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無知性の凱歌: オリジナル  作者: 宮沢弘
第三章: 喪失
12/19

第40日

 先日、こう書いた:


   あるいは、玄関のドアの覗き穴からコードを覗いている感覚と言えばい

   いだろうか。全体が見えず、そして見えている部分も歪んでいる。


 この数日で、この感覚をもう少しうまく表現できるようになったと思う。

 エディタで、カーソルがある行とその前後難行かを大きく表示し、そこから離れると小さく表示する機能を持つものがある。いくらかはそれに近い。ただ、大きいところは大きく、小さいところは非常に小さいが。

 いや、それとも少し違うか。モーツァルトとはスコアが全て思い浮かんでいた、あるいは頭の中で組替え編集したという逸話がある。モーツァルトと比べるのもおこがましいが、それでも言うなら、それが近いと言えるだろう。そして、モーツァルトを例に出すと、もう一つ便利なことがある。むしろ、この例を書くためにこそモーツァルトの例は便利だ。スコアを目の前にして、あるパートの何小節かが見えている。とくに初見に近い段階で。何となくは、他のパート、そして注目しているところ以外のところも思い浮かぶ。だが、自分のパートの、目の前の何小節かを越えた範囲は、ではそれを五線譜に書けと言われたり、あるいは演奏をしてみろと言われたら、怪しくなる。もちろん、それくらいはできる人もいるが。

 あるいはプログラムの場合、複数の関数などのとして処理がいくらかの範囲の広さを持つこともある。書き方の趣味の問題もあるが、私の場合一つの関数などはおおむねせいぜいが40行というところだ。この範囲は、見える範囲だ。

 だが、関数が自分自身を呼び出し、複数の関数が呼び出し、場合によっては互いに呼び出す。見た目では、例えば30行のものがいくつか、あるいは何回かだ。だが、それは見た目の話であって、処理の話ではない。処理を追おうとするなら、それらを何とか頭に置いておきたい。いくつかまでは追える。だが、そこで問題が現われている。たったそれだけを頭の中で追うのが難しくなってきている。たったそれだけを頭の中に置いておくのが難しくなってきている。

 関数を一つ一つ思い出し、あるいは確認し、追わなければならない。追うのにも、渡すパラメータを、そして内部のパラメータをメモしておく方が安全だ。安全だと言うより…… そうしないと不安を感じるようになってきている。

 なるほど、と思う。こういうことなのか、とも思う。

 若い人に、図のようなものも含めて、またドキュメントを用意して説明をしたこともある。その時は、そのための手法であり、ツールであると思っていた。もちろん、その使い方も本道である。だか、そのようなものを使う必要に迫られた時には、なぜ口頭の説明でわからないのだろうと思ったことがあったのも確かだ。すでにある手法とアルゴリズムの名前を挙げ、それに少しばかり「バーっと」などの説明を行なっただけでは、伝わりにくいことに、その頃、気付いた。

 そして今は、自分のためにそのような図のようなものやドキュメントを書くようにしている。たった、書誌情報にアクセスし、少しばかりデータを表示させるだけなのにもかかわらず。それでも、まだ、である。まだこの程度ならある程度は何とかなっている。まだ頭に頼れる。そう思うのは、まだ感覚が実際に追い付いていないだけによる錯覚なのかもしれないが。

 そしてやはりなるほど、と思う。

 便利ではある。そして確実でもある。だが、まぁ、面倒くさい。頭のなかで全て済ませてから、動作確認をし、図示しドキュメントを書く。ずっとそうやって来た。人を相手にする時には、それも何とか耐えたが、今は自分だけの話だ。

 なぜできないのかとも思う。そこに苛立ちがないと言えば嘘になる。

 だが、比べられるというのは面白い。私に埋込まれた補助脳が、1/1を割り込むように設定されていないのであれば、まだ1/1に近付いている段階だろう。1/1に制限されているのであれば、いわゆる普通に近づいているのだろう。というなら、消えかかているように思えるこれまでの習慣は1/1を超えていたということか。それを比べられるのは面白い。

 1/1に対する過剰分は失なってもかまわない。ただ、そのようであったという感覚は、できれば忘れたくない。忘れたら、比べられないのだから。それとも、その感覚の内容も忘れ、あるいは理解できなくなるのだろうか。そして、比べられなくなるのだろうか。


〔初出 Dec 02, 2015 〕


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