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今日の教訓。戦闘の準備は家にいる時には済ませておこう

「あーあ、やっちゃった……」


 私の平手打ちをくらったサンが、地面で完全に伸びている。そういや、まだ殴打のスキル効果が一部残ってたわ。


 慌てて首に手を当てて脈を測る生存確認をしてみるけれど、ただ気絶しただけみたいだ。


「ていうか、サンよ……あんた一体何のために助けに(こっちに)戻って来たんだよ。キスしろとかほざいて、伸びるとか。変態かよ」


 ついツッコミを入れてしまった。

 いやさ、別にサンを悪く言いたかないけど、カッコ悪いにも程があるでしょ。


 ……うん。

 ここは敢えてポジティブに考えよう。

 そう、王都を追い出された時のように。

 寧ろ守るだなんだと余計なこと言う奴がいないから、戦闘自体はやりやすい。連携取ったことがない仲間がいても、足手まといでしかないよな。


 てか私のゲームスタイルはステータス極振りの一体強化特化だ。あれこれ仲間を入れ替えたり、装備を割り振ったり、まどろっこしいことはしない。育成もお金も一極集中で乗り切ってきたのだ。


 ポケットの怪物はお気に入り1体だけを集中育成して、そいつで全部乗り切ったことが誇り……まぁ、だからこそゴーストタイプ相手に手こずったし、四天王との対戦でキズグスリ2個が無理ゲーだったんだけども。あれはマジ奇跡だった。

 私はあのゲームで、絶望を乗り越える力を身につけたのだ。あの時の数々の絶望感よりは、今はかなりマシだと思う。だって今は色々薬系アイテム持ってるし。


 ひとまず、サンを安全そうな扉近くに引きずって移動させて、寝かせた。私はそこからジリジリと壁沿いに移動してみる。


「こっちだ!来い!」


 巨大な肉塊モンスターは、私の呼びかけに反応してギョロっとした瞳を私の方へ向け、ヨタヨタと近づいてきている。なんかこういうボス、◯ルダの伝説とかに居るよな。あれ怖かったんだけど、現実で見ると怖いより気持ち悪いが勝つな。


 まあとりあえず、サンはモンスターの注意から外れてるみたいで良かった。ワンチャン、サンを集中攻撃される可能性もあったから、それだとかなり詰んでたな。


 てことで遠慮なく戦える……モンスター(こいつ)に手加減、必要ないよね。


 で、スキルを発動しようとステータスを確認する。

 HPはさっき完全回復したから大丈夫として、スタミナが案の定カスカスだわ。最大出力には、不屈の発動分も考えると全然足りないね。


 でもまあ、対処は考えてある。


 私はカバンに手を突っ込んで、ゴブリンの洞窟でダークが拾ってきたスタミナ回復薬もとい原材料不明のキモいアイテム《暗黒肉(乾物ver):ブラックゴブリンの主食。スタミナ全回復の代わりにHPが食事量に依存して減少する。更にランダムで状態異常に陥る》を取り出して、齧り付いた。


「ゔぉえぇ!!」


 まっっずぅうう!!

 ちょっと!吐き気するんだけどこれ?!もはやこの刺激物、食べ物じゃなくね?!いや、冷静に考えたら人間の食べ物じゃないのか。食べてHP減るとかよく考えたらただの毒物じゃん。ゴブリン、こんなの食ってるから人間でも何でもいいから食べたくなるんだよ、アホめ。レ◯ドブル感覚で摂取したら死ぬ奴だわ。


 とにかく薬草とはまた違った強烈な味……てか味覚耐性効いててこのエグみ……。


 あぁ、何でこんなに強烈なのか理由が分かった!臭いだわ!


 うぅ、これ、臭覚耐性が無いからこんなにキツいのか。味覚のエグさ苦さもさることながら、まるで剣道部の部室に放置された装備から発される手入れ不十分のあの、納豆を腐らせて酸っぱい物を混ぜたような濃厚な香りが口から鼻に登ってくる。


 そして、私のステータス画面の下の方に、毒、麻痺状態の表示がある。


 んん、麻痺と毒ってことか!麻痺やばくね、動かなくなるじゃん!


 と確認している間に身体の中央が痺れ始めた。

 身体が3倍くらい重たく感じてくるけど、それでも何とか腕は動く。カバンの中のダークに採取してもらった毒消しの薬草と麻痺治しの葉を素早く取り出した。


 毒消し薬もあるけど、もっと戦闘真っ只中の切羽詰まった時に残しておくほうがいいだろう。葉っぱは咀嚼しないといけないからね。


 うぅん、でもこの草も、結構やばい味かも知れないんだよなぁ。

 色がやばいもん。空色に黄色の線が入った草に、赤地に黒色の斑点……草の色じゃねぇよ。もはや見た目は緑色のほうれん草な薬草が可愛く見えるわ。


 何とか喉に迫り上がってくるさっきの塊を飲み込んで、葉っぱと草を頬張った。


 はわぁ、キシリトール。

 これは……あり。

 すっきり爽やかに……いや、辛い、辛い、からぁぁぁああい!


 居眠りしてる時に食べさせられたダークの激辛果実以上に辛いんですけど!舌が焼き切れるかもしれない。


「うへぁ、かっらぁ!!水、水……げ。ないぃ!」


 慌てて水筒求めてカバンをあさるけど、なかった。

 そういや、ダークがしょっちゅう魔法で出してくれるから洗うのめんどくさくなって携帯しなくなったんだったぁー!


 何ということでしょう。

 身体の痺れと怠さが消える代わりに、舌が死にました。空中に触れてもヒリヒリ、自分の唾液に触れてもヒリヒリ。


 あー!もう、闘いとかどうでも良いから、水が欲しい!!


 見渡すと、祭壇近くにいかにも聖水的なのが入ってそうな小さめの水瓶が。

 確かにね、聖水的なのこういう儀式じゃ定番よね。魔王に聖水とか意味わからんけど、今は助かった!


 ひとまず猛ダッシュでそっちに向かう。


「うぉぉ、空っぽじゃん!くそぉ!!夢魅せるなよぉ?!!」


 と、ここで水瓶が置かれていた近くの捧げ物的な饅頭が目についたので鑑定。


 《饅頭 : 普通の饅頭。HPを20回復する》


 すかさず口の中に放り込んだ。

 なんとか甘味が辛味を少し相殺してくれたみたいだ、痛みのような辛さがマシになった。


「ふぅ……」


 やっと一息ついたけど、もはや闘う前から満身創痍だ。


「くっそ……カオスめ、こんな目に合わせやがって。許せねぇ!!」


 戦隊モノさながらに、代表格のレッドがいいそうなセリフを吐く。


 責任転嫁甚だしくとも、今は何かにこの怒りをぶつけないと気が済まない。

 てか、気を紛らわせてないと、まだちょっと舌がやばい!


 モンスターの目に向かって、怒りにまかせて手元にあった空の水瓶を投げつけた。


 的が大きい上に投擲スキルが発動したからか、まんまと当たる。


 ギィャァァ!!


 目ん玉のモンスターが、再度老若男女何重にも重なったような悲鳴をあげた。


 と、ここでポーンと音が鳴る。


 《条件を満たしました。称号 : 『潜在的(ギフテッド)道化師(ピエロ)』を取得できます》


 ちょ、おい!このタイミングでこの称号て、ふざけてんの?!ピエロじゃねーし!!

 絶対私みて笑ってんでしょ、システム!!


 ほんと、一貫して喧嘩売ってんな、このシステム。


 まあいいや。今は戦闘に集中しよう。


 敵の動きはゆっくりとはいえ、流石に説明書き読むほどの余裕はないかな。あと、舌がヤバいし、早く決着つけたい。


 2段階戦闘だろうと出し惜しみしてもしょうがないよね。殲滅用(強)を起動させた。

 あえて説明入れるとすれば、攻撃スキル全起動だ。


 もちろんハッタリ用と同じ様に赤いエフェクトが体の周囲に発動する上に、何処からともなく下から強めの風が吹く。

 そう、あの強さの権化スー◯ーサ◯ヤ人みたいな……ま、あそこまでは髪がとんがるほど逆立ちしないけどね。風が私の髪をフワッと浮かせる程度だけど、気分大事。私は金髪になったつもりで闘うぜ。


 さて、この殴打スキルが全てかかってるうちに、致命傷を負わせておきたい。

 一気に走り寄って、近くの机を踏み台に巨大な瞳の前へと飛び上がった。


 振りかぶって、拳を一発!!


 ギィィンッ

「んな?!」


 瞳に当てるというより、硬い鉄板に当てた様な強い感触が伝わってきた。


 ドンッ!

「ぐぁっ!」


 拳を伝ってきた衝撃によって、背面の壁まで弾き飛ばされた。


 モンスターの方を見ると、攻撃を受けた際のあの嫌な叫び声をあげていない。代わりに私のHPがごっそりもっていかれている。


 もしかして、今の、反射(リフレクター)ってやつ?!

 マジか、だっる!!そんな魔法使うなら言ってよ!!言わないか。すんません。


 いや待てよ、水瓶(さっき)は攻撃が当たっていた。それじゃあもしかして、いかにも弱点ぽいあの目を直接攻撃するには、物を投げるしか方法ないのか?


 ひとまず検証のために近くにあった椅子だった物の破片を手に取って、ブーメランの要領で適当に投げつけた。


 ぽこっ!

 ギィャァァ!!


 当たった。


 ……でも、これ。威力ないと思うんだよねー。投擲スキルは正直盲点だった。ダークがいるから遠距離攻撃磨く必要性無かったし、後回しにしちゃってたんだよ?ここでそれの威力求めてくるの酷くね?


「これじゃ、らちがあかない。私の強みからも外れるんだよねぇ」


 攻撃が弾かれるなら速攻が効かないので、分析をしてみよう。軽く屈伸をして、腰を回し、肩を慣らしておく。何となく予想つくけど、コイツの攻撃はどんなもんなのか確かめてみるか。


 一通り準備運動を終わらせたらノロマな怪物の足のない足元に歩いていきながら見上げる。


 うぞうぞと蠢いていた輪郭がキノコのように傘型に膨れたと思うと、そこからいくつもの腕や足が槍状になって降ってきた。


 ドドンッ!ドゴォ!!ドドンッ!!

「やっぱり、肉弾戦みたいな攻撃か」


 ギリギリのところを避ける。

 幸いなのは動きが遅いのもあって回避が簡単なことかな。回避に集中してさえいれば、当たることもなさそう。


 攻撃が降ってきた後の地面をチラリと見遣る。机や椅子が粉々に砕け、地面まで凹んでいるのを見るに、当たったら痛そうだ。物理攻撃っぽいから、当たっても即死てほどじゃなさそうだけど。


 物量に押されつつもなんとか回避して怪物の根本に辿り着いた。

 そして、一発。


 ドォッンッ!!

 ギィャァァァァア!!!


 私の殴った直径1メートルの肉壁が弾け飛んだ。木っ端微塵になるどころか、跡形もない。


 どうやらリフレクターは、眼だけみたいだ。助かった。


 すぐに連撃に切り替えて、ひたすら上から落ちてくる肉壁を殴り続けていく。


 ギィャァァァァア!!!ギィャァァァァア!!!ギィャァァァァア!!!

「うっさいな!!口がないくせに!!どうやって叫んでんのさ!!このモンスターは!!」


 円柱になっていた肉塊を下から順に消していく……巨大なダルマ落としだ。

 目玉まで、あと一発!!


 真っ赤な瞳が目の前に落ちてくる。


「よし、覚悟しろ!!」


 私は思いっきり地面を蹴り上げて、自分の全体重が乗った拳を振り下ろした。


 キィィン!!

「くっ!」


 予想通り弾かれた。

 そこからすぐに体勢を捻って上を振り向く。


 狙いは天井。こんなけ天井が高い構造なら、地下だろうと地上までの距離はそんなに離れていないはず。

 再度右手の拳を上に向けて、アッパーした。


 ドンッ!ビキビキッ


 リフレクターの衝撃ほどではなかったけど、拳に確かな感触が走った。

 続いて天井に次々とヒビが入っていく。


 ヒビの隙間から光が差し込み、大きな講堂をまばらに強く照らし始めた。


「もういっちょ!」


 私は天井から右手を引き抜くと、下に向かって蹴る。

 目玉は、攻撃手段を変えるだろうか……いや、同じ位置で目を見開いてこちらを見上げている。

 陽光が一部眼にかかっているのが原因かな、硬直している。


「はは、黒いモヤって、強い光に弱そうだもんね。そのまま良い子で動くなよ」


 吸い込まれるように落下速度が加速して、私の視界は真っ赤な海のような色でいっぱいになる。


 リフレクターは……作動していない!

 少し意外だけど、それならそれで殴るだけだ。


 拳を構えた。


 ボフッ!!


 手応えのない赤い瞳の中に突っ込んだ。


 視界が一瞬で真っ暗に変わる。

 そして。振り下ろした拳には地面の感触。


 ドッゴォォオオンッ!!


 私の拳と地面が当たり、巨大な地響きと地震のような振動が起こった。


 ガラガラッ!ドカン!!ドゴォォオオン!!


 次いで、崩れかけだった頭上の天井が完全に崩壊し始めた音。天井の瓦礫が次々に地面に降り注いでいるみたいだ。


 ギャァァァア!!!


 最後に頭をつんざく断末魔の声が、響き渡った。


 ……………………。

 ……………………。


 あれ?おかしいな。何で暗いままなのかな?

 そろそろ塵も落ち着いて、外の光とか見えても良さそうなのに。

 てか、天井からの崩壊物が身体にあたってもおかしくないのに。何もない。


 真っ暗な視界を見回してみる。


 んんん?これは……まさか。いやいや。そんなこと……ね?


 そうだ、冷静になろう。こういう時は、状況整理が大事だと思うんです。


 まず、私は戦闘中だった。

 そんで、天井の崩壊を加速させようとして、天井から落下し、衝撃を作った。リフレクターがまだ作動するようならまた天井アタックをする予定だった。


 でもあの怪物はそれに気づいてか知らずか、何の抵抗もせずに私を貫通させて……で、地面に私の拳は当たった。衝撃が確かに手足に伝わったので、それは確実。物理攻撃が効いて無かったとしても、完全に崩壊した天井からの光であの怪物は致命傷を受けてそうな声をあげていた。


 で、私の身体的な面のチェックだ。痛みはない。舌はいまだにヒリヒリしてる。けど、寧ろ今に至ってはそのほうが現実味があるから安心材料ではある。HPは減っているけど、あれらの衝撃を耐えられるくらいには充分あった、はず。不屈も予め手動で念の為に作動させてたし。


 あー、不安になってきた。

 ステータス画面を確認しよう……あれ?……ない。いつも自然と頭に浮かんでたんだけど。どうやって見てたっけ??


 え。これ……やっぱもしかして私、死んだ?

ユシララ編終わりまでは粗方書いたので、校正済み次第投稿します。一日一話目標……

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