ビックリ!やべえコイツ俺より強いかも?!大作戦
「そいつはそろそろ死んでなきゃいけないんだがな。カナメ、お前さん何を企んでる」
「何のことだか、分からないんすけど?」
「けっ、しらばっくれやがって」
いや、本気で分からんのだが。
そいつって、サンのこと?
ダークじゃなくて?
レーンボルトはダークの命を狙ってたんじゃなかったっけか。
あ。どっちも堕天者だから、同じ対象なのかな。
「カナメ……」
「ん?」
ぽそりと後ろから呼ばれた。サンの怯えきった震える声に、心配になる。
「あの人……ニャーを……殺す人だ」
「ん?そうなの?」
「ったく、ノズ達がカナメは死んだって報告をあげてたが、嘘じゃねぇか。アイツらファミリーを捨てたのか?」
「え、そうなの?」
両方からよく分からん情報を板挟みされた経験はおありでしょうか。
まだ頭痛も回復してないっつぅのにさ、困ったものだよ。
問題は一つ一つ読み解いていくしかない。
なんとか、ため息を飲み込む。
まあ、あの崖死にかけたもんな。ノズ達が死んだって報告するのも頷けるけど。
「ずっと気になってたんですけど、レーンボルトファミリーって、何が目的なんすか。ダークを押し付けてきたかと思えば、殺そうとしたり。今も堕天者のこの子を狙って現れたんですよね?」
「あー……まあ、俺らは、ボスの指令に従うしか脳がねぇからなぁ」
嘘だ。
このリフリィは、ノズとは違って嘘つきの上級者だ。嘘かどうか見抜くのは難しいけど、賭けをした時にかなり賢いことは分かった。
そんな人間が、ただ指令に従うことに満足するわけがない。
何か知ってるはずだ。
「ま、一つ言えるとしたら、ただの堕天者にゃ興味ねぇってことかな」
「ん?どう言うこと……?」
「俺たちの目的のためには、ソイツや、あのエルフみたいな咎人に力を付けてもらわないといけねぇ」
「力をつけてもらう……?殺すのに?」
やべぇ、わけわからん。堕天して呪われた身体でどうやって力をつけるというのだろう。
サンは分かるのかなと、後ろを振り向くと、ガタガタと震えている。
「その声、……思い出した。いつも、姉を殺しにくる……た、助けないと……くっ!」
「え、ちょ!サン!」
青い顔で、それでも積年の恨みを晴らさんと顔を歪めるサン。
ダークに似た狂気的な雰囲気が漂ったかと思えば、止めようとする私を離れてリフリィの元へと駆け寄り、攻撃を浴びせた。
正確には浴びせようとした。
案の定というか、まあ分かりきってたけど、リフリィが易々とサンの拳を受け止めて、逆手に捻る。
うん。
ノズほどじゃないにしても、何のスキルかけもなしに大男相手に物理攻撃は無理だろ。流石にマッチョ相手に細身の女の子じゃ無理がある。
スキルとかステータスの世界だから、見た目だけじゃないのは分かるけども、明らかにサンってインドア派だもんね。男の姿も、なよっちぃ雰囲気あるし……。
「ニャーは、なよっちくない。怪力スキルあるから」
リフリィに羽交い締めされながらも訂正を入れてくる。
捕われてるくせに意外と余裕だな、アイツ。
サン的には怪力スキルって結構自慢なのかな。
うんうんと唸りながら後ろ手にされた腕を振り解こうとはしてるみたいだけど、力の差だね。リフリィはびくともしてない。お得意の怪力は意味ないみたいだ。
「カナメはこねぇのか?」
リフリィが余裕の表情で投げかけてくる。少し煽ってるんだろう。軽くムカつく。
ただ、うーん、どうしたもんかな。
私がこんな悠長にしてるのも、理由がある。
このリフリィ、本気でサンを殺そうとはしてないんだよ。少なくとも現時点では。
そのつもりならサンが突撃したタイミングで殺せたはずだ。
そして今この時も、致命傷を負わすことさえしない。理由は、さっき言っていた力をつけるって事なんだろうけど……解せない。
続いて、サンの姉をいつも殺しにくるって言葉は、余計にわからん。殺しにくるけど、今生きてるってことは、殺してないわけで……で、サンはこの街に10年ぶりに帰ってきたはずなのに、いつもって言葉を使った。
うん、難しい。何が何やらだ。
どっちの言葉も釈然としないんだよなぁ。
「それは、ニャーの前世の記憶の話!カナメ!この男を止めてくれ。お願いだ!頼む」
「なるほど、前世のことねー」
って、分かるかーい!!
誰かツッコミ役居ないのか?!え、変だと思ってるの、私だけ?前世の記憶って持ってるもんなのか?!
何か普通のことみたいに言ってるけども!!
「ほう、前世か。俺は会ったことねぇのに、変だと思ってたんだ。どっかで情報が漏れてんのかと焦ったぜ」
「うぐぅ」
リフリィの腕が軽く締まる動作で、サンが痛そうに顔を歪める。
なお、前世の件はすんなりとリフリィは受け止めた模様。
ねぇこれ、私が変なの?前世っておかしくない?
うん。ひとまず、前世の記憶を信じるとして、だ。
まあ、こんな時に思うのもどうかと思うんだけど、なんつぅか、この光景って美女と野獣……
「カナメ、余計なこと考えてないで……早く、助けてくれ」
「あ、お、うん」
やっぱ思考読まれるの、ちょっと恥ずいな。
注意されたので、リフリィをどう攻略したものかと思考してみるけど、悩ましい。
平和的解決が浮かばない。何か良い作戦なかったかな。
「ちなみに、リフリィ。私がその子を離してって言ったら、離してくれますか?」
「条件による」
「条件って、例えば?」
「然るべき時にコイツを殺してくれることと、今から俺がすることを見逃してくれる、とかだな」
「やめろ!!殺すなら、殺すならニャーだけにしてくれ!姉は関係ないだろ!」
「はっ、このネコも察しがいいな」
完全に悪役なリフリィは悪い顔して笑う。
サンも必死に振り解こうと身を捩るけれど、抵抗も虚しく、微動だにしていない。
「あー……ま、それは、無理かな」
「じゃ、このままコイツをもらうぜ」
サンが目に見えて怖い顔になる。一層暴れる……けど、結果は変わりそうにない。
はぁ、ため息の一つや二つ、つきたくなる私は悪くないはず。
「あのさぁ。分かると思うんすけど、私は死ぬだの殺すだの、そういうの好きじゃないわけ」
ステータス画面の該当スキルにざっと目を通す。さっきの酔いも収まって、文字化けも消えている。問題なく起動しそうだ。
「目の前で殺されそうなら、助けないわけにはいかないんすよね。その対象が、ジバルの時はノズやタダン達だっただけーー」
最近、このステータス画面、カスタマイズ可能って気づいたんだ。予め決めていた項目を同時選択して、一気に発動出来る。
そして、隷属者の項目で、とある操作を行う。
「で、私のその意思が変わることは、ないんすわ」
「つまり?」
リフリィの頬に汗が伝う。
首筋はやけに太いけれど、両手で覆えないほどではない。
何で分かるのかって?もうリフリィの背後に立っているからだ。
今、軽く相手の首に手を添えてみせた。
相手の方が明らかに体温が高いので、ヒヤリとした私の手は、それなりに恐怖を誘ってくれるだろう。
「つまり、私の敵になりますか?って、こと」
「なっ何?!」
ふふふ、やっぱ、驚くよねー。
名付けて、ビックリ!やべえコイツ俺より強いかも?!作戦。
数メートルの距離は、実は私にとっては一瞬で動ける。それも、相手に認識されないうちに。
タネとしては、ダークの共有スキルを強制使用することで、主人の私は好きにダークのスキルを行使できる。(まあもちろん、ダークの拒絶があると使えないんだけど)
そこで、忍び足スキルを発動して、対象の相手に認識されないように近づける。
ダークの忍び足スキルLV8は、ほんとに重宝する。ユシララに着くまでの間に、感覚の鋭そうな魔物相手にも実験してみたけど全然気づかれない。もちろん、忍び足スキルだけでは一瞬で動くなんて芸当は出来ない。
あとは、私の怠惰スキルの出番。怠惰スキルは、果ての森の間ずっとオンにしてたおかげで実はLV5まで上がった。
《『怠惰LV5』:発動中、指定した相手よりも体感時間を大きく変えることが可能。ただし、その反動を解除の後に受ける》
反動というのは変えた時間分、調整されるというもの。
ただ、ほんの数秒だったら反動は無いに等しい。
今も、相手がビックリしてる間に反動時間は消費された。認識の誤差の範囲とも言える。
いやー、七大罪系のスキル、実はかなりのチートだと思う。ダークの憤怒も発動条件満たすと最強ぽいもんねぇ。魔王になれそうだわ。
どうやったら魔王になるのか知らんけどさ。
実は私のこの悠長に思考する時間が稼げるのも、怠惰のおかげだったりするんだけど、それは置いといて。
リフリィにとっては突然背後を取られ、首を絞められる格好となったわけだ。
しかし、まだこの作戦は終わらない。
ふおおぉぉあ
私の身体から赤い粉が舞う。
そう、エルフ達との戦闘でかかったあのエフェクトだ。
まだ予想の域を出ないんだけど、このエフェクトは、物理攻撃力がだいたい10万を超えると現れることがわかった。10万をギリギリ超える組み合わせで攻撃スキルと身体強化スキルを発動させ、更に威圧も重ねる。
これが、ビビらせるのにすごく丁度いいのだ。
試してみてダークが同意を示すくらいには、何か強そうに見えるらしい。
「この首が取れるのが早いか、サンを離すのが早いか、賭けてみる?」
「いや、辞めておこう。勝ち目は無さそうだ」
脅しは効いたようだ。リフリィは、あっさりとサンから手を離して両手を挙げた。
「よし。じゃ、脚だけ折っとくわ」
「何ぃ?!」
バキバキッ
まあせっかくスキルかけたしね。
正直このリフリィは、ノズ以上に信用出来ないのだ。無力化するに越したことはない。
軽く後ろから太ももにキックした。
すると、まるでバターのようにヌルッと曲がるのだ。右側を蹴ったけど、その衝撃で左の脚の骨も折れた感じ。
「ふむ」
やっぱこのエフェクトつくと、最低限でも力加減がかなり難しいな。次ビックリ作戦する時は、別のやり方を考えておこう。
と、目の前で呻めきながら崩れる大男を冷静に見下ろしていると視線を感じた。
見上げたらサンと視線が交差する。
引き攣ったような、いわゆるドン引き顔。
やり過ぎ?
心の中でそう聞いてみると、サンは困ったような呆れたような顔で一瞬口元を緩ませて、ゆっくり頷いた。
100話になりました。
かなり間が開きましたが、ちょい書き進めたので良ければまたお付き合いください。