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殲滅(弱)で無双してしまった

途中過激な描写が含まれます。血が苦手な方は薄目で読み飛ばしてください。

「カナメ、多分ここにたくさん居る」

「……ふーん」


 キーマがそう言って顎で示した先には重々しい鉄の扉があった。


 うわぁ、集会してそー。

 ろくなことしてなさそー。


 いかにも怪しい扉。

 嫌な予感しかしねぇ。


 でも、今までの部屋には人っ子1人いなかったわけで、サンが居るとしたらここだろうなって気もする。サンを助けるためにどっちみち戦闘するしかないのなら入ること自体に躊躇(ためら)いはない。


 こういう時は勢いが大事。

 慎重にしたって特に役にたつスキルもないわけだから余計な時間をかけるのは悪手だろう。


 ふぅと息を吐き出す。


「まあ、行くしかない」

「か、カナメ……?!」


 キーマの呼びかけは無視して扉に向かって助走をつけ、バンッと扉へ体当たりで転がり込んだ。


 蝋燭の燃える濃い香りとお香のムッとした匂いが鼻腔をつく。


 部屋の中は天井の高い講堂になっていた。今までの部屋とはそもそもの構造からして違う。いかにもいかがわしい集会をやってそうな薄暗い雰囲気と200人は収容出来そうな広さ。


 構造としては大学の講義とかで使われる部屋みたい。私が入ってきた所から奥に向かって下り階段になっている。扇形に収束した先に……


「サン?」


 奥の祭壇の上には壁に磔にされたサンが見える。

 蝋燭の灯りだけで薄暗くて見えにくいけれど、あの赤みのある白い髪色と猫耳はきっとサンだ。胸でかいし。


 目には黒い布が巻かれ、黒い袈裟を着せられている。


 あのふんわりした格好でも分かる胸って。この状況で不謹慎なのは分かってても凄いわ……。


「サン!大丈夫?!」


 私の呼びかけに、猫耳がピクっと反応した。


「カ、ナメ?……カナメか?」


 弱々しい掠れた声。

 どこか暗い調子だ。


 だけど生きていた。


 物々しい雰囲気の中ではあるけど、とりあえず生きてる。

 間に合った。


 ほっと息を小さくつく。


「待ってろサン、今そっちに行く」

「カナメ、ダメだ……ここに居、たら、巻き込ん……!」

 ガチャンッ!


 枯れた声のサンの緊迫した言葉が終わらないうちに、背後の大きな鉄の扉が閉められた。

 振り返ると、外側から鍵をかける構造みたいだ。手で押してみたけどびくともしない。


 つるんとした鉄扉に向かって舌打ちする。


 後ろに敵が隠れてたのか。

 閉じ込められた。


「神聖なる儀式に乱入するとは不届き者め……しかし、今は大義の前だ。特別に赦してやる。無粋な貴様らも、我らが神の御心(みこころ)に叶いし魔王誕生の糧となるがいい」


 地を這うような低い声が響く。


 サンと私の間には、部屋にはサンの黒衣と同じものを身につけた人間が50人ほどいる。薄暗くて見えにくい上に服装が真っ黒だから、一人一人の判別がしにくいけど。

 背の高さも上から見下ろす位置に私たちが居るせいでわからないし、フードを被っているから男女の区別もつきにくい。


 誰が今の発言をしたのかもよく分からない。


「カナメ、これ、この人数って……ダメじゃない?何も作戦なしに突っ込んで来ちゃったケド、さすがにダメだったでしょ?」

「…………」


 キーマの焦ったような緊張した小声が隣からかけられる。


 確かにって言いそうになったところで、ふと今までの多人数戦が浮かんできた。


 荒くれ者どもの抗争とか、ゴブリンとか、エルフとか。

 それに比べたら今回の数は圧倒的に少ない。


 しかも閉じ込められてるから、逆にこれ以上敵が増えることもない。まあ、RPG的に考えると敵は増えるかもしれないけど。


 何より、ゴブリンやエルフの時はダークっていう守護対象(お荷物)がいて、満足に戦えない状況だった。

 今はもう逆転してるからとても口には出せないけども。


 それに比べて、今回キーマは多少離れても自分の身は自分で守れる程度には動けるし、強い。

 攻撃回避の俊敏さでいくと今まで会ってきた人達の上をいくだろう。


 攻撃回避をしてくれるってことは、勝てないとわかっても、暫く自力で凌げるということ。

 これってすごく気が楽だ。


 あと、なんとなくだけど、目の前の人たち、今まで見てきたレーンボルトファミリーやエルフのいかにも強者の雰囲気よりも薄いっていうか。寧ろ弱いっていうか。


 案の定、こんなに敵がいるのに危機感知も鳴っていない。


 いや、危機感知ってちゃんと働いてるよね?

 パープルオクト以来鳴ってないけどさ?作動自体はあれも遅かったけどさ?


 この集団に攻撃された時も鳴らなかったよね?今更だけど何で鳴らなかったの?

 今度こそ仕事しろよ?危機感知?大丈夫よね?


 と、ここまで逡巡してみたけど……


「なんかいけそうな気がする」

「嘘でしょ、この人数だよ?!俺たちの何十倍もいるんですケド?!けっこう強いやつもいそうだよ?」


 言わんとすることは分かる。

 敵もスキルがたくさんあるだろうし、どんな闘い方になるか情報が全くない。


 いや、黒魔法使いがいるらしいってことはキーマから聞いた情報で知ってる。


 でも少なくともキーマが服を脱ぐことが出来る程度には発動に時間がかかっていたはずだ。ダークのノータイム魔法発動に慣れてるから感覚バグってるけど、普通は詠唱が必要だから、未然に察知できると思う。


 この比較的狭い空間なら見渡せるし、隠れるような場所も特にない。注意していたら魔法も回避できそうな気がする。


 そう。

 冷静に考えて、なんかいけそうなのよね。


 でも、油断するつもりはない。


 スキルを発動させる。

 はったり用じゃなくて、殲滅用のスキルを。


 はったり用は正直MP効率が悪い。

 あの赤いエフェクトがつくように特化したやつだから。


 一応これまでの多人数戦の経験から、殲滅用(弱)〜(強)の段階別にスキルをそれぞれまとめて一覧を作成している。


 今回はヒト相手だし、どこまで通用するか調べたい。異世界とは言え流石に人殺しになりたくないので、ひとまず小手調べとして強度を確かめるためにも殲滅用(弱)でまとめたスキルを起動させていく。


 対人練習はダークしか居なかったから、実のところ、このスキルコンボがどの程度の強度かわからないんだよね。


 果ての森ではダークに本気で殴りかかるわけにはいかないし、土人形を複数作ってもらって、それで練習したり模擬戦したりしてきた。


 ダーク曰く、土人形はLV40くらいのエルフの平均的な物理防御力の耐久らしいから、攻撃力自体は十分なはず。エルフの耐久が基準なのは、ダークがエルフの耐久しか知らないらしいから。


 確かにダークは特殊な環境に居たみたいだし、あんまりエルフ以外と関わってなさそうだよね。


 でもまぁ、記憶の中のエルフ、メープルちゃんとかシーダーとかの身近で見たり触れたりした肌の感触はヒトと大して変わんなかったから大差ないはず。


 で、(弱)はそのダークの土人形の腕にヒビが入る程度だった。あくまでも(弱)だし、そこまで威力は必要ない場面に使おうと思っていた。


 今回はサンのところに辿り着くのが目的だから最小限でいいんだよね。


 ということで、お試しの意味も込めての実戦だ。


 起動させたスキルは、ユニークスキルの挑発と威圧、殴打スキルLV3とLV4のみである。


 殴打LV3:スタミナ200を消費して、30分間殴打による攻撃力中up

 殴打LV4:スタミナ500を消費して、1時間殴打による攻撃力が物理攻撃力の5倍にup


 これだけでも、フワッと私の周りに風が出来る。


「え?!カナメ、なんか雰囲気が……」


 何故かキーマが横から驚いたように呼びかけてくるけど、答えてる時間が惜しい。


 殴打LV3は30分しかないから、1人1分だと足りないからギリギリだわ、急がなきゃ。


「とりあえず突っ込んでみるから、自分の身だけ守っといて」


 それだけ言い残すと、黒い集団の中に飛び込んだ。私が立っていた扉の方が位置的に上なので駆け降りる形だ。


 まずは手始めに、一番近くにいた黒衣の人間の腕を左手で掴んで強く私の方へ引き寄せるようにして引っ張る。

 右手の拳を握り込んで殴ろうとして……異変に気づいてやめた。


 相手は不意を突かれたようで「なっ?!」っという声を発して、同時に私は私で意表をつかれていた。


 待っ、これ、やば……!

 あ、でも左手の勢い止まんねー……。


 直前で慌ててブレーキかけて勢いを殺したけど、遅かった。


 ブチィッ


 嫌な音が講堂に響いた。


「あがぁぁああ」


 悲鳴とともに目の前で真っ赤な液体が噴水の如く散らばり、視界が真っ赤に染まった。


 片腕を失った男が地面に転げ回る。


 う、うわぁ。スプラッタだ……。


 薄暗い中での血は鮮やかというより赤黒い。あたりが一瞬で血の海になり、その残酷な光景に心臓が早鐘を打ち始める。


 はっ、はっ。

 小さな短い呼吸で冷や汗が出る。


 ひとまず、冷静に。事実を一旦確認する。


 掴んだ相手の手が、取れた。

 とりあえず、左手にある相手の腕をなるべく見ないようにして、そっとポイする。


 う、吐きそう。


 スプラッタもどきはゴブリン退治でしたことあるけどさ。これ、魔物じゃなくて正真正銘のヒトじゃん?


 酸っぱいものが喉の奥にせりあがってくる。

 おえー何も胃になくてよかった。じゃなきゃ確実に吐いてる。


「オーバーキルじゃん」


 何とか苦酸っぱい唾液を飲んで言葉に出す。無理矢理でも声を出したからか、少し気持ちが平静に戻る。


 いやー、まさかの想定外だわ。


 赤いエフェクトの時のエルフよりも、今の相手が脆かったなんて。紙というより、羽根に近い軽さで腕がもげたんだけど。


 もしかしてヒトってかなり耐久低い?

 いや、たまたまコイツが弱いのか?普通のステータス知らないから分かんないわ。


 いずれにせよ、今からスキルの発動を止めるのは勿体無い。

 今の相手だけ弱かったのかもしれないし、油断して魔法放たれたら、今度は私が終わる。さっきキーマも強そうなのが混じってるって言ってたし。


 やるしか、ないか。


 ゴクリと再度酸っぱい唾液を飲み込んだ。


 ちなみに私が腕ぽいして、吐きそうになって切り替えるまでの時間は怠惰スキルで長くなっているから、実際の時間は0.5秒くらい。そこまでのロスではない。


 赤い水溜まりを蹴って、次の敵へと突っ込んだ。


 手当たり次第に目の前の人間を叩いて進む。


 なるべく手とか脚とか、死に直結しなさそうなとこを見繕って。叩くというより触るに近いけど。


 ポンポン乗せたそばからポキポキと相手の骨が折れる音が聞こえてくる。


「うがぁっ」「ぎゃぁあ」「あぁぁあ」


 講堂だからだろう、声が石壁に反射してよく響く。


 致命症ではあるけど、殺してはいない。

 これで済むなら安いものだわ。力加減さえ気をつければ大丈夫そうだ。


 それにしても、敵が弱過ぎる。


 ここで流石におかしいと気づく。


 この人達、敵意はあるし、攻撃の素振りはするのに何もスキルを発動してこないのだ。おかげで殴られても痛くも痒くもない。HP1すら減らないのだ。でもスキルを発動してたら、もっとマシなはず。


 スキルがものを言う世界だし、普通は何かあるはずだよね。特に、やられてない後方から魔法なり武器なりで反撃があってもいいはず。


 シャンッシャンッ


 突然、鈴のような金属音が聞こえて前方のサンがいた祭壇の方を見やる。


 視線の先にキラッと光る金属質の細かい棒状のものが目に映った。音の正体は金属の輪っかにくっついているあの短冊みたいなやつだと分かった。金属の輪は棒のようなものの先端にくっついている。錫杖ってやつ?


 波打つように掲げられては下げてを繰り返されている5本の錫杖。

 その根元には5人分の黒衣の影。


 金属音に紛れて、何語か分からないお経のような低音が地を這うように聞こえてくる。


 目を凝らして見ると、5人の黒衣は後ろ姿からでも分かるくらい一際(ひときわ)豪華な金糸の刺繍が入った衣装だ。

 この怪しい団体の神官的ポジションの奴らか?


「何を……」


 私の疑問の声は、ブゥンという耳鳴りに近い音にかき消された。

これも若干長かったので分割しました。修正が終わり次第また明日アップします。

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