第50話 虹色の竜巻
わからないことばかり、どうしてケビンさんは自分が箒の乗れることをいわな
かったの?
オトーヌおばあさんが、孫に会いたい気持ちはわかります。だからといって、
箒を乗れる人の能力を奪うことは正しいことではありません。科学者といわれ
るほど素晴らしい能力があるのなら、どうしてそれを人に役に立つような方向
に使わないのかしら。
オトーヌおばあさんが私に微笑みかけ、手をさしのべました。
「さあ、スーこっちへおいで、何も怖がることはないよ。あんたのお友達も待
っているよ」
その微笑、私には悪意があるとは思えないのです。
「オトーヌさん、ロックさんのことですか?」
「ああ、そうだよ」
穏やかな返答、自分がやったことが何をやっているかわからないのかしら?
「スー、おいで」オトーヌおばあさんは私の手を引っ張ります。少しだけ強引
に。
するとケビンが間に入って、オト−ヌおばあさんに向かって言いました。
「オトーヌさん、やめてください。彼女には何も関係ないじゃありませんか。
僕は手荒なことをしたくはない、だけれども貴女がそんなことをすると」
オト−ヌおばあさんはケビンの言葉をさえぎるようにして
「おやおや、あんたからそんなことを聞くはね。あんたは今のいままでやって
きたことと随分、矛盾しているじゃないか」
オトーヌおばあさんのケビンを見る目には冷たいものがありました。
「やめてくれ、それだけは」とぼそっとつぶやくと地面をみつめ動こうとしま
せん。
ケビンにとっていちばん言われたくないこと、それを言われてしまったから返
す言葉がないのかもしれません。
オトーヌおばあさんはケビンを冷ややかに見つめています。また私を向いて口
を開きました。
「さあ、スー、あの男に会いたくないのかい? あの男はこの洞窟の中にいる
よ」
「会わせてください」
オトーヌおばあさんは私を洞窟へと案内します。
「スー、危険だ。僕も行く」とケビンは後に続きました。
洞窟の中は、薄暗い蝋燭の光でともされています。私はロックさんが無事でい
てくればいい、強く祈るような気持ちでいました。
「スー!」この声はロックさんの声です。ふと左を向くとロックさんは縛り上
げになっているではありませんか?
彼の服はぼろぼろで腕、足、あちこちに痣があります。私はいたたれなくなっ
てロックさんへ駆け寄ろうとしました。
「スー!」とオトーヌさんは私の腕を力強く掴みましたが、私は跳ねのけロッ
クさんのそばへいき、ロックさんに力強くだきつきました。私はその後、大き
な声を上げて泣きました。
「ごめんなさい。ロックさん、私のせいで、私のせいでこんなことになってし
まって…」
「スー、君のせいじゃないよ。それよりどうしてこんなところへ来たんだ…」
ロックさんのか細い声がしました。
「さあ、スー! この男がこれ以上ひどい目にあわされたくなかったら私の言う
とおりにしてもらうよ。まあ、今のあんたには『いや』と言える状態ではない
けどね」
私の背後からオトーヌおばあさんのはき捨てるような声がし、ざわざわと物音
がしました。
突然、洞窟中に響き渡るものすごい音がし、ぐらぐらと揺れだしました。私は
怖くてロックさんにしがみつきました。
「スー危ない!!」とケビンが叫ぶのが聞こえました。
ふと、空の刻印がうずきだし、私の周りを虹色の竜巻のようなものが包み込み
吹き上げようとしました。私はロックさんにしがみついたまま、竜巻に吹き上
げられました。
第50話を書かせていただきました。
今回もケビン君が登場しましたが、やはり悪人として書き上げることはしませんでした。ケビンは、自分が置かれている状況から、世の中を憎むようになり自転車乗りの集団の仲間になり自分をこんな目に合わせた世の中へ仕返しのつもりで様々な悪いことをしたのだけれども、良心の呵責にさいなまれ、レイラと再度出会い、レイラの劇団で働きながら償いの意味を込めて第2の人生を歩んでいく設定のままにしました。これからも『記憶への旅』をよろしくお願いします。