知ってるけどさ。


 まあぐだぐだ考えてもしょうがないし、やるしかないか。


 チェスナットは魔王リングのおかげでショウの攻撃は当たらない。ダークは私に触れてる限りステータスが割と高い。最悪は私が盾になるとしても、万一攻撃が当たっても(かす)るくらいなら致命傷にはならないはず。


 一呼吸おいて、共有スキルをこちらの権限で起動させる。


「ま、待って。ご主人、待って」

「ぐぇっ」


 突如ダークが小声で静止の声を上げて私の首を絞めてきた。


「けほけほ、ちょ、ダーク、何でいきなり首締めた?!」


 変な声出たの、地味に恥ずかしいんだが。


「あ……ごめんなさい。でも、気のせいかもしれないけどご主人が今、勇者に飛び掛かろうとしてたように思えて……」

「え?そうだけど」

「嘘だよね?!気のせいであって欲しかったのに!ご主人は素手でしょう?魔法も使えないのにそんなバ……無謀なこと、本気でやろうとしたの?」


 ダーク、今バカって言おうとした?


「…………そうだけど」

「そんなバカな!聖剣の性能は知ってるよね?!」


 結局真っ向からバカって言われてしまった。


 うぅ、心にグサッとダメージが。


「まあ、聖剣って言うからには凄く切れ味良いんだろうなって予想はしてるけども」

「予想って……確かにご主人、聖剣の精霊も知らなかったね」


 ここで、「はぁ」とダークがため息を吐く。


「ご主人が魔族を助けるのは止めないよ。でも命を危険に晒すのなら、僕はその瞬間一切の手助けを放棄するからね」

「えぇー。冷たい」


 それって土魔法の塔も解除するってことだ。魔族全滅の危機じゃん。


「冷たくないです。土魔法を解いて『聖騎士の結界』が発動しても、ご主人も僕もノーダメージなんですから優先度が違います。とにかく素手で勇者と戦うのは絶対ダメだよ」

「ぶーぶー」


 口で小さくブーイングしてみる。でもこの反応だと譲ってくれそうにないなぁ。


 私たちがコソコソとやりとりしてる間、ショウは聖剣でチェスナットの魔王リングを軽く突いて弄んでいる。金属の弾かれる高い音がちょくちょく聞こえてくる。


 強者の余裕ってやつだな。


 そもそも最初から私とやり合う気なんてないのか。はたまた弱過ぎて戦う相手という認識にすらなっていないのか。


 ただまあ、少し冷静になると冷たいやつと言ってみたけどダークの言葉も一理……いや、三理くらいある。寧ろど正論だ。


 私が死ぬと呪い解除出来ないからダークにとっても死活問題になる。だから、協力しないってのは理が通ってる。


 しかも武器持ち相手に素手で飛び掛かるのは、やはり常識的に考えてよろしくない。これまで、なんだかんだやれてたから感覚麻痺してたわ。


 聖剣はよく切れるらしいし、あのリングに接触して黒くならないと言うことは、それなりに頑丈そうだ。


 ただ、素手はダメって言われてもなー。今全く武器持ってないんだよなー。


 心の中で反論しても仕方がないので、何か硬いものでもないかとカバンの中を探る。


 呪いの棍棒があれば……それかダガーでも……どっちも失くなったんだよね。不可抗力とはいえ、惜しいことしたな。特に棍棒はスキルとも相性良かったし。


 武器を調達した方が良いと知りつつも、ピンとくるものがなくて買わなかったんだよね。初期に手に入れた武器の性能が良かっただけに、それ以降の街で置いてる武器が見劣りするというか。

 攻撃力10や100アップしたところで私の物理攻撃力ステータスからすると、もはや誤差の範囲だもんな。試しに途中で横取りした(手に入れた)盗賊の刀(物理攻撃力+80)を振ったら耐久性が無いのか一回振っただけで壊れた。なんなら素手のが強度あるって言うね……


 てか、見知らぬ街でショッピングってハードル高いんだわ。露店ならまだしも専門店ってさ、知り合い居ないと敷居が高くて入れないやん。しかも勇気出して入った後に欲しいものが店頭に並んでなかった時のあの微妙な空気がね、苦手なんだわ。


 ガサゴソと鞄を探っていると、取手のようなものが手に触れた。


「あ、これがあったか」


 異様に重いドアノブ……もとい聖杯を取り出す。

 身体強化のおかげで多少は重さも軽減されてるみたいだ。片手でなんとか肩の高さまで持ち上げられるって感じ。でもこの重み、もはやダンベルだな。今度筋トレに使うか。


 それはさておき、聖杯(これ)なら硬そうだから盾代わりにはなるよね?もうちょい長いと長剣相手でも防ぎやすいんだけど……。


 そう思いながらギュッと握り込むと、取っ手の部分が伸びた。


「は?!伸びた?」


 何この如意棒みたいな棒。あくまで聖杯だと主張したいみたいで先っちょに(さかずき)部分がちゃんとついていて不恰好だ。


 まあ、とりあえず素手じゃなければダーク基準を満たすからこれで良いか。頑丈そうだし。


 てかこれ、形はどこまで変えられるのか気になるな。

 盃の方も大きくなるのかな……あ、ちょっと変化した。ハンマーのなり損ないみたいな……うーん、不恰好が更に変な形になったな。ただでさえ重たいのに重心がズレて扱いにくいし元の形に戻しておく。


「ダーク、これならいいっしょ?」

「…………微妙」

「おい」


 確かに微妙だけどさ!辛口だ。


「素手じゃないんだから良いってことにしてよ。時間ないし!」

「うぅん」

「よし、じゃあ行くからね!ちゃんと魔法維持しててね?」

「……うーん、なんか、使い方が違うと思うけど」


 有り寄りの反応なのでゴリ押しで準備に取り掛かる。


 怠惰スキル、そして共有スキルを通して忍足スキルを起動させる。すぐに体感時間1秒もかけずに一瞬でショウの背後に立った。

 それから野球のバッティングの要領でショウのお尻目掛けて手に持つドアノブをフルスイング!……の、はずだった。


 ブンッ!


 信じられないことにスカッと棒が空振りした。まるで相手が透明人間にでもなったかのように。


「えっ?!」


 思わず驚きの声が漏れた。


 まさか。何か勇者のスキル?!


 と、警戒しようとしたところでお馴染みの機械音が鳴った。


 《魔王イベント期間中、勇者間の対戦は不可》


「げっ!?マジか」

「えっ!わー、すごい!いつの間に近くに来たんだい?」

「勇者に攻撃出来ないじゃん!」

「え、そうだよ?知らなかったのかい?」


 パチリと驚いたようにショウが目を丸くする。


 あ、これは、素だな。


 それにしても勇者間の戦闘って、出来ないのか。


 だからショウは呑気にチェスナットの魔王リング突いて遊んで、微塵も警戒してなかったのかよ。


 でも、それなら好都合だわ。

 攻撃出来ないなら向こうもできないってことで……すぐさまショウの足元にいる優先事項(チェスナット)(かが)みこみながら手を伸ばす。


 あと少しで()れるところで、何故か危機感知の警報が鳴った。同時に首筋に冷たい感触が走る。

 嫌な予感と共にすぐに体勢を戻すように()け反らせた。


「ふふ、危なかったねぇ。もう少しで動脈が切れてたよ」


 まるで他人事のように楽しそうに笑いながら、ショウが顔を近づけて囁いてくる。鳥肌が立った。


「何で……」


 頭の処理が追いつかない。


 先ほど冷たい感触のあった首筋に手を当てて見ると、そこそこの量の血で真っ赤に手が染まった。

 幸いHPはそこまで減ってないけど……私のステータス状態異常の欄に軽症の文字が点滅している。鑑定する暇は無いけど毎秒5ずつ減っていくから、流血系の怪我は徐々にHPが減る仕組みみたいだ。


「……対戦出来ないんじゃないの?!」

「そうだよ。対戦()できないんだよね」


 勇者は更に目を細めて笑ってみせた。


「君が勝手に僕の聖剣がある場所(・・・・・・・・・)首を突っ込んだ(・・・・・・・)だけだ」


 何だその屁理屈は!そんなの有りなのか?!

 いや、有りだから実際に私の首に傷ができたんだろう。でもさ、そんな抜け道あるとか酷くね?!


「血が出ちゃってるよ?気をつけないと」


 お前がやっといて、どの口が言ってんだ!って言ってやりたい。でも今はそんなことよりも、次のことを考えなきゃだ……


 ショウはこのシステムの抜け道を知ってる。この調子だと他にもありそうだし、知ってそう。


 困った。


「……怪我したの?」


 背中からポツリと呟きが聞こえた。


 グシャ、ズザザッ!


 直後、まるで真冬に霜で凍りついた枯葉を踏むような音がする。


「?!」


 音の方を見ると、ショウが数メートル吹き飛ばされて転がっていた。


 これは……拒絶スキルかっ!!


 そう言えばこのスキル、相手を吹き飛ばせるんだった!


 怠惰スキルは私のスキルだから、ダーク自身の発動スキルと合わせられない。怠惰スキルが発動する間は私以外の時間が変わるから、お互いのタイミングを把握するのが難しい……というか不可能だ。

 だからすっかり頭から外れてたよ。


「ダーク、ナイス!」

「……殺す」

「ん?!」


 怖い言葉が可愛い声で聞こえてきたなぁ、聞き間違えかな?


 私の顔の横にダークの腕が地面に対して水平に伸ばされると、広げられた掌に風が巻き起こる。


「いや!待て待て、タンマ!殺しちゃダメだし!」


 慌ててダークの掌に先ほど自分の首を確認して血がついた右手を重ねて阻止した。


「何故止めるんですか!離してください!あの勇者は中途半端な火力じゃ効きません。間違いなく息の根を止めるには、一旦手の上で魔力を溜めないと!」

「いやいや、だから、ダメだってば!」


 振り解かれないように強くダークの幼い手を握りこんだ。


 ダークのブチ切れモード、今日だけで何回目だ?!何でこんなすぐキレるかな。

 カルシウム足りてない?今度ガチで牛乳買おう。それか魚食べさせるか。


 少し離れたところで一際大きな喧騒が聞こえてきた。この様子だと聖騎士が解放されちゃったのかもしれない。


 ダークが制限いっぱいだった魔法を使おうとしてるってことは、土魔法を少なくともひとつ解除したってことだ。


 善意で協力してくれてるから、強制はできないんだけども、あらゆる面で切羽詰まってきてるな。


 とにかく目前のことだけでもクリアしていかないと。


 少なくとも、ショウが離れたこの隙を逃すのは悪手だ。


 ダークの手を繋いだ状態でチェスナットの側に座りこむとドアノブ聖杯の棒をひび割れた地面の隙間に刺し、手を伸ばした。


 バチバチバチッ


「くっ」


 やっぱ弾かれるか。


 でも、不思議とサンの時みたいに黒い煤がつかないし、HPも削られなかった。


 何でだ?

 いや、今はそんなことを考察する時間はない。

 サンの時はどうしてたっけ?サンに触れるようになったきっかけは……。


 聖杯じゃん!


 慌てて聖杯の棒を掴む。


 ん。

 あれ。


「手が足りん!!」


 片手はダークと手を繋いでて、片手は聖杯の棒。手は2つしかないから文字通り手が足りない!


「ダーク、勇者を殺すのは無し。いい?」

「嫌です」


 即答かよ。


「ねぇ、今のって、何?驚いたな。いきなり吹き飛ばされたんだけど」


 ショウがむくりと上半身だけ起き上がって尋ねてくる。


 だあ、もう!時間が惜しい。


 とにかく一刻も早くチェスナットに触れないと!


 ……ん、あれ?手である必要がないわ。


 残された選択肢……私はそっとチェスナットを踏みつけた。

※勇者間の戦闘が出来ないとダークは知りません。そしてカナメはテンパってて気付いてません。

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