【不幸の手紙:後編Ⅰ】
――付き合って下さい!
そんな綺麗な声が、宙を舞う。
その場所だけが、まるで何かに隔離されてるかのように響く。
反響して、声ごと身体に入り込んでくる。
「えっと……」
『……』
顔も名前も知らない、前髪の長い女の子。
いや、前髪だけではない。髪の毛が全体的に長く、思わず支えた方がいいのかと思わせるほどに長い。
少し揺らせば、地面についてしまうのではないだろうか?
「き、君は?」
俺は告白された事は無く、人生で初の告白だ。
携帯やスマホが普及されてから、モノを直接言うのが少ない世の中。
まさか身近で、しかも自分が経験するとは思わなかった。
こんな少女漫画みたいな……
『おい主、その女子は何者じゃ?我の方が可愛いではないか』
「何言ってるんだ、お前?」
彼女に見えないように顔を出し、頬を膨らましてそう呟く。
どうやらフレドリカは、拗ねているようだ。
ちょっと可愛いが、自分で自分を可愛いと言ったので減点だな。
「……私は……」
俯いて彼女は口を開くが、余程緊張しているようだ。
まぁ俺も緊張しているが、彼女のに比べれば些細な事だ。
「私は、一年の連城愛と言います」
「連城?ひょっとしてだけど、俺のクラスにいる奴と関係ある?」
「あ、それは私の兄です。あの、兄が迷惑掛けてませんか?」
「たまにバスケに付き合わされるだけで、別に君は気にしなくていい」
――連城愛、兄の名は連城巧だったか。
十二月二十四日のあの日、少しだけバスケを付き合ってから話してない。
俺は後頭部を掻いて、あーっと思う。
もう少しだけ、周囲の視野を広げる必要があるかもだな。全くクラスとの交流が少ない。
『主はいつまで、その女子と話すつもりじゃ?そろそろ我にも構え』
「(もう少し待ってくれ。後で言う事聞いてやるから)」
『……ほう?』
俺は今、とてつもない失言をした気が……気のせい、だよな。
「――あ、あの!」
考え事をしていた時、愛は震えた声を出す。
彼女の雰囲気で、続きが分かってしまう。だが俺は、彼女は言葉を発するのを待った。
もう一度、深呼吸して彼女は言った。
「……私と付き合って下さい」
・・・・・
我の名は、フレドリカ・ブラックブレイド・グラン。
吸血鬼にして、魔界の女王。
望まない物は容易に手に入り、逆に望むモノは離れていく。
我は今、それを目の当たりにしている。
『血の契約』
それは吸血鬼の間では、生涯を約束した者同士の契約。
永遠に、永久に、最期まで遂げる約束。
やはり我では……童では……
――我はそのまま静かに、影の中へと戻った。
・・・・・
………………………
…………
……
十二月二十七日、深夜午前一時。
少年は、真っ暗な世界を彷徨っていた。
音も無く、人の姿も無い。ただあるのは、自分の影とギラリと光る銀色の物体。
「たしか、この辺だったはずだが?」
少年は呟き、手の中にある地図を確認する。
その地図は二枚組みで、少年はそれを大切そうに持つ。
「早く、届けなければ――」
少年は地図をしまい、その届けた物を取り出した。
それは一通の手紙だ。そこには、こう書いてあった。
――魔界の女王へ、と。




