魔法攻撃無効の勇者に会いました。彼女は腐ってます。
「はうぁ!!?」
チェスナットがマルローンに話しかけてすぐに、奇妙な声が外から聞こえた。
「誰だっ!」
瞬時にドアを開けて外を確かめるチェスナット。
「ん?!女?」
チェスナットが困惑したようにドアのところで立ち止まった。私もチェスナットほど速くはないけど、外に出て確かめる。
すると、そこには口元を両手で押さえて赤面している若い女性がいた。格好は、胸の辺りまではシルバーメタルの鎖帷子、途中から腰の辺りまで革製になっている上着、腰から下は適度に動きやすそうなフレアスカートを履いている。見るからに冒険者用の服装だな。
そして腰には煌びやかな長剣が下がっていて……あの剣、見覚えのある意匠……もしかして、聖剣?
この女性の年齢は、だいたい高校生くらいだろうか?軽くウェーブのかかった黒髪セミロングが、耳よりも低い位置で二つ結びされている。
「うぅ、三日三晩お待ちした甲斐がありましたわ。魔王イベが始まってしまったから、もう出会えないと諦めてましたのに。まさか、まさか生で伝説の双子カプの絡みを拝められるなんて!!しかも、見たことない新シチュだわ!!あぁあ……、これが現実世界だったらスクショ連打で全てのシーンをプリントアウトして常に観賞いたしますのに……!!いっそこの眼に焼きついた光景を現像できたらよろしいのに……あぅぅ、もったいないですわぁ」
女性が高速独り言を呟きながらクネクネと悶絶している。
ん?なんか、うん。
この世界には馴染みがないはずの、聞き覚えのあるオタ系俗語が連発されている……。
「何だ?何言ってんだ……?」
「しかも!これは新実装されたチェスナット様の魔王バージョンだわ!私の二推しシチュ!世界は私の味方ですのね?!でも魔王イベが始まってるのに、まだチェスナット様がご健在だなんてこんなことがあるなんて!……はぁぁ、俺様受けも好きですが、やはり俺様攻めが私好みなんですの。エピが始めのシーンから流れないのがこの世界の惜しいところですわね、もっと早くこちらに来て待機しておくべきでしたぁ」
「…………」
うっとりとした汚れた目でチェスナットを見つめて悦に入っている。
チェスナットの問いかけなど全く耳に届いていないようだ……というか、呪いで聞こえてないのか。まあどちらにせよ聞こえてなさそうだ。
異常な雰囲気を察知して流石のチェスナットも本能的に忌避感を覚えたようで、無言で怪訝な表情を浮かべた。
……うむ。私は察した。
これは、純粋なお子ちゃまに近づかせてはいけない系の人だ。私が聞き齧ってきた中でも危険な部類のやつ。
チェスナットは呪いで腐るけど、こっちの女性は思考が腐っている。
「なあ、カナメ、あいつの言ってること、分かるか?」
チェスナットが戸惑いながら尋ねてくる。
「チェス、あれは聞いちゃダメだ。ちょっと、失礼」
「あ?」
私は振り向いてきたチェスナットの耳を塞いで一呼吸。
「あの、あなた、勇者さんだよね?チェスナットが困惑してるから、腐女子ワードは控えてもらってもいいです?」
「まあ!あなた……腐女子なんて言葉をご存知ってことは……やはり、あなたも勇者なのですのね?」
「どうも、呪い無効のカナメって言います」
「初めまして、私は魔法攻撃無効のコウノ ノゾミと申します。ノゾミとお呼びくださいませ」
生粋の冒険者って格好なのに、見事なカーテシーを決めてみせる。
これは……お嬢様って感じ。だけどこの子……腐女子……てことは、正真正銘の噂に聞く汚嬢様ってやつだ。
「あの、あなたはここで何を……」
「それでカナメさん!いったいどうやってメインイベントから外れたこのシチュへ辿り着けたのか、お伺いしても?」
うん、この子、人の話を聞かない人だ。私も大概聞かない方だけどさ。聞かないの質が違うよな。
こんなに目はキラキラしてるのに汚れて見えるのは、かつてクラスに何人かいた腐女子達を彷彿とさせる。
まあ、仕方ない。
ひとまずこの人の聞きたがってる話を進めてみるか。変に暴走されても困るし……。
それに、様子を見てみないとユウキの前例もある。今回もまた、あんなふうに捕まえられるなんて、ごめん被りたい。
チェスナットの方は自分の耳を塞ぐ私の手に自分の手を重ねて、何故か目をぐるぐるさせているから丁度いい。少しの間、このまま大人しくしててくれ。
「呪い無効の勇者だからさ、チェスナットの呪いを解いてここまで連れてきただけだよ」
実際は連れ去られてきたんだけど。
「そうなのですね!あぁ、確かに堕天されて手遅れになっても呪い無効があれば、この神シチュが作れますわ!何で私は今までこんなことにも気づけなかったのかしら?!初期イベントで呪い無効勇者はゲームオーバーしちゃいますから、魔王イベのシチュに到達するところまで考えが及びませんでした!素晴らしいです!!凄いですわ、カナメさん!!」
ノゾミは手をぱちぱちと叩いて尊敬の眼差しを向けてきた。
なんか、絶賛されてる?
「私、正直言って推しカプを見る以外でこの魔王攻略には全く興味ありませんでしたが、あなたのおかげで新エピを拝めましたので感謝申し上げますわ」
「あぁ……うん」
何故か感謝された。
それにしても、さっきから新シチュだの、魔王攻略だの……ちょっと引っかかるワードが出てくる。チェスナットは呪われてるけど……魔王候補じゃないはず。咎人にあたるマルローンは魂抜けちゃって、堕天させられるどころじゃないし……それらしいカオスの連中も見当たらない。
そもそも私、魔王攻略イベント自体がどんなものなのか分からないんだけど……一体誰が魔王になるんだ?
「あぁでも、呪いのためにチェスナット様がマルローン様に何と仰っていたのか聞こえなかったのが心残りです……スチルだと字幕がつきますのに。カナメさんなら、聞こえましたわよね?どんな会話をしてらしたのか、是非詳しくお聞かせ願いたいですわ」
「あぁ、まあいいけど……あの、後ででもいいかな?今、3000くらいの軍がこっちに来てるみたいで、時間もないし……」
「まあ!!そうでしたわ!!」
思い出したようにノゾミがパチンと両手を叩いてみせる。
「そろそろ騎士様がご到着されますのに!私、危うく時間管理を怠るところでした。この後のファーバル出会いエピを見逃すなんて有りえませんわ!」
「ファーバル……エピ?」
何?エビの名前か?
「私の一推しエピソード、聖騎士ファークス様×魔族バルサム様の出会いの場面ですわ!!それに備えてこちらで下準備をと思っていましたが……まさか、伝説の双子カプのこんな奇跡の絡みに出会えるなんて!思わぬおこぼれに預かれましたわ。チェス×マルは少し私には幼過ぎるのが、その関係性が……」
やばいわこの人、弾丸トークが止まらない。一旦遮ってでも聞くべきこと聞かなきゃ。
「あの!あのさ、ノゾミさんは、その魔王イベントって、何が起きるか知ってるのかな?」
「まあ!!もしかしてカナメさん、まさか、このブレイクトリチェリーのゲームをご存知ない?!」
「ブレ……何て?ゲーム?」
「ブレイクトリチェリーですわ。ここ数年で配信されたスマホのRPGゲームです!」
「あ、……やっぱそうなの?」
スマホゲームなのか。そういやユウキもゲームって言ってたもんね。壮太もそれ関係で知ってたのかなぁ?早く出会えたら教えてもらえるのに。
そういや、このノゾミさんて人は堕天者を前にしても殺気立ってない……魔王を攻略する気ないみたいなこと言ってたからかな?なんかさっきから言ってること腐った系の思考だもんなぁ。
と、ここで旋風が巻き起こる。
「ご主人!!大丈夫ですか!この人はいったい……」
空からダークが降ってきて、私と女勇者の間に立って構えた。
「あら!!……エルフの、お子様?」
ノゾミが小さく息を呑む。対するダークは臨戦態勢だ。
「ご主人、ご指示を!」
「いや、ダーク、その人は敵じゃないよ」
一応言っておかないと、黒い鳥の女の子チョウちゃんの前例があるからな。性別関係なしに攻撃しかねない。今回は攻撃する前に指示を仰いでくれただけありがたい。
私の声かけに、ダークは不安そうに狼狽えた。
「てかダーク……来るの、速くない?!」
まだ別れて15分くらいしか経ってないのに、あの距離を移動してきたのか?
「貴方がいないのに、魔法も使わず走る必要ありませんか、ら……」
「いや、魔法使ったら危ないでしょ?敵に気づかれたんじゃ……ん?」
「…………」
こちらを振り向いたダークが、私とチェスナットを見ると、すぐに眉をひそめてズンズンと近付いてくる。
そして、無言でチェスナットの手と私の手を引き剥がすと、流れるようにチェスナットの脇腹へ向かってドンと横蹴りをした。
「どぅわっ!」
「ちょ、ダーク?!」
チェスナットがダークの蹴りで数メートル吹き飛ばされて地面に倒れ込んだ。
ダークは手の包帯を解いていない。私に直接触れてないからしょぼいステータスの攻撃だ。だから大した威力じゃないと思うんだけど……あんなに吹っ飛ばされるのか。
背後からの攻撃だから、当たりどころが悪かった?
「この、クソ魔族っ!二度とご主人に近づくな!」
わーお、お口が悪い。
ダークがこんな暴言を吐くなんて!いったいどこでそんな口調を……って、私か。しょっちゅう悪態ついてたわ。
ダメだ、私、ダークの悪いお手本になっている!今度からちょっと、お嬢様の言葉遣いを真似てみようかな。今日からはノゾミさんを参考に、腐のない感じの女子を心がけてみよう……ささやかに決意した瞬間である。
「……ちょっと、お取り込み中失礼しますわ。あなた、ひょっとしてオズ様のご親戚にあたる方では?」
「なっ?!」
唐突にノゾミが、ずずいとダークに近寄って顔を確認し始めた。
ダークはびっくりしたように目を見開いて、サッと私の後ろに隠れた。
人見知りが急に発動してる。ちょっと可愛い。
「よく見てもオズ様にそっくり……でもお顔が幼いですものね。ご本人ではないでしょうけど」
「オズ様って?」
もしダークの親戚がいるなら保護者になってくれるかもしれない。
ん?そういや、それに近い名前をユウキも言っていたような……。
「あ、そうね。カナメさんは知らないのよね、エルフの……」
「おいダーク!お前!痛えじゃねぇか!オレ様が構えられない状況で背後から攻撃なんて、この卑怯者め!!」
チェスナットが復活して私の腕にタッチしながらキレ始めた。こんなキレてんのに、腐る呪いの解除は怠らないんだね。ちゃっかりしてるわ。
「卑怯だなんて心外です。そっちが先にご主人をいきなり拐っていったんだから、どんな攻撃でもされて当然でしょう。まだ仕返しが足りないくらいです」
「オレ様はカナメを借りるってちゃんと言っただろ!?オレ様を不意打ちで蹴るなんて、舐めたことしてくれやがって!!HPがめちゃくちゃ減ったじゃねぇか!」
「そのままゼロになればよかったのに」
「言ったな?!はっ、この野郎……敵兵をやる前の準備運動にちょうどいい。すぐにその首掻き切ってやるぜ」
「君の方こそ。本当に命が惜しくないみたいですね」
チェスナットが八重歯を出しながら顔を顰め、ダークもダークで眉間に皺を寄せて、片手には風が集中し始めている。
私を挟んで。
まさに一触即発だ。
もう一度言う。私を挟んで。やめてくれ。
でも、ちょい待ち。何かおかしい。
私はこの2人の会話と行動に違和感を覚えた。
「ストップ、ストップ」
「止めないでください」
「止めるなカナメ!」
2人は睨み合って私の止める言葉に反発してくる。
「いや。確かに、喧嘩も止めたいところだけど。私が止めてる理由はそこじゃないんだわ。チェス、あんた今、HPが減ったって言った?」
「ああ!ダークのやつ、オレ様が動けないのをいいことに思いっきり蹴ってきやがった!!せっかくカナメの精気で全部満タンだったのに、2000も減ったぞ!!」
「君が悪いんです!公衆の面前でご主人に耳を抑えさせるなんて破廉恥なことして!」
「なっ!?抑えさせてたんじゃねぇ!勝手にカナメがやってきたんだ……!」
チェスナットが真っ赤になる。
ん?待て待て。
耳を抑えるのって破廉恥なのか?コイツらの破廉恥基準が分からんのだが。
「ほんとお前の主人なんとかしろよ、マジで!いきなり人の耳抑えるとか痴女すぎるぞ!」
「う。ご、ご主人だって、好きでした訳じゃないはずです!その、知らなかっただけで、多分、君がうるさかったから……」
「オレ様は全然騒いでなかったぞ!ただあの女が言ってることについて聞いただけなのに!」
「待て待て君たち。まず、チェスナット、お前は大声で私のことを痴女と言うな」
それこそ公衆の面前で恥ずかしい。
だいたいはもう戦場に向かってるみたいだけど、村人達がまだ何人か道を歩いてるんだぞ。めっちゃこっちをチラチラ見てきとるがな。
「魔族は耳を抑えられると動けなくなるんだ!エルフ連れといてそれを平気で勝手にやってくるとか痴女でしかねぇ!」
「いや、そんなこと流石に知らねーわ!」
ほんとコイツらの種族あるある何なんだ?!マジで知らないことでとやかく言われたくないんだけど!
「エルフだって同じだぞ?!一緒にいるくせに何で知らねーんだよ!!」
私はダークを振り返る。聞いたことないんですが。
ダークが私の無言の視線を受けてモジモジする。
「僕はご主人にそんなこと……されたことないです」
「まあ、普通しないけどさ。目は隠したことあるじゃん。その時にでも言ってくれたらよかったのに」
「別に……ご主人にされても……ですし」
ちょっと、そこで赤くならないで。そんな表情されると、なんかこっちが恥ずかしくなって謝りたくなるわ……。
いや、違う。今大切なのはそこじゃない。
私の背中側から抱きついているダークの頭をフード越しにポンと撫でる。
「ダーク、落ち着いて、冷静に考えて欲しい。私に直接触れてないのに、何でチェスナットに2000もダメージを与える攻撃力があんの?ステータスダウンの呪いは?」
「あ……。確かに……」
ここでダークもやっと異変に気づいてくれたらしい。頭に昇っていた血が下がったようで、ハッとした表情になった。
そう、ダークがチェスナットを蹴り上げた時、私に直接触っていなかった。
ちなみに今もダークは私を服の上からしか触っていない。私はすかさずステータス画面でダークの項目を見てみる。
名前:ダーク
種族:エルフ
LV:45
称号:森の住人
加護:大森林の加護、最上級隷属の加護、煉獄の加護
ユニークスキル:魔力操作LV6、感知LV6、森の知識LV8、風格LV5、HP急速回復LV4、MP急速回復LV4、拒絶LVmax、憤怒LVmax
スキル:火魔法LV4、風魔法LV7、水魔法LV5、土魔法LV6、光魔法LV5、闇魔法LV5、弓撃LV5、堅牢LV3、連撃LV5、一閃LV5、忍足LV8、共有LV8、耐性LVmax、不屈LVmax
HP:11238/11228(+10)
スタミナ:3113/3114
MP:28658/28158(+500)
物理攻撃力:21500
物理防御力:15069(+2500)
魔法攻撃力:35012(+1500)
魔法防御力:25890(+3080)
回避力:1580(+500)
テクニカルポイント:10
「ふむ、今、ダークの呪いが消えてるね」
ステータスダウンの呪いどころか、他の呪いも見当たらない。
「いつの間にか呪いが解けたのかな?」
「そんなはずは……」
私の問いかけに、戸惑いながらダークが私から手をそっと離す。
すると、ダークのステータスの数字が変わり、見慣れた貧弱ステータスへと戻った。
「……解けたわけじゃないみたいですね」
ダークも自分の体の変化を感じ取ったようだ。
「ふむ」
じゃあ、あれか?考えられることは一つ。
呪い無効スキルがレベル2に上がって、『接触』の範囲が拡がったってことか?
表記は変わらなくても、定義が変わっていたようだ。まさかここでそのことに気づくとは……盲点だったわ。
くそシステムめ!分かりにくいんだわ!意地悪!
「おい、そんなことはどうでもいいんだよ!ダーク!オレ様を蹴りやがって!ただで済むと思うなよ」
「どうどう。チェス、あんたにとっても朗報だよ。服の上からでも呪いを解除出来る」
「……それが何だよ?」
まだ牙を剥いてフーフーと猫みたいにダークを威嚇するチェスナットの包帯頭をポンと叩いてこっちに顔を向けさせる。
「包帯を完全に巻いても大丈夫ってこと。これから戦う時に便利でしょ。さあ、左手、出して。ちゃんと巻いたげるから」
「…………ん」
納得はしてなくても実利を取るところはやっぱ純粋な子どもの証拠だな。
ブスッとしつつも左手を差し出してくる。
「チェスナット、ごめんね。減ったHPの分だけまた精気っつうの?それを吸っていいからさ。怒んないでやって。ダークも呪い解けてないと勘違いしてたんだよ。チェスがそこまでダメージ喰らうと思ってなかったんだ、許してやって?」
「……ふん!今回だけ特別に見逃してやる」
そっぽを吐くチェスナット。
なんやかんやチェスナットって譲歩してくれるよな。クソ生意気なくせに融通が利く奴だ。
対するダークはしかめ面で私に何か言いたそうにしてくるけど私が視線で止めさせる。
これ以上無駄に言い争うのは面倒くさい。
幸いダークは私の意図を汲んでくれたのか、眉間に皺を濃く刻みつつも押し黙ってくれた。
でも、ダークが私の脇腹を掴む手が痛い。何でこの子はすぐ私の脇腹を握るかなぁ?!そこ、ちょっとだけど肉があるんだってば。
「それにチェス、そろそろ戦場に行かないといけないでしょ?」
「あ!そうだっ!急がねぇと!」
慌てて私の手を掴むと、まるで朝食のパンでも食べるかのようにパクッと親指と手首の間にかぶりついた。さっきのゆっくりとした動作とは違ってスタミナが一気に300くらいなくなる。HPも10減った。
精気は食べ方でスタミナ消費量が変わるのか?謎が多い。
まあ、マルローンの遠慮のかけらもない1500と比べれば…… 300とか可愛いもんだ。
チェスナットが無遠慮にかぶりつくと同時にダークは何か言いたげに後ろから私に抱きついてくる。
はぁ、なんだろ。
この幼い子どもたちのおもちゃになったような気分は。頼むから解呪器の取り合いをしないでほしい。
幼稚園児に言うみたいに、交代ばんこだよって言わなきゃいけない?
「はぅあぁ、チェスナット様に、双子カプ以外でこんなに萌える未実装のカップリングがあったなんて……!その、オズ様のご親戚は、ダーク様というお名前ですのね?」
「あ……うん。まあ」
そういえば勇者がいたわ。
空気のように黙ってたから忘れかけてた。
さっきまで喋り倒してたくせに……。
「新カプの誕生に、つい言葉を失っておりましたわ。このカップリング、どちらが攻めになるのかしら?どちらも捨てがたくて……これは、捗りますわ」
「なぁ、カナメ。今度はちゃんと教えてくれ。あの女は何を言ってんだ?」
「……ご主人、僕も気になる。何が捗るのですか?」
「君たちは聞いちゃいけません」
教えてくれと言われても困る。私も理解したくないんだから。
「あぁ……もっとご健在なチェスナット様を眺めていたいですのに。あと1時間40分でチェスナット様が魔王化されてしまうなんて、もったいないですわ」
「ん?あと1時間40分?チェスナットが魔王化?何それ」
心から残念そうな顔をしながらノゾミが頭を振るけど、不穏な言葉が発された。