第8話 彼女の神聖さ
迷うような仕草を一切見せずに、リノさんはどんどん歩いていきました。私はリノさんに見つからないように、でも見失わないように後をついて行きます。リノさんに感じた懐かしさ。その正体が、彼女の近くにいることでわかる。そんな気がしました。
リノさんはあたりをゆっくり見回しながら、村のはずれの方へと歩いていきます。村に住み始めてもう9年になるけれど、こっちの方角に来るのは初めてです。どうして今まで知らなかったのでしょうか? どうして今まで行ってみようと思わなかったのでしょうか?
そんな疑問を心に抱いている時、急にリノさんが立ち止まりました。思わず私は近くの茂みに隠れました。
「ふぅーっ」
小さく息をつくリノさん。昇り始めたばかりの眩しい太陽を正面にして、彼女は視線を上に移します。朝日が眩しくて、リノさんを直視することはできません。
「あっ!!」
今まで経験したことがないほどの光に、私は思わず声を出してしまいました。目を開けることもできません。瞼のむこうから感じる光は、あんなに遠くにあった太陽が今、目の前にあるのではないかと思うほどでした。
しかし光はすぐにその輝きを失い始めます。わずかになった光は、黄色……オレンジ……いいえ、それはまさに黄金色の光でした。
「あなた、いつまでそこにいるつもり?」
リノさんの口から出た言葉に私は驚きました。彼女はずっと私に背を向けていて、一度だって私の方は向いていなかったのに……。
私は隠れていた茂みからゆっくりと出ました。
「ごめんなさい……」
リノさんはじっと私を見つめています。その表情は冷たい氷のようですが、どこか悲しみと温かさを感じます。
「……それ」
私の胸元を見てリノさんは言いました。
「これ……ですか? 昨日フィオナに貰ったペンダントです。フィオナが作ってくれて……」
「……そう」
それだけ言うと、リノさんは何も言わずに私の横を歩いていきます。
「あっ、あのっ、リノさん!」
「今見たことは、誰にも言わないで」
それだけ言うと、リノさんは足早に村に戻っていきました。
一体リノさんは何者なのでしょうか。さっき感じた懐かしさ、黄金色の光、リノさん……。私の失った記憶に、何か関係あるのでしょうか。
疑問は尽きることなく、私に降り懸かります。不安に思いながらも、私は村へと戻っていきました。
今回執筆をしたハギです。今回は少し短めでしたがいろんな布石をおいたので、これからどんな展開になるかとても楽しみです。みなさんからのご感想お待ちしています。