【暁の夜Ⅱ】
――十二月二十四日。
世の中では、クリスマスイヴとなっているこの日。
俺は今、女の子と一緒にいる。だがしかし……
「――お主、掴まっておれ!!」
「……へ?――う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
人生初の空中飛行で、聖なる夜を駆けていた。
こんなの……生きた心地がしないぞ、まったく!!
この夜は俺にとって、かけがいの無い時間になるとも知らずに……
・・・・・
――葛城月野、十六歳。
髪の色、瞳の色は黒。ある程度の運動は好きでも、部活は帰宅部。
浜ヶ丘学園高等部に所属にしていて、成績は中の下。
この学園の校則は、他の学校と比較して厳しくはない。
髪も染めていいし、制服の改造だって許されてるという異例だ。
見た目は普通だし、これといって取り柄というものはない。
ただ一つ、俺の特徴といえば……
「おい、主」
「……話しかけるな。影に入ってろ」
「我は暇じゃ。ドコかに行き、一暴れして来るがよい」
「はぁ……はいはい」
『お、つきの~!一緒にやらねぇか?バスケ!』
「バスケか……いいよ、本気で行くから」
誘われた所で、断る理由は無い。
ただ一つの俺の特徴は……
「――フッ!!……シュっ!」
ボールは空中で曲線を描き、ゴールへと吸い込まれていく。
俺の特徴は、運動神経はわりと良い方だ。
元から良い方だと思ってけど、彼女に出会って多少の限度を覚えた。
バスケットコート内で、立ち尽くす彼らの姿と様子を伺う。
ちょっとやり過ぎたかな……本気と言っても、まだ二十%ぐらいだったのにな……。
「じゃあ俺、クラスに戻るわ。お前らも、早く戻れよ?」
『やっぱり月野。お前、バスケ部入らない?』
「それは……考えとくわ。じゃあな」
クラスに戻り、すぐに予鈴が鳴り響く。
学園にいる時ぐらい、平穏でゆっくりとした日常を送りたい。
そう思いながら、俺は窓の外へと意識を向けた――。
・・・・・
「――さっきの、はぁ……はぁ……何だよ」
「お主には、まだ自己紹介をしていなかったのう」
彼女は路地裏に来た所で、立ち上がって俺と向き合う。
そして深呼吸をしてから、彼女は口を開いた。
「我が名は、『フレドリカ・ブラックブレイド・グラン』じゃ。この世界の裏側、いわゆる魔界という所から来た。我は、その魔界では一応上の方にいてのう。魔界から見る人間界の者達を見て、こっちで暮らしてみたくなったのじゃ」
「……はい、質問だ。えっと……」
「フレドリカで良いぞ?何じゃ、何でも聞いて良いぞ」
そう言って、腕を組んで俺の眼を見てくる。
「お前、それは魔界とやらから逃げて来た。……でいいのか?」
「おお、正解じゃ!なかなかお主は、理解がはやくて助かるぞ」
「いや、まぁ適当に言い当てたってだけだ。それで、さっきの白い服装の奴からどうして逃げる?上の方にいるなら、着いてくるなと命令すれば良いだろう?」
「我が命令しても、奴は従わない。奴は魔界の中で、王位に立つ者から命令で動いておるのじゃ。我ではあの身体は反応せんじゃろう」
「……ふーん……」
――ぎゅるる~
「へ?」
「――っ!!??」
色々とあるんだな、と考えてた時そんな間の抜けた音が響いた。
頬を赤くして、彼女は腹部を隠すように抑える。
その様子を見て、俺は思わず笑みを零した。
「……ぷ、はははは」
「な、なな、何が可笑しいのじゃ!!我だって、腹が減ったりするわ!」
「いやぁ、悪気は無いんだ。すまん。思わず笑っちまった……ふぅ……ほれ」
「……ん、何じゃ、それは?」
彼女の元へ手を差し出し、俺は提案してみた。
このままここにいるより、それが最適だと思ったから。
「……俺の家に来いよ。飯なら、作れるから」
「よ、よいのか?お主への負担にならないか?」
「俺が勝手にやるだけだ。それに腹を空かせた女の子、しかも追われてるなら放っとけないだろ」
「お主は、良い人間じゃの」
「つきのだ。葛城月野。人間って一括りにするな、俺にも名前がある」
「うむ。では月野、よろしく頼む」
「……は、はいよ」
手を握られ、少し反応が遅れたかもしれない。
彼女の手は小さくても、ちゃんと俺と同じ生きてるという鼓動を俺は感じた。
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「……ほう。あれは人間、か。全く困ったものだ、我らの姫君は」
真夜中に浮かぶ月を背に彼は、笑みを浮かべて姿を消した。
彼はまだ知らない。自分が関わった事が、彼女を蝕むかもしれないという事実を――