表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/150

ホラー、ほら、ほららら?

「いやー、姉さんの場所、すんなり分かって良かったねー」


 あの後、リフリィを軽く脅したら、すぐにサンの姉の居場所を教えてくれた。

 かなり紳士的に切り抜けられたし、何より一軒一軒娼館を巡ることにならなくて、ほんと良かったわ。


 今は、その言われた目的地へ小走りにサンと2人で向かっているところ。


「ニャーは世間知らずなことは認めるが、流石にアレは紳士的ではない……」


 サンが少し青ざめつつ叱言(こごと)を吐く。


 うん、そういう意見もあるかも知れない。


「ちっちゃいことは気にすんなって。結果よければ全てよし」

「…………」


 だから、なんとも言えない顔してこっち見ないで欲しいかな。確かにやり過ぎた感は否めないけども。


 レーンボルトに喧嘩売るのは、昨日今日始まったわけじゃない。

 大森林でダークを殺しに来てた時点で、腹括ってたんだよな。敵に回すなら思いっきりハッタリかましてる方が意外と得をする、はず。


 と、進むうちに建物と建物の間が開けて、池が現れた。

 この池を左手に進んだ先の、黒い屋根の家だっけ……?


 この池、直径200mくらいはあるかな。結構大きな池の真ん中には小さな島があって、いかにも怪しげな祠が建っている。晴れてるはずなのに少し靄がかかってるのか、見えにくい。


 こういう感じの池ってさ、よくRPGの終盤に渡ってお宝ゲットって展開あるよなー。もしくは上位ダンジョン出現!みたいな。


 ドンッ


「え」


 池の真ん中をよく見てみようと立ち止まった時、突然押された。

 押してきた方を見ると、同じく驚いた表情のサン。


「か、カナメ!」


 位置的にはサンが押したはずだ。

 なのに、サンも驚いている?

 そして慌ててこちらに手を伸ばしてくるけれど……届かない。私も手を伸ばしたけれど、その手も空を切って池に落ちていく。


 あーあ、びしょ濡れ確定。

 あとでサンも引きずり込んでやる。


 ザブンッ


「ガボっ?!」


 びしょ濡れはいいとしよう。


 でも、何かおかしい。

 すぐに浮かび上がると思っていたのに、身体が水底に吸い込まれていく。水面がどんどん遠のいていくし、手をかき分けて浮上しようにも水がスルスルと手から離れていく。


 おい、浮力どうした?!働け、自然の摂理!!


 あー。これ、やばいんじゃね。

 まだ息は保つけど、時間の問題じゃん。


 得体の知れない何かに吸い寄せられている。

 とにかく状況を把握しようと、吸い込んでいく方に顔を向けた。


 真っ暗。

 てか、水の中だし、綺麗な水ってわけじゃないから濁っててよく見えん。


 どうなってんのこれ。


(わ……を……て、せ………て)


 何か聴こえる。


 水面の明かりも遠くなって、視界は真っ暗になる中、ブクブクと自分の身体から発する音が響く水の中で、微かに声が聴こえた。


 サンが呼んでるのか?


(この……を……いて、そして……わの……を)


 声がだんだん近づいてきている。サンは岸にいるはずだから、変だ。


「助けてください!」

「ガボっ?!」


 いきなりクリアに聞こえたら、ビックリするでしょうが!!

 つい、驚いて貴重な息を吐き出してしまったじゃん!!


「あなたの力にかかっています。どうか、子らを、この世界を……いや、このままでは、子が、世界が壊れてしまう」


 あのね、助けてほしいのは私の方なわけ。

 わかるかな?今ね、溺死寸前だから。


 てか、あなたは誰なのさ?


 なんとなくサンに声が似ている。

 いや、ダーク?なんか2人に似てるようで、でも少し違う。女性ぽい?いや、男性か?


 水の中だから、私は声を発せないでいる。


「もう、あなたしかいない。あの子らの魂は弱った。この世界に呪いをかけ……こを……救って……遺物をと……も……せば」


 ピーピーピーピー……


 あの子ら?呪い?遺物?

 なんか聞こえなくなってきた。


 不明瞭な音に集中しようとするけど、危機感知が作動してきた。警告音と重なってどんどん聞こえづらくなる。


「ぐぐぶっ」


 つーか、息が限界。

 警告音と自分の鼓動で耳が鳴る中、右手に何かが触れた。


「ふんぎっ!がぼっ!!」


 たった今触れた硬い取手のようなものを思い切り引き寄せる。


 溺れる者は藁をも掴むって、このことかぁ。まさか、体現することになるとは。


「ゲホッ!はっ、はー、はー、けほけほっ」


 気付くと、何故か地上にいた。びしょ濡れだけど息ができる。た、助かった。

 顔に滴る水を払おうと右手を持ち上げると、何か持ってる。


 ナニコレ。

 ああ、さっき掴んだやつか。


 ドアの取手のような……いや、よく見ると聖杯みたいな盃部分がある。キリスト教の絵とかで出てくるような、ワイン飲みそうなアレだ。

 でも、かなり古びてる。石のような鉛のような、素材何だ?作りはしっかりしてそうだけども……つーか、ここ、どこだ?


「カナメー!」


 サンの慌てた声が遠くで聴こえる。

 声のした方を見ると、さっき落ちた池の岸にサンが立っている。


 じゃあ、ここは?と思いながら振り返ると、さっき眺めていた祠がある。


 うーん、意味深な。

 つかホラーかな?私、結構こういうオカルト的な怖さ苦手なんだよね。

 鳥肌立ってきたんだけど。


 分からないものは人を恐れさせる。ひとまず手元の盃みたいなものを鑑定。


 鈍い効果音が頭に響く。


 《『呪われた遺物』:??????用途不明》


 うぇぇ、やっぱホラーじゃん。鑑定でまともな鑑定出来てないのって、わりと怖え。


 つーか、用途不明ってなんだよ。せめて聖杯っぽいんだから、それらしい用途説明してくれたらいいじゃんか。

 鑑定失敗した時とはまた違う表記だし、何か不気味。


 しかも呪われた遺物って、私が呪い無効化出来てないの、変じゃね?


 えーい、こちとら溺れかけたんだぞ?

 せめてそれに見合うチート級のスキル授与とか、この世界の真理みたいなカッコいい情報とか、あっても良いんじゃないか!?


 見渡してみてもこの小島、古い祠以外何もなさそうだ。祠といっても私の背丈くらいの岩が簡単に鳥居状に積まれている感じ。


 祠って鑑定出来るかな。触れてみる。


 《『古い祠』:古代に建てられたと云われる祠。真偽の程は確かでない》


 胡散臭(うさんくさ)っ!

 まあ、保育園児が石と石を積み木しましたってレベルの簡素さだもんね、デカいけど。そりゃ真偽の程は確かじゃないわ。

 てか、見りゃ分かる内容を鑑定文に書くなっつぅの。


「へっくしょ!」


 鼻水を啜りながら、心の中で少し諦めモードになる。


 さて、泳いで戻るしかないのかな。


 なんかさ、この聖杯でギューンとワープ!とか、そういうのないのかな。


 しーん。


 はい、泳ぎますよ、泳げばいいんでしょう。期待した私が馬鹿でした。


 というわけで、着衣水泳すること5分。さっきみたいな吸い込まれる現象もなく、サンの居る場所に無事戻ることができた。


 岸に上がると、サンが抱きついてくる。


「カナメ、さっきはすまなかった。身体が勝手に動いてたんだ」

「うん、何か、変だったもんな」


 そう、サンの行動にサン自身が驚いていた。

 だからサンの意志ではない何かが働いたはず。あの水底に吸い込む変な力が作用したのかも知れない。


「カナメが池に沈み込んで、浮かんでこないから、ニャーも飛び込もうとしたんだ。でも、身体を動かせなかった」


 サンが酷く動揺している。なんか、私以上に。

 言葉に合わせて、ギュッと抱きしめる力が強くなってくる。


「とりあえず、落ち着け?あと、腕をもうちょい緩めてくれると助かるっていうか」


 そう、息苦しさマックスである。

 こっちはびしょ濡れだってのにお構いなしで抱きついてきてるから、サンの服もだいぶ濡れてしまったな。


 私の言葉に、腕の力が弱まる。


「……すまない。とにかく、無事でよかった」

「うん、死にかけたわ」

「いったい、何があったんだ」

「はー、それは私が聞きたいレベル」


 何があったんだろうね。

 マジ、それが分かれば苦労しないって。


「何か、必死にもがいてたら、これを手に持ってて」

「……これは?」

「用途不明の呪われた遺物らしい。鑑定さんがそう書いてる」


 サンが聖杯もどきを手に取って眺める。

 ん?色が付いた?

 灰色の石のような色から、赤みが増したような気もする。……気のせいか?


「てか、いつまで抱きついてんのさ」


 そう、コイツ私の頭を抱え込んでるから直接触れてて男に戻ってるし、しかも濡れたからか、水も(したた)るいい男風になっている。


 イケメンに抱きしめられてみ、これ、けっこう緊張するから。


「……離れたくない」


 ドキッと腎臓が……ちゃうわ、心臓が跳ねた。


 うん、気のせい気のせい。


 こんなイケメンに甘い言葉かけられるほど、自分が魅了できる人間じゃないことは自覚しているぞ。


「いや、カナメが魅了したわけじゃない……」


 ほら、訂正入れられたろ。

 世の中そうなのだ。

 うむ。別に知ってたから!辛くない、辛くないよ?


「ニャーが、カナメを、魅了したい……」

「ん?は?!ちょ、ま!まて、おま!」


 はい。正直に言おう。

 油断してた。


 なんやかんや、サンは人の心読めるうえに善悪の基準を持ってるから、何かに流されるようなヤツじゃないと思ってた。


「んぐっ!」


 そういや何か様子がおかしかったなと、唇を塞がれた時に思った。


 間近に迫ったサンの瞳が、やけに赤い。


 気付くの、ちょっと、遅かったな。

なかなか辿り着かない。娼館。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ