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上を向いて歩こう

「あーもう、どこまで続くんだろ、この階段」


 いい加減、壁を壊して外に出ても良いかもしれんよな。

 敵がどのくらい居るのか未知数だし、一旦は正規ルートで降りてきたんだけど、我慢の限界が近いわ。


「装備が途中にあったら良いなって淡い期待を込めて降りてきたけどさー、全然辿り着かないよね。そろそろ地上にたどり着いていいくらいじゃない?」

「うーん……」


 煮え切らない返事の後、キーマは探るような間を作る。


 薬草についてぶつぶつ言ってたわりに、切り替えは早いみたいだね。


「……どうかな、何となく人の気配が近くなってきてるから、もう直ぐ地上だと思うよ」

「え、分かるんだ?」

「魔力感知だと精度低いからはっきりしないケドねー。索敵は魔物に対しては正確だケド、人間相手はあんまり効果ないんだ。でも、二つのスキルを合わせたら、何となくわかるよー」

「ほー、そうなんだね」


 感知系を組み合わせで使うのか。

 危機感知みたいな、発動したりしなかったりするスキルよりも有能そうだ。


 ま、装備については盗賊の服は最悪なくても、また奪え(もらえ)ばいいけどさ。

 ……おっと。物騒な漢字を当ててしまった。貰えばいい、だな。


 ただ、鞄はお金も含めて色々入ってるし、失くすのは痛いなー。


 へっくしゅ!


 私じゃない。

 キーマくんのくしゃみだ。


 室温は低めだけど、階段を降りてるだけとはいえ動いてるし寒いわけじゃない。


 ただ、私ら身ぐるみ剥がされているからね。

 私はまだゴミ袋被ったみたいな服が残されてるんだけど、実はキーマは裸だ。


 私がなるべく下を見ないようにしていた理由でもある。


 そう。

 せっかく男らしくて頼もしい面もあるんだけど、いまいちドキドキしないのは年齢というより寧ろ、こいつ真っ裸だもんなーていうダサさが邪魔をしているからと言える。


 一応パンツみたいな薄めの布は大事なとこに巻いてるけど、あれ油断すると形見えるもんな。正直目の毒だわ。だからなるべく下を見ないようにしてたんだよねー。


「装備早く見つけないとね。私はまだマシだけど、さすがに裸じゃ寒いもんね」

「んー……」


 気のない返事だ。まあいいや。


 と、やっと地上に着いたみたいだ。


 階段が終わって前方と右に廊下のような通路がある。階段同様の質の石畳みの通路に質素な木のドアが不規則な間隔で見える。

 一番近いドアは正面の通路の右手側。


 キーマは早速そのドアの近くまで足を忍ばせて向かい、探るような間の後に手招きする。


「この部屋は人の気配がないよ」


 こいつ、やっぱ有能だな。()()だけど。


「んじゃ、入ってみよ」


 一応警戒しつつ中を見ると……見覚えのある鞄と服。


「私のカバンー!あって良かったー!」


 期待しないで鞄の中身を確認してみる。


「おお!」


 奇跡だ!何も減ってない!


 現金は記憶の所持金より減ったかもしれない……でも、正直昨日食堂でどのくらい使ったか酔ってて覚えてないから、正当に消費した可能性もあるね。


 そもそも盗まれるなら全部取られるだろうしね。


 山賊の服もあった。

 良かったー、これ結構気に入ってたんだよねー。


 と、ここで気づく。


「キーマの装備ないね。他の部屋にあんのかな」

「いや、無いと思うよ」


 キーマは一応ドアの入口の所で外の気配を探りつつ警戒してくれていたけど、こっちを見て平気な顔してキッパリと否定しきた。


「え、何で?」

「言いそびれてたケド、買い出しの途中で、裏路地に迷いこんじゃってねー」

「そこで襲われたの?」


 それなら余計に装備がここにある可能性は高いだろうけど……。


「いや、そこで屋根の上で黒い集団が闇魔法を使おうとしてるのを見かけたんだよ。その対象を辿ってみたら一般人の2人が狙われててさ。魔力感知で遠くからでも分かるくらいのでかい範囲魔法陣が浮かんでてねー」

「おお、マジか。狙われてた2人のうち1人って、私のこと?」


「うん、多分そう。でも、俺、攻撃魔法しか持ってないからさー、あの魔法防げないなーってわかったの」

「ふむふむ」


「でも見るからに弱そうな獣人と女の子だし、攻撃魔法の間に割りこんで一緒に捕まって、隙を見て助けようかなって」

「ふむふむ?」


 ツッコミどころはあるが、先に顛末を聞いておこう。


「でも、買い出し中だったから荷物とかあるでしょー?そのまま行くと俺の行動でパーティの装備とかせっかく買い出したものが盗まれちゃうからさ。そんな迷惑はかけたくないなって」

「うーん?」


 ツッコミ待ちか?

 いや、ひとまず、まだ聞く方がいいか。


「そこで思い出したんだよ!リーダーがもしもの時のためにって、『臨時の腕輪』を持たせてくれてたことをね」

「……『臨時の腕輪』ってなに?」


 現物がないから鑑定出来ないんだよな。

 ここは素直に聞く方がいい。


「え、知らない?冒険者ならみんな欲しがる希少アイテムなんだケド。ダンジョンの高層でしか発見されないから入手困難で、値段もかなり高いんだ」

「へー、そんな高価なアイテムに触れる機会なんてないから知らなかったなー。で、高いってだけじゃないんでしょ?」


 話の流れ的には、魔法攻撃を防ぐとか、装備を保護する効果か?


「うん。それがね、『臨時の腕輪』は発動中半径2mを隠蔽して特殊な音でパーティメンバーに居場所を知らせてくれるんだよ!」

「……それを、どうしたの?」

「リーダー達に迷惑かけないために、装備を全部脱いで、荷物と一緒に軒下の目立たないところに置いて発動させたんだ。今頃リーダー達はちゃんと装備品の回収が出来たはずだよ!で、なんとか闇魔法の発動する前に女の人の方のカナメを庇って……って、いだだだだ」

「バカか、あんたは!ガチでバカ」


 この際、真っ裸の中学生に庇われたんかーという絶妙な気持ちは脇に一旦置いておこう。


 とりあえずこの子のリーダーの代弁者としてキーマの頭を掴んで頭皮マッサージみたいに指に力を込めて叱責する。


「え、なんで?!めっちゃ機転利かしてるのに?!」


 本気でわかってないみたいだ。

 このバカ、びっくりした顔して振り向いてくる。


「あんたのリーダーが、あんたにその貴重な腕輪を渡したのは、そんなことのためじゃないでしょうが」

「え?でも、危なくなったら使ってって言われたケド」

「いやいやいや、それ、リーダーの意図と違うから。危険ってのはあんた自身の危険であって、他人の危険じゃないから!てか根本的に使い方間違ってるし!何で装備を外してんだよ、バカ」


「だって!ソウ……いや、リーダーから使ってって渡された貴重な装備だから……俺の単独行動はパーティのためにならないし、盗られる可能性があるなら持ってっちゃダメかなって」

「かー、マジか、何だその謎理論」


 ダメだコイツ。

 リーダーのことを思うと居た堪れなくなる。


 キーマの無鉄砲さと謎理論が、何となくダークにも重なって、不安になってくる。あいつもこの謎理論で動くんじゃないかと思うと気が気じゃないんだが。


「あのね、助けてもらっといて何だけどさ。私はそのリーダーの気持ちになって言うわ」

「ん?」


 キョトンとした顔で首を傾げるキーマ。

 こういうとこ幼いよな。


「高価な腕輪もあんたが身につけてた貴重な装備も、全部、ぜーんぶ、あんたを守るために持たせたはずだよ?それを全然意味のない方法で使われてみ?私ならガチギレするね」

「え……なんで?」


「だから、あんたを守るために渡してるのに、わざわざ外して危険に身を晒したらダメでしょうが!」

「でも、俺の行動はパーティのためにならないでしょ?リーダーに頼まれた装備買い出しも、中途半端になってしまうし……」


 本当によく分かってないみたいだな。キーマは理解出来ないと難しい表情をしてくる。

 誰にともなくイラッとする。


「だーもう!そんなの関係ないって!そもそも、仮にリーダーがそんな自己中な考えだったとしたら、あんたに買い出し頼む時点で街中なんだし、装備全部取り上げるっしょ?」

「…………」

「それをしないってことは、全部あんた自身の安全のために装備させてるわけ。それを、あんたが全部無下にしたんだろ?」


 ここでキーマも漸く納得したのか、押し黙って唇を突き出す。

 納得はしたが、同意はしていないと言いたげな表情だ。


「リーダーは報われない気持ちになっただろうなー。今頃すっっごい心配してるんだろな。迷惑どころか、あんたを必死で探し回ってる姿が目に浮かぶわ」

「…………確かに、心配してるかも」


 ここまで言ってやっとキーマも理解を示してくれる。


 キーマには少し反省しといてもらおう。

 こいつのリーダーのためにも。


 私はそそくさと山賊の服を着ようと部屋の中の方へ再び向かった。


 にしても、闇魔法を使われたのか。

 真っ裸とはいえ、キーマが庇ってくれなかったらと思うとゾッとする。


 いや、正直に言おう。

 真っ裸少年に庇われたんだと思うと、どちみちゾワッとするわ。

 善意とはいえ、変質者じゃん!いやー良かったー、記憶なくて。


「まーなんやかんや、あんたのおかげで私は命を助けられたわけで……って、げ。何で泣いてんの」

「……ぐうっ」


 一通り服を着終わってキーマの居るドアの近くに目をやると、いい歳した少年が泣いてた。


 ボロボロとキーマの吊り目がちのまなじりから涙の粒が落ちる。目を見開いた状態から涙が出てるからか、余計に粒が大きく見える。


「え、さっき私がやった頭が痛すぎた?」


 最初に掴んでからすぐに力抜いたけど……加減は気をつけてたのに。


 キーマは涙を流しながらブンブンと首を振る。


「え、じゃあ、なんで?」

「俺……リーダーの役に立ちたくて……でも、いつもリーダーは俺を止めるばかりだから、リーダーの負担になってるかもって思ってて。うぅ……俺のことより、装備がなくなってがっかりされたくなくて……ぐす。あと、大事なクエストがこのあとあるって言ってて」


 目を腕で隠しながら、嗚咽の合間に早口で言ってくる。


「お、おう……?」

「でも、リーダーはいつも、チェリンの方が好きだから、ぐす、俺のこと……邪魔って思われてたらって……だから、せめて迷惑かけないように……うっ」


 なんか、めんどくせぇ。

 支離滅裂だし、よく分かんないわ。


 3人パーティで、リーダーとヒーラー…‥チェリンって人がデキてるって言ってたし、嫉妬に近いやつ?ストレスが溜まってんだな。


 心なしか、キーマのツンツン髪がへにゃっとしてる。キーマに近づいて、そっと頭に手を置いて撫でてみる。

 思ったより柔らかいのな。


 頭撫でられるの抵抗されるかと思ったけど、特に嫌がる素振りはない。私はそのくらいの歳の時は抵抗感あったけどな。


「邪魔って思う奴に、貴重な装備渡さないって。そもそもリーダーにとっての自分の存在が不安なら、正直に聞いた方がいいと思うよ?聞くからに、そのリーダーはちゃんとキーマのこと大事に思ってると思うけどさ。聞かないとわかんないこともあるっしょ?」

「……うん。ぐす」


 腕を目から外して、涙で充血した目でしょんぼり私を見て返事するキーマ。

 本当いい子よな。


 ダークが優等生系天使なら、キーマはお調子者系ムードメーカーで全然タイプが違うんだけど、2人とも何となく純粋なとことか似てる気がする。


「もう泣くなって。終わっちゃったことはしゃーない。でもね、実は私、魔法防御力13しかないんだよね」

「うえっ?!ぐすっ、それ、ダメでしょ」

「そ。あんたが咄嗟に庇ってくれなかったら、ガチでやばかった……てか死んでたと思う」


 マジでいつもよく分かんないとこでギリギリ死にかけながら生きてんのな、私。いつも気づかないうちに綱渡りしてるわ……。

 遠い目しながらキーマの頭を適当にガシガシと撫で回した。


 まあ、なんとか生きててよかったわ。


 出来るだけ明るい笑顔でにっと笑いかける。


「だから、ありがとうね。あんたの優しさに助けられたよ」


 キーマがパチっと両目で瞬きをする。そこで漸く最後の涙が頬を流れ落ちていった。


「……うん。ぐす、役に立てて良かった」


 ちょっと照れくさそうに鼻を啜りながら笑うとキーマは頬の涙を拭った。


 お、髪がツンツンに戻った。弾力が変わったというか……なにこれ、感情で髪が変化するのか?

 どんな物理現象だよ、さすが異世界だわ。


 結局、一度着たはいいけど、裸ん坊を目の前にして、私の良心の呵責が半端ないことに気づいたので山賊の服はキーマにあげることにした。


 どうせタダで手に入れたものだし、惜しくはない。身軽に動けるキーマには戦闘スタイルと合うはずだ。


 まあ、肝心の槍はない。せっかく槍使いの申し子なのに槍がないと本領発揮出来ないよねー、困ったな。どこかにいい武器落ちてたらいいんだけどな。


 服を着終わると、すぐにその部屋を出た。

 サンを早く探し出す必要がある。武器探しも兼ねてゲームの要領でしらみ潰しに全部の部屋を開けて、頭の中に地図を作っていく。


 どの部屋も目ぼしいものがないのは別にいいんだ。問題はそこじゃない。

 誰もいない。やっぱりおかしい。


 どこかで別の侵入者がいて、戦闘が起きているのか、はたまた何か大きな集会があっているのか。どちらにせよ闇魔法なんて陰気な魔法を使う黒い集団のすることだ、集会とかろくなものじゃないはず。


 なんか、早くしないといけないような焦燥感が募る。ピリピリとどこか張りつめた感覚が、悪いことが起こる直前のようにも感じる。


 サン、無事でいて……。

次も明日にはアップ出来そうです。

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