【不幸の手紙:前編】
――冬休みが終わる時期。俺の通っている浜ヶ丘学園は、冬休みという長休期間は無い。
学園の裏で、俺は彼女を抱いている。
その理由は――
「月野。血をくれ、もう我慢が限界じゃ」
「はいはい。了解しましたよ、お嬢様」
――それは吸血衝動。
彼女の要望に、俺はすぐに応える。
何故ならその行為は、俺達にとって必要不可欠な行為となってしまった。
彼女――フレドリカは、吸血鬼。魔界の女王にして、俺の主人だ。
彼女は俺より、身長体格共に小さい。
その彼女を俺は抱き、彼女の吸血行動を受け入れる。
「……ふぅ」
首に微かな痛みが走り、そのまま空を仰ぐ。
……十二月二十六日。
クリスマスという聖なる夜の二日間は、俺にとっても特別な日になった。
魔界という世界の裏側から来た彼女、フレドリカ・ブラックブレイド・グラン。
吸血鬼の彼女が来て、俺の生活は一変した。
「おい、月野よ。影ながら見ていたが、学校というものは面倒じゃのう」
ヒョコッ、と彼女は影から顔を出す。
影ながらと文字通りの意味で、そんな愚痴を零す。
「そんな皮肉を言うなら、お前は家に残れば良かったじゃないか」
「何を言うのじゃ。主と我は一の契りを交わした間柄じゃぞ?」
「血を吸わせてるだけだろ」
「――むぅ……」
彼女は、俺の反応に不満そうにする。
頬を膨らませ、彼女は口を開く。
「主、昨日から我に冷たくないか?」
「……気のせいだ」
俺は彼女から目を逸らし、そう呟く。
別に冷たくしてる気はない。ただ俺は、昨日の事を考え続けているだけだ。
十二月二十五日の夜、俺は彼女の眷属となった。
吸血鬼の下僕に……。
「……そろそろ帰るか」
『つ、月野?聞かんか、月野!』
移動を開始した途端、彼女は影へと戻る。
だが先程の態度が気になるのか、彼女は話を止めようとはしなかった。
口には出さず、テレパシーと呼ばれるものの類で彼女は話す。
『主の身体の中に我の力を入れた為、主は通常の者達より運動能力が向上している。それは分かっておるな?』
「……」
『――反応せんか!!』
「いだっ!?」
周囲の目を気にして、咄嗟に口を塞ぐ。
一瞬視線を向けられたが、すぐに視線から解放される。
「(何しやがるんだ、フレドリカ!)」
『主が我の話を聞かんのが悪いのじゃ。自業自得じゃよ』
「(だからって、力一杯に蹴る事無いだろ!)」
『安心せい。ただの脛蹴りじゃ♪』
「――思いっきり痛てぇ場所だよ!!……あ」
頭の中で会話がエスカレートし、思わず大声を出してしまった。
し、周囲の視線が痛い。俺は、何でもないと周囲に苦笑で表現した。
だが逆効果の様子で、ひそひそと何かを話して皆去っていった。
「……まぁ、こうなるよな」
『それも自業自得じゃよ』
「お前が言うなよ」
俺は鞄を肩に掛け、昇降口へと足を進める。
学園の中には部活の者や、勉強してる者は多々残っている。
だが俺は違う。何も部活はやっていないし、勉強は嫌いだ。
俺が残っている理由は、二つある。
一つは、吸血鬼体質になったのが主な理由だ。
もう一つは、これだな。
俺は、朝手にした物を鞄から出した。
それは、一通の想いが込められた手紙。
いわゆる――
『何じゃそれは?果たし状か?』
「――ラブレターって奴だよ。何を果たされるんだよ、俺は」
この吸血鬼は何を言い出すんだ。ちゃんとハートが、張ってあるだろ。
果たし状のイメージは墨汁で、力強く書かれた手紙が脳裏に思いつく。
ラブレターで呼び出され、体育館裏でボコられる。
そんな事があってたまるか。
『おい、月野。ドコに行くんじゃ?』
「この手紙を出した相手に会う」
『主、早速浮気か』
何が浮気だよ。俺とお前は、そういうのじゃないだろ?
昇降口から出て、俺は目的の場所へと向かう。
この手紙を受け取ったのは、後悔するとは思わなかった――




