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暁鬼 -アカツキ-  作者: 三城谷
13/15

【不幸の手紙:後編Ⅱ】

――魔界。

その世界は、人間界の裏側に存在している。

誰にも気づかれず、発見される事もない。

そんな影の世界の中、私は平凡な日々を過ごしていた。


何も変らず、何も得る事のない。そんな日常を。


――では、お主は何がしたいのじゃ?


そう、脳裏に言葉が浮かぶ。

何がしたいのか、そんな物は考えたこともない。


――なら……ソナタの闇は、童が預かろう。


私の闇?そんなモノ、私の中に存在しているのだろうか。


『おや?これはこれは姫殿下――』


両手を広げ、怪しい笑みを浮かべて男は言った。

その男は、私の従者だ。

だが正直な所、私は彼を好きにはなれない。


「アナタは、随分と暇そうね?――アグナス」


私は彼に、皮肉を混ぜてそう言った。

だが彼は、気にする素振りすら見せずに言う。

また笑みを浮かべながら、影を纏って


『――御冗談を。このアグナス……姫殿下の護衛になれた事は、大変喜ばしいと思っています。日々鍛錬を重ね、何時如何なる時も、姫殿下をお守りする為……心身共に鍛えている最中でございます』


彼は膝を地に付け、忠誠の証を見せながらそう言った。

だが私の眼には、それは映っていない。写らない。

彼は、黒色だ。彼の纏う影は、真っ黒だ。


そうか。これが先程〝彼女〟が言っていた闇なのだろうか?

吐き気がするように、気持ちの悪いモノが身体全体を走る。


「……そう。では、その鍛錬を続けるが良い。そして失せろ――〝童に近付くな、下郎〟」

『……姫、殿下?』


私の言動の対し、彼は目を見開く。

彼の目には、赤い瞳の私が映っていた。


「〝聞こえなかったか?主の力で護られる程、童は柔ではないと言っているのじゃ。もう一度言うぞ――」


私の中にいる、もう一人の私。

彼女の言動の一つ一つは、私を徐々に魅了していく。


「――失せろ〟」

『はっ!!……ちっ……』


彼は早足で、その場を急ぐように離れた。


――今、お主は何を考えておるのじゃ?


「……ふふ。さぁ、何だと思う?」


――主は主で、童は童はじゃ。何も分からぬよ、何も、な……。


私の……我の名は

フレドリカ・ブラックブレイド・グラン。

この影の世界を、消したいと思っている者だ。


・・・・・


――葛城月野、十七歳。

浜ヶ丘学園、二年に所属。

元バスケ部だったが、他校とのトラブルにより退部。

現在――


「おい、月野よ!ここはどうやって進めるのじゃ?!」

「……そこは、壁に沿って右回りだ」

「……ほうほう。なるほどのう♪」


ピコピコ、とダンジョンゲームをする彼女。

俺はその背後で、画面を見ずに本を読んでいる。

度々飛んでくる彼女の声に、こうしてアドバイスの声を出す。


彼女は、フレドリカ。

赤い髪と赤い瞳。部屋着なのか、黒いワンピースで身を包んでいる。

彼女は、この世の者ではない。

そう、現在俺は――吸血鬼という存在と暮らしている。


「それにしても、ゲームという物は、面白いのう」

「……満足したか?良く朝から長く出来るな、お前朝は平気なのか?」

「大丈夫じゃよ~。我は特別な存在じゃからな♪」

「さいですか」


彼女はコントローラを置き、背伸びをして言った。

俺はペラペラ、と本のページを捲る。


「……じー……」


彼女は口でそんな事を言いながら、こちらを見ている。

仲間になりたそうな目ではなく、じとっとした目でだ。


「何だ?本に集中出来ないから、無意味に視線を向けないでくれるか?」

「……お主は、やらんのか?」

「何を」

「このゲームとやらをじゃ。我とは、ダメか?」

「――!?」


彼女は物欲しそうに、上目遣いでそう言った。


「……じゃあ、少しだけだぞ」

「~~♪」


彼女は、ぱあっと目を輝かせてご機嫌になった。

正直、可愛いと思ったのは黙っておこう。


――ピンポーン。


「あ?客か?悪い、少し待っててくれ」

「~~♪」


彼女は返事をせず、無我夢中だった。

俺はやれやれと思いながら、扉の方へ手を伸ばす。


「はい、どちらさ、まぁ!?」


――ビュン、と俺の目の前を黒い何かが通る。

いや、壁に突き刺さるそれは鋭利な物だ。

俺はそれを見た事がある。


『久し振りだな、姫殿下はいるか?』

「お、お前、何しに」

『貴様には関係ない。オレは姫に用がある』


「ほ?レギルではないか。どういう風の吹き回しじゃ?」

「おい、鎌野郎。またフレドリカを連れ戻しにきたのか?それとも殺しにきたのか?」

『今のオレには、そんな命令は下っていない。強いて言うなら、届け物だ。――姫様、これを』

「ん、何じゃ?」


レギルは、彼女に一通の手紙を手渡した。

そこには、魔界の女王へと書かれていた。


彼女はふうを開け、中身を早急に確認する。

その瞬間、彼女は目を見開いた。


「……月野よ。我は、戻らないといけなくなるかもしれぬ」

「はぁ?!何でだ。あんなに逃げてたのに、お前コロコロと考え変え過ぎだろ!」

「読んでみよ」

「……ったく、何て書いてあるんだ?――っ!?」


『期限は三日後の正午までです。それまでに良い選択を、姫様』

「……分かっておる」

『それでは、オレはこれで』

「どうすんだ、フレドリカ。このままじゃ、お前」

「…………」


彼女は何も言わず、俺の貸した部屋に入ってしまった。

手紙の内容は、ごく簡潔に書いてあった。

その内容は


――フレドリカよ。

お前に選択肢を与える。

魔界を選ぶか、人間界を選ぶか。

選択した内容によっては、人間界が滅びる。

お前なら、どっちが有益か。分かるな、と――


「つまりは、どっちを選んでも……人間界を壊すって言ってるんだよな、これは」


期限は三日後。

俺には彼女がどう選択するか、知る由もない。


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