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「カナメってすごいねー。まさか、あの拘束具を自力でぶっ壊すなんてさー。びっくりしたよ」

「あー、うん、まあね。何となくいけそうな気がしてやってみたけど、すんなりいってよかったわ」


 私たちが捉えられていた牢屋はどうやら塔みたいな建物の上にあったみたいだ。今は地上に向かって螺旋階段を降りている所。


 両脇を石壁に囲まれた、人がひとりギリギリ通れる狭い階段を足音がしないように気をつけて進む。


 狭いのもあるけど敵が居ないか確認しながらだから、やっぱり時間がかかる。感覚的に普通に階段を下りる速さの半分くらいの速度だ。


 記憶の中のあの変な色した雲の中心にあった教会の塔にいるとしたら、10階分くらいかな?


 通路には窓がないから目印になるものがない。あまりに無機質に同じ景色が続くもんだから、いい加減うんざりしてきたわ。


 せめて敵がいれば、何かしらの情報を得られるのにね……危険はあるけど、この微妙なストレスから解放されるなら接敵するのも良いかも知れないよね。


 牢屋の周囲には、当然ながら見張りが居なかった。

 あの場にいた唯一の人間、隣の部屋のキーマとパーティ成立した時点で特に憚ることもないってことで、力づくで牢屋を抜け出したわけ。


 力づくと言っても、適当に腕に力をグッと入れたら、拘束具は簡単にバキッと壊れた。

 そして鉄格子に至っては、指先だけの力でぐにゃっと歪んですぐに抜け出せた。


 先入観って怖いね。全然歯が立たないと思ってたから虫が足元に来たとき耐えてたのがバカみたいだ。


 てか、逆に見た目ゴツいのに、いくらなんでも強度低くね?拘束具のくせに。


 スプーン曲げるくらいしか力入れてないんだけど。いや、クリップ広げるレベルやもしれん。見た目は鉄っぽかったけど素材鉄ですらなかったのかもしれない。


 そして拘束具の方が鉄格子より硬いって、なんか変じゃね?

 確かに拘束してたら、鉄格子が頑丈である必要も無いだろうけどさぁ?

 なんかしっくりこない。


 まー考えてもキリが無いか。


 で、この私の前を歩いてるキーマくん。

 索敵が得意だからってことで、危険な先頭をかって出てくれた。

 危ないし、とある理由もあって私が先頭になって進もうって言ったんだけど、そこは譲ってくれなかった。


 確かに索敵スキルあるし、キーマが先頭を行くのが適任だろうと渋々了承したわけ。


 いやー、特に面と向かって言うつもりはないけどさ、こういう男らしい子、好きなんだよねー。危険をわざわざかってでてくれるって、良いやつやん。


 味方のフリして油断したところを裏切られても困るから、しばらく様子見してたんだけど、心配なさそうだ。この子普通に純朴な中学生男子って感じ。パーティメンバーの恋バナの反応もなんか、ピュアだったもんね。


 あえて一つ気になることを挙げるとすれば、この子の髪があまりにもツンツンに逆立ってるから、掌に刺さるか試してみたいってことかな。


 こっちは後ろから階段を(くだ)ってきてるんで、ちょうど良い感じのところにキーマの頭がね、あるわけよ。


 あと、頭より下はなるべく視界に入れたくないっていう別の事情もあるから、ついつい目がこの子の髪に集中してしまう。


 なんとか理性で衝動を抑えてるけども、そろそろ限界かもしれん。


 あー、ツンツンの強度を確かめたい〜。


 さて。暇なので余計なことを考えてしまった。とりあえず状況整理しておこう。

 システムのアナウンスによると、このキーマとパーティを組む交換イベントなるものが発生した。


 パーティメンバーの入れ替わりが半自動的にシステム処理されるのはびっくりしたし、それがイベント扱いになるなんてね。


「キーマは交換イベントって何か知ってる?」

「え?何だろー。リーダーならイベントどうこう言ってたから知ってそうだケド…‥俺は冒険者になってそんなに長くないし、分かんないね」

「ふむ」


 キーマは嘘つくのが下手なタイプだから、本当に知らないんだろうね。


 で、だ。

 私のパーティメンバーってダークだけだったから、ダークとキーマが交換されたと見ていいだろう。サンは表記が文字化けして、パーティから外したもんね。


 ダーク、大丈夫かな。


 実はダークは隷属もしてるから鑑定画面上でステータスも見れるし、スキル使用中かどうかも確認できる。


 隷属画面で逐一確認してるけどステータスに変動は無いから、今のところ戦闘してない雰囲気。


 でも『交換』ってことは、キーマの元のパーティメンバーと一緒にいるわけで、心配は心配だな。ダークは呪い持ちだし、変な事件に巻き込まれてないと良いけど……。


 あーあ、サンをおねぇちゃんとこに案内してすぐ帰ってくるはずだったのにな。


 こんな事態になって、ダークにまた怒られちゃいそうだ。眉間に皺寄せて、剣呑とした視線を向けてくるのが目に浮かんじゃうなー。帰ったらいっぱい謝んないとなー。


 で、この隷属画面だと共有スキルの所が暗くなってるから、パーティメンバーから外された状況だと使えないみたいだ。タップしても弾かれる音がする。


 隷属者の操作画面で強制使用をするとなんか使えそうだけど、今はやめておこう。


 ダークが別のパーティにいるなら、そっちで必要になるかもしれない。極力使わない方向でいく。


 正直、忍足スキルが便利だから使いたいところなんだけどさ。あと感知スキルとか役に立ちそうではある。ダークの所有スキルはこういう状況下でのお役立ちスキル盛りだくさんなのよねー。

 それに加えて、そっち特化でスキルの熟練度上げに勤しんだというのに。今回はお蔵入りかー。


 いや、ダークと組んでるパーティが羨ましいとか思ってるわけじゃ無いけどね?

 あの子、人見知り発動するからうまくやれてるかも不安だ。


 で、今、私のパーティ画面にはダークの代わりにキーマくんが居る。キーマの画面を見てみる。


 名前:キーマ

 種族:ヒト

 LV:38

 称号:疾風の槍使い、槍使いの申し子

 加護:

 ユニークスキル:挑発LV4 、魔力操作LV4、魔力感知LV4、索敵LV2

 スキル:風魔法LV4、光魔法LV3、槍撃LV6、連撃LV5、投擲LV5、肉体強化LV5

 HP:1850/2150

 スタミナ:1657/1801

 MP:1625/1800

 物理攻撃力:2154

 物理防御力:705

 魔法攻撃力:1504

 魔法防御力:451

 回避力:852

 テクニカルポイント:0


 レベルも、スキルレベルも全体的に高いと言えば高い。でも私やダーク基準で見ると、ちょっと取得してるスキルが少ないかな。


 ステータスのバランスは良いかもしれない。防御力2つは低いけど、その分回避力が高いし、魔法を使えるのも安定して戦えそうで羨ましい。


 でも、ダークとキーマはレベルが近いのに、ステータスがかなり違う。キーマの口ぶり的に、上位の冒険者チームのはずなのにな。

 それでもダークの足元にも及ばないステータス値だ。ダークのステータス成長率がバグってるってことか?


 種族がエルフだから違うのかも?


 ダークの所有スキルって、隠密よし、物理で攻めてよし、もちろん魔法よし、その他自動回復と耐性あり……呪い発動してるからステータスの問題はあるけどさ。充分強いよね。

 薄々思ってたけど呪い解けたらあいつ最強だな。


 世の中で恐れられてる魔王ってあいつより強いん?そら恐怖だ。


 私、果ての森でダークの作った土人形と模擬戦してたけど、毎回ダーク本体に辿り着くどころか、土人形相手に軽くあしらわれて終わってたわ。


 もちろんダークとは接触してなかったから、呪い発動してたのに、である。

 MP自動回復スキルの回復速度を上回らない範囲という制約がある中の魔法使用で、その強さだ。しかも私の場合、他の種類の魔法攻撃されたら即終わるって言うね。


 土人形の攻撃は物理攻撃換算されるからある程度平気だった。だからダークも渋々戦ってくれてたってのもある。

 最初、怪我させたくないとか何とかぶつぶつ文句言われて、そこをなんとか説得したんだよねぇ。魔物とかエルフと戦う前に少しでも私が強くなってないと、いざって時にダークを守れないし。


 でも結局、終始模擬戦の間はダークにかなり手加減されてしまっていた。


 だからまともにダーク完全体(笑)と戦って、ダークに勝てる気はしない。

 世界の評価的に魔王が更に上なら、私だけで魔王攻略は無理だわ。


 もちろん、魔王は多人数で攻略するんだろうけどさ。今んとこパーティまともに組めてないしな。仲間集めしないと。


 で、今はキーマだ。私にとって初めてのちゃんとしたまともな人間のパーティメンバーが、交換した人ってなんか寂しいものを感じるけど!今はそこは深く考えないことにする!


 ステータス値に多少疑問はあるけど、私の物理攻撃力特化よりは、キーマのステータスの方が安心できる、特に魔法面で。


 とにかく、ここを脱出するまでの間の臨時パーティでもお互い命大事にだ。ここ重要。


「普通に降りてるケド、全然人が居ないねー」

「確かにねー。ちょっと変だね」


 私もキーマと同じことを言おうとしてたとこだ。


 普通、人を捕えたんなら理由がある。

 何らかのアクションがあっても良いはずなのに。思いの外、脱出がイージーモードだ。


 ただ、同時に捕まったはずのサンが居ないのがおかしい。


「そもそも、私どうやって捕まったのか、覚えてないんだよね」

「え、そうなの?」


 湖で溺れかけたあと変な色の空見て……教会みたいな建物に向かおうとしたところで記憶が途絶えてる。だから、あの時何らかの要因で気絶したと思うんだけど。


 襲われたのかな?

 HPが100くらい減ってるから、その説は有力だけど……仮にもし、本当に襲われたならマジで危機感知ゴミってことしか言えねぇ。


 ちょ、背後確認しとこ。

 真面目に危機感知作動しないことがあるとしたら怖えわ。


 と、振り返って見ると階段の足元に薬草が生えている。


 え?薬草?

 薬草……だよね?


 何度もぱちぱちと瞬きしたけれど、やっぱり薬草だ。

 あんなけ食べたんだもん、見間違えるはずがない。ダメ押しで鑑定してみても薬草って出た。

 なるべく下を見ないようにしてたから気づかなかったわ。


 天井を見る。石だ。

 つまりここ、屋内だ。


 窓すらないのに何で薬草あんだよ。光合成どうしたよ?植物だよね?薬草って。

 何でこんな石畳みの隙間に生えてんのさ。


「どうかしたの?」


 私が立ち止まってることに気づいたキーマが振り向いてくる。


「いや、薬草が……」

「え、薬草がどうしたの?」

「変じゃない?」

「変?薬草はどこにでも生えてるイメージだケド」


 キーマが振り返って私の様子を寧ろ不思議がる。


 え、薬草こんなとこに生えてても変じゃないの?普通なの?


 この世界の常識って、わかんねー……。


「まあいいや。とりあえず食っとくか」


 HPちょっと減ってるし、爪の先程度しか変化しないとはいえ、ここで回復しといて損はない。


 無造作に薬草を引き抜いて、葉の部分を口に入れる。お馴染みの味が口に広がった。


「は?!え、カナメ?!それ、薬草だよ!?何で口に入れ……そんなことより大丈夫か?!」


 キーマが驚愕の顔して私の肩を掴んでくる。


「ん?HP回復しようかと思って……あ、ごめん、キーマも要る?」


 HPこの子も結構減ってるもんね。


「うえぇ、ほんとに食べてるー。要らないよ!」


 善意で言ったんだけど、逆効果みたいだ。

 薬草を生で食べると、この世界の人達驚愕してくるよなー。

 確かに洗うくらいはしたほうがいいかもしれないけど、ドン引きの理由はそこじゃないんだろうと分かる。


 でもさ、味エグいけど、ここまで慣れ親しんでしまうと、私の中ではいっそ青汁的な役割なんだよなー。健康的っていうか。


 で、ひとしきりむしゃむしゃと食べ終わると、またひたすら下に向かって降りていく。


「本当にさっき飲み込んだの?平気な顔してるケド、実は関わっちゃいけない系の人だったのかな……?」

「いや、普通の人だから安心してよ」

「フツーの人は、薬草食べないし、鉄格子をねじ曲げたりもしないでしょ」

「…………ふむ」


 キーマが若干引き気味だが、聞いた限り納得できる部分もあるので、あんま弁解しないことにした。これ以上何を言っても余計な誤解をうみそうだ。

 気にしないようにする。


 てか、やっぱあの牢屋の柵、鉄格子だったのか。鉄なのにあんな軽く曲げられるって、物理攻撃力のステータスが高い影響なのかなぁ?


 あの時の鉄の感触を思い起こしながら、自分の手を見つめてみるけど、それ以外の理由は考え付かなかった。

 感覚的には身体は普通なのに、周りが変化したみたいな、変な感じ。

長くなったので、半分にしました。次の話は明日投稿予定です。

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