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目標  作者: 風速健二
目標 第2部
18/31

自分を自覚することとは?

再来月の3月……親方が辞める……

それは俺にとって心の中の柱の1本が無くなる事を意味していて、少なからずショックだった。

そりゃあ飛鳥からこっそりと情報は貰っていたけど、あと1~2年は安泰だと勝手に俺が思って居た訳で、仕方の無い事なのだが、思ったより早かったという事なのだ。

早い、という事はそれは俺の技量が本店の煮方を務まるかという一点に掛かって来る訳で、

実はそれも俺としては少々心配になって来る。


次の日から俺は時間を作って、まず由さんから本店のやり方を教わる。

由さんは本店で煮方をやっていたから、教えを請うにはふさわしい。

由さんも「正、がんばれよ!」と応援してくれた。

その他にも本店に行き、今の状況を善さんや親方に教わる。

親方は俺に

「正、ここで立派に煮方が務まるならもう完全に一人前だ。だからガンバレ!」

そう言ってくれた……正直俺は嬉しかった。

毅が「正さんまた一緒に仕事が出来て俺は嬉しいです」

そう言って喜んでくれた。

また、圭吾も「俺の腕が上がった処を見せられて嬉しいです」と柄にも無いことを言う。

「相変わらずなんだろう?」と茶化すと圭吾は

「不器用でも1歩1歩です」

そう言って胸を張った。

洗い方の清という子が俺に

「初めまして、お噂はかねがね……」

とう言うので俺は

「そんなに固くなるなよ。宜しくな!」

そう言って昔なじみの連中や新しい顔と親交を深めたのだった。


そう、本店だけに留まらないが、煮方は親方(花板)が何かで休んだ場合、臨時の花板の立場になり店の料理を切り盛りして行かなくてはならない。

そう言う使命もあるのだ。

それは今のモール店でも同じだが、本店となるとその重さが違って来る。

それを自覚しないとならないと思ったのだ。


そんな事をしているうちに、いよいよ親方が引退する日がやって来た。

俺は店を終えると食事もせずに、飛鳥とタクシーに乗って本店に急いだ。

店に着くと幸い、閉店したばかりで親方初めスタッフが皆残っていた。

「親方!」

俺と飛鳥が殆んど同時に叫ぶと親方は

「おお!二人共来てくれたのか、ありがとうな」

そう言ってくれた。

その顔は厳しさで知られた親方の顔では無く、一人の人間として長い間責任ある地位に居て、それを全うした男の姿だった。

「長い間本当にお疲れ様でした」

そう俺が言い、飛鳥が「今まで本当にありがとうございました」と礼を言いう。

それに親方は

「まあ、これからは小さな店を持って好きな事をして暮すから、店ができたら教えるから飲みに来てくれな」

そう笑顔で言って、親方の料理が未だそこで食べられると俺たちは知って安堵した。

「俺の事より、正、明日から頼むぞ!」

最後は親方に気合を入れられてしまった。

これじゃ反対だよなと思う。


結局、本店でまかないをご馳走になり「じゃあ明日」と言って飛鳥と二人で本店を後にした。

深夜の街を歩いていると飛鳥が

「わたし、今の店でまた正先輩と一緒に働けるとは思っていませんでした。だからまた一緒の店になったと知った時は、本当にすごく嬉しかったです」

そう俺に言う。何だか何時もと違うと俺は思った。

「まあ、そうかもな、俺があちこち移動し過ぎなんだよな。現に他の奴らは移動なんて1回したらもう無いものな」

俺がそう言うと飛鳥は

「わたし、今でも先輩の事好きです……あ、でもこれは男女という意味じゃ無いですよ。人として人間として真っ直ぐな先輩が好きなんです。だからまた別れるのが辛いです」

飛鳥は夜空を見ながらそう俺に言った。

半分は……いやよそう……それが粋というものだ。何でも真実を暴けば良いとは俺は思わ無い。

「飛鳥、俺もお前の事好きだよ。後輩としてな」

そう、そうとしか言えない……当たり前だ。俺には最愛の真理ちゃんが居る。

「たまにはウチに遊びに来いよ。真理ちゃんも会いたがっていたからさ」

俺がそう話の矛先を変えると飛鳥は

「先輩、結婚したのに未だ真理ちゃ~んなんて呼んでるんですか!」

そう言って笑っている。

「駄目か?慣れないからな。お前とか言うのは」

「普通はウチの嫁とかカミサンとか女房とか言うでしょう」

そう飛鳥が言ったので俺は

「女房とかカミサンとかはいいけど、嫁と呼び捨てにするのは俺は嫌いだな」

そう俺は言った。そのなのだ、そう言う言い方は嫌いだ。

「どうしてですか?」

飛鳥が不思議そうな顔で俺に訊く

「その言い方だと如何にも主人とそれに使える者という感じじゃ無いか、俺は夫婦は対等だと思っている。お互いに支えあって行くべきだと思っているんだ」

俺は自分の考えを飛鳥に言った。真理ちゃんにも言った事の無い事を……

「ああ、やっぱり真理さん幸せ者ですね。さすが目が高いというか……ちょっと嫉妬しちゃいますね。今度真理さんいじめに行きますね」

そう言って笑った。俺は

「ああ、せいぜい仲の良い処を魅せつけてやるよ」

そう言って笑った。飛鳥も一緒に笑っていた。


家に帰ると真理ちゃんが

「今までお疲れ様でした。明日から大変だと思いますが頑張って下さいね」

そう言ってくれた。

俺は思わず真理ちゃんを抱き締めて「ありがとう」と耳元で囁いた。

「今度飛鳥があそびに来るってさ。俺たちの新婚ぶりを見学しに……」

「まあ、それは嬉しい!楽しみにしようっと!」

俺はその晩、自分の幸せを実感したのだった。


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