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お互い暇な時にする話って、案外と面白いものだ

少し場面飛んでますが、読み進めて頂けたら嬉しいです。

「あのさー、ちょうど暇だし、ちょっと聞いて欲しいんだけどさ、いいかな?」


 じめじめとした薄暗い部屋に似つかわしくない、明るいカラッとした若い男の声が響く。

 姿が見えないけど多分隣の部屋かな。ガランとした部屋だし、声がよく通る。


「うん、いいよ。私も暇だし」


 色々考えるべき状況だろうけど、今のところどうしようもないもんな。暇だわ。


「俺ね、冒険者やってて3人のパーティ組んでるんだケドー。今限界なんだよね、もうこれ俺1人じゃ抱えきれそうにないっていうかー」

「え、どうしたん?」


 限界とか深刻な話っぽいのに、悩みなのか疑うくらいにサラッとしてるな。

 まあ、見ず知らずの人に話したくなる程度の内容だろうとは思うけど。意外と自分やその周りと無関係な人の方がすんなり話せることもあるよね。


「うちのリーダーと、ヒーラーの女の子がデキちゃっててさー」

「お、おう。それはちょっと気まずいかも知れんね」

「そうなんだよ、もう、マジで!気まずい!気まずいを通り越してキツイんだよー!」

「へー、そんなに?」


 私は話半分に聞きながら、湿った床に這う虫を見つめる。こっち来んなよーという念を送り、来たら殺す、とギンと睨みつける。

 お、向き変えた。よし。


 一方、声の主は本当に誰かに聞いてもらいたかったようで、堰を切ったように話し続ける。


「俺、そういう系ってさ、幼い頃から修行で山にこもってて疎かったんだケドー。もうね、アレ、あからさまなんだって。俺いるのに、すぐ2人の世界に浸っちゃってー。俺だけとり残されてて居た堪れないってゆーかー」

「ほうほう」


 そういや、異世界きて恋バナ2回目だな。

 この話は恋バナって言うか、その周囲の人の話になるだろうけど。冒険者パーティなんて寝食を共にするわけだし、色恋沙汰に発展する方が自然かもしれないね。

 浮いた話の一つや二つは珍しくもないのかな。


「魔物討伐の時に、ちょっとかすり傷が出来ると、回復魔法で治せるのにさー、お互いに異常に心配するんだ。で、傷が回復しても無駄に手を絡ませあって、2人の距離が近いし、顔も赤いしさー」

「あーなるほど。そりゃ確かにデキてるね。でもそんくらいなら、ウブでいんじゃね?」

「いやいやいや、まだあるんだって」


 あるのか。


「俺がその空気に耐えられなくなって、周囲を探索するフリして、よそ見するでしょ?」

「うんうん」

「そしたら、絶対キスしてるだろって気配があってさー。おいおいおい、見てないけど、俺居るぞ?!て。気配で流石に気づくぞ?!て」

「うわーぉ」

「絶対2人は俺が気づいてないって思ってるんだケド、ちょっと色々、知らないフリも限界かなーと思うんだよねー。俺の気持ち的に」


 そりゃ、ちょっと嫌かもなー。

 パーティメンバーの仲が良いのはいいことだろうけど、聞くからに居心地悪そうだわ。仲良過ぎるのも問題なんだな。


 昨日の朝、目覚めたらダークとサンが仲良しになってた時は嬉しくも寂しい親目線だったけど……。

 考えてみると、あの2人があんまりベタベタしてると嫌かもしれない。胸のあたりがチクッとすると言うかなんと言うか……。


「しかも」

「まだあんのか」


 アツアツじゃん。


 てか、うわ、さっきの虫がターンして来てる。

 くっ、ロープが絡んで大きく動けないのが厳しい。どうしよ、足で潰すか?裸足なんだけど。


 私の焦りを他所に、声は続ける。


「こういう街で宿泊する時はさー、リーダーと俺で相部屋、ヒーラーの女性が1人部屋で借りるんだけどね?夜中に目が覚めたらさ、隣のベッドにリーダーが居なかったんだよぉ……」

「うわーぉ、わーぉ」


 マジかー。それは完全にアレやん。


 話とは別に、足元に到達した虫をそっと踏み潰した。


 虫よ、すまんが成仏してくれ。身体を這われたらと思うと殺す他なかったんだ。


 しっかり抹殺できるようにズリズリと足裏を床に擦り付ける。なるべく足の感触を感じないように高速で動かす。


「外に用事があったのかなとか、考えられるけどね?でも流石にさー、俺も15だケドー、それって、アレしてんのかなとか……無駄に思考ぐるぐるするっていうかさー、もやもやしちゃって」


 この声の主、15歳か。

 道理で若い声だと思った。

 いや、待て。

 その仲間も同い年と仮定すると、だいぶやばいんじゃ。


「え、仲間も15歳なの?」

「いや、2人は20歳は超えてるはず。俺だけ年下なんだ」

「あ、そうなんだ」

「うん、ちょうど俺が冒険者に成り立てで、仲間を探してたら声をかけられたんだ」


 若干ホッとしたけど、多感な時期に、なんつう倫理観の薄いやつらなんだ、そのリーダーとヒーラーは。

 いや、まあこういう世界じゃ15歳って成人と言えなくもないのかな。それにしても若い子仲間にしといて、あまり褒められたパーティ関係とは言えそうにないな。


 けしからんが、はたから聞いてると面白いわ。

 軽く聞き流すつもりだったけど、予想外に続きが気になってくる。


「ふーん。で?女性部屋の前まで行ってみた?」

「え、何で?!行くわけないでしょ?!もしそんな最中の声聞こえちゃったら……わー、無理無理無理」


 急に焦ったように、15歳少年が声を張る。


 純粋なやつだなー。

 しみじみ思うけども、私は私の好奇心のために続ける。


「バッカ、君、そこは聞きに行くんだよ。確信に変えた方がスッキリ寝れるっしょ?」

「いやいやいや、スッキリするわけないよね!?むしろ俺、2人のあんな声とかそんな声とか……聞きたくないからね?!」

「でもさー、結局悶々としてたわけっしょ?」

「まあ、うぅん……そうだけど」


 素直だなー、この子。

 そこは別に正直に言わなくていいのに。


 15歳ってこんな純粋なんかな。私の方が7つくらい年上か。


 私も歳をとったなー。つい、エロ親父みたいなことを言っちまった。

 ふっ、大人になって、多少は薄汚れちまったってことかな。


 勝手に心にダメージを受けてると、少年のため息が聞こえた。


「はぁ……もう、この際あの2人のことは止められないにしても、早く新しいパーティメンバーでも増えないかなー」

「あー、確かに。3人じゃなくなれば多少状況変わりそうだね」


「実はこの2つ前くらいの街で、新メンバーに加えられそうな人を探してたんだー。なかなか見つからなくって、結局この街まで来たんだケドー」

「うーん、リーダーは何でメンバー増やさなかったの?」


 パーティメンバーか、私も他人事じゃ無いな。そろそろ、まともなパーティ組まなきゃ。


 現状ダークにおんぶに抱っこ状態だ。

 これじゃ、ダークをズルズルと危険な討伐まで連れて行きかねない。子供をそんなとこに連れて行くとか流石にダメっていうか。


 せっかく街に出たし、そろそろ奴隷解除の方法も探さないとな。名前も付け直したい。


 あれこれ考えが浮かんでくるけど、現状、物理的に身動きできないしな……。


「なんか、個人の成長値がどうの、ポジションがどうのとか言ってて、俺には良くわかんないんだよねー。適当に役職で選べばいいって訳でもないらしいよ」

「ふーん。普通は何人でパーティ組むもんなの?」


 そういやパーティメンバーって何人くらいが適正人数なんだろう。

 ノズ達は4人だったけど、ユウキ達は3人だった。私は1人で放り出されちゃったし、何人が普通なのか、よく分かってないんだよね。冒険者って命が危険に晒されるから、多い方が安全そうなのに、冒険者ギルドでも10人規模の大所帯は見かけなかった。


「普通は3人から5人だね。最大7人まで組めるけど、少人数パーティになる一番の理由はパーティ戦の戦闘経験値の配分が減るからだと思うよー」

「なるほど」

「だから、パーティを組むなら、なるべく能力差の無い人を選ぶ必要があるんだよねー。でも、俺は人を見ただけで能力とか分からんないから、リーダーの言う通りにしてるんだ」


 確かにパーティに入る経験値が等配分されるのなら、なるべく高い能力値か成長率でないと割に合わないかもしれない。

 そう考えると、この声の子のパーティはかなり選り好みしているっぽいし、高ランクなんじゃ無いかな。


「なるほどね。確かに戦闘バランス的に冒険者パーティとしては3人くらいがちょうどいいかもね。旅費も少なく済みそうだし」

「うん。まあ、お金はそこそこ稼いでるから心配してないかな」


「うわ、羨ましいな。私も冒険者もどきしてるけど、貧乏過ぎて、しばらく草とか根っこしか食べてなかったわ」

「え。普通にクエストクリアしてたらそこまで困窮しないと思うんですケド。魔物の毛皮とか売ったらある程度稼げるでしょ?」


 普通はそうだよなー。普通は。

 普通になりたいものだ。ダークやサンの呪いなんとかならんかな。正規で街にすら入れないもんな。


「換金できるものは結構持ってるけどねぇ。長期で人里離れたところに行っててね。人がいなきゃ、金って役に立たないんだなって実感したわ。マジでここ2週間森の中をひたすら歩き回ってたよ」

「長期クエストだったの?いいなー、俺も将来そんな風にいろんなクエストを受けたいな。ワクワクするよね」


 この声の子、純粋に冒険者の仕事が好きなんだろうね。そんなに期待を込めて言われると、ただエルフに追われて果ての森行ってただけとは言いづらい。

 ここは訂正せずにスルーしておこう。


「今からでも別のパーティに入ってみたら良いじゃん。気まずいなら無理して一緒に居る必要無さそうじゃない?」

「んー……」


 あんまり気乗りしないって反応だ。

 あわよくば私のパーティにと思ったけど、無理そうかな。


「今のパーティのリーダーは、色々詳しく知ってるし、たまには頼りになるところもあるんだよねー。時々弱音吐くけどさ、お人好しのいい奴なんだ。俺バカだから、どこまで言っていいか分かんないんだけど、実は俺達のパーティにしかできない、大事な依頼があるんだ。だから今は、とりあえず我慢っていうか……」


 大事な依頼か。高ランクパーティは、依頼にもご指名で声がかかるのかもね。


「でさ、話戻すと、その空きベッドに気づいたのが昨日でさ」

「マジか。昨日かよ。そんな直近だったのか」

「うん。そうなんだよ、誰かに聞いて欲しかったんだよねー。ちょうど良かったよ」


 同じ状況なら私でも1人で抱えるのは無理だろうな(笑)

 色恋沙汰ってほんと難しいなー。22歳にもなって、いまだによく分かんないって。


「じゃあさ、ここから出たらあんたのリーダーに恋人との関係がバレバレだよって言ってやるよ。そしたら気をつけるんじゃない?」

「ほんと?!言ってくれる?」

「うん、良いよ。そのくらいお安い御用だ」

「ありがとう!助かるー」


 あ、結構嬉しそうだね。

 終始軽い調子だったから気付きにくいけど、案外、本当に困ってたのか。


「俺、キーマって言うんだ。よろしくね」


 おう、唐突に自己紹介しだしたな。

 名乗らないスタイルなのかと思ってたけど。


「私はカナメだよ、よろしく」

「カナメ、か。あまり聞き慣れない名前だね」

「あー、まあ、そうかも」


 この世界の名前って西洋寄りなのかな。


「ところでキーマ、ちょっと聞きたいんだけど」

「んー?」

「薄々思ってたんだけどね。ここってさ、牢屋じゃない?」

「うん、牢屋だね」

「私らってさ。捕まってない?」

「うん、捕まってるね」


 やっぱりそうかー。目の前の格子状の柵、ドラマでしかみた事なかったから確証欲しかったんだけど。第三者目線でもこれ、牢屋だったかー。


 そして、身体をロープでぐるぐる巻きにされてるけど。やっぱこれ、捕まってるんだー。


 なんなら靴脱がされてるし、ステータス見る限り装備品も盗られてるよな。盗賊の盗賊による服装が……また奪うしかないか。


「リーダーに物申すにも、ここを出ないと言えないよね」

「うん、そうだね」

「じゃあさ、ひとまず臨時パーティ組んでここを抜け出さない?」

「え!君、ここから抜け出せるの?」

「いや、これから考えるんだけど。仲間は多いに越した事ないかなって」

「なるほど!そういうことなら良いよ、仲間になろう」


 すると、キーマの声に反応するようにパンパカパーンと頭にラッパが鳴り響く。


 《条件を満たしました。パーティメンバー交換イベントが実行されます》


 え?交換イベント……?

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