哀愁のアウロラ
S.B.Eで勝ち続けるには、一つの武器に固執せず、様々な武器を
扱う者が有利となっている。
度重なる仕様変更のせいではあるが、固執さえしなければ、飽きも来ず
楽しめるようになっている。
そんなゲームで、一つの武器に固執すれば、もう為す術もない状態となる。
スプリングの2連続優勝で、もはや使い物にならなくなった双剣だが、
スプリングが1回戦負けした後の仕様変更では、何も改善はされなかった。
日に日に双剣を使う者は居なくなり、今では、アウロラくらいだった。
「暫くは違う武器にしたらどうだ?」
前回4位と無残に散ったトーリが、アウロラに話しかけた。
「あんたみたいに、コロコロ武器を変えるのは性に合わないのよ。」
「だからと言って今の状態じゃあ、にっちもさっちもいかないだろ?」
「ほっといてよ。」
アウロラは、半ばヤケになっていた。
何も言わず、フレンドリストから消えていったスプリング。
勝手に期待し、勝手に憧れて。
この気持ちは、自分の勝手な気持ちだというのをアウロラは理解はしていた。
それでも、一言欲しかったという思いは、ずっと消えないでいる。
フレンド交換した日から、アウロラは、スプリングの事をフレンドだと思っていた。
【何よ。何の言葉もなしに・・・。】
未だ双剣で一人頑張るのは、単なるあてつけなのかもしれない。
しかし、その肝心の相手は、もうゲーム内には存在しない。
宙ぶらりんとなったまま、アウロラは、双剣を持ち続けた。
月一の大会が1週間後に迫った時、新たな仕様変更が行われた。
通常は大会終了の1週間後に行われるのだが、今回は異例の時期だった。
「また仕様変更かよ?」
「大会まで1週間だぞ?」
「俺の武器だったら、どうしてくれんねん。」
ゲーム内では、ちょっとした騒ぎになっていた。
1人、双剣でNPC相手に特訓しているアウロラ。
さすがにNPCは動きのバリエーションは少ないので、双剣でも何とか勝てる。
そんなアウロラに、トーリが慌てて駆け寄ってきた。
「おい、アウロラっ!仕様変更見たか?」
仕様変更があるというのは、知っていたアウロラだったが、自分には関係ないと
思い公式を見ていなかった。
「見てないわよ。」
「は、早く見ろ。」
慌てふためくトーリを見て、自分に関係ある仕様変更だと確信した。
【ようやく双剣にも、見てなさい私がきっと!】
そして、公式を見たアウロラは絶句した。
平素よりソードバトルエボリューションをご利用いただき誠に
ありがとうございます。
今回の定期メンテナンスにおいて、下記の点について仕様変更を行いましたこと
をお知らせいたします。
【仕様変更】
武器の一つである双剣ですが、今回の仕様変更で二刀に含まれることになりました。
つきましては、次回、仕様変更時に新武器2種類を実装いたします。
今回の仕様変更は、双剣が無くなる仕様変更だった。
次回の仕様変更で、新武器が実装される。
この発表で、ゲーム内は大いに盛り上がった。
もはや、双剣を使う者は殆ど居ないので、無くなる事で悲しむものは居ない。
殆どの人が新武器実装予告に喜んだ。
「馬鹿にしてるわ・・・。」
「・・・。」
トーリは何も言えなかった。
スプリングの時は、辞めるなと言えたトーリ。
しかし、アウロラが、どんなに双剣を好きでこだわっていたか知ってるだけに、
今回は何も言えなかった。
「私は、何も言わず消えるなんてしないから、先に言っとくわ。引退するわ。」
「・・・。」
何の言葉も思い浮かばない。
「とりあえず、フレには全員メールするから。」
「寂しくなるな。」
「トーリは辞めないでね。」
「ああ、俺は続けるつもりだ。」
「そう、安心したわ。」
そう言って、アウロラは悲しく微笑んだ。
暫くして、トーリはアウロラからの引退の挨拶メールを受け取った。