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双剣のスプリング

世にフルダイブ式バーチャルリアリティゲーム機が出始めた頃、

初期タイトルの中に、ソードバトルエボリューションというゲームがあった。

あったというか今も、絶賛継続中では、あるが。

このゲームは、武器を使って戦う対戦ゲームであり、初期のゲームタイトルが

少なかったこともあり、発売から人気があった。

VR機の場合、本体につき、ゲームが1つという場合が多く、一度購入して

しまうと、中々次のゲームにというわけにはいかない。

何せ、フルダイブ式VR機は、高い。

当初は、車並になると言われていたが、さすがにそれでは買える人が限られて

しまう為、安くなったと言えば安なったのだが・・・。

何タイトルも出来る本体であれば、軽く数百万を超えてしまうから、コストカットの

為に1つのタイトルというのが主流になった。


さて、人気のソードバトルエボリューション(略称:S.B.E)だが、とにかく、

仕様変更が多い。

月に1度開催される公式の大会で、上位をある武器が独占するような事があれば、

即座に仕様変更が行われる。

それゆえ、嫌気がさす人も多いのだが、逆に燃える輩もいる。

そんな状況の中で、スプリングは、公式の大会で初の2連続優勝をしてしまった。


スプリングは、女性であり、双剣使い。

現在のVR機では、性別を偽る事は出来ない。つまり、リアルも女性である。

この当時のVR機には、対戦ものか釣り、スポーツといったものしかなく、RPG系は、

まだ発売されてなかった。

その対戦ものも全てがスキルありきのゲームであり、誰もがゲーム内では強くなれる

可能性があった。

「また双剣かよ。チート武器だろ。」

スプリングが勝つたびに周りに言われてきた言葉だ。

ただ、全盛期に比べ、双剣はかなり、弱体化されていた。

それが証拠に、大会の上位に双剣使いは、スプリング以外居なかった。


「ねえ、アウロラ、またスプリングさんが優勝したよ。」

双剣使いの女性が、別の双剣使いの女性に声を掛けた。

「当たり前でしょ。彼女は、私の憧れであり目標なんだから。」

「でもさ、また仕様変更されるんじゃ?」

「大丈夫よ。スプリングなら、きっとまた優勝してくれるわ。」

アウロラは、スプリングの強さを信じて疑わなかった。


「これで、また仕様変更されちゃうのかしら?」

スプリングは、嫌気がさしていた。

「だろうな。」

2刀を持った男性が、スプリングに答えた。

「双剣使いがどんどん減っていってるのに、運営は何考えてるのかしら?」

「優勝する武器が毎回違えば、満足なんだろう。」


スプリングが予想した通り、仕様変更が行われた。

致命的な仕様変更が。


「シンゲン、対戦してくれる?」

スプリングは、仕様変更が行われて直ぐに、2刀の男に対戦を申し込んだ。

「ああ、構わない。」


スプリングの戦法は、至極簡単で、相手の懐に飛び込みスキルを発動するもの。

戦法自体は簡単だが、相手の懐に飛び込むのは、容易くはない。

それでも、スプリングは、シンゲンの懐に潜り込み、スキルを放った。

確かにスキルは、発動されたが。


その発動時間があまりに遅かった。


シンゲンは、懐に入ってきたスプリングに刀で攻撃した。

攻撃をくらい、スプリングのスキルは、中断される。

傷を負いながらも、スプリングは後方へと下がった。

「スプリング、大丈夫か?」

「ええ、平気よ。ごめんシンゲン。中距離技使って貰える?」

「わかった。」

シンゲンは、突撃技を使いスプリングに向け突進した。

スプリングは、待ち構えるようにスキルを発動していた。


が、


スプリングは、あっさりと敗北してしまった。


「ふっ。笑うしかないってこんな時に使うのかしら?」

「酷い、仕様変更だな。」

シンゲンがそう言った。

今回の仕様変更は、スキル発動時間の長さが長くなったのだ。

双剣のスキルだけ。

「シンゲンは、このゲーム辞めるんだっけ?」

「ああ、元から長くやるつもりはなかったしな。」

「金持ちよね?VR機なんて、そうそう替えれないでしょ?」

「パーソナルデータ消して、中古で売れば、まだいい値になる。」

「それで新しいゲーム始めるんだっけ?」

「ああ、待望のRPGが出るからな。」

「私、駄目なのよね。あんなチマチマしたゲームは・・・。」

「まあ、人それぞれだからな。普通のMMORPGの友人も一緒に始める予定だ。

 スプリングは、S.B.Eを続けるのか?」

「やめて、主婦業に専念しようかしら・・・。」

「それもまた人生だな。」


それから暫くして、スプリングのフレンドリストからシンゲンの名前が消えた。

完全にキャラを消した事を意味していた。

「話し相手が居なくなるってのも寂しいもんよね。」

独り言を呟き、スプリングは一人、公式の大会へと臨んだ。

勝算は、まったくない。

前回優勝者の為、予選はない。

第一シードで本戦からの出場となる。


「アウロラ、いくらスプリングさんでも今の仕様じゃあ。」

「大丈夫よ。きっと・・・。」

双剣使いの二人は、観客席で見守っていた。

あまりにも酷い仕様変更にとても、スプリングが勝てるとは思えなかった。

それでも、アウロラだけは、妄信的にスプリングを信じていた。


スプリングの一回戦は、普通の刀使い。

特に強い相手ではない。

しかし、スキルありきの戦闘で、スキルなしで戦うには、あまりにも酷すぎた。

このゲームでは、普通の攻撃は、かすり傷くらいにしかならない。

格闘ゲームで言う弱攻撃より弱い攻撃になる。

相手の懐に潜り込んでも、スキルは使えない。

カウンターのスキルも使えない。


戦いはジリ貧になり、相手のスキルのかすり傷が、スプリングが何度も通常攻撃で

与えたダメージを上回り、タイムアップで負けてしまった。


スプリングの負けに会場は大いに盛り上がった。

「双剣ザマああああっ!」

「はいっ、チート武器消えましたああああ。」

既に、マイノリティな装備となってしまっており、擁護する者は皆無だった。


「嘘よっ、嘘っ! スプリングが負けるわけっ!」

アウロラは、試合が終わっても信じる事が出来なかった。

「しょうがないよ。この仕様じゃあ・・・。」

ともう一人の双剣使いが、アウロラを慰めた。


「無様だな、スプリング。」

前回大会準優勝のトーリが、戦闘が終わったスプリングに声を掛けた。

ついでに言えば、前々回も準優勝である。

「そうね。言い訳のしようもないわ。」

「いっ、いやっあの・・・。」

いつも憎まれ口を叩くスプリングが何も言い返さないのでトーリは慌てた。

「や、やめるなよ?なっ!俺もメールしといたから。」

トーリは、今回のあまりにも酷い仕様変更に苦情のメールを出していた。

「優しいのね。」

「そんなんじゃねえっ!強いお前に勝ちたいだけだ。」

「そう、ごめんねトーリ。」

「おっ、おいっ!辞めるんじゃないだろうな。」

フレンドのシンゲンがリストから消えてるのはトーリも気づいていた。

「潮時でしょ?」

「ちょっ、勝ち逃げじゃねえかっ。」

「今回優勝すればいいでしょ?」

「ぐっ・・・。」

トーリは、大会出場の為、その場を去った。

これが、スプリングとの最後の会話となった。


「もう当分ゲームはいいわ。旦那のゲームに付き合う気にもなれないし。」

スプリングは、そう独り言を呟いて。

S.B.Eからログアウトした。


それから、暫くしてトーリのフレンドリストからスプリングの名前が消えた。

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