【聖なる夜Ⅱ】
――十二月二十五日。
世間ではクリスマス、というか冬休みという期間に入ってる所だろう。
だが俺の学園、浜ヶ丘学園はその期間は存在しない。
学園の理事長が変って、去年から急に無くなってしまったのだ。
当然、学生はブーイングの嵐もあったり反感はあったのだが……
「それにしても、冬休みの期間に登校は勘弁して欲しいな……」
「愚痴を零さないでよー。アタシだって、嫌だけど……もう決まっちゃった事だし」
「その代わり、春休みと夏休みが以上に長いからなぁ。去年はそれで、苦労したけどな」
「何で月野が苦労するのよ。部活入ってないのに……」
「俺の場合は、ほら。部活の助っ人っていうのがあったから」
「……ああ、そういえば。そんな事してたね」
――部活の助っ人。
冬休みが無いこの学園で、長期間での休日は運動部の熱が入る期間だ。
特に浜ヶ丘は、運動部には力が入っている。
だから運動神経のある者は、たまに問答無用で借り出されるという。
なんとも理不尽な扱いを受けるのだ。
「……月野、提案なんだけど。今日も、さ。一緒に帰らない?」
「お前と帰る時、寄り道しかしないからパスで」
普段なら断らないのだけど、今日はちょっとすぐに帰りたい。
何を隠そう、家に吸血鬼を放置しているのだ。
色々と心配にもなるだろう。それに……
「……またあいつが来るかもしれないしな……」
「ん?どうしたの?月野」
「ああ、いや、なんでもない」
「そ。余所見してると電柱に顔ぶつけるよ~」
「誰がぶつけるかよ!」
呟いた言葉を聞かれなくて良かった。正直、恵美には平和に過ごしてもらいたい。
一人暮らしで、かなり世話になってるしな。……ん?
通学路が十字路になった時、こっちを見てた人影の気配がした。
気のせいか?……一応、確認してみるか。
「恵美。先に学園に行っててくれないか?」
「――え?なんでよ?」
「良いから、後でちゃんと行くから」
「う、うん。サボらないでよ?あとさっきの放課後の話、まだ考えといてよ?」
「はいはい。分かったから……それじゃな」
恵美の背中が見えなくなった時、意を決して俺は路地へと近付く。
緊張か恐怖なのか、曖昧な鼓動が身体を走る。
「(誰もいないなら、すぐ帰れば良いだけだ)」
そう思って、路地をゆっくりと覗いてみる。
けどそこには、行き止まりという事を示す。
……壁という壁しか無かった。
「はは……やっぱり気のせいか。時間は大丈夫だし、一度あいつに確認取るか」
一度出した携帯をしまい、その場から無意識のはや歩きで離れる。
そのまま俺は、放課後にすぐに帰ろうと決意して学園へ向かった。
・・・・・
『おやおや?彼が、姫君を匿っているで正解のようですね。どう思いますか?レギル』
『どうでもいいよ。早くあいつを捕まえて、彼女の居場所を聞き出せばいい。それから記憶を狩り取れば、任務は完了でしょ?』
電柱の上で、二人の白装束が風に触れる。
一人は鎌をそしてもう一人、腰に銃をぶら下げて。彼の姿をただ、観察していた。
『レギル。アナタはもう少し、手順を踏んでから仕事をした方がいいですよ?』
『手順通りに行かない時はどうする?それで失敗したら、お前の所為にするぞ。メガネ』
『メガネはしていますが、名前のように呼ぶのはやめて下さい。私には、シェイドという名前があるのですよ?レギル、アナタはもう少し顔を出すべきです。表情の変化が確認出来ませんので、アナタの冷たい言葉が私の心を抉ります』
シェイドは眼鏡を直し、レギルに視線を流す。
レギルは立ち上がり、口を動かす。
『そのまま、お前の魂を狩り取るか?……それより、視察対象が移動した。追うぞ』
レギルはさっさと行ってしまい、シェイドを取り残す。
その様子を見て、口角を上げて呟く。
『やれやれ。もう少し、様子見ですか……』
彼らは移動しながら姿を消し、その場には何も残らなかった。
・・・・・
レギルとシェイド。彼らは一体何者か?
月野はまだ、知る由もなかった。
彼らの存在が、彼女。フレドリカの存在を左右する事も――