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可愛いとめんどくさいは近いのかも知れない

「どうした?いきなり。カナメ、ニャーが戦おうとした時と真逆のこと言ってる」

「考えが変わったわ。まあ、よくあることでしょ」


 何となく話題を変えたくて、ダークを身体から引き剥がして立ち上がった。


 ひとまず周囲を見渡してみる。私もダークもサンも、塵なのか泥なのかよく分からないもので埃まみれだ。他に見当たる人影はこの空間にいない。

 講堂の内側は、目にも鮮やかな瓦礫の山に太陽が燦々と降り注ぐ。さっきまで真っ暗な世界にいたからか、めっちゃ眩しい。本当に戻って来れたんだと実感して、自然と呼吸が深くなった。


 ダーク達が呑気に私が目覚めるのをこの場で待っててくれたってことは、喫緊の問題はないということだろう。


 天井を見上げると、ポカリと開いた穴の縁から街人らしき騒めきが聞こえてきた。ザワザワとしているだけで、何を言っているかまでは分からないな。


 視線を下ろして再度、地下講堂の状況を認識する。


 瓦礫に塗れて黒服の切れ端がところどころ見えるけれど、不思議と人間の身体は見当たらない。

 あの肉まんモンスターは最初から影も形もなかったように掻き消えている。


「……闘いは、終わったのかな」


 ポーンといきなり頭にシステム音。


 《魔王イベントが阻止されました。システムが一つ解除されます》


 《システム更新中……》


 《更新完了しました。禁忌スキル『色欲』が消去されました。以降、同スキルは取得不可》


 おお?何か、よく分からんが魔王イベントがなくなったってことは良い知らせだよな。これなら、これからも魔王イベント阻止のパターンが起こり得るってことだ。


 《続いて呪い無効勇者に反動イベントが発動されます》


 ん?反動て、何……?


「一体誰だ!!?こんな巨大な大穴を街中に開けたやつは!!」

「歴史的重要文化財の旧教会が半壊して吹き飛んでしまうなんて!!」

「まだ中に叛逆者がいるかもしれない、衛兵達を呼べー!」


 いきなり頭上から怒声が一際大きく響いてきた。


 むむむ?何やら不穏な声が上から聞こえるぞ?


「いや、待て待て。私は寧ろ、怪しい集団の怪しい何かの暴走を解除して、魔王誕生を阻止した立役者だよね?確かに壊してるけどさ、胸張って外に出たらいいよね?」

「頭で分かってることの反対を口にしてるぞ」

「ご主人、流石にそれは証明が難しいと思う。このままでは僕たち犯罪者です」


 うぅ。2人の冷静かつ現実的な言葉が私を淡い期待から覚めさせる。


 うん、実は気づいてる。


 証拠が全部ない。起こってないことを起こらないように止めたという立証て、本当に難しい。せめてカオスの集団1人でもこの場に居てくれたら、最悪そいつのせいに出来るのに。人っこ一人見当たらない。


「ダークさん!トリプル魔法のアレ、よろしくお願いします」


 しゅぱっとダークに向かって直角に頭を下げた。今、機嫌悪いからこのくらい礼儀正しくしないと!


「もちろんです」


 ダークからの返しにホッとする。

 まあ、冤罪で牢獄に入れられて喜ぶほど嫌いな奴とかいないよな。


「ダーク、ニャーも連れてってくれないか?」

「……どうしますか、ご主人」

「サンはこの騒動の元凶でしょ?大人しく捕まれば?」

「何でそんな急に冷たくなったんだよカナメ!それに、ほとんどお前がやっただろ。寧ろ元凶は全部お前だろ?!」


 サンが捨て猫のような顔をする。


 あは、ちょっと面白い。


「では置いていきますね」


 フワッと私とダークの周りだけに風が舞った。


 おおっと、本気で置いていこうとしてる!!


「いやいや、待て待て、冗談だから。そこは汲み取ってよ、ダーク」


 私の声に、風が収まった。


 ふぅ、焦ったわ。


「カナメは正直、表情がうますぎて冗談かどうか分からない。心の言葉も無駄が多すぎて参考にならないし」

「分かりにくいですね」

「それ、褒め言葉だよね?」


 ポーカーフェイスは得意だけど、冗談くらいは汲んでもらわないと困るさ。


 と。ダークは何を思ったのか、私を明るい顔して見上げてくる。


「ご主人。本当に、どこも怪我してないんだよね?」

「ん?見ての通り、怪我どころか、かすり傷ひとつなくて元気だけど。どうした?」


 私は後々この時返した言葉を後悔することになる。


「それなら、あの……これして欲しい」


 おずおずとダークがおんぶしての格好をする。


 ぐはっ!鼻血出そう……久しぶりに見たな、そのカッコ。恥ずかしがって、自分ではおんぶとは言わないところもやっぱりポイントが高い!前触れもなかったからクリティカルヒットをくらってしまった。


 ただ、私には鋼の精神力がある。かれこれ3週間以上こいつと過ごしているのだ。スキル名はないけど、あえて付けるとすればダーク耐性だろうか。この耐性をもってしても、たまに理性飛びそうになる。今のところ飛んでないからセーフってことで。


 そんなこんなでポーカーフェイスを維持して心の鼻血を拭う。


「いや、いきなりどうした?最近してなかったじゃん」

「ん」


 この少年、やはりただものじゃない。一言ならぬ一文字しか発言せずに意思を伝えてきやがった。


 これはおんぶしないと助けてあげないぞっていう、トリックオアトリートみたいなノリの主張だ。


 うぅ、こやつ、あざとい。あざとすぎだろ。私が断れないのを知っててやってる。でも可愛すぎて全部どうでも良くなる。


 パーティ交換とかあったし、半日会えなくて甘えたくなったのか?


 別に良いんだ、おんぶとかお安い御用だよ。

 ダーク軽いし……ん?いつの間にか結構重くなったな。確かに果ての森に行ってからの数週間、3食しっかりモリモリ食べてたわ。私も結構食べる方だけどさ、ダークも小さいくせによく食べるんだよね。

 重くはなったけど、おんぶできないほどじゃない。


 久しぶりのおんぶに、私が心の中で感想を述べていると、ダークがぎゅっと後ろからしがみついてくる。


 これは…………悪くないな。

 さっきまですり減ってた精神が、緩やかに回復していく。穏やかな心地で、何故か泣きたくなるような、人の生きてる証を噛み締める。


 さて。脱出である。

 実は、根本的に出来るのかという点が気になっている。何故ならダークの魔法+スキルを持ってしてもユシララへの侵入は夜だったのだ。今は陽が少し傾いているとはいえ真昼間。


「ご主人、昨日の夜みたいなのは出来ないけど、方法はあります」

「おお!やるじゃんダーク!」


 ダークも一応試そうとはしていたみたいだけど、同じ結論に至ったみたい。

 それでも別の方法を思いついたのか。


「ここにある瓦礫を全部吹き飛ばして抜け出す方法と、派手に抜け出す方法、どっちが良いですか?」

「どっちも同じだね?何でわざわざ二つ言った?」

「ご主人に一応選択してもらいたくて……」


 なんだそれ。かまってちゃんか。可愛いから許すけど。


「てかさ、普通にあの扉のあったとこから外に行けるんじゃ?」

「あっちは敵がいます」

「え!じゃあそいつらを、しょっぴいて行けば……」

「……おそらくご主人が相手してた黒い集団じゃないし、敵の方が知名度高いからご主人の部が悪いと思う」


 え、何?知名度高い敵って。

 ちょっと意味がわからんのだが。しかもそんなわけ分からん敵に部があるなんて……確かに街に無断で侵入してるから悪いか。


「今は僕が土魔法で地面にめり込ませてる」

「めり……??あんたそんなこと出来てたっけ」

「ご主人が浮気してる間にレベルが上がった」

「う、うわきって、ちょ!?」


 え、何で知ってんの!?サンとキスしたのは、あれは不可抗力だけど!!?まさか見てた?!


 顔がカッと熱くなって、バクバクと心臓が焦るように鳴り始める。


「多分、ダークが言ってるのはパーティメンバーの話だと思う」

「…………あ、そういう」


 少し落ち着いた。

 流石あの場にいたらダークが肉の塊モンスターくらい魔法でぶっ飛ばしてくれたよね。


 てか、冷静に考えて浮気て表現おかしくない?!私がまるでダークと付き合ってるみたいじゃんか。

 恥ずかしい……別の意味で顔が熱くなる。


「それ以外にも何かあったんですか」

「あばばば、ひとまず、外出よう、外!派手な方でいいから!」


 やっべぇ、ただでさえ不機嫌なのに、これ以上機嫌を損ねるわけにはいかん。


 果たしてサンと私がキス……もとい人工呼吸をした所でダークが不機嫌になるかは疑問が残るけど、口は災いの元だ。不要なタネは誤魔化すに限る。


「分かりました。じゃあ、派手に……」


 ドカーーーーンッ


 特に溜める素ぶりもなく地下講堂が爆破された。地下の中にあった瓦礫が全て真上に噴出し、火炎と泥砂が舞う。私たちは球状の風の塊に守られてるけど、噴火と間違えそうなレベルの轟音。


 アレさ、周りにいた人たち大丈夫なのか?!


 軽い疑問が残りつつも、助けてもらっといて聞くのも野暮な気がした。


 巨大なこの爆発の粉塵に紛れて、私たちはその場を後にした。




「……ねぇ、ちょっとさ、そろそろ降りようよ」

「…………」


 無反応。

 と言うより、寧ろ逆にギュッと腕の力を強くしてくるダーク。


 嫌がらせか!ってツッコミを入れたくなる。


 これさ、もうかれこれ1時間近いよ?街中をそこそこ大きな子供背負って行くのって結構恥ずかしい。ほら、周りの奴らこっちをチラチラ見てるし!


 あと、いい加減トイレ行きたくなってきたんだけど。


 私たちは爆発に紛れて逃げ出したので、身体が汚れていると怪しまれる。そこで、ダークの風魔法の浮遊で、そのままユシララの城郭の外に出て身綺麗にしつつ、城郭の外でそのまま一泊した。


 昨日は疲れてたこともあり、即寝落ち。

 そしてなんと、私にしては珍しく今日は早起きできた。


 で、体感9時くらいだけど先ほどユシララに再入場したところだ。どういう訳か、先日アレほど無碍にしてきた門番は、特にダークやサンを気にする風もなく普通に通してくれた。


「なんで?イベントが終わったから?」


 だとしても不可解すぎる。


「それはニャーの呪いが解けてるからだと思う」

「……ああ、なるほど。ダークは今私に触れてて呪いが解けてるから、このメンツに今、ぱっと見で堕天者が居ないって換算か」


 てことは、最初から手繋いで入場してれば良かったってことか!

 でも、あの時はサンがまさか呪われてるとは思ってなかったからしょうがない。


 ダークみたいにドス黒いオーラでも出してくれてたら分かりやすいのにさ。サンは呪われてたけど爽やかだったもんな、黒いオーラなんて見えなくて気づかなかった。


 てか今更だけど門番は見てすぐに堕天者かどうか分かるんだね。私の鑑定スキルレベルじゃ触らないと見れないのに……羨ましい。いつかその域まで到達したいなぁ、そしたら色々と楽だ。


 で。問題はそこじゃない。

 ダークがずっとくっついてて離れないのだ。


 昨日も身体を拭く時以外、ずっと私のどこかしらを掴んで離さないでいた。


 しかも移動する時は絶対背中に引っ付いてくるのだ、どこに行くにも強制おんぶで…….そろそろキツいんだが。


「どこにも行かないって約束してくれるまで、離れない」

「あのさ?それ、何回も同じことくり返してるけどさ、今回はダークが先に居なくなったんだからね?」

「僕はいいけど、ご主人はダメ」


 子供かよ!って突っ込もうとしたけど、コイツ子供だった。返す言葉がない。


「私は子供じゃないんだから、そんなすぐ居なくなったりしないよ」

「……僕は宿にすぐ帰ってきたのに、居なかった」

「そりゃ、ダークに何の置き手紙もなく行っちゃったのは悪かったと思ってるけどね?」

「なら、約束して。もう勝手に行かないって」

「…………」


 拗ねたような声音。

 顔は見えないけど、多分口をプクッと膨らませながら言ってるんだろうな。


 ……見たい。絶対かわいいもん。


 まあそれは置いといて、このダークの言葉、めっちゃ返事に困る。適当に約束しちゃえばいいって思うかもしれない。


 でも、この先何があるか分からないんだよなー。

 ダークには言えないけど、今回も多分何回か死にかけたし。逆にダークを巻き込まなくて済んで、良かったと思ってる。これから先も勇者なんて傍迷惑な肩書き背負ってる以上、壮太を連れて帰るまでの道のりは長くて、至る所で死亡フラグが眠ってそうだ。


 それに、何処かダークにとって住みやすそうな所がみつかれば、置いていくつもりだ。こんなに可愛くて強いダークでも、この先の旅路が完璧に安全だとは言い切れない。私はダークには安全な場所で、健やかに過ごしてもらいたい。


 だからこそ、嘘をつかないと決めた以上、勝手に居なくならないなんて約束は、口が裂けても言えないでいる。

 どうにか躱すしかないとはぐらかしてるけど、向こうも譲ってくれない。困ったなぁ。


「……ダーク、その約束はやめた方がいい」


 遠慮がちなサンの声が背後から掛けられた。

 お、思わぬところで助け舟だ。


「ニャーは間違えた。相手が約束(それ)に縛られるのは、……守ってくれなくて良いと思いながら、変な期待をする。もっと苦しくなる」

「…………」


 ダークの腕がギュッ私の首を締めた。


 ちょ、ちょ、首!苦しい!今、具体的に私が苦しいんだけど。


「ご主人が居なくなるのは、いやだ」


 ……この子は私を嫌ってるのか、それとも懐いてるのか。分からなくなる。


 まるで今のは仕事に行く母親を駄々こねて引き留める子供みたいだ。私のことを好きじゃないと成り立たない言動にも受け取れる。


 ひとまず、私の首を締め付けてくるダークの腕を軽く宥めるように摩って、ダークの片手を握ってみる。すると、どうにか力を緩めてくれた。


 ふぅ、窒息するとこだったわ。


「はぁ。ダーク、ごめん。その約束はしない。けど、何でも言うこと一つ聞いてあげるから、それで勘弁して」

「…………」


 今回も無言で振り出しに戻されるのかと思ったとき、ダークが私の片手に指を絡ませてきた。ゆっくりと、形を確かめるように丁寧に。


 何だろう。たいしたことない仕草なのに、妙に色っぽい。少しだけ自分の動悸が強く感じる。


「それなら、今度から寝る時と、歩く時、一緒にいる時は、こうして握って」

「え?わ、え?!」


 ダークの細い指にキュッと力がこもる。


 耳元で甘い声が、穏やかに、それでいて切実に願っているような言葉が紡がれる。


「僕が離すまで、離さないでください」

「…………!」


 言葉にならない緊張で、顔が熱くなった。


「あの。ダーク分かった、分かったから。一旦休憩で、手を離してくれないかな」


 心臓部がどくどくと不正脈起こしたみたいに脈打つ。


「嫌です」

「もう、バカ。それじゃ一緒じゃん!いいから離して!」

「嫌です。夕飯まで離しません」

「は?!なっがっ!まだ昼飯も食べてないんだけど?!てか、夕飯までおんぶされてるつもりか?!流石にキツいわ!あんた、出会った時よりだいぶ体重増えてるからね?!」

「ふふ、僕を置いてった罰です。せめて今日はこうやって過ごしてください」

「おぅ、お前、ずいぶん言うようになったな」


 そこまでイタズラっぽく言われたら、甘んじて受けるしかないかもしれん。だって可愛いもん!


「カナメ」


 私とダークがごちゃごちゃ言い合ってる間に、珍しくサンが割り込んできた。


 後ろを歩いていたサンを振り返る。


「助けてくれてありがとう。何度礼を言っても言い尽くせない。この借りは返す」

「あはは、いいよ。むしろ殺しかけたのに貸しなんてさ、笑えるじゃん。貸し借りとかめんどくさいことは明日には忘れてるだろうし……」

「ニャーは忘れない。必要になったら、これで呼んでくれ」

「ん?これは……?」


 鈍い赤灰色からつるんとした光沢のある赤銅色に変化しているけれど、形は見覚えがある。儀式の暴発を止めるために私が入れ替えたドアノブみたいな聖杯だ。


「多分、お前ならこれでニャーを呼び寄せられる気がする」

「へ?多分?気がする、って……使い方は?」

「そこまでは分からん」

「分からんのか」


 何これ、そう言う用途なの?


「で、ニャーはここでこっちに行く」

「え?あ、そうなん?」


 何となく、勝手にサンは私のパーティとしてついてきてくれると思ってた。引き留めるほどじゃないけど、少し寂しくもある。


 あっちは確か、娼館がある方……うん、私のパーティ入りなんかより、ずっと重要なことをこいつはしようとしてる。


 受け答えしながらダークと手を繋いでない方の手で受け取ろうと手を伸ばす。


「って、うわ!!?」


 ずしっとドアノブが手に乗っかった。慌ててダークと繋いでた手も外して両手で持ち上げる。


 何これ?!池で拾った時よりめっちゃ重いんだけど?!!ダンベルみたいな。


「多分それ、大きさ変わると思うから、調整してくれ」

「多分とか思うとか、何でさっきからそんなフワッとしてんの?!具体的に使い方は?!」

「それは分からん。じゃあな」


 ちょーい!!?分からないのかよ?!

 さっきから肝心なとこ全部分からんじゃねーか!!

 せめて、重いの何とかならんの?!


 声をかけて引き留めたいところだけど、無理そうだ。

 サンはこれから、あの記憶の中の人に会いに行こうとしてると分かる。


「サン!」


 背を向けて前に進む青年に呼びかける。


「今まで会った中で、サンは一番綺麗だ!頑張れ!頑張っても辛くなったら、その時は私のとこに来い!」


 返事の代わりに片手を挙げて応えた背中が、一回り大きく見えた。


 街路の植木に咲いた花弁が、サンの瞳のような桃色に世界を縁取る。

 人混みに紛れて消えていく彼を、ただ心の中で強く応援しながら見つめ続けた。


「ご主人」

「……ん?」

「僕は?」

「え、何が?」


 背中越しによく分からない質問をされてダークの方を振り返った。顔は見えないけど。


「サンが一番綺麗って。僕は?」

「は?何言ってんの。ダークは、綺麗と言うより世界一可愛い……いや、宇宙一可愛いでしょ」


 応えながら、両手で持ってやっと持ち上げられるくらいのクソ重い聖杯をカバンに押し込んだ。


 お、カバンに入れると…‥と言うより、私の手から離れると重みが消えた。


「……なんか、嫌だ」

「え」


 ダークの声が、拗ねたようにブスッと曇っている。


 え、ちょ、まさか。

 振り出しに戻ったのか??

 せっかくさっき指絡めて機嫌なおした感じだったのに?手を離してくれたのは満足したからじゃないのか!


「ダーク君よー、昼ごはん何食べるー?」

「…………僕は綺麗じゃないから、食べなくてもいいです」

「は?!関係なくね?!」

「関係なくても良いです」

「お前な?!」


 何て難しい子なんだ!!


 拗ねてるくせに再度機嫌を直そうと繋いだ手はずっと離してくれないし。イヤイヤでも表現するように首の後ろですりすりしてくるし!


 こんなに可愛いのにめんどくさい!!

 それでも、めんどくさいのに可愛いが過ぎる!!


 ここまで憎たらしくてめんどくさいのに全部許せるとか……どうすれば良いんだ?!もしこれが壮太だったらぶっ飛ばして終わらせてるっつーのに!


 この感情は……うん。ダーク沼と名付けよう。


「よし、じゃー、ダークは食べないらしいから、タコでも食うかな」

「ご主人って、馬鹿なの?2日前に死にかけてますよね?」

「あれはパープルオクトっしょ。別のタコ探そうぜ」

「……じゃあ、この街の西に向かうと、塩の湖があるらしいので、そっちに行ってみましょう。ホワイトオクトというモンスターが出るらしいです。」

「え!いつの間にそんな情報ゲットしてんの?!」

「ご主人が寝てる間に」

「有能か!」


 その後、ユシララで装備を適当に購入し、すぐに私たちは街を出た。


 桃によく似た淡い色の花びらは、暖かい風につられて舞い上がる。

 その光景はサンの子供の頃の世界の光景に似ていて清々しい。私たちを祝福してるようだった。

ユシララ編終了。

想定の10倍かかりました。

別視点入れるかどうか悩んでますが、そのまま次に行っちゃいたい。サンと壮太の一行がどうなったかはご想像にお任せして……いつか軽く触れます。

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