第51話 微かな記憶の断片
ぐったりとしたロックさんを抱きかかえたまま、私は光の渦の中へ舞い上がっていきました。
私とロックさんを包み込む七色の淡い光。一瞬、この状況も忘れてしまうくらい、その光はオーロラのように輝いて、綺麗だと感じました。
──このままどこに連れて行くの?
ぐんぐん私たちを舞い上げ、ゆっくりと回転して洞窟を進んでいく虹色の竜巻。光の眩しさと回転で、私の意識は薄れそうになりました。
──これは、オトーヌさんの仕業? 箒乗りの力を奪うための魔法?……。
遠のいていく意識の中で、私はふと、何かを思い出しそうになりました。
──遠い昔、どこかでこんな光を見たことがある。
ズキンッと背中の刻印が鋭く痛みます。
──そう、虹色の光に包まれて、空に舞い上がった!
そう思ったとたん、私の頭の中にある光景が映し出されました。小さな二人の女の子。二人とも箒に乗って空を飛んでいます。一人の女の子はスイスイと箒を飛ばしていますが、もう一人の女の子はまだ慣れていないらしくフラフラしながら先に飛んでいく女の子の後を追いかけています。
『待って! ねぇ、待ってよー!』
小さな女の子が悲鳴に近いような大声を上げています。怯えた顔をして、箒にしがみつくように乗っている女の子……あれは、私?
『待って! おいてかないで!──』
小さな私がもう一人の女の子の名前を叫びました。何て呼んだのでしょうか? その名前だけが聞こえません。すると、先を飛ぶ女の子がこちらをふり返りました。
『遅いわよ』
──あれは、あの顔は……。
七色の光が眩しく光って、その女の子の顔がはっきり見えません。ただ、その口元に微かな笑みが浮かび、年の割に静かで落ち着いた声が聞こえます。
『あなたはいつも遅れるんだから』
再び、強烈な背中の痛みを感じ、私は気を失いそうになりました。ロックさんを抱えている手の力が抜けてきます。
「スー! スー!」
朦朧とする意識の中で、今度はハッキリと声を聞きました。誰かが近くで私を呼んでいます。聞き慣れた声。あれは……。
「スー!」
突然、グイッと腕を掴まれました。地上から舞い上がっていたはずなのに、あなたは誰?
次の瞬間、虹色の光がパッと消え、私とロックさんを持ち上げていた竜巻も消えました。ガクンと体が落下します。地面に叩きつけられそうになる瞬間、またふわっと体が宙に浮きました。
「一つの箒で三人の体重を支えるのはきついわ」
そこに、リノさんの顔がありました。冷静な口調でそう言うリノさんは、しっかりと私の腕を掴んでいます。ロックさんが私の手から離れ、地上に落ちました。けれど、僅か数十センチの高さだったので、ゴロンと下に転がっただけです。
今回執筆させていただいた春野天使です。
もう五十回を過ぎましたねぇ〜段々とスーの記憶も戻ってきそうな気配が! まだまだ謎は残りますが、徐々に解決していくと思います。(^^)