表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/150

イケメン美女に制裁を

 視界いっぱいに迫った赤い瞳に吸い込まれそうだ。


 何か、思考が回らないというか、鈍くなってるような気もする。

 これが魅了スキルってやつなのかなー?と、呑気に見つめていると、赤色から淡い桃色に明滅し出した。


 よく見るとサンは眉を(ひそ)めて何かに耐えるような顔をしている。


 あのさ、私のがそう言う顔になりたいの、分かるかな?

 まさかこんな体勢で一方的にそんな顔されるなんてさ、酷くね?

 つか、いつまでするんだ。


 ジトーっと睨んでみる。


 と、サンの顔が徐々に離れていく。


 そこでふと気づいた。

 私の口元の圧迫感は遠ざからない。


「んむむ?」


 視線を落とすと、サンの手で私の口は覆われていた。


 ……………うわ。恥ずかし。


 もう、焦ったwwキスされたかと思ったじゃんww

 心臓がバクバクし始めたんですけけどwwww


 私が内心慌ててる間に、サンは近かった距離をプルプルと揺れながらも身体を離していく。


 サンはサンで葛藤?のようなものをしているらしい。


 まるで何か別の意思が働いていて、それに抗うかのようにサンの表情は険しい。普段のおっとりした色気のある雰囲気から外れて、目の端が、キュッと上がっている。


「くっ……」

()たっ」


 私からサンの身体が離れると、口元の手が外れて、ガシッと私の肩を掴んで腕を突っ張るように伸ばした。


 つい声を上げるくらい、サンの爪が肩に食い込んで結構痛い。


 痛いけど我慢できなくもないので、ひとまず様子見をしている。

 こんな呑気にいるのもHPの変動がないからだ。痛いのにさー、ほんと謎。そして危機感知も鳴らないし、多分大丈夫かなーと思ってる。

 ま、最近危機感知って鳴り出すタイミング遅いんだけどさ。


「カ、ナメ。歌……」

「ん?」

「う、歌を、歌って欲しい」

「は?」


 え、今のこの状況で?


 絞り出すような声音だし、流石にサンもふざけてなさそうだけど、何でだ?


 私が戸惑ってるうちに、更に私の肩に指を食い込ませてくる。


「いつつつ」


 かなり痛いんですが。

 あ、流石にちょっとHP減ったやん。


「……早く」


 鬼気迫る表情。

 戸惑ったり冗談を考えてる場合じゃなさそうかな。


「じゃ、じゃあ、えーと……」


 こんな風にせがまれて、何が良いのかよく分からんが、歌うか。


 咄嗟に浮かんだのは、柑橘類の失恋歌だったので、それをひとまず歌い始めてみる。

 ただ、スキルの興奮する項目のあるレベルは念の為外しておこう。用心するに越したことはない。


 すると、だんだんと私の肩に食い込ませてたサンの指の力が緩んで、最終的には離れた。


 肌の接触がなくなったために、サンが目の前で女性の姿に戻っていく。

 顔には汗かどうかは判別つかないけど、水滴の筋がいくつか出来ていて、表情も暗い。小さく深呼吸を繰り返して、自分の手を見つめながら握ったり開いたりする。


 もうそろそろ、歌を止めても良いかな?


 心の中でそう思うと、私の方を見ながらフルフルとすがるような目をして首を振ってきた。

 捨て猫みたいだな、猫耳だしさ。


 しょうがないか、さっきみたいに襲われたくはないし、言うこと聞いとくか……。

 つか、猫耳美女の上目遣い半端ねぇ、可愛い。


 結局、一曲全部歌い切ってしまった。

 歌詞の後半うろ覚えだったけど、まあこの世界にあの歌を知ってる人間も勇者達くらいしかいないだろう。


 歌ってる間にサンの瞳は赤ではなくて元通りの薄い桃色で安定しているし、元のサンに戻っているだろうと予測する。


 さて、何か弁明があるなら聞かせてもらおうじゃないか。


 待っていると、サンは自分自身の手を見つめながら、真剣な顔して口を開いた。


「……さすがに、ニャーにも、好みがある」

「おい、待てお前、おい。私にだってあるわ」


 まるで私に好みがないみたいな言い方、やめてもらおうじゃないか。もっと言うなら私が襲わせたみたいな扱いじゃなかろうか。


 私が被害者だからな?

 まさかの第一声、イケメンに迫ったのが私みたいにされるとは心外な!


 いや待てよ?意識してなかっただけで、まさか、私が魅惑の水も滴る良い女で興奮させた可能性もあるかな?!

 ありゃー、魅惑の身体魅せつけちゃったかー。

 それはすまんかった……。


「いや、違う。カナメに言ったつもりはない」

「このタイミングで即否定してくるなよ、恥ずかしいでしょ」

「本気で危うかった……拒絶スキルが作動しなかったら、本当にヤってた」

「コラ、スルーするな」


 色々とスルーされちゃうと恥ずかしいじゃないか。


 サンは私のツッコミ全スルーのまま、はぁーっと深いため息を吐きつつ、見つめていた手を額に当てて拭う。心の底からキスしなくて良かったと思ってそうだ。


 拒絶……ね。うん。ちくしょう。

 嫌か?私とのキスは、そんなに嫌なんか?!


「嫌というか、アレが嫌じゃない奴はいないだろ」

「…………」


 まあ確かに?

 操られてる風だったし?

 こっちとしてもキスして減るもんじゃないし?

 私はダメージとしては大したことなかったやも知れんが?


 ま、でも、さ。


「イケメンかつ美女だからって、何言っても良いと思うなよーー!」


 バッチーン!


 女の姿だけど、関係ない。

 平手打ちを音高く鳴らしておいた。


 ちなみに、お椀型に掌を丸めて頬を叩くと、良い音だけ出てダメージのない理想的な平手が出来る。見た目女子なので、そこんとこは一応ね。逆に見た目が男だったら蹴り上げてたと思うけど。(ナニ)をかは、あえて伏せておこう。


 で、私が説教すること5分。


「ごめんなさい」


 土下座で謝らせる。


 うむ。

 これが日本式の礼儀だ。


 サンの頭頂部を眺めながら、満足する。

 頭ふみつけたいけど、そこは我慢しておく。


「すまなかった。許して欲しい」


 土下座スタイルのまま、更に謝ってくる。


 うん、まあ、良いんだけど……いつまでやるつもりだコイツ。正直、土下座見たから満足なんだけども。

 あ、許しがあるまで顔あげないのが礼儀って言ってたわ。それに視界が地面だし心も読めないのか。


「良いよ。池に落とされたけど、生きて戻れたし。キスされそうだったけど、未然だったし?」


 む。よく考えたら私、今日の目覚めから散々な目にあってるわ。


 次は何だ?

 槍でも降ってくんのか?


 冗談のつもりで一応空を見てみる。


 うん、正常。

 ん?いや、何だアレ。


 明らかに変な色の渦が広がっている。

 普段通りのよく晴れた空に、少しの雲が浮いている。ただ、家の連なる向こう側、サンの姉がいる方角かな。

 数百メートルほど離れた位置に紫と黄色を混ぜたような毒々しい渦が出来ていた。


 小学生の頃に、絵の具で好きな色と好きな色を混ぜて、結局求めてたのはコレジャナイってなったなぁ。

 あの雲がそういう色にそっくりだわ。

 パレットの絵の具大量に捨ててもったいなかったよなーとぼんやり思い出した。


「サン、アレって何かな」

「!!……さぁ」


 サン、あのね、嘘つくなよ。

 何か知ってるでしょうが。


 目が泳いでいるのが良い証拠だ。こんな分かりやすい嘘つきもそうそう居ないな。


 しらけた顔で見続けてやると、サンも観念したように口を開く。ただ、どこか自信なさそうなのは見てとれる。


「……ニャーも本当のところはよく分からない。あの渦、多分、この街の旧教会の上に出来てる。記憶(・・)だと、ニャーは魔王になるとあそこに引き寄せられた……気がする。……けど、分からない」


 サンが両手で頭を抱える。


「ニャーは死んでないのに、何故あそこに渦があるんだ?あの渦は……?ニャーはまだ魔王になってないのに、今も引き寄せられそうになる。さっきの意識と違う行動も……」


 後半はブツブツと呟いて、完全なる独り言になってしまっている。

 でも少し引っかかるフレーズがあった。


 はて。

 魔王になる?


「サンは、魔王になんの?」


 堕天者は魔王の卵って、本当なのかな?

 堕天者が魔王になったりならなかったり、真偽不明じゃなかった?


 でもサンは確信を持って魔王になると言っている。


 私の困惑の眼差しに応えるかのように、サンは私を見つめ返す。言うかどうか迷っている表情だ。


「…‥勇者に、これを言っていいのか分からないんだ。でも、カナメなら、何か変わるのかもしれない」


 サンはそう言った数秒後、腹を括った様に真っ直ぐにこちらを見すえて、ゆっくりと口を開く。


「……ニャーたちは、魔王になるために育てられたんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ