表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/150

ノズ②

 このパッと見、野生児という感想はどうやら間違ってなかったらしい。


 フィント曰く素手でブラウンウルフを倒しきったらしい。マジでやべぇ。


 言うまでもねぇことだが、普通魔物と戦う時は人族なら武器を使った方が遥かに攻撃力がアップする。本来の物理攻撃力に武器の攻撃力、更にはスキルが合わさって、総合すると本来の2倍くらいの攻撃力に跳ね上がるからだ。


 それを単純な物理攻撃力のみで倒し切るなんてどこの筋肉馬鹿だ。


 修行僧が昔そんな戦い方をしてたのを見かけたが……アイツはかなりの死闘を繰り返してきた特殊な思想論者だったな。あの時は思わず引いちまった。


 だがこの女、そこまで筋骨隆々というわけじゃねぇし、武道家という風でもない。それに目の色からもそんな狂気じみた気配は感じ取れねぇ。まあスキルやレベルで総合の強さが決まるからそこまで見た目ってのは関係性があるわけじゃないがな。


 何にしても、終わり良ければ全て良しだ。

 どうにか奇跡的に被害ゼロで済んだからな。

 感謝はする。


 が、さて、この女はどっちだ?


 仕事中、特に奴隷の護送の時、道行く人間に会ったら俺達は線引きをする。

 線引きはもちろん、敵か客か、だ。


 まずはジバルへ行くのか、ススズへ行くのかで大きく変わる。


 ジバルは言わずと知れた犯罪都市だが、ススズは騎士団が常駐する正義の要塞とも言われている。ジバルに進むやつはたいがい腹に一物抱えてるからな、何だかんだ顧客になる奴は少なくない。反対にススズを目指す輩は騎士志望のガチガチに頭の固い連中だ。奴隷のどの字でもほのめかそうものなら厄介なことになりかねねぇ。例え恩人だとしても早急に距離を取る、若しくは始末しなきゃいけなくなるだろう。


 ん?

 こいつ、何でポカンとしてんだ?

 まさか、道を知らねぇのか?!

 この当たりは言わずと知れた強い魔物の密集地帯だ。自分の進む街も分からずぶらぶらこの当たりを歩くなんざ有り得ねぇが。


 もしかして、奴隷監査の一味か?

 だとすれば問答無用で殺す必要がある。なんたって今日の奴隷にはギリギリ法に触れかねねぇ奴が混ざっているからな……。


 一瞬身構えたが、違うようだった。


 話を聞く限りじゃ、世間知らずな家出女ってのが妥当なところだろう。

 それにしては異様な強さだが、騎士とかの家系で英才教育とかを受けてれば有り得なくもない。大概がそういう所からの家出の方が多かったりするからな。


 もちろん要警戒対象だろう。目的も行動も胡散臭い奴だ。


 だが、賭けに負けた罰ゲームでも勘弁願いたいような薬草を笑って食い続けてみせる根性が気に入ってしまった。


 そしてこの女、俺ら4人に囲まれてるというのに全く動じない。身体の大きさで比べるなら俺達はブラウンウルフに劣らないでかさがある。そんな中、助けた礼を何食わぬ顔して請求して来た。


 先に言った例外となりうる敵を除けば、俺達は助けてくれた恩を何の理由も無しに仇で返したりはしねぇ。

 しねぇけど、こんな表の法に縛られない生き方してりゃ、敵とみなせば例え恩人でも殺すことは厭わねぇようになっちまった。


 そんなことは雰囲気で読み取れるはずだ。

 普通の野郎は、まず、俺らのような連中を助けない。そして助けたとしても、これだけの体格差に人数差だ。報酬は求めずにそそくさとその場を後にするもんだろう。


 だがこいつはひと味もふた味も違うことが分かった。

 ふてぶてしくも愛嬌のある表情で、何の気兼ねもなく要求してきやがったわけだ。


 しょうがねぇ、こんな怪しいやつ、1人でジバルでふらふらさせときゃ、いずれ何処かの裏のグループに殺されちまうだろう。


 それに野放しにして俺達に不利なことになっちまったらそれこそお頭に会わす顔がねえ。


 この女は限りなく敵に近い客……ん?客にはなれそうにねぇな。見た目から何となくわかるが金持ってなさそうだしな。

 だがなんとなく敵ではない何かに分類される気がするぜ。ちっとばかし面倒見てやろう。


 で、一緒に飯を食って、話をしたが、限りなく敵に近い何かだった判断から、敵では無い何かに変化しちまった。


 これは、アレだ。

 完璧に気に入っちまったんだな。


 時々でてくる、ふてぶてしい返し言葉も俺としてはこいつの本性が垣間見えて面白い。

 そして何故か自信たっぷりなその態度に頼もしさを感じちまう。素手でブラウンウルフを倒す強さを持つ割に世間知らずなあべこべさもあるし、おまけに奴隷売買に思いの他肯定的な考えを示してきた。


 フィントもそうだが、タダンやポフォもこいつに対して同じ気持ちらしい。皆普段と違って口角が上がっている。


 そらそうだ、こんな面白い女、いや、男だとしてもなかなかいねぇ。


 ああ、間違いなく俺は、俺達はこいつを仲間にしてぇと思うようになっちまったらしい。


 きっとお頭も気に入るんじゃねぇだろうか?


 そんな思いのまま、俺達はまるで自分の事のようにカナメの手柄をお頭に伝えた。

 当然だ。

 俺達の認識じゃカナメはもう仲間になっちまっている。どんなに倫理的に腐っちまったと言えど、仲間を讃えられないような人間じゃねぇ。そりゃもう、大真面目でお頭にカナメの良いところを伝えた。


 普段忙しそうに片手間で報告を聴くお頭も、カナメに興味津々だ。


 これは、もしかすると、ホントに上手くいって仲間になれるかもしれねぇ!


 ……そう思っていたのに。

 お頭は流石にこの女の素性を見抜けちまったらしい。


 他国の間者か。

 確かになんとなく辻褄が合う。こいつは俺達の知らないタバコとかいう物やらいたー(・・・・)を持っていたからな。


 そして、この辺りの地理や事情に疎いのもうなずける気がする。


 ……やっぱり敵でなければ客、客でなければ敵っていう線引きは正しかったんだな。


 寂しいが仲間にはどうもなれねぇらしい。

 どことなくフィント達も残念そうな、納得した様な顔を見せている。


 そうやって、お頭が交渉を持ちかけた矢先。

 奴は爆弾を落として去っていった。


 まず、「見返りは貰いました」という含みのある言葉だ。

 俺達は確かにフィントを助けてくれた礼としてここまで連れ込んで、お頭という裏の大きな存在との仲介をした。


 だが、俺達のボスであるお頭からの礼はまだされてない状態だ。子分の恩を親が建て替えるのはこの界隈じゃ常識だろう。


 結果的にアイツは「スフィア様への貸しを1つ作る」という見返りを成立させ、後ろ盾を得ることでジバルでの安全を確保した。


 もしも客として交渉していたならば、後ろ盾などというものは当然ながらない。まあ、顧客という認識はあるから多少は他のグループからの介入が抑制されるだろうが、前者の比じゃねぇことは明らかだ。


 そして知らない人(・・・・・)という大前提のはずの事柄を不自然に繰り返す話し方。


 そのせいでお頭を含めた俺達全員が固まっちまった。

 それが正しく最大級の爆弾だったからだ。


 スフィア様は、云わば世界の裏の要人トップ10には入るだろう。そんな人間が、まず名乗ることはない。そして当然ながら仮にも間者を暗に認めるような奴が裏の要人を「知らない」なんてことは、有り得ねぇ。


 これが指すのは、「予めスフィア様の奴隷馬車を狙っていた」という事以外にはない。


 フィントはフィント自身の力不足で手負いになったし、危機に陥った。これは、間違いねぇ。


 だが、そもそも何故ブラウンウルフは群れを作ったのか?それも、人通りの少ない裏街道で。近くでブラウンウルフのボスが殺されておく必要があったはずだ。


 そう、ここで不可解な点がある。

 アイツはこの部屋に入って、ずっと5本のブラウンウルフの棍棒をチラつかせていた。俺達を襲ってきたブラウンウルフは4体。


 この残りの1体分の棍棒が、何処から来たか。そして、1体という数字が示すことは、そういう事だったのだ。


 俺達は、とんでもない女に手玉にされたらしい。

 普段なら切れてあの女をブチ殺しに向かったかもしれない。


 呆気に取られ過ぎたからだろうか。不思議となかなかに清々しい。


「ふふふ、ぬしら、なかなかに面白い奴を連れてきたではないか。これは骨が折れそうじゃ」

「す、すみません。今すぐ追いかけましょうか」


 答えたが、何故か殺すという選択肢を口に出せねぇ。


「よい。暫く泳がせようではないか。私の後ろ盾を得て何をするのか見極めてやろう」


 頭の目が爛々と生気を湛えている。

 こんなお頭は先の大騒動の時に大量に入荷した奴隷を見ている時以来だ。いや、もしかするとそれ以上かもしれない。それくらい妙に活き活きとしている。


「了解しました」


 アイツを殺すも殺さないも、俺はただお頭に従うのみだ。


 ただ、どうか派手なことは起こさないでくれよ。と、どこにも届かねぇ忠告を心の中で呟いてやる。


 俺はどうやら、よほどあの破天荒な女を気に入っちまったらしい。

勘違いが続いてくって話。


評価して下さった方ありがとうございます。恐縮ですが、点数に見合うように面白い話にできたらいいな……と思います。励まされました。


空行作ってみましたけど、こっちの方が良いのかなぁ、時間があれば以降続けてみます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ