薙刀つかい
ソードバトルエボリューションは、数あるVRゲームの
中では、群を抜いて仕様変更が多いゲームである。
その為に、辞めて行く人間も多いが、逆に新たに
始める人も多い。
古参プレイヤーとの差もあまりなく、いつでも気軽に
始めれるゲームとして人気があった。
古参プレイヤーも次々、変わっていく仕様変更で飽きが
来ない様になっている。
このゲームを長く続けるコツは、特定の武器に愛着を
持たない事である。
「もう辞めたくなってきた。」
S.B.Eを始めて半年しか経ってないヨウシは、愚痴を
漏らした。
ショートカットの金髪美女で、S.B.E内では、割と
多いキャラクターだった。
「まだ始めて半年でしょ?」
そう答えたのは、黒髪ロングの和風キャラの
エレナだった。
S.B.E内では、少ない部類のキャラクターだ。
「スキル重視だし、私の武器じゃあ全然勝てないもの。」
そう言って、自慢の薙刀を見せた。
新武器として、始まって暫くしてから実装された
薙刀だったが、はっきり言って弱かった。
一部では、ネタ武器とまで言われる始末だった。
「このゲーム、武器に固執するのは良くないよ?」
エレナは、そう言ってヨウシを慰めた。
「私は薙刀が使いたくて、このゲームを始めたのよ。
武器を変えたら本末転倒だわ。」
「それは、そうだけど・・・。」
「私、引退しようと思う。」
「えっ、まだ半年だし、本体だって高価でしょ?
勿体ないわよ?」
「まあ、でもゲームでストレス溜まるのも嫌だし。
今まで仲良くしてくれてありがとうね。」
「なっ・・・どういうこと?私との関係も終わりって
ことなの?」
エレナは、ヨウシに詰め寄った。
「関係って・・・。」
「と、友達でしょ?」
女同士であり、都内在住という事もあって、二人だけで
オフ会を開催した事があった。
それ以来、買い物行ったり、食事行ったりするような
仲ではあるが・・・。
「エレナってさ、ノーマルの人だよね?」
「当たり前じゃない。」
エレナのリアルは世間一般でいう所の美人さんだ。
大手企業に勤務し、まだ20代、だが、彼氏はいない。
二人で出かける時も、妙に密着してくるので、ヨウシは
不審に思っていた。
ヨウシとしては、ゲームを辞めて、すっぱりエレナとの
縁も切れればいいなあと思ってたりもする。
「ほら、連絡先も交換してるじゃない?ゲーム辞めても
友達だよ。」
ヨウシは、白々しく答えた。
「他のゲームをやるつもりなんでしょ?」
「ギ、ギクっ・・・。」
「あれかあ、バーチャルファンタジーVXだっけ?
前に薙刀使いの動画あがってたよね?」
「そ、そうだったかしら?」
「私もやるわ。」
「いやいやいや、何言ってんのエレナ。
ほらVR機は、高価でしょ?本体も買い直しだし。」
「別に社会人なんだから大した金額じゃないでしょ?」
お互い会社勤めで独身という事もあり、お金には多少の
余裕があった。
「エレナは、このゲームを1年もやってるんでしょ?
エレナこそ勿体ないわよ。」
「ああ、いいの。もう飽きたから。」
「・・・。」
ヨウシは、このまま付き纏われそうで、
ちょっと怖かった。
「ねえ、まさかと思うけど、ゲーム辞めて、
スマホ変えて、アパートも引っ越しなんて、
考えてないわよね?」
「ま、まさか、そんな事考えてないわよ。」
「そう。でもまあ、働いてる会社知ってるから、ふふふ。」
【しまったあ、会社ばらしてた・・・。】
いつの時代も、再就職には厳しい時代である。
「ねえ、本当に一緒にやる気?」
「何処までも、ついて行くわっ。」
その言葉に、ヨウシは、寒気がした。
「じゃあ、今度一緒に買いに行く?」
「もちろん。」
こうして腐れ縁は続く事になった。