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記憶への旅   作者: gOver
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第5話 箒乗り

 翌日から私達の本格的な箒乗りの特訓が始まりました。フィオナも箒に乗り

出したのは昨日のことからのようで、実はまだ上手くは乗れないということで

した。

 教えてくれるのは例の箒乗りの一団の人達です。私は初耳だったのですが、

実はジーナおばあさんは昔は箒を作るだけではなく、その箒をプレゼントした

人に直接箒の乗り方を教える、言わば箒乗りの達人だったということです。そ

して今回駆けつけてくれた箒乗りの一団の大半は、かつてジーナおばあさんに

箒を貰い、そして乗り方を伝授してもらった人達だということでした。

「本当ならあたしが直接教えたいとこなんだけどもね、なんせもう歳だから上

手く箒にも乗れなくなってしまってね。そこで代わりに講師としてこの子達を

呼んだというわけさ」

 ジーナおばあさんは教え子の顔を懐かしそうに見比べて、そして微笑みまし

た。

「おいおいジーナ。この『子』達ってのはないだろう。俺たちもう餓鬼じゃな

いんだから」

 一団の一人が反論しました。

「なにを言うかね。あんたらはずーっとあたしの教え『子』さね。ロックよ」

 ロックと言われた若者は「ジーナにゃ敵わないな」とはにかみました。

「さて、それじゃまずは自己紹介といくかね。とりあえず今日はこの3人が先生

だ。あと数名は村で挨拶をしてるから、彼らとはまた後日仲良くなっておく

れ」

 ジーナおばあさんのその合図と共に私達は互いに向き合いました。なんだか緊

張してきて心臓がドキドキしました。思えば村の外の人と会うのは、旅商人を

除けばこの人達が初めてです。

「じゃあ俺からだ。名はロック。ロック=ティリウスだ。箒に跨いで10年間、

ジーナの箒を愛用させてもらってるよ」

 ロックさんはニッと歯をむき出してジーナおばあさんに笑いかけました。なん

だか獣みたいな印象を受けました。

 次にロックの右隣の眼鏡をかけた人が自己紹介を始めました。

「僕はシュール=マシュー。ジーナおばあさんには養子として育てられたんだ

よ」

「え! そうなの!?」

 フィオナが驚きの声をあげました。突然の大声で皆がフィオナに注目してしま

い、フィオナは「あ、その・・・・・・」と口篭もって赤面してしまいました。それ

を見たシュールさんがくすりと笑いました。

「本当だよ」

 ジーナおばあさんが言いました。

「まあ、フィオナも生まれてなかったし、スーもまだこの村に来ていなかった

から知らないのも無理ないよ」

 私は「そうなんだ、全然知らなかった」と言いました。

 シュールさんは続けました。

「それで、僕は確か17の時だったかな。ロックと一緒に村を出たんだ、ジーナ

おばあさんの箒を片手にね。そして今のこのチームに至ったわけさ。まあ、箒

乗りとして腕には自信はあるから心配しないでくれ。どうぞよろしく頼むよ」

 シュールさんはそこでぺこりと頭を下げました。

「あ、こちらこそ」

 私とフィオナもつられて頭を下げました。

「シューにいは箒乗りの腕前だけじゃなく、人に教えるのもうめぇか

ら、大船に乗ったつもりでいろよ」

 ロックさんは「なっ」とシュールさんの背を叩きました。彼は「そうでもな

さ」と苦笑しました。

「さて、最後はあたしも知らない娘さんじゃの」

 ジーナおばあさんはシュールさんの隣に居る、長い赤い髪をしたとても綺麗な

女性に目を向けました。私は初めて見たときから彼女の美しさに見とれていま

した。恐らくフィオナも同じ思いにあることでしょう。それほど彼女は輝いて

いました。

「リノ」

 彼女は短く呟きました。

「リノさん?」

 私は聞き返しました。

「そうよ」

 リノさんはそれだけしか答えませんでした。辺りが重い空気に包まれました。

綺麗でお話も上手なんて人は居ないのだなと感じました。そんな人が居たら世

の中不公平ですものね。

「あー、リノは自分のことを詮索されるのが嫌いなんだよ。な?」

「・・・・・・」

 チームメイトであるロックさんの言葉にも、彼女はうんともすんとも言いませ

ん。

「まだチームに入ってからの日は浅いけど、箒乗りの腕は僕に負けず劣らずな

んだよ、彼女」

 シュールさんがフォローするように言いました。

「リノさん、よろしくお願いしますね」

 リノさんは小さく頷き「こちらこそ」と呟きました。私は彼女に対し精密なガ

ラス細工を思い浮かべました。美しくても触れてみればとても冷めたいガラス

細工。でもどこか、彼女に対し不思議な感覚が沸き起こりました。それはとて

も言葉では言えない感覚。不思議というよりは、むしろ恐怖に近い感覚だ

ったかもしれません。

 私はリノさんから視線を外しました。



 私とフィオナは訓練を終えて帰宅してきました。訓練といっても厳しいもの

ではなく、自己紹介の後、まず一度箒で空を飛びその飛び方をチェックしても

らい、上手くカーブする方法や、上手なブレーキのかけ方などの基本的なこと

を学びました。

「今日は楽しかったね」

 フィオナと私は部屋の中で今日のことを話し合いました。

「そうだね」

「それにしてもあのリノってお姉さん。今日は私達に注意をするだけで他は何

も話してくれなかったね」

 フィオナの言葉に私は頷きました。ロックさんもシュールさんも自分のことや

経験なんかを楽しく話してくれたのに、リノだけは私達の指導に徹底していま

した。

「いったい何者なんだろうね。私ちょっと興味あるな。綺麗だから、もしかし

たらどこか偉いところのお嬢様かもしれないね」

「うん。それくらい綺麗だもんね」

 私としては、リノさんの生い立ちよりも気になる事がありました。しかしそれ

をフィオナに聞いてもいいのかどうか迷っていました。しかし結局私は思い切

って聞いてみることにしました。とても重要なことだと思うからです。

「あのね、フィオナ。聞きたいことがあるの」

 フィオナはいきなりの質問に少し戸惑った様子でしたが、優しく「なあに?」

と答えてくれました。

「あのね、どうして昨日フィオナは私に空から箒を渡したの?」

「? どうしって・・・・・・」

「だってまるで私が『箒に乗れることを知っている』ようだったじゃない」

 フィオナがはっとした表情をしたのを、私は見逃しませんでした。

「この村の人は誰でも箒に乗れるわ。だけど『私はこの村の住人じゃない』の

よ? 私が箒に乗れる確証なんて無いはずなのに、どうして?」

「それは・・・・・・」

 フィオナは口篭もりました。私は聞いてはならないことだったかもしれないと

後悔しました。だけど聞かなければならない気がしたのです。

 窓の外の夜空には、満月がぽかりと私達を見下ろすように浮かんでいまし

た。


第5話を執筆させてもらった霧道です。

近いうちにファンタジー書こうと思ってるのでその練習も兼ねました。

その際にはどうぞよろしく。

では『記憶への旅』完結までどうかご愛読を。


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