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暁鬼 -アカツキ-  作者: 三城谷
12/15

【不幸の手紙:後編Ⅰ】

――付き合って下さい!


そんな綺麗きれいな声が、ちゅうう。

その場所だけが、まるで何かに隔離かくりされてるかのように響く。

反響はんきょうして、声ごと身体に入り込んでくる。


「えっと……」

『……』


顔も名前も知らない、前髪の長い女の子。

いや、前髪だけではない。髪の毛が全体的に長く、思わず支えた方がいいのかと思わせるほどに長い。

少し揺らせば、地面についてしまうのではないだろうか?


「き、君は?」


俺は告白された事は無く、人生で初の告白だ。

携帯やスマホが普及ふきゅうされてから、モノを直接言うのが少ない世の中。

まさか身近で、しかも自分が経験けいけんするとは思わなかった。

こんな少女しょうじょ漫画まんがみたいな……


『おい主、その女子おなごは何者じゃ?我の方が可愛いではないか』

「何言ってるんだ、お前?」


彼女に見えないように顔を出し、ほほふくらましてそう呟く。

どうやらフレドリカは、ねているようだ。

ちょっと可愛いが、自分で自分を可愛いと言ったので減点だな。


「……私は……」


うつむいて彼女は口を開くが、余程よほど緊張きんちょうしているようだ。

まぁ俺も緊張しているが、彼女のにくらべれば些細ささいな事だ。


「私は、一年の連城れんじょうまなと言います」

「連城?ひょっとしてだけど、俺のクラスにいる奴と関係ある?」

「あ、それは私の兄です。あの、兄が迷惑掛けてませんか?」

「たまにバスケに付き合わされるだけで、別に君は気にしなくていい」


――連城愛、兄の名は連城れんじょうたくみだったか。

十二月二十四日のあの日、少しだけバスケを付き合ってから話してない。

俺は後頭部こうとうぶいて、あーっと思う。

もう少しだけ、周囲の視野しやを広げる必要があるかもだな。全くクラスとの交流が少ない。


『主はいつまで、その女子と話すつもりじゃ?そろそろ我にも構え』

「(もう少し待ってくれ。後で言う事聞いてやるから)」

『……ほう?』


俺は今、とてつもない失言をした気が……気のせい、だよな。


「――あ、あの!」


考え事をしていた時、愛は震えた声を出す。

彼女の雰囲気ふんいきで、続きが分かってしまう。だが俺は、彼女は言葉を発するのを待った。

もう一度、深呼吸しんこきゅうして彼女は言った。


「……私と付き合って下さい」


・・・・・


我の名は、フレドリカ・ブラックブレイド・グラン。

吸血鬼にして、魔界の女王。

望まない物は容易よういに手に入り、逆に望むモノははなれていく。

我は今、それをの当たりにしている。


『血の契約』


それは吸血鬼の間では、生涯を約束した者同士の契約。

永遠えいえんに、永久えいきゅうに、最期さいごまでげる約束。

やはり我では……わらわでは……


――我はそのまま静かに、影の中へと戻った。


・・・・・


………………………

…………

……


十二月二十七日、深夜午前一時。

少年は、真っ暗な世界を彷徨さまよっていた。

音も無く、人の姿も無い。ただあるのは、自分の影とギラリと光る銀色の物体ぶったい


「たしか、この辺だったはずだが?」


少年は呟き、手の中にある地図を確認する。

その地図は二枚組みで、少年はそれを大切そうに持つ。


「早く、届けなければ――」


少年は地図をしまい、その届けた物を取り出した。

それは一通の手紙だ。そこには、こう書いてあった。


――魔界の女王へ、と。


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